第54話(中編) ヴェルセイユ宮殿会談(中編)
(※54話の中盤です)
シェルージェ・ミレイヤ・ソフィアーヌたちは宮殿内で共に昼食を食べ、その中で、ウェンディやカルパーラたちもミレイヤとブロイスに軽く自己紹介をした。
そして、セイヌ・パリス市民であるサンナもミレイヤたちに…
サンナ「初めまして、ブロイス皇子様、ミレイヤ皇女様」
「私はセイヌ・パリス市民のサンナ・ベルックリンドと申します」
「この宮殿と同じブルボラン地区にあるサンディソレイユ教会のシスターでございます」
「私はシェルージェ様たちの旅にご同行しているわけではありませんが、シェルージェ様たちをこちらの宮殿までご案内したという縁で、この場に同席させていただいております」
ソフィアーヌ「アンシーさんがおっしゃった通り、国の代表者が一般市民の方と直接お話することは理想的な政治活動といえるでしょう」
「私は今回の会談でサンナさんからもご意見も聞いてみたく思っております」
ミレイヤ「首相が同席をお認めになるのでしたら、私はあれこれと申しません」
「ですが私個人はシスター、つまり聖職者と呼ばれる方々が好きではありませんし、信用もしておりませんのでご了承ください」
アドレンデ「ミレイヤ様、この国には、王国時代の王たちの彫像が並ぶゴシック様式の大聖堂「アミアンヌ大聖堂(※6)」や、微笑む天使の彫像といった約2300体もの彫像が飾られている「ベレスランス大聖堂(※7)」など、多くの聖堂・教会・修道院があり、サンナさんのような聖職者はこの国に大勢いらっしゃいます」
ミレイヤ「騎士団長、何をおっしゃいたいのですか?」
「私は聖職者たちや慈愛のない神々など信用しておりませんから、そのような場所で礼拝したいとも思えませんが」
アドレンデ「サンナさんを含め聖職者の方々は我が国の名誉や誇り…それ故にサンナさんへの悪口等は極力控えていただきたいかと…」
ミレイヤ「私は「あれこれと申しません」と言いましたよ、聞こえませんでしたか?」
ここでシェルージェが、
シェルージェ「ストップ!なんか気まずい雰囲気になってるよ!」
「せっかくのお食事が楽しくなくなるから、ここでもうストップ!」
ソフィアーヌ「シェルージェ様のおっしゃる通りですわ」
「これから夕方までお話しするんですもの、楽しくいきましょうよ」
アドレンデ「首相、出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ございませんでした」
サンナ「本当にすいません、私などのために…」
ソフィアーヌ「ミレイヤ様、アドレンデさん、サンナさん」
「パンや鶏肉のスープ、ゆで卵とお野菜のサラダなどもおかわりできますので、まずはお腹を満たして、落ち着いてください」
ミレイヤ「まあ、お食事中は穏やかにいきましょうか」
ブロイス「そうだな、ミレイヤ…」
ビオランテ(心の中で)「(どうやら、ブロイス様だけでなく、ミレイヤ様のほうも一癖ありそうね…)」
昼食後別の部屋にて、アンシー・シェルージェ・サンナ・ミレイヤ皇女・ソフィアーヌ首相たちによる会談が始まった。
ソフィアーヌ「本日の会談に特定の議題はございません。無理をして政治的な話をする必要もありません」
「皆様、お話ししたいことをご自由におっしゃってください」
ミレイヤ「それではラープ帝国第3皇女である私からよろしいでしょうか?」
ソフィアーヌ「ミレイヤ様ですね。どのような内容をお話しでしょうか?」
ミレイヤ「ソフィアーヌ首相は、会談までのお手紙によりご存じでいらっしゃいますが、改めて私の口からお話しさせてください」
「私や兄のブロイスが今回南の月(南側の大陸)のベレスピアーヌ共和国を訪れたのは、交流のきっかけなどが新たに生まれれば良いと思ったためです」
「500年ほどの歴史のあるラープ帝国ですが、南の月の国々との関係はまだ薄いですから」
ソフィアーヌ「そうですね、私も首相となって今年で4年目(※8)ですが、ラープの方々で直接お会いしあいさつをしたのは、ミレイヤ様たちのお父上であるラープフォーク14世様とラープ帝国騎士団団長のグラドリオス様たちのお二方ほどでございますので」
ミレイヤ「コランタームのポランレス首相やチェムンドゥ騎士団長も同じようなことをおっしゃっておりました」
「3年に一度の月世界会議(※9)でお会いするくらいで、やはりラープと南の月の方々とのお付き合いはまだまだのようで…」
ソフィアーヌ「ベレスピアーヌにいらっしゃる前にコランタームでも会談が開かれたことは存じております」
「熱帯雨林地域のコランタームと比べ、我が国の印象はいかがでしょうか?」
ミレイヤ「そうですね、セイヌ・パリス市までの道中で様々なものを見てまいりましたが、景色や街並み、歴史ある建造物の数々はやはり素晴らしかったですよ」
ミレイヤ「ボルドンヌの港町(※10)で目に映った石造りのコルドゥアンヌ灯台(※11)、今の冬の時期(※12)でも活気に溢れていた海沿いのベレスニース市(※13)、たくさんの羊たちを見かけたコーズセヴェンヌ村(※14)、長い歴史のある鉱山の町ベレスワロン(※15)、プルゴーニャ村(※16)やシャンパーメゾン村(※16)の葡萄畑の景観やワイン貯蔵庫、印刷業が盛んなベレスブランタンの町(※17)など、この国の自然、文化や産業に触れることができたと思います」
「また道中、議員の方々のご厚意で、内装やインテリアが素晴らしいヴィクトルオルダの邸宅(※18)に泊めていただくなど、この国の方々には深く感謝しております」
ソフィアーヌ「そのようなお言葉を聞けて首相として大変嬉しく思います」
「ボルドンヌからセイヌ・パリスまでの旅が、ミレイヤ様にとって実りがあったようで」
ミレイヤ「私や兄にとっては初めての国でしたからね、何もかも斬新に見えましたよ」
ソフィアーヌ「しかし、先ほどアドレンデ騎士団長が申した聖堂や修道院などはやはりお好みでないと?」
ミレイヤ「確かにそういった宗教施設を道中よく見かけましたが、立ち寄りたいとは微塵も思えませんでした」
「まあ宗教施設でも、海に浮かぶモンサンミッシェラ(※19)だけは神秘的な雰囲気を感じましたよ。中に入ろうとは思いませんでしたが」
ソフィアーヌ「あの小島の修道院は我がベレスピアーヌの建造物の中でもよく知られていますからね、ミレイヤ様からお褒めいただき感謝いたします」
ソフィアーヌ「しかしお話を聞く限り、ミレイヤ様に対して疑問に思うところもあるのですが、お分かりですか?」
ミレイヤ「私がなぜそこまで、聖堂や修道院、神を嫌っているかということでしょうか?」
ソフィアーヌ「左様でございます」
「聖堂などについては、ミレイヤ様がお好きではない聖職者の方々がいらっしゃることが主な理由だと思うのですが、よろしければその辺りのお話を少し…」
ミレイヤ「実に簡単な話ですよ」
「この世に児童虐待や幼い子供を巻き込んだ心中、若い女性が命を奪われる事件などが起きているからですよ」
一同「!!」
ミレイヤ「もしこの世界に神様がいるというのなら、なぜ幼い子供や女性たちの命を救わなかったのですか?」
「大人に暴力を振るわれたり、交際相手に刃物で刺されたり、それが力なき子供や女性たちに対する神の施しだとでも言うのですか?」
「神などを信じたところで、幼い子供や女性たちの命は救えません。故に私は神などまったく信用いたしません」
ミレイヤ「神に対しての礼拝など私にとっては無駄でしかない行為ですよ。神を崇めるくらいなら、第3皇女であるこの私を崇めるべきです」
「無力な神に代わり、幼い子供や女性に優しい社会を実現するため日々奮闘してまいりますよ」
アドレンデ騎士団長「女性にとって優しい社会の実現ですか…それであれば先ほど女性のサンナさんのことを否定するような発言をしていたと思えるのですが…」
ミレイヤ「これは失礼いたしました、騎士団長」
「正確には、「犯罪に手を染めない心優しい女性たち」に対する政策でしたわ」
「児童虐待に関与し子供の命を奪った母親などは処刑、最低でも30年程度の懲役や無期懲役を科すつもりです」
ソフィアーヌ「ミレイヤ様、シスターであるサンナさんは児童虐待に関与した女性ではないと思えるのですが…」
ミレイヤ「そこはご心配なく、単に私個人が聖職者を信用していないというだけで、その方々を苦しめるような法案などはまったく考えておりませんので」
ソフィアーヌ「そうですか」
ミレイヤ「幼い子供や若い女性の命を奪った者たちを次々と処刑できる社会こそ、私の理想なのですよ」
ミレイヤ「銃殺・串刺し・ギロチン…どのような方法で処刑するか、考えるだけで楽しく思えます」
首相はブロイス皇子に、
ソフィアーヌ首相「ブロイス様、妹君のお考えに対し何かご意見はございますか?」
ブロイス「私は将来ラープの皇帝となり、ミレイヤの考えや政策を実現させるつもりです…」
「最愛の妹ミレイヤのためにできることをいたします…」
ソフィアーヌ「幼い子供や女性たちにとって優しい社会…ですがその命を奪った者たちを次々と処刑できる社会でもある…」
「ブロイス様、ご自身としては、こういった社会をどのように思われるでしょうか?」
ブロイス「ミレイヤが考えたことであれば、それは全て正しいはずです…」
「そこに私の意見など必要ありません…」
ミレイヤ「私はお兄様を誰よりも信頼しております」
「お兄様が皇帝となれば、私の理想とする社会も間違いなく実現することでしょう」
ブロイス「ミレイヤ…お前が望むのなら、なんであろうと…」
アドレンデ「…」
(心の中で)「(これではブロイス皇子が次期皇帝になったとしても、その実権はミレイヤ第3皇女が握ることになるでしょうね…)」
「(ラープの将来が心配ですよ…)」
続いてソフィアーヌ首相はサンナに、
ソフィアーヌ「サンナさん、ミレイヤ様に対しておっしゃいたいことはございますか?」
ミレイヤ「わ、私ですか?」
ソフィアーヌ「ええ、聖職者としてミレイヤ様に何かお言葉があれば…」
ミレイヤ「ソフィアーヌ首相、私はサンナさんの同席を認めましたが、彼女と話をしたくはありません」
「虐待や暴力から子供や女性たちを守れない神を崇める聖職者の話を聞いても私にとっては無駄な時間でしかありませんから」
サンナ「ですが私はミレイヤ様とお話ししたいです」
ミレイヤ「この私に神の教えを説くとでもいうのですか?」
サンナ「ミレイヤ様に私たちの宗教のことをお話ししても届かないと思うのです」
「だからミレイヤ様には私自身の言葉で話をさせてください」
「聖職者ではない、サンナ・ベルックリンドの言葉として」
ミレイヤ「あなた自身の?」
サンナ「はい」
(※後編へ続きます)




