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1、プロローグ

新作はじめました。

よろしくお願いします。

「キィ〜ッアァァ!!」


 甲高い耳障りな悲鳴が、カルマ洞窟の最深部に響き渡った。洞窟内に満ちていた不気味なオーラは、チカラを失い、ただの霧へと変わっていく。


 数年に及ぶ激戦の末、100年に一度起こるという厄災は、音もなく封印の壺へと吸い込まれていった。




 ◇◇◇



「やったね! あたい達の勝ちだよねっ」


 僕に駆け寄ってくる、灼熱の炎を纏う巨大な狼のような獣。パッと10歳くらいの少女の姿に変わり、僕に飛びついてきた。


「やっと終わったんだね。ちょ、熱っ!」


「むぅ? あたい、ちゃんと人の姿だよ?」


(いや、まだ熱いって)


 彼女は、赤の魔王と呼ばれる魔王ララン。五大魔王のひとりだ。この世界のあらゆる炎を操る強大なチカラを持つ。



「ケントがいたから、今回は早く終わったな。これから100年間、また暇になる」


「ありがとう。僕には長い戦いだったよ」


 プシューッと白い息を吐く、堅固な甲殻を持つ巨大なカブトムシのような虫。周りを注意深く見回した後、20代後半に見える男性の姿に変わった。


 彼は、蟲の魔王と呼ばれる魔王アント。普段はクールで無口だが、魔王の中で最も戦闘狂だと言われている。配下や眷属けんぞくの数は、彼自身にもわからないほど多いらしい。



「100年なんてすぐに経つのじゃ。しかし、異世界から招いた者がここまで生き残るのも珍しい。ケントは優秀な魔剣士じゃな」


「ありがとうございます。僕が生き残れたのは、皆さんのおかげですよ」


 魔王達が次々と人の姿に変わっていくのを眺めていた白い獅子のような獣は、一番最後に、初老の男性に姿を変えた。


 彼は、白の魔王と呼ばれる魔王フロウ。五大魔王のひとりだ。あまり交流がなかったから、彼のことはよくわからない。ただ、戦闘時の貢献度は圧倒的に高かったと思う。



 厄災の封印に参戦していた魔王は、他にも大勢いる。僕達からは離れているが、それぞれ人の姿に変わり、ホッとした穏やかな表情をしていた。


 この厄災は、100年に一度、必ず起こっているらしい。その度に異世界から、多くの人を強制的に呼び寄せるそうだ。


 僕も、呼び寄せられた一人。


 高2の秋、突然、高校の一部が謎の光に包まれた。光が収まると、僕達はこの世界に転移していたんだ。


 一緒に来たのは80人程だったけど、それから数年が経った今、この世界に残っているのは僅かだ。


 この厄災に挑む途中で、大勢が命を落とした。とは言っても、転移者は厄災では死なないらしい。敗れて命を落とすと、元の世界に帰還するだけだ。


 魔王達と共に厄災に挑んで生き残ったのは、僕一人だ。つまり、僕だけが、まだ帰還していない。


 参戦しなかった数人は、今も移住者の村にいる。彼らは、帰還権を得るために戦うことを望まず、この世界での定住を選んだ。




「ケントっ! 明日から何するの? どこで遊ぶの?」


 赤の魔王ラランは切り替えが早い。厄災が終わったらやりたいことリストというものを作っていたからか。


「ララン、僕は元の世界に戻るよ。帰還する権利を得るために参戦したんだからね」


「えーっ? やだやだ〜! あたい、明日から毎日ケントと遊びたい〜」


(勘弁してくれ)


 魔王ラランは、人の姿だとケモ耳の少女だが、距離感がおかしい。狼って孤高なイメージがあるけど、彼女は、好奇心旺盛な子犬のようなタイプだ。



「ケント、なぜ帰る? やっと平和に勢力争いが楽しめるようになったんだぜ?」


 蟲の魔王アントまでが、僕を引きとめてくれるとは思わなかった。正直、ちょっと嬉しい。


 彼は、他の異世界人には無関心なのに、僕には普通に接してくれる。だから、離れ難い気もするけど……。


「アントさん、僕は人間だよ? 寿命は100年もない」


「それなら、自己転生を繰り返せばよい。黒の魔王に言えば、金貨1枚でやってくれるぞ?」


「黒の魔王は、ちょっと苦手なんだ。それに僕は学生だから、元の世界に戻って学ぶべきことがある」



 すると突然、白の魔王フロウが何かの術を使った。僕と魔王ラランそして魔王アントに、魔王フロウが放った光が吸い込まれていく。


(油断した。何をされた?)


「ケント、警戒する必要はない。おぬしらに回路を繋いだだけじゃ」


「回路?」


「ケントが元の世界に帰るなら、しばしの別れになるじゃろ? まぁ、目印のようなものじゃ。ケントの死後、この世界に転生できるようにしておいた。寿命が短いなら、次の厄災の頃には、この世界でまた会えるじゃろ」


(転生の予約みたいなものか)



「えーっ! あたい、毎日ケントと遊びたいのに〜」


「ララン、次の厄災の後なら、ケントの帰る場所はここだ。ほんの100年後だ」


「むぅ〜、仕方ないなぁ。じゃあ、ケント! また遊ぼうねっ」


「そうだね。皆さん、ありがとうございました」


 三人の魔王に見送られ、僕は、帰還の光に包まれた。



見つけていただき、ありがとうございます。また覗いていただけたら嬉しいです。しばらくは毎日更新します。


次話から日本に帰還です。日付けが変わった頃に、更新を予定しています。

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