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第7話(後編) 旅立ち(後編)

(※第7話の後半部分です)

親衛隊に案内され、クレードとオリンスはセヨンの間(執務室)に入った。

部屋には、ラグラード騎士団長(兄)とラドランク副騎士団長(弟)、そして、ナハグニ・鵺洸丸・ウェンディ・ホヅミ・ススキたち5人がいた。


クレード「お前ら…」

ウェンディ「押忍!待ってたッス!」

オリンス「ナハグニ、鵺洸丸、ウェンディ、ホヅミ、それにススキも…」

 「みんな、俺たちと来てくれるんだね?」

ナハグニ「拙者ら旅の準備を整えたでござるよ」

ホヅミ「ホヅミも準備バッチリですぅ!」

ススキ「よ、よろしくお願いします…」


クレード「ススキ、お前も悩んだ末に決断したわけか?」

ススキ「は、はい」


鵺洸丸「ススキ殿は宴の後、瑠璃姫様に相談なされたようだ」

ススキ「はい。一人で考えても答えが出そうにないと思ったので瑠璃姫様にもお話ししてみようと…」


オリンス「それじゃあススキはルリコの言葉を聞いてついてくることにしたんだね?」

ススキ「はい。自分のできることを探して、そこから可能性を広げていけば良いのではないかと助言していただいて…」

鵺洸丸「ススキ殿はそれがしと違い忍刀を扱える。それは紛れもなく大きな強み」


ススキ「私、瑠璃姫様のできることや可能性の話を聞いて、少し考えたんです」

 「私にもきっとできることがあるだろうって…」

 「だから私、自分のできることや可能性を探してみることにしました。皆さんとの旅を通じて…」


ホヅミ「ススキさぁん、そんなにぃ深刻にぃ考えなくても大丈夫ですよぉ」

ウェンディ「押忍!ホヅミさんの言う通りッス!ススキさんはもうちょっと気持ちを楽にしてみるといいッス!」」


オリンス「ススキ、俺だって騎士としても人としても強い人間じゃないんだよ…」

ススキ「オリンスさん…」

オリンス「でもだからこそもっと向上しようっていう気持ちもあるんだ…」

ススキ「向上心ですか…」


オリンスたちの話を聞いてススキは、

ススキ「すいません、皆さん、私のことでこんなに…」

クレード「心配するな。お前が俺たちの仲間になってくれるのなら支えていくさ」

鵺洸丸「ススキ殿、よく決心なされた」

ススキ「クレードさん…鵺洸丸さん…」


ナハグニ「あっぱれ!これにて一件落着!」

ススキ(心の中で)「(ああ、でもやっぱりナハグニさんには近寄りたくないな…)」


ラドランク(弟)「ゴホン!」

ラグラード(兄)「盛り上がっているところ悪いが、そろそろ我々とも話をしてくれないか?」

オリンス「す、すいません、騎士団長、副騎士団長…つい…」


ラグラード(兄)「ならオリンス・バルブランタ、まずは君からだ」

ラドランク(弟)「改めて君の意志を聞こうではないか。兄にしっかりと伝えてくれたまえ」

オリンス「はい」

ラドランク(弟)「魔法武装組織メタルクロノスについても兄に話をした」

 「そのうえで答えてくれ」

オリンス「分かりました」


オリンスはラグラードに話しかけた。

オリンス「騎士団長、俺はクレードたちと旅に出ます」

オリンスははっきりとした口調で答えた。


そしてラグラードは、

ラグラード(兄)「旅に出るということは、すなわち騎士団を辞めるということ」

 「本当にそれで良いのかね?君は騎士団の正団員なのだぞ。安定した雇用条件の下で働くことができなくなるのだぞ?」

オリンス「正団員や安定した雇用条件というのは俺だけの問題です」

 「俺は自分のためだけじゃなくて、騎士として人々のために、世のために貢献したいんです」

 「俺が魔獣たちやメタルクロノスと戦うことで誰かの命が救えるのなら、俺は自分の地位やお金を失っても大丈夫です」

ラドランク(弟)「自分の幸せよりも他人の幸せを選ぶか、まさに騎士道精神だな…」


ラグラード(兄)「だが今の君の言葉からすれば、それはルスカンティア王国騎士団にいてもできること」

 「なのにあえて旅立つというのかね?」

オリンス「俺はクレードと同じくクリスタークの力を手に入れました…」

 「この強力な力はルスカンティアだけではなく、他の国々…いえ、魔法大陸ムーンリアスの全てを守るために役立てたいんです…」

ラグラード「ルスカンティアのみならず、ムーンリアスのためにか…」

 「いいだろう。そういった動機であるのなら十分だ」

 「ムーンリアスに住む人々を守るため旅に出るといい…」

オリンス「ありがとうございます…騎士団長…」


ラグラード「では準団員であるナハグニと鵺洸丸にも聞こう」

 「君たちも騎士団を辞め、クレードやオリンスたちと共に旅に出るのか?」

ナハグニ「騎士団長殿!無論そのつもりでござるよ!」

鵺洸丸「ナハグニやそれがしたちの雇用契約期間は来月5月末まで」

 「退職するには時期的にもちょうど良いかと…」


ナハグニ(心の中で)「(本当は拙者や鵺洸丸殿ももう半年ほどルスカンティア王国騎士団で働くつもりでござったが、オリンス殿が旅に出るというのならお供するまで)」


ラグラード「まあいい。オリンスから聞いた以上、君たちには特に追及せん」


続いてラグラードは、

ラグラード「では、オリンス、ナハグニ、鵺洸丸、そして臨時団員のクレードもこの辞表に印鑑かサインを頼む」

クレード「一日だけの雇用でもいい臨時団員の俺でもこんな物が必要なわけか…」

ラドランク(弟)「すまないが金などが絡んでいる以上はこういった書類も後々必要になるのでな」

オリンスたち4人はラグラードに辞表を提出した。また彼らは騎士団の紋章も返した。


続いて、

ラグラード(兄)「ウェンディ、ホヅミ、ススキについてはジュルス自然保護区での戦いに急遽加勢してもらったということで臨時団員でもない」

ウェンディ「押忍!でもちゃんと戦った分はくれるんッスよね?」

ラグラード「もちろんだ。だからこちらの受取希望書にサインをしてから報酬を受け取ってくれ」

ウェンディ「やれやれ、本当に細かいッスね!」

ホヅミ「まあまあ、ウェンディさぁん」

 「お金の管理はぁ、とても大切なんですよぉ」

ススキ「ここは騎士団長の言う通りサインしましょう…」

ウェンディ、ホヅミ、ススキは書類にサインした。


そしてクレードたちへの報酬について話が、

ラグラード「ではオリンスたち7人の報酬として500万カラン(※)を用意しよう。旅の資金などにするがよい」


(※カラン…魔法大陸ムーンリアス全土で流通しているお金。1カランは日本円の1円とほぼ同じ価値)


ラグラード「なおこの報酬についてはオリンスやナハグニたちの今日までの給料や退職金等、全てを併せた分とする」


ナハグニ(小声)「(うーむ、7人で500万カランでござるか…ちょっとケチってるのではござらぬか?)」

鵺洸丸(小声)「(まあ普段の給料と比べればかなり多く貰ったのだ。それは騎士団長殿に口出しすべきことではないぞ)」


続いてラグラードは、

ラグラード「オリンス、君の持っている武器と防具は誰の物だ?」

オリンス「は、はい」

 「俺の防具である緑の鎧と兜は自分でお金を出して作ってもらった特注品です」

ラグラード「ならば防具は君の持ち物というわけだな」


ラグラード「では武器は?」

オリンス「俺が使っている槍と斧は騎士団から支給された物ですが…」

ラグラード「ならばその槍と斧は騎士団に返却してくれ」

オリンス「そうですよね。武器は俺の持ち物ではありませんからね…」


ラグラード「代わりに新品の槍と斧を一つずつ用意する。それらを持っていくがよい」

オリンス(少し驚いて)「そ、それって頂けるってことですか!?」

ラグラード「私からの餞別だ」


ナハグニ「良かったでござるなあ、オリンス殿!」

 「新しい武器が手に入って!」

オリンス(少し嬉しそうに)「う、うん」


ラグラード「それとベリル号も君に授けよう」

オリンス「ベ、ベリル号もですか!?それは本当にありがとうございます!」

オリンスはラグラードに深く頭を下げた。


ラグラード「ベリル号は我が騎士団が貸している軍馬の1頭ではあるが、あの馬はどうも君に懐いているようだしな」

 「それにベリル号は君と同じようにかなり特殊な魔力を受けたのだ」

 「そういった馬であれば我々も今後どう扱ってよいか分からぬからな」

オリンス(嬉しそうに)「とにかくありがとうございます!俺はベリル号と共にこれからも精一杯戦います!」

ラグラード「そう言ってくれるのは何よりだが」


続いてラグラード(兄)とラドランク(弟)は、

ラドランク(弟)「それと最後の餞別として馬車を用意した」

 「馬車は幌馬車で、馬4頭に車両2台の構造だ」

 「旅をするというのならやはり馬車は必要だろう」

オリンス「馬車もですか!?本当にすいません、何から何まで…」

ラグラード(兄)「武器とベリル号は騎士団長である私からの餞別として」

ラドランク(弟)「そして馬車は副騎士団長の一人である私からの餞別ということで受け取ってくれ」


ナハグニ「いやぁしかし、馬車は本当にありがたいでござるよ!」

ホヅミ「はい!荷物を載せたり、中で休んだりできるですぅ!」

ススキ「なら私が馬車の御者をやります。私、乗馬の経験や知識がありますので」

ウェンディ「押忍!それは頼もしいッス!ウチなんて全然馬の知識ないッスから!」

鵺洸丸「良かったではないかススキ殿、自分のできることが早速見つかって」

ススキ(嬉しそうに)「は、はい」


ラドランク(弟)「ちょっといいか?」

ナハグニ「ラドランク殿。いかがなされた?」

ラドランク(弟)「話に水を差すようで悪いが、馬車の馬4頭についてはレンタルだ」

 「すまないがダールファン王国国境付近にあるナミーブル砂漠(※11)の関所で馬を返しラクダに乗り換えてくれ」


ウェンディ「押忍!馬車をくれるんじゃなかったんッスか!?」

ラドランク(弟)「馬車の箱、車両の部分は君たちのものだが、馬については仕方ないのだ。我が国から砂漠地帯であるダールファン王国もしくはナプトレーマ王国に行く場合などは「南の月馬車協定」が適用されるからな」

鵺洸丸「そういえばそのような協定がございましたな。それがしも少し聞いたことがありまする」

ホヅミ「えぇ、それってぇ何ですかぁ?」


オリンス「俺が説明するよホヅミ」

クレード「さすがにお前は元正団員だからそういう話は知っているか」

オリンス「さっきラドランク副騎士団長が言ってたけど、ルスカンティアからダールファンかナプトレーマに馬車で行く場合、それぞれの国境にある関所で馬をラクダに変えてくれるのさ。無料で」

ウェンディ「押忍!つまりサービスの一種ッスか?」

オリンス「うん、そんな感じだね」


ラドランク(弟)「大草原の国ルスカンティアと砂漠の王国であるダールファンとナプトレーマの行き来をスムーズにするために定めれた協定だ」

ラグラード(兄)「ルスカンティアでは馬が、ダールファンとナプトレーマではラクダが役に立つ」

 「地形や自然環境によって家畜も変わるということだ」


ナハグニ「ではダールファンやナプトレーマから先の国へ行く場合はどうなるのでござるか?またラクダを馬に変えてくれるのでござるか?」

ラドランク(弟)「その通りだ。ルナウエスタン・アイルクリート・サフクラントのいずれかの国の関所で対応してくれる。同じように無料でな」


オリンス「南の月馬車協定はそれらの6カ国で適用されるってことなんだ」

ススキ「そうなると、ダールファンでは馬ではなくラクダを操るのね…」

 「私、ラクダに乗ったことはないわ…」

ラドランク(弟)「心配するな。ラクダの操り方は馬に比べれば容易なほうだ」

 「乗馬の経験や知識があるのならラクダも乗りこなせるはずだ」

ラグラード(兄)「ダールファンでもナプトレーマでも、我が国の領土であるナミーブル砂漠の関所でもラクダの乗り方を指導してくれる。そこはあまり心配しないでくれ」


ラドランク(弟)「では兄者、関所で必要となる協定書にサインしてオリンスたちに渡してくれ」

ラグラード(兄)「そうだな。騎士団長である私の名義でサインしよう」

クレードやオリンスたちはラグラードから南の月馬車協定に合意する協定書を受け取った。


その後クレードたちはラグラード(兄)たちと少し話をし、別れのあいさつをした。


鵺洸丸「ラグラード騎士団長、約1年いろいろお世話になり申した」

ナハグニ「拙者たちは次の国へ進むでござる」

ウェンディ「押忍!旅を通じてもっと強くなるッス!ウチらに期待してほしいッス!」

ホヅミ「ラドランク副騎士団長ぉ、馬車ありがとうございますぅ」

ススキ「私、馬だけではなくラクダも扱えるようになってみせます」

オリンス「ベリル号と新しい武器を頂き本当にありがとうございます…」

ラグラード(兄)「報酬の500万カラン、君の武器である新しい槍と斧は馬車の前の兵士たちから受け取るといい」


そしてラドランク(弟)も、

ラドランク(弟)「クレード、君にはいろいろと助けてもらったな」

 「副騎士団長の一人として心より礼を言わせてくれ」

 「本当にありがとう…」

クレード「俺もあんたにはいろいろと感謝しているよ、副騎士団長」



クレードたちは城内を出て、城門の前に来た。

そしてホヅミたち女性はそこにある馬車を確認し、

馬車の馬たち「ヒッ!ヒー!」

ホヅミ「わぁこれがホヅミたちの馬車ですねぇ、結構立派ですぅ」

ススキ「そうですね。私が何とか動かしますから」

ウェンディ「押忍!ススキさんの腕に期待するッス!」


一方オリンスは兵士たちと、

ルスカンティア兵①(騎士)「古い槍と斧の返却、ご苦労様です」

 「こちらがオリンス殿に用意した新しい槍と斧になります」

オリンス「やっぱり新しい武器は輝きも違うなあ…」


ルスカンティア兵②(騎士)「オリンス殿、ベリル号をお連れしました」

 「どうか手綱を」

ベリル号「ヒン!」


オリンスは手綱を受け取り、ベリル号に話しかけた。

オリンス「ベリル号、今までは騎士団の持馬だったけど、君は今から俺の馬になったんだ…」

ベリル号「ヒッ!」

オリンス「今まではルスカンティアの中だけにいたけど、これからは他の国々にも行くんだ…」

 「だからどんな場所でもどんな時でも一緒にいてほしい、一緒に戦ってほしい…」

 「ベリル号、お願いできるかな?」

ベリル号「ヒッヒッーン!」

オリンス「ありがとうベリル号…俺はいつだって君を信じているよ…」


一方クレード・ナハグニ・鵺洸丸の三人は兵士から報酬を受け取り、

ルスカンティア兵③(騎士)「こちらが皆様の報酬である500万カランでございます」

 「どうぞお受け取りください」


ナハグニ「初めはケチ臭い額だと思ったでござるが…」

鵺洸丸「オリンス殿の武器に、軍馬ベリル号、車両2台の幌馬車、馬車協定に関する協定書も貰ったのだ。むしろ十分であったな」


クレード「だが鵺洸丸、俺たちはまだルスカンティア王からの紹介状を貰ってないぞ」

クレードは兵士に話しかけ、

クレード「おい、王は書き終わり次第俺たちに渡すと言っていたがまだなのか?」

ルスカンティア兵④(騎士)「ハッ!それについてはチャドラン王子とルリコ様が直接お渡しになると伺って…」


その時チャドラン王子とルリコたちがこちらにやって来た。

チャドラン「クレードさん、オリンスさん、皆様、お待たせしました」

 「父上からの紹介状を3通持って参りました」

チャドラン王子はクレードに紹介状を手渡した。


クレード「これらをそれぞれの国の元首に渡せばいいわけか…」

チャドラン「はい、よろしくお願いします」


続いてチャドランはクレードとオリンスに、

チャドラン「クレードさん、オリンスさん、余も初めはお二人の変身姿を見てすごく驚き、正直不審な気持ちもございました」

 「ですが変身したお二人は強大な魔獣たちを退治してくれたのです。今は逆に感謝の気持ちでいっぱいです!」

 「人は見かけじゃない…お二人に教えられました」


オリンス「王子様、そう言っていただき光栄にございます」

クレード「王子、そんなに俺たちを称賛しなくてもいいさ」

 「俺たちも貰える物は貰ったんだ。立場的にはお互い様だ」


チャドラン「私から皆様にお渡ししたい物はまだ他にもございますよ」

そしてチャドラン王子が親衛隊の一人に声をかけ、

チャドラン「どうかクレードさんたちに渡してあげてください」

親衛隊③「ハッ!」

そう言って親衛隊の一人はクレードに500万カランを手渡した。


クレード「これは金じゃないか」

チャドラン「はい。全部で500万カランございます」

 「私個人からのお礼でございます。どうぞ貰ってください」

鵺洸丸「では先程の500万カランと合わせると合計1,000万カランではないか!?」

ホヅミ「わぁすごぉい、これだけあればぁしばらく困らないですぅ」

ススキ「(もしかすると騎士団長も王子が自分でお金を用意すると思っていたのかも…)」

 「(だから少なめに渡したのかも…)」


チャドランと一緒に来たルリコも、

ルリコ「皆様、この度の戦い、本当にお疲れ様でした」

オリンス「ルリコも来てくれたんだね。城を出る前にあいさつしたいと思っていたからさ」

クレード「あんた、ワトニカの藩の姫様なのか?」

ルリコ「はい」

 「ルリコ・奄美大野、現大名であるトラツグ・奄美大野の娘にございます」


続いてルリコは、

ルリコ「そしてあなたがクレードさんなのですね?青き戦士に変身した、あの」

クレード「ああ、グラン・サファイアによって俺は変身できる」


ウェンディとホヅミはルリコに話しかけ、

ウェンディ「押忍!サツマダイのお姫様に見送ってもらえるなんて光栄ッス!」

ホヅミ「ルリコさぁん、ホヅミこれから頑張るですよぉ」

ルリコ「期待していますよ、皆さん」


続いてススキもルリコに、

ススキ「瑠璃姫様、昨日は助言していただき本当にありがとうございました…」

 「私、瑠璃姫様のおかげで決心できました…」

ルリコ「私の言葉がススキさんのお力になれて良かったです」


そしてルリコからススキに、

ルリコ「ススキさん、あなたは留年などはせずにくノ一大学をご卒業されたのでしょう?」

ススキ「はい」

ルリコ(笑顔で)「それでしたらあなたはもっとご自分に自信を持ってください」

 「しっかりとした気持ちがあればススキさんはもっと成長できますよ」

ススキ「お言葉ありがとうございます…瑠璃姫様…」


続いてルリコはオリンスたちに、

ルリコ「オリンスさん、皆さん、どうぞこちらをお持ちください」

オリンス「これは手紙?それも2枚?」

ルリコ「はい。私の父である現大名のトラツグ宛てに書かせていただきました」

 「もし皆様がワトニカのサツマダイ藩へ行くことがございましたら、この手紙をどうか父にお見せください」

 「きっと父上や藩の者たちが皆様のお力になってくれることでしょう…」


鵺洸丸「ですが瑠璃姫様、手紙は1枚あればよろしいのでは?」

ルリコ「残り1枚は予備として書きました」

クレード「予備か…だが大事に持っていたほうがいいだろうな」

オリンス「そうだね。もしかしたらこれから何人かで分かれて行動することがあるかもしれないからね」

ホヅミ「別々に藩に着いたとしてもぉ、そのお手紙があればぁ安心できますぅ」

ウェンディ「押忍!なら分かれて行動するときはその手紙をそれぞれ持っておくッス!」

ルリコ「使い方は皆様にお任せします」


そしてルリコは最後に、

ルリコ「本当は私も皆様と同行したいのですが、やはりこれからもチャドラン王子のおそばにいたいものでして…」

チャドラン「余にとってもルリコ殿は大切なお方でございます」


ルリコとチャドランを見てススキは思った。

ススキ(心の中で)「(二人ともお熱いわ…やっぱりこのまま婚約の話までいくのかしら?)」

 「(でも瑠璃姫とチャドラン王子がご結婚することになれば、サツマダイ藩はどうなっちゃうのかな?)」

 「(瑠璃姫様、自分が次期藩主となって大名家を継ぐようなことをおっしゃっていたのに…)」

 「(でもそういった話もこれからしていくことになるんだろうなあ、きっと…)」


またナハグニと鵺洸丸も、

ナハグニ(小声・寂しそうに)「(ルリコ殿…どうかお幸せに…)」

鵺洸丸(小声・少し呆れて)「(お主に祝福されても瑠璃姫様は全くお喜びにならぬであろうな…)」


クレードたちはチャドラン王子とルリコたちに別れを告げ、城を後にした。

そんなクレードたちを二人は最後まで見送り、

チャドラン「皆様!本当にありがとうございました!どうか良い旅を!」

ルリコ「皆様のご活躍を祈っております!」


見送りを終えた二人に親衛隊の一人が話しかけ、

親衛隊③「王子、瑠璃姫、それでは国王様のもとへ行きましょう…」

チャドラン「はい。しっかりと父上に自分の気持ちを伝えます」

親衛隊④「ラグラード騎士団長やラドランク副騎士団長もクレード殿たちの見送りが終わり次第王座の間へ行くよう言われております」

親衛隊⑤「王はアイルクリート第一魔法大学への手紙を書き終え、すでに伝令部隊に渡しております。部屋へ行けばすぐ話が始まることでしょう」

チャドラン「大丈夫です。相手が父上であっても余は気持ちを伝えるだけです」



チャドラン王子とルリコ、親衛隊たちは王座の間へと向かった。

王座の間には、国王ルスディーノ29世、王妃パリンサ、大臣リガーデン、騎士団長ラグラード(兄)、副騎士団長ラドランク(弟)たちがいた。


チャドラン王子は国王である父に顔を合わせ、そして話が始まった。


ルスディーノ29世「さてチャドランよ」

チャドラン「はい」

ルスディーノ29世「戦地から戻る兵たちの出迎え、宴の準備、クレードたちへの対応などにより後回しにさせてもらったが、私がそなたに何を言いたかったのか分かるな?」

チャドラン「もちろんでございます、父上」


ルスディーノ29世「ではチャドランよ、そなたは弓を持ちセレンゲティアで戦いをしたのだな?」

チャドラン「はい。紛れもない事実でございます」

ルスディーノ29世「私がそなたに「絶対に戦ってはならぬ」と言った事を忘れてしまったのか?」

チャドラン「覚えておりました。しかし余はその事を知ったうえであえて戦いました」


パリンサ「どういうことなのですか!なぜそのような行為を!」

リガーデン「王妃様、どうか落ち着いてください…」


パリンサ「ラグラード、ラドランク!そして親衛隊の者たちよ!」

 「何という失態ですか!あなたたちは何のためにいたんですか!」

ラグラード(兄)「返す言葉もございません」

親衛隊③「我ら親衛隊も重く受け止めております」

ラドランク(弟)「私も王子の件を直接謝罪したく、王都へと参りました」

 「国王様、お妃さま、この度チャドラン王子を戦わせてしまい、誠に申し訳ございませんでした」

ラグラード騎士団長(兄)・ラドランク副騎士団長(弟)・親衛隊たちは王たちに深く頭を下げた。


パリンサ「あなたたち、頭を下げればそれで済むとでも!」

チャドラン「もうおやめください!母上!」

 「ラグラード殿やラドランク殿、親衛隊の方々には何の責任もございません!全ては余の判断でございます!」


パリンサ「チャドラン!あなたも自分が何をしたのか分かっているのですか!戦いなんてすれば命を落とすかもしれないのですよ!」

 「あなたは次期国王とされるこの国の王子!そのあなたにもしもの事があったらこの国の未来はどうなるのですか!」

チャドラン「母上!それでは余はまるで次期国王になるためだけに生きているようなものではございませぬか!」

 「自由も何もあったものではございません!」

パリンサ「チャドラン!」


チャドラン「今の余にとって大事なのは父上でも母上でもその言葉でもありませぬ!」

パリンサ「では私たち以上に大切なものがあるのですか!」

チャドラン「はい!それは他ならぬルリコ殿です!」

ルリコ「チャドラン王子…」


チャドランはルリコを抱きしめ、そして、

チャドラン「ルリコ殿と一緒にいられるのなら、余は次期国王だの王子だのという地位などいりません!」

パリンサ「チャドラン…そこまで瑠璃姫のことを…」


ルスディーノ29世「もうよいパリンサ…チャドランの件はこれで終わりにしよう…」

パリンサ「あなた!?」

ルスディーノ29世「そもそもチャドランの同行を許したのは他ならぬ私だ」

 「それに連帯責任だというのなら私だって含まれる」

パリンサ「あなた…私はそんなつもりでは…」


リガーデン「お言葉ですが、国王様、王妃様」

 「私はチャドラン王子を今回同行させて正解だったと思います」

パリンサ「リガーデン、あなたもチャドランの同行には反対していたじゃないですか?」

リガーデン「確かに初めは私も反対でした」

 「ですがセレンゲティアから帰ってきた今の王子様は以前よりもたくましく見えるのです」

チャドラン「リガーデン殿…」 


リガーデン「旅や戦いを通じ王子も成長なされたのでしょう…」

 「そして王子が成長できたのも、瑠璃姫様、あなたのおかげでございます」

 「あなたがいてくれたからチャドラン王子は成長できたのです」

ルリコ「リガーデン様、そのお言葉に深く感謝いたします…」

チャドラン「ルリコ殿、リガーデン殿の言う通りでございます。全てはあなたがいてくれたからなのです」

ルリコ(ときめいて)「王子…」


ここで国王ルスディーノ29世が、

ルスディーノ29世「とにかくチャドランの一件はもう終わりだ。これ以上は誰にも問わん」

 「それよりも今はヴェルトン博士の保護のためにルスモーン島へ行く部隊を編成せねば…」


チャドラン「それでしたら余もルスモーン島へ同行させてください」

ルスディーノ29世「チャドラン…そこへも行くというのか?」

チャドラン「はい。どうかお願いします」

 「人助けもしたいですし、我が国の領土であるルスモーン島をこの目で見たいのです」

リガーデン「そういえば王子をルスモーン島へお連れしたことはまだございませんでしたな」

ルスディーノ29世「ならば良い機会だ。チャドラン、そなたの同行を認めるよう」

チャドラン「父上、本当にありがとうございます…」


ルスディーノ29世「瑠璃姫もチャドランと共にルスモーン島まで同行してもらうがよろしいか?」

ルリコ「はい…喜んで…」


パリンサ「今の私がチャドランや瑠璃姫に何を言っても届かないでしょう…」

 「瑠璃姫、チャドランのことをよろしく頼みますよ…」

ルリコ「王妃様、ありがとうございます…」


ラグラード「では国王様、このまま部隊編成の会議を始めてもよろしいでしょうか?」

ルスディーノ29世「そうだな。ではとりあえずアムダの間(大会議室)に集まってくれ」


続いて国王はラドランク副騎士団長に、

ルスディーノ29世「ラドランク、そなたもまだザンジバルスの町(※12)へ戻らず、このまま会議に参加してくれ」

 「ルスモーン島を含むパルクレッタ諸島の領土は、一応西側の騎士団の管轄エリアだからな」

ラドランク「ハッ!」


返事の後ラドランクは心の中で

ラドランク(心の中で)「(王子たちもご同行する以上、これから親衛隊に加わるであろうセルタノにも合流するよう伝令を出さねばな…)」

 「(用件が終わり次第早急に城へ戻ってもらおう…)」



一方城を出たクレードたちは王都中心街の宿に泊まっていた。そこで彼らは話し合い、

クレード「しかし今回はいろいろと書面を貰ったな」

オリンス「整理すると、国王様から他国への紹介状が3通、馬車の協定書が1通、ルリコからの手紙が予備も含め2通だね」

ススキ「まず最初に使うのは協定書ね。これは関所の人に見せればいいのよね」

ウェンディ「押忍!どれもなくさないよう大切に持っておくッス!」


続いて話題を変え、

鵺洸丸「まずはセルタノ殿に会いに彼の故郷であるセドルース村(※13)を目指すということか?」

オリンス「うん、セルタノに会って彼が言う渡したい物をちゃんと受け取らないとね」

ナハグニ「それは武器でござろうか?」

オリンス「おそらくはね…」

ホヅミ「強ぉい武器だったらぁいいですねぇ」


ナハグニが話題を変え、

ナハグニ「時にウェンディ殿!ホヅミ殿!ススキ殿!」

ホヅミ「何ですかぁ?」

ナハグニ(爽やかな顔で)「女子おなごが旅をするというのは大変なこと…」

 「もし旅の途中生理でお困りになったら遠慮なく拙者に…」


ウェンディ(怒りながら)「押忍!!ナハグニに言いたいとは全く思わねぇッス!!」

ホヅミ(怒りながら)「女性に対してデリカシーなさすぎですぅ!!」

ススキ(困った顔で)「セ、セクハラ…」

ウェンディはナハグニの頬を引っ叩き、ホヅミはナハグニの頭や体をペチペチ叩いた。


そして、

ウェンディ(怒りながら)「押忍!!ウチら女はもう部屋に戻って休むッス!!」

 「ホヅミさん、ススキさん、もう行くッス!!」


しかし叩かれたナハグニはとても嬉しそうであった。

ナハグニ(すごく喜んでいる)「あっ…ウェンディ殿が…ホヅミ殿が…拙者の体に触れて…♡」


そんなダメすぎるナハグニに、クレードは、

クレード「お前バカか」

 「女性が堂々と自分の生理を男に言えるとでも思ったか」

ナハグニ「クレード殿!いろいろ記憶をなくしておるのに女子おなごの生理を知っているのでござるか!?」

クレード「ヴェルトン博士から性教育ということで聞いた」

ナハグニ「なんと羨ましき!ああっ、拙者もその話ぜひ聞いてみたかったでござる!」

ウェンディ(怒りながら)「そこ!いつまで話してるんッスか!」


そして少し離れた所から見ていた鵺洸丸とオリンスは、

鵺洸丸(少し呆れて)「やれやれ、いきなりこれでは先が思いやられる…」

オリンス(苦笑い)「ハハッ…そうかもね…」


しかしオリンスは気持ちを切り替え、

オリンス「でもきっと楽しい旅になるんじゃないかな…俺はそう思うよ…」


一方クレードも、

クレード(心の中で)「(うちなーのナハグニとドサンヌのススキ…)」

 「(ワトニカの中でも文化が独特な地域であるリュウキュウ藩とエゾ藩出身の人間といきなり出会うとはな…)」

 「(これも何かの運命か…)」



二日後の24日の朝、クレードたちは王都の中心街を抜け、郊外までやって来た。

そこは緑が広がった自然豊かな所であった。


ウェンディ「押忍!美しい景色ッス!」

鵺洸丸「うむ…心が洗われるようだ…」

ススキ「中心街は人がたくさんいて賑やかだったけど、郊外はこんなに自然が広がっているのね…」

ホヅミ「なんかぁ、いよいよ大冒険の始まりって感じですねぇ」

クレード「そうだな。俺たちの冒険が始まったって感じがするな」

オリンス(張り切って)「まだまだ西へ進むよ!行こう、みんな!」

ナハグニ(張り切って)「セルタノ殿!待っていてくだされ!」

いよいよ旅に出たクレードたち7人。無事セルタノと再会できるだろうか?

次回へ続く。


※1…島の由来は、モーリシャスの世界遺産「ル・モーンの文化的景観」(文化遺産 2008年登録)より

※2…大草原の名前の由来は、タンザニアの世界遺産「セレンゲティ国立公園」(自然遺産 1981年登録)より

※3…ドームの名前の由来は、南アフリカの世界遺産「フレデフォート・ドーム」(自然遺産 2005年登録)より

※4…城の名前の由来は、エチオピアの世界遺産「歴史的城塞都市ハラール・ジュゴル」(文化遺産 2006年登録)より

※5…自然保護区の名前の由来は、タンザニアの世界遺産「ンゴロンゴロ保全地域」(複合遺産 1979年登録 2010年拡張)より

☆※6…自然保護区の名前の由来は、セネガルの世界遺産「ジュッジ国立鳥類保護区」(自然遺産 1981年登録)より

※7…市の名前の由来は、イタリアとバチカンの世界遺産「ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂」(文化遺産 1980年登録 1990年拡張)より

※8…市の名前の由来は、イタリアの世界遺産「ヴェネツィアとその潟」(文化遺産 1987年登録)があるヴェネツィアの別名「ベニス」より

※9…環礁の名前の由来は、セーシェルの世界遺産「アルダブラ環礁」(自然遺産 1982年登録)より

※10…王国の名前の由来は、ノルウェーの世界遺産「西ノルウェーフィヨルド群‐ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルド」(自然遺産 2005年登録)より

☆※11…砂漠の名前の由来は、ナミビアの世界遺産「ナミブ砂海(or ナミブ砂漠)」(自然遺産 2013年登録)より

※12…町の名前の由来は、タンザニアの世界遺産「ザンジバル島のストーン・タウン」(文化遺産 2000年登録)より

※13…村の名前の由来は、タンザニアの世界遺産「セルース猟獣保護区」(自然遺産 1982年登録)より

(☆:物語初登場の世界遺産)

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