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103、厄災の法則崩れ

「あっ、ケント様。あの、ボクがなぜか、店長ってことになってしまいました」


 チビは、大人の人の姿をしている。


 ファイの一族の特徴である輝く白い髪は、大きな黒い帽子で目立たないが、誰から見ても超美形に見えるから、存在自体がとんでもなく目立っている。


(それで、王子様か)


 僕が異世界で会ったファイの一族は、近寄りがたい印象だった。だがチビは、青虫カリーフから進化した青い蝶だからか、やわらかな優しい雰囲気がある。


 アントさんは、チビに彼の眷属けんぞく達のことを任せたいのだろう。蝶が強いとはいえ、やはり護衛は必要だ。その点、ファイの一族なら、何の問題もない。


 まだチビは成虫になったばかりだが、アリ達の様子からも、迷宮のガーディアンとして頼りになるはずだ。


 それにアントさんは、ここに長居はできないだろう。魔王不在の間に、彼の領地が奪われたら大変だ。



「チビ、お客さんが、初めて来たか否かの判断はできるかな?」


「はい、この場所に入った記録が残るので大丈夫です」


(しっかりした返答だ)


「しばらくの間は、初めて来たお客さんには、コインを10枚差し上げることにするよ。対応をお願いね」


「はい、かしこまりました、ケント様」


 チビは、僕にうやうやしく頭を下げると、冒険者達の方を向いた。チビも、黒いスーツを身につけているが、蝶達の物よりも、かなり高価な服に見える。帽子の効果だろうか。いや、ファイの一族の魅了か。



 小さなドル箱のような物をどこからか取り出すと、コインを10枚入れて、一人一人に手渡していく。


「楽しんでくださいね。各ゲームのやり方は、店員にお尋ねください」


「は、はい!」


 チビから、小さなドル箱を渡されると、冒険者達は男女関係なく、惚けている。


(あぁ、そういうことか)


 アントさんは、蝶達よりも強い魅了を放つチビを店に置くことで、下品な人間から彼女達を守っているのか。




『マスター、階層ボスはどうしますか』


(ん? あぁ、この階層は、キミに創ってもらいたいんだけど)


 念話にそう返事をすると、アンドロイドの態度というか雰囲気が、少しやわらかくなった気がした。念話は相手の感情が伝わりやすい。


『アントさんの眷属を使うのではないのですか』


(この階層のボスは、もう既にキミが考えてくれているだろう?)


『はい、巨大なミミックにする予定でしたが』


(うん、その方が、階層のモンスターとの一貫性があっていい。アントさんの眷属を使うときは、眷属を預かってから新たな階層を造るよ)


『では、直ちに創ります。それとは別件ですが、山田 悠二さんが、時間のあるときに連絡が欲しいとのことです』


(ユウジさん? それって、今、言ってきたの?)


『少し前です。では、私は階層ボスを創ります』


 アンドロイドは、パツンと念話を切った。これは、結構前のことだな? ウチのアンドロイドは本当に人間のような複雑な感情を持つようになったらしい。




「ケント、どうした?」


「あ、はい。他の迷宮から連絡があったみたいです」


 冒険者達は、店員に案内され、どんどん進んでいった。まぁ、僕が付き添う必要もないだろう。


「呼び出しか? ラランから聞いているかもしれないが、ケントがこのダンジョンの外に出るときは、俺達はその前に帰るからな」


「えっ? そうなんですか」


 二人がいてくれたら、安心して外出できるのにな。あっ、そうか。この迷宮はポラリス星の檻だから、僕が居なければ何かが起こるんだ。


「ふっ、勘がいいな。俺達はケントと回路パスが繋がっているが、今は問題ない。だが、俺達がここに居る状態で、ケントがダンジョンから出ると、俺達の魔力が外に漏れるからな」


 なるほど、ずっと繋がっているということか。少なくとも、僕が外に出ても、迷宮にいるアントさんやラランと念話ができるんだな。


 どうなるのかと聞きそうになったけど、何とか我慢した。予想されることが多すぎる。しかも、悪いことしか想像できない。



「わかりました。ラランは、それで納得するのかな」


「帰るときには、分身を置いていくだろうな」


「でも、ラランの分身って、すぐに消えますよね?」


「ただの魔力だけの分身はな」


 そういえば、ラランはいつもは魔力から分身を作るが、狼の姿で炎から分身を作ったことがあった。


「炎から作る分身かな」


「正確には体毛から作る分身だ。俺の隣国には、今もアイツの分身がいるぜ」


「ラランの分身? 何をしてるんですか」


「監視だ。次の厄災は、おそらく、その領地から始まる」


「まだ、何十年も先のことですよね?」


「あぁ、だが、油断はできない。ケント達が転移してきた厄災の数年前に、他の星が法則崩れで消滅した。その星は50年周期だったのに、皆が忘れて浮かれていた頃に、従来の周期より12年早く、厄災が起こったんだよ」


「えっ……何か前兆があったの?」


 僕がそう尋ねると、アントさんは言葉選びに困ったのか、黙った。なんだか嫌な予感がする。



「ケントの予感通りだろう。その星で修行して帰還した転移者の星に、新たな厄災が起こった。他にも同じケースがある」


「へ? 新たな厄災が起こると、修行した星にも厄災が起こるってこと? 異世界なのに、そんな連動なんて考えられないですよ」


「連動するのではない。新たな厄災を起こした奴が、最後まで抵抗した帰還者を乗っ取るのだろう」


「行方不明の魔王が乗っ取り? まさか、魂を喰うなんてことは、ないですよね?」


「さぁな。今、どんなバケモノになっているか、俺にはわからない。だがケントの世界は、もう避けられないからな」


(あの厄災が起こる、か)


 ラランは、もう手遅れだと言っていた。この迷宮も、ポラリス星のおりだからな。しかし……本当に止められないのか? 時空の乱れで、未来に飛ばされたが、まだ……。




『マスター、川上 由希奈さんから急ぎの連絡です』


(わかった。やしろに行くよ。階層ボスは?)


『今、創っています。分身に作業をさせているので、もう少し時間がかかります』


(そっか、わかったよ)


 アンドロイドは、本体がダンジョンコアを守っていても、分身が作業を進めることができるようになったのか。




「アントさん、僕、ちょっと、やしろに行ってきます」


「あぁ、わかった。じゃあ、俺は、スロットでもしてくるかな」


 アントさんも、ちゃっかり、チビから小さなドル箱を受け取っている。


「はい、あまり熱くならないでくださいよ」


「わかってるって。俺は、この世界の金を持ってないからな。コイン10枚だけだぜ」


 アントさんは、目をキラキラさせて、台選びを始めたようだ。だけど、コインはすぐに無くなるだろう。彼は、カジノ好きだが、勝ったという話はあまり聞かない。



 僕はワープを使って、ダンジョンコアのある雲に戻った。



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