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107、井上さんの迷宮でランクとレベルを知る

『こちらは、井上 夏生なつきの帰還者迷宮、第10階層です。お参りの方は正面の道へ、冒険者の方は左右の階段へ、乗り継ぎの方は結界内の遊歩道をお進みください』


 僕達は、転移魔法陣を使って、井上さんの迷宮へ移動した。到着直後に、この迷宮のアンドロイドの声らしき案内が聞こえた。


(お参り?)


 転移の光が収まると、その意味がわかった。


(墓地だ……)


 正面には石畳の道が見える。右側にはズラリと建物が並んでいるが、左側は墓地になっていた。


(苦手なんだよな……)




「五十嵐さん! 遅かったわね」


 突然、大きな声が聞こえて、僕はギクッとした。墓地で大声はやめてくれ。


「カナちゃん、どうしたんですか? お久しぶりですね」


「キミ達を待っていたのよ。乗り継ぎよ。ここに一度も来たことない人は、結界から出ないでよね。認証に余計な時間がかかるから」


(認証?)


 僕は意味がわからず、ユキナさんの方に視線を向けた。だが彼女は、ユウジさんがフラフラと結界から出そうになったところを捕まえている。


「カナちゃんが、なぜ?」


「とりあえず歩きなさい。ここに立っていると転移事故に繋がるわ」


 カナさんは僕の腕を掴むと、結界内の廊下を歩いていく。遊歩道というだけあって、左側には綺麗な花壇があった。



 しばらく歩くと、前方に、人がたくさん並んでいるのが見えてきた。その先には、ガゼボの屋根らしきものが見える。


(あぁ、そういうことか)


 乗り継ぎというのは、もう一つの転移魔法陣から、さらに深い階層へ行くことを指していたようだ。



「この時間でも混んでいるのね」


 ユキナさんは、ユウジさんの腕を掴んでいる。結界から出ることがないように、か。彼女は、ここに来たことがあるみたいだな。ユウジさんは、僕と同じく初めてらしい。


 腕を掴まれなくても、僕達は勝手な行動はしないんだけどな。まぁ、信用されてないのかもしれない。


(ん? 皆、掴んでるか)


 前に並ぶ人達も、キョロキョロしている人の腕は、同伴者が掴んでいるようだ。認証がどうのと言っていたから、そのためだろうか。



「川上さんは、井上 夏生が殺された後に、ここに来たことがあるのね」


「ええ、台風の少し前にね。こんな認証体制を続けているということは、まだ、彼の状態は悪いのね」


「金色の雨が降った翌日には、かなり改善したわ。私が離れられる程度にはね。だけど、こういうメンタルの問題は、なかなか難しいわ」


(信頼していたメンバーだもんな)


 僕の迷宮で井上さんが、同じパーティメンバーに殺されて以来、カナさんは、井上さんの迷宮をずっと支えてたんだよな。


 久しぶりに会う彼女は、とても疲れていて、かなり老けたように見えた。呪いでアラフォーの姿になっているが、はっきり言ってアラフィフに見える。



 少しずつ行列が進んでいく。


 皆、ほとんど何も話さなくなった。会話は他の人にまる聞こえだし、もしかすると今、迷宮が遊歩道を歩く人を調べているのかもしれない。


 井上さんの迷宮では、ダンジョンコアの台座が何階層にあるのかは知らない。だが、深階層への転移をするということは、ダンジョンコアに近づくということだ。


 こんな身分チェックをしているのは、おそらく、ここのアンドロイドが迷宮を守るための策だろう。


 井上さんの状態はわからないが、強い精神ダメージが残っているはずだ。僕も、信頼しているユウジさんやユキナさんに殺されたら……自分の迷宮で復活した後は、人間不信になって引きこもりそうだもんな。




『一組ずつ、認証室へお入りください』


 ガゼボの少し手前に、いくつかの小部屋があった。僕達は、扉が開いた部屋に入った。


「迷宮案内者の本条よ。井上 夏生が以前スカウトしていた三人が来たわ」


 扉が閉まるとすぐにカナさんが、銀色の大きなボールに向かって、そう話した。アンドロイドの分身だろうか。


『今、それぞれの魔力紋を検索しています。本条さんが案内されても、身分調査は省略できません』


 銀色の大きなボールから放たれた光が、僕達に当たる。あまり気分の良いものではないが、仕方ないな。


 ユウジさんと目が合った。彼も面倒くさそうな顔をしているが、何も喋らずに静かにしている。



『川上 由希奈さん、第9階層の帰還者迷宮の主人あるじ、初級者、迷宮ランクE、迷宮レベル32、認証いたしました』


「そう、ありがとう。レベル32に上がっていたのね。気付かなかったわ」


 ユキナさんは、以前にもこの調査を受けたんだな。カナさんがコッソリとメモしているのを見つけた。



『山田 祐二さん、第8階層の帰還者迷宮の主人あるじ、初級者、迷宮ランクE、迷宮レベル30、初めての入場ですね。認証いたしました』


「迷宮レベルなんか、気にしてへんかったわ」


『深階層への入場は、レベル制限をしております。低レベルの方は、マスターへの利益がないと考え、お断りしております』


(げっ、お断り?)


「レベルは、なんぼからオッケーなんや?」


『特別な招待がない限り、レベル30から許可しています』


「俺は、ギリギリかいな」



 ユウジさんは、僕の方をチラッと見た後、ユキナさんを小突いている。


「勇者ユウジ、何よ。ケントさん一人なら、招待状があるから大丈夫よ」


(そっか、よかった)


 だが、なかなかアンドロイドが僕の名前を呼ばない。だんだん不安になってくる。



「まさか、あの変な噂にアンドロイドが惑わされているんじゃないでしょうね? ケントさんは、井上さんの事件のときは、私達と一緒に初級者説明会に出席していたわよ」


 ユキナさんも、やはり遅いと感じたんだな。


「川上さん、あの噂の件は、井上 夏生の迷宮のアンドロイドも、デマだとわかっているはずよ。しかし、遅いわね。キミ、何か変なことしてないよね?」


 カナさんは、まだ僕の腕を掴んでいる。だが、言葉とは真逆で、倒れそうだから掴んでいるようにも感じる。



「カナちゃん、あとで水を差し上げますね」


「へ? 水? 小川の水? 持ち出せないでしょ」


(ちょっと元気が出たかな)


「フルーツ氷にすれば、持ち出せるんですよ。何本入ってるかわからないけど、ユキナさんとユウジさんの分もあると思いますよ」


「へぇ、考えたわね。氷かぁ」


 カナさんが少しニヤッと笑ったように見えた。駄菓子も食べるだろうか。



『五十嵐 健斗さん、第6階層の帰還者迷宮の主人あるじ、初級者、迷宮ランクD、迷宮レベル21、初めての入場ですね。迷宮レベルは不適格ですが、迷宮ランクがDランクなので、認証いたしました』


「えっ? あぁ、はい、どうも」


「なんで、迷宮ランクDやねん?」


「さぁ? 僕には全くわからないです」



 認証室の奥の扉が開いた。


「五十嵐さんの迷宮には、転移魔法陣があるからよ。迷宮レベルも、冒険者が少ない割には、意外と高かったわね。台風避難への貢献かな。移動するわよ」


 カナさんに誘導され、僕達はもう一つの転移魔法陣のあるガゼボへと入った。



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