100、雲の上の社、アンドロイドの進化
雲のように浮かぶ社の真下に立つと、身体が浮遊する感覚を感じた。ゆっくりと雲に吸い込まれるように上昇していく。
(なんか楽しい!)
僕と一緒にいたアントさんも、不思議そうな顔をしてキョロキョロしているが、やはり楽しそうだ。
雲は水蒸気の集まりなはずなのに、ポフッと頭が雲に入った。雲のように見えるが、雲ではないらしい。
(広い!)
上昇が止まると、僕達は雲のようなもの上に立っていた。ダンジョンコアの輝きを目指して歩いて行く。
雲海という言葉が適切かはわからないが、まさに今、僕達は雲の海の上を歩いている。
「ケント、なんだか甘い香りがするが、これは何だ?」
アントさんが雲のようなものに触れている。
「甘い香りですか? 僕はわからないので、ダンジョンコアの台座に移動しますね。アンドロイドから説明があると思います」
「そうだな。しかし、不思議な空間だな」
アントさんは上を見上げ、興味深そうな顔をしている。上には、この階層の天井がある。朝の空のように明るいから、白い雲のようなものに反射して、天井との間の空間は幻想的だと感じる。
僕が子供の頃にイメージしていた雲の上は、こんな感じだ。雲の上は歩けると思っていた。そんな古い記憶から、アンドロイドが創造したのだろうか。
そういえば、僕は幼い頃、縁日で買ってもらった綿菓子は、空に浮かぶ雲を捕まえたものだと思っていた。
(まさか……)
足元の雲のようなものに触れ、少しちぎってみた。寒い階層だからか、ひんやりとしている。
匂いは感じないが、舐めてみると、僕の予想どおりだった。この雲のような何かは、舐めるとスーッと溶ける。
(綿菓子か……)
アンドロイドの駄菓子へのこだわりを感じる。しかも、綿菓子の上を歩くなんて、どんな発想だよ?
「ケント、ここに新たな結界がある」
アントさんは、ダンジョンコアの台座から10メートルほど離れた位置で立ち止まった。結界が阻んでいるらしい。
「僕がダンジョンコアに触れるまで、近寄らせないのだと思います。少し待っていてください。白い物は食べられます」
「わかった。甘い香りの原因が気になっていた。サーチを使ってもいいか?」
「はい、どうぞ」
僕は、アントさんと離れ、ダンジョンコアの台座へと歩いて行く。
『マスター、この社は、マスターの記憶を具現化しました。私の発想ではありません』
(あっ、さっきの僕の考えを覗いたか。でも、綿菓子は食べ物なんだから、その上を歩くなんて、普通は考えないよ)
『マスターの古い記憶に、綿菓子の上を走り回って遊びたいという願望がありました。私はそれを実現しただけです』
(そうなの? あー、もしかして僕の幼い頃の記憶?)
そんなことを夢見たことがあったような気もしてきた。空に浮かぶ雲が、綿菓子に見えていた幼い頃のことだ。
『素晴らしいアイデアです。この社の敷地は、綿菓子にしました。そのため、この階層全体に広げることが可能です』
(えっ? 全体に?)
『はい、やってみましょうか』
(いや、そんなことはしなくていいよ。下にいる人達は雲しか見えなくなってしまう。それより、キミはどこにいるの? 姿が見えないんだけど)
『ダンジョンコアの台座に触れてください』
そう言われて、僕は台座に触れた。すると、台座から光の塊が、雲のような綿菓子の上に落ちたように見えた。
その光が収まると、そこには、赤ん坊に見える子が座っていた。白い髪、そして頭には猫耳がついている。性別不明な子だ。
「えっ? まさか、キミはアンドロイド?」
そう尋ねると、赤ん坊が頷いた。何か話そうと口を開けたが、あうあうしか言えないらしい。
『まだ、言語を発することは難しいようです』
「ちょっと待って。全然アンドロイドらしさがないというか、白い猫のときから不思議だったけど、どうしちゃったの?」
すると猫耳の赤ん坊は、ドヤ顔をキメた。この雰囲気は間違いなくアンドロイドだ。
『マスターが優秀だから、私もかわいくて優秀になるのです! アンドロイドは人間にはなれませんが、他の生命体に進化することは可能です。転移魔法陣を造ったことで5階層分、またラランさんの術を一部習得できたことでさらに5階層分、そして強い迷宮ガーディアンを得たことでさらに10階層分の経験値を得ました』
「えーっと、この迷宮の階層と合わせて26階層分ってこと?」
『はい、25階層に到達した場合と同じ経験値です。しかも、膨大なエネルギーがありました。私は思い切って進化に挑戦したのです!』
また、猫耳の赤ん坊がドヤ顔だ。
(ふっ、かわいい)
「へぇ、すごいね。ウチのアンドロイドは優秀だ。これからは、赤ん坊から成長していくのかな?」
『はい、階層が増える毎に、身体は成長します。今は、獣人でいえば、1歳の身体です。歩きにくいので姿を変えます』
そう言うとアンドロイドは、白い猫の姿に変わった。これは、5階層のときと同じ姿だ。いや、少し大きくなっているか。
『この姿では、今までにない機能が備わりました。これです!』
白い猫は、火の玉を飛ばした。雲に当たってジュッと綿菓子が溶けた。甘い香りが漂う。
「すごいね。魔法が使えるようになったんだ」
『はい! 今の私は、迷宮特区内で、一番優秀なアンドロイドになりました!』
(ちょっと、調子に乗ってるか)
こういうときは、何か大きな失敗をする。まだ6階層しかないことを忘れてはいけない。少し離れた場所にいるアントさんが、頷いてくれたのがわかった。
(やっぱり、危ういよな)
一方で、アントさんが僕の考えが見えないようにブロックしてくれたのか、アンドロイドは、褒められると思ってドヤ顔をしている。
「キミは、ラランのことを参考にしてるよね」
『はい! すごい魔王だということもわかっています。もちろん、事務局や管理局には秘密にしているので、ご安心ください』
「うん、ありがとう。キミには、ラランの本当の警戒心も習得してほしいな」
『私は常に、十分に警戒をしています!』
「違うんだよ。警戒してないように見せることが大事なんだ。能ある鷹は爪を隠すっていうだろ?」
白い猫は、ハッとした顔をしている。
『マスター、私は少し浮かれていました。この迷宮は、階層は深くないので、侵略者が大勢来ると危険です。転移魔法陣を使われると、ダンジョンコアにすぐにたどり着いてしまいます』
(やっぱり賢いな)
「この階層に合った成長しかしていないと思わせておくのが、適切な警戒心だよ。ラランも、弱い獣人の少女になりきっているでしょ」
『私も、マスターの前以外では、ラランさんのように、普通のアンドロイドになりきります』
アンドロイドは、なぜかまた猫耳の赤ん坊に姿を変えた。そして、僕に手を伸ばしてくる。
(何? この手?)
「ケント、それは、抱っこのおねだりだろ」
アントさんがケラケラ笑いながら、近寄ってきた。もう結界は消えたみたいだな。
わぁい♪ 100話!(*´ω`*)
皆様、いつも読んでくださってありがとうございます。
ブックマークが増えてくると、継続して読むよという安心の数が増えてくるようで、とても嬉しいです。本当にありがとうございます♪ おかげさまで、毎日更新を続けるパワーをいただいています♪ (*゜ー゜)v
今、作者はリアルで秋花粉(ブタクサしか反応しないはずなのに、未知の花粉に襲撃されていますっ)との戦いに苦戦していますが、読んでくださる皆様のおかげで、目や鼻から水分が流れてしまいますが、頑張れています♪ ありがとうございます(☆。☆)
あっ、なろうに登録してないからブクマ使えないよー、という方もありがとうございます♪ 各話のアクセス数で、作者はだいたい把握できています。継続して読んでくださって嬉しいです。
また、各話ごとの広告の下にあるいいねボタンを押してくださる方もありがとうございます。毎話いいねをくださったり、お気に入りの話を選んでくださったり、とてもあたたかい気持ちになります。ありがとうございます♪
皆様、ここまで100話も読んでくださって、また変な後書き(すみませんっ)まで読んでくださって、本当にありがとうございます♪
これからも、まだまだお話は続きますが、どうぞよろしくお願いします。100話記念のご挨拶でした。
アリ(´・ω・)(´_ _)ガト♪