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10、持ち出せる物とマナに変わるもの

 適当に選んだ服を僕の小屋に持ち込んだとき、このダンジョンに何かが入ってきた気配を感じた。


 ここにたどり着くまでは、まだ時間がかかるだろう。長い階段を降りて来るのは、仕事とはいえ大変だな。



『マスター、ポンコツが仲間を連れて来たようです。仕事が完了する前に無関係な者を迷宮に案内することは、規約違反です。厳重に抗議しておきます』


 僕が着替えをしていると、一瞬、猫の置物が光った。どこかと通信したのか。


「そうなの? 小川を見せたいのかもしれないね。もしくは、水を汲んで持ち帰りたいのかな」


『迷宮を構成する物は、ドロップ品や宝箱などの一部の例外を除き、迷宮外に持ち出すことはできません。小川の水を持ち出そうとしても、迷宮から出るとマナに変換されます』


「えっ? じゃあ、僕が着替えたこの服も、マナに変換されて消える? 気をつけないとマズイな。露出狂になってしまう」


『それは消えません。マスターの魔力で生み出された物は消えません。あっ、特殊な迷宮ですから、今の説明は正確ではありませんでした。えーっと、この迷宮が補充できない物は、消えません』


(ん? なんだか迷ってる?)


 銀色の猫の置物の表情が、さっきまでとは少し変わったように見える。



「小川の水を飲むと、ダンジョンの外に出たら脱水症状を起こすかな? マナに変化するならバランスが崩れる」


『いえ、人の体内に取り込まれたものは、対象にはなりません。水を飲んで喉の渇きを潤せば、迷宮から出てもそれは変化しません』


(あー、なるほど)


 昨日、彼女が目を輝かせていたことを思い出したら、すんなり納得できた。飲んだ水がダンジョンを出てマナに変わるなら、あんな顔はしなかっただろう。


 何が消えて何が消えないのか、アンドロイドにもまだ上手く整理できてないようだな。




「うわっ! 何だ、ここは!」


「シッ、叫ばないでよね。まだオープンしてないんだから、アンタの波動は迷宮の害になるよ!」


 階段を降りて、この1階層にやってきた一人が、大声で叫んだ。もう一人は口を押さえている。二人とも見たことのない若い男性だ。案内のカナさんの部下っぽい。


(あれ? この距離で?)


 そうか、僕がこのダンジョンの主人あるじだから、小屋の外の声が聞こえるみたいだ。かなり離れた状態でも、窓から見える。



『叫んだくらいで害にはなりません。あの者は濃いオーラを纏っているので、逆に歓迎すべき客です。やはり、本条 佳奈はポンコツです』


「そんなこと言ってると、カナさんに聞かれるよ?」


『私の声は、マスターにしか聞こえません。ご安心ください』


「そう。あれ? ここがわからないのかな」


 案内のカナさんは、この近くまで来たけど、キョロキョロしてる。小屋が見えてないらしい。連れて来た二人の男性も、あちこちを不思議そうに眺めている。


『マスターを捜しているのでしょう。この程度でも見つからないことが実験できました。警戒レベルを下げます』




「あっ、あった! 丸太小屋になってる! 近寄らないと見えなかったよ。随分と結界が強くなってるなぁ」


 コンコン!


 僕が扉を開けると、カナさんは昨日とは違って、冒険者のような軽装だった。その後ろには、二人の若い男性が緊張した表情で立っている。


「おはようございます。台座のアンドロイドの状態を確認に来ました。ダンジョンコアとの接続が完了していれば、迷宮をオープンします」


(妙に丁寧だな)


「おはようございます。じゃあ、お願いします」


「失礼します」


 彼女は礼儀正しく頭を下げた。昨日の態度とは、あまりにも違う。見た目はアラフォーの女性だから、この話し方は正解だと思うけど。同僚がいるからかな。


 扉のところで立っている若い男性達も、帰還者なのだろう。迷宮特区の案内者はすべて、帰還者迷宮を造った後、様々な理由で主人あるじたる地位を失った者だと、アンドロイドから説明を受けた。



 彼女は、ダンジョンコアの台座に、術を使って何かを調べているようだ。台座の上に乗っている猫の置物には、特に何の反応もない。こんなキレイな置物は、僕はあまり見たことないけど。


『ポンコツの目には、ただの円盤に見えています。私が、そのように見せています』


(えっ? そうなの?)


『はい、まだ1階層しか無い状態で、このような姿に変わったアンドロイドは、記録にありません。ポンコツは、きっと騒ぎ立てるので』


(なるほど。というか、僕の心の声が聞こえるんだね)


『はい、離れていても迷宮内であれば聞こえます。エネルギーは10%まで溜まりました。左の人間のオーラは、濃いマナです』


(どういうこと? 奪ってるのか?)


『人は自然に放っています。魔力の高い者は濃いマナを、物理戦闘力の高い者は活動エネルギーを、ただの人間でも、消費したエネルギーを体外に放出しています』


(それを吸収できるのか)


『はい、帰還者迷宮のエネルギー源です。もちろん、マスターの魔力がないと、成長はできませんが』


(じゃあ100%になれば、次の階層ができるの?)


『浅い階層は10%で可能です。ただ、今2階層を造ると、迷宮を維持するためのエネルギーが無くなります。しばらくはお控えください』


(そうだね、わかったよ)



「五十嵐 健斗さん、ダンジョンコアとアンドロイドの接続完了を確認しました。本来であれば、この瞬間にも、迷宮をオープンするのですが……」


(初めて名前を呼ばれた)


「何か、問題でも?」


「はい、とりあえず、結界の外に出てもいいですか。この小屋の中だと、筒抜けでして」


「はぁ……」


(筒抜け?)




 小屋の外に出て十数歩進むと、結界を通る感覚があった。この結界内は、ダンジョンコアを守るアンドロイドのテリトリーらしい。


 大きな服屋も、彼女達には見えてないみたいだ。アンドロイドが隠しているんだな。



「はぁ、びっくりしたぁ。キミ、一晩でダンジョンコアを守るやしろを作ったんだね。服も変わってる。一体どうなってんのよ」


(あっ、話し方が戻った)



 ダンジョンコアの結界内だと、本部か何かに声が聞こえるのかもしれない。僕とアンドロイドの会話は……。


『マスターの声を外に漏らすような失敗はしません。ご安心ください』


(うん、そうだと思った)



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