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第66話 ヴェルトン memory ① ~ 凄腕以上の「鋼神の腕」 ~

本作のPV数が15,000を突破しました。

クリスタルナンバーズの物語をご愛顧いただき誠にありがとうございます。

「15,000」、「15人の物語」によく合う数字だと思います。


さて66話目です。

ここからしばらくの間、本作の重要人物であるヴェルトン博士の過去を掘り下げていきますので、よろしくお願いいたします。


(※今回の登場人物たちについては、前回「○第66-72話の主な登場人物の紹介」の回をご参照ください)

アイルクリート第一魔法大学の助手ティムは、ヴェルトン博士の過去をクレードたちに話し始めた。


(ここからしばらく回想シーン)


今(2050K年)から90年前の1960K年。

アイルローマ市(※1)、グレスピダータ地区(※2)の屋敷に一人の男が暮らしていた。

男の名は、バーテッツ・アラストロ(当時60歳)。

かつて凄腕以上の「鋼神こうじんうで」として称賛された防具職人で、アイルクリート共和国騎士団からもよく防具の注文がきていた。


そんなバーテッツであるが、5年前(1955K年)ほど前から、手の指などが思うように動かなくなり、満足のいく防具が作れなくなっていた。

職人としてかなり腕が落ちたことで、騎士団からの注文もなくなり、バーテッツは暇を持て余していた。


それからは酒を飲んでばかりいる生活を送っていたが、その年の11月、バーテッツのもとに白衣を着たとある人物が訪ねてきた。

その人物こそ、アイルクリート第一魔法大学の教授、ヴェルトン・リオロッグ(当時60歳)であった。


ヴェルトン教授は屋敷の入り口で、

ヴェルトン「あんたが防具職人のバーテッツだな?」

バーテッツ「何だお前は?」

 「人を呼んだ覚えはないぞ…」

ヴェルトン「まああんたにしてみれば、私に用などないだろうな」

 「だが私はあんたと話をしたいと思っているのだよ」

 「屋敷の中に入れてはくれないかね?」

バーテッツ「初対面でいきなり入れてくれだと?そのうえ中で俺と話をしたいだと?」

 「一体何様のつもりなんだ?」


ヴェルトン「フフ、そう怒らないでくれ」

 「アイルクリート第一魔法大学の教授では客人として不服だというのかね?」

バーテッツ「何!?あの名門、第一魔法大学の教授だと!?」

ヴェルトン「名前を言うのが遅くなったな」

 「私は、ヴェルトン・リオロッグ」

 「専門分野は魔法道具学だ」

バーテッツ「ま、魔法道具学…」

ヴェルトン「私は世界でも数少ない合成魔法の使い手だ」

 「魔法に興味があるのなら、私と少し話をしてみないか?」

バーテッツ「…」


バーテッツはしぶしぶながらも屋敷の中にヴェルトンを招き入れた。

広い客間で二人は、

ヴェルトン「紡績や織物の工房がいくつも並ぶグレスピダータ地区…」

 「初めて来たのだが、いい所じゃないか」

 「白い壁とオレンジ屋根の建物が立ち並ぶ街並みも美しいし、緑も豊かだ」

バーテッツ「俺はあんたから街並みの話を聞きたいわけじゃない」

 「一体何の用があってここへ来たんだ?」

ヴェルトン「フンッ!自分が住んでいる街を褒められても嬉しくないわけか」

 「まあいいさ、それならば本題に入ろうじゃないか」


ヴェルトン「私があんたに言いたいのは実に単純なことだ」

 「私の研究に協力しろ、以上だ」

バーテッツ「な、何だと!?」


ヴェルトン「あんたは凄腕以上の「鋼神の腕」と称賛された防具職人だ」

 「ぜひこの私のもとで防具をたくさん作ってほしい」

バーテッツ「バカを言うな。あんたが第一魔法大学の教授だろうと、研究に協力したいなどとは思わんし、何より私にはかつてのように防具を作れる腕前はないんだ…」

ヴェルトン「心配するな、防具の素材や作るための工具なども全てこちらで用意する」

 「あんたは1カランも負担する必要はない」

バーテッツ「そういう問題ではない。根本的に無理だと言っているのだ」

ヴェルトン「ならば腕前さえ回復すれば再び防具を作ってくれるのかね?」

バーテッツ「何?」


ヴェルトンは持ってきた荷物を取り出し、バーテッツに見せた。

バーテッツ「金属製の義手だと?」

ヴェルトン「その通りだ。あんたのために用意してきた新品の特注品だ」

バーテッツ「用意だと?」

ヴェルトン「手や指が思うように動かず、まともな防具を作れなくなったことはすでに知っている」

 「あんたのことは会う前から調べさせてもらったからな」

バーテッツ「勝手な真似を…」


ヴェルトン「私は4年後の学長選挙に当選し、学長になりたいのだよ」

 「そのためなら手段は選ばんさ。利用できるものは何であろうと利用する」

バーテッツ「この俺もあんたのための踏み台になれというのか?」

ヴェルトン「学長になれるのなら、悪魔に魂を売っても構わん」

 「どんなに卑劣ひれつ卑怯ひきょうな人間だと言われても、利用できる人間は利用するまでだ」

バーテッツ(心の中で)「(この男、いろいろと危ない奴かもしれない…)」


ヴェルトン「さてと、どのみちあんたにはこの義手が必要なはずだ」

 「今から取り付けさせてもらおうじゃないか」

バーテッツ「おい!一体何をする気だ!?」

ヴェルトン「私は合成魔法が使える人間だと言っただろう」

 「魔法の力でこの義手とあんたの手を合成するのさ」

バーテッツ「ふざけるな!あんたを信用できない以上、その魔法も信じる気になれん!」

 「今すぐ出て行け!さもなくば騎士団に通報するぞ!」


ヴェルトン「落ち着いてくれ、まずは考えてみないか?」

 「義手を合成しあんたの手や指が回復すれば、以前のように防具作りができるかもしれない」

 「それはあんたにとって望ましいことではないのかね?」

バーテッツ「今更防具を作ったところで私には何のプラスもない…」

 「私一人が生きていけるだけの金は十分にある…」

 「あとは好きなだけ酒を飲んで、余生を送れればそれで満足なのだ…」


ヴェルトン「生きるためのかねと酒が最低限あればいいというわけか…」

 「分かった。今日はもう帰るとするよ」

 「だが考えが変わったら、私のもとへ来てくれ」

バーテッツ「何を言っている、俺の心は変わらんぞ」

 「あんたのところになど行くわけがない」


ヴェルトン「果たしてそうかな?」

 「私にはあんたが満足した生活を送っているようには見えんのだがな」

バーテッツ「あんたにそんなことを言われる筋合いはない」

 「酒を飲んでゆっくりできれば、それでいいんだ…これからも…」


ヴェルトン「お前さん、「鋼神の腕」とまで評価された職人だったんだろ?」

 「金属を様々な形に作り変えるその腕前は、自由自在で、まさに神業…」

バーテッツ「…」

 「今となっては遠い過去の栄光だ…」

ヴェルトン「フフフ、どう言おうが、当時は仕事に楽しさややりがいを感じていたはずだ。今では味わうことのできない楽しさややりがいをな…」

バーテッツ(心の中で)「(あの頃のやりがいか…)」

ヴェルトン「嫌々仕事をしてきただけの人間がプロ以上の神になれるとは思えんぞ」

バーテッツ「…」

 「早く出ていってくれ、そういう話はうんざりだ…」


ヴェルトン「ならばひとまず私の名刺を置いておこう」

 「何かあればそれを持って大学まで来るといい…」

ヴェルトンはテーブルの上に自分の名刺を置いて、屋敷を出た。


ヴェルトンが帰った後、バーテッツは名刺を見つめ、

バーテッツ「こんなもの…今の俺には…」

 「…」

バーテッツはヴェルトンの名刺をなぜか捨てることができなかった。


バーテッツ(心の中で)「(コオタ・カシェン・ジョバンニ・アニレ・フィリア・スレイド・エレン・セイゴ・ガウス・シャセナ・ペルピーヌ・ライロ…)」

 「(お前たちなら今の俺に何を望む…)」



それから三ヶ月後、1961K年の2月。

一人の男がアイルクリート第一魔法大学にいるヴェルトン教授のもとを訪ねてきた。

その人物こそ鋼神の防具職人バーテッツ・アラストロであった。


ヴェルトン「フッフッフッ、よく来てくれたな、バーテッツ」

バーテッツ「あんたの言うように俺も職人の端くれだったというわけだ」

 「もう一度まともな防具を作ることができるのなら、試してみたい」


ヴェルトン「きっかけは何だ?なぜそう思えたんだ?」

バーテッツ「あんたの話を聞いた後、使わなくなった屋敷の工房に行ってみたんだ」

 「そして思い出したんだよ、自分が楽しく防具を作っていた日々をな…」

ヴェルトン「そうか。どれだけ酒を飲もうと根底にある職人の魂までは消せなかったようだな」


バーテッツ「だが俺は「学長になりたい」という、あんたの要望のために防具を作ろうとは考えていない」

 「あくまで俺自身のために作るつもりだ」

ヴェルトン「ならば好きなだけ作ってくれ。その防具を私に提供してくれれば何も文句は言わんさ」

バーテッツ「正直あんたに渾身の防具を渡すのもしゃくに障るが、かといって騎士団に作った防具を売る気もない」

 「だから俺はただ作ることだけを考えるぞ。そこに文句は言わせない」

ヴェルトン「ハッハッハッ!何でも好きにやってくれ!」

 「屋敷で話した通り、素材や工具などはいくらでもこちらで用意してやる」


続いて、

ヴェルトン「それでは早速防具作りのために、その腕を義手と合成させるぞ」

 「覚悟はできているだろうな?」

バーテッツ「無論だ。それを理解したうえで俺はここへ来たのだからな」


ヴェルトン「ならば、こちらの書類に印鑑もしくはサインをしてくれ」

ヴェルトンはバーテッツに書類を見せた。


バーテッツ「魔法の合意書?」

 「こんなものが必要だというのか?」

ヴェルトン「合成魔法は使い手が少ないが、いろいろと法が絡むのだよ」

 「魔法使用書や合意書などを用いず、勝手に合成魔法を使ったらその者は罪に問われるからな」

バーテッツ「ほお、その魔法にはそこまで重たい法がのしかかるのか?」

ヴェルトン「今から420年前(1540K年)の戦争で、魔獣どもを生み出したのはこの合成魔法だからな」

 「歴史的な背景もあってか、この魔法は慎重な扱いを受けているのだ」

 「18歳以上の使用者がこの魔法を使ったのなら、魔法使用書に日にちや目的などを記入し、後日役場や砦、魔法管理所などに提出しないと、犯罪になるのだよ」

バーテッツ「魔法を一回使うだけでそんなものを提出させられるとはな…」


バーテッツ「しかしこっそり使えば、バレることもないんじゃないか?」

 「魔法をいつでも自由に使えればの話だが」

ヴェルトン「ハッハッハッ!逆を言えばバレてしまえば、罪は重くなる」

 「それにより高名な魔法使いたちを輩出してきたラビフェルク家などは名誉や世間からの信頼などを失い、ラビフェルクの名も地に落ちたのだからな」

バーテッツ「ラビフェルク家、まあ俺はそんな家系は知らないがな…」


ヴェルトン「話が少し脱線したな」

 「それではこの合意書に印鑑もしくはサインを頼む」

バーテッツは合成魔法の合意書に自分の名前を書き、印鑑を押した。


ヴェルトン「よく書いてくれたな。感謝するぞ」

 「合意書無しに人に合成魔法をかければ、私は罪に問われるのだからな」


バーテッツ「言われた通り書類に印鑑を押したんだ。早速始めてくれ」

ヴェルトン「魔法をかける作業はすぐに終わる。心配は無用だ」


ヴェルトンは合成魔法を使い、バーテッツの右腕と金属製の義手を合成した。


バーテッツ「これが新しい俺の右腕か…」

 「見た目はそんなに変わっていないようだが…」


ヴェルトン「学生時代も含め、私は長年合成魔法の修行をしてきたからな」

 「金属製の義手を合成したとしても、元の人の腕と変わらないくらいの見た目にもできるのだよ」

 「もし能力の低い者が合成魔法を使ったとしたら、あんたの腕の見た目は金属的な銀色の腕になっていただろうな」


バーテッツ「見た目のことはともかく、右手の指が軽々と動く…」

 「これは確かにすごいな…この右手ならどんな防具だって作れそうだ…」

ヴェルトン「気に入ってくれたかい?」

 「魔法をかけた私としては何よりだが」


バーテッツ(心の中で)「(コオタ・カシェン・ジョバンニ・アニレ・フィリア・スレイド・エレン・セイゴ・ガウス・シャセナ・ペルピーヌ・ライロ…)」

 「(この男に協力することが正しかったのかは俺には分からない…)」

 「(だが今一度俺は命を燃やしてみることにした。一人の防具職人としてな…)」

ヴェルトン博士と一流防具職人バーテッツの出会い。

それは90年以上続く長い因縁の始まりでもあった…

皮肉にもこの出会いにより、90年後の世界で大きな争いが起きることに…

次回へ続く。


※1…市の名前の由来は、イタリアとバチカン市国の世界遺産「ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂」(文化遺産 1980年登録 1990年拡張)より

☆※2…地区の名前の由来は、イタリアの世界遺産「クレスピ・ダッタ」(文化遺産 1995年登録)

(☆:物語初登場の世界遺産)

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