第54話(前編) ヴェルセイユ宮殿会談(前編)
54話目です。
今回は話の中で、児童虐待や若い女性が交際相手に命を奪われる事など、社会問題も取り上げております。ご了承お願いいたします。
(※今回の登場人物たちについては、前回「○第54-62話の主な登場人物の紹介」の回をご参照ください)
(※今回の話は前編・中編・後編の3つに分かれております)
ここはベレスピアーヌ共和国の首都、セイヌ・パリス市(※1)。
カラン、カラーン…キーン…
市内にある56棟の鐘楼群(※2)から心地よい鐘の音が響き渡る。
ケルビニアン暦2050K年8月12日。
(魔法武装組織メタルクロノスの宣戦布告まで、あと20日)
この日、セイヌ・パリス市のヴェルセイユ宮殿(※3)に来ていたシェルージェやアンシーたちは、宮殿内でソフィアーヌ首相とアドレンデ騎士団長から出迎えを受けた。
シェルージェ「初めまして、ソフィアーヌ首相」
「サフクラント公国、クランペリノ家のシェルージェちゃんだよ」
ソフィアーヌ「前大公、オルブラング・クランペリノ様のお孫様でいらっしゃいますね」
「ヴェルセイユ宮殿によくぞお越しで」
シェルージェ(心の中で不満そうに)「(うーん、やっぱりきれいなお姉さんじゃなくて、おばさんかあ…)」
アドレンデ「入口の兵士たちから話は聞いております」
「サフクランドス大公様からの紹介状を私たちにもお見せください」
シェルージェ「ちょっと待ってね」
シェルージェはリュックから紹介状を取り出し、
シェルージェ「はい、これ」
「よろしくね」
シェルージェは首相に紹介状を手渡した。そして首相は紹介状を確認し、
ソフィアーヌ「なるほど、サフクラントの海域などで妙な怪魚型魔獣が現れたと…」
シェルージェ「首相さんたちは何か知らない?」
「ちょっとでいいから、シェルージェたちとお話ししてよぉ」
ソフィアーヌ「まあ、少しのお時間でよろしいのでしたら、今部屋を変えてお話しいたしましょう」
「お連れの皆さんもよろしいですか?」
アンシー「すいません、ソフィアーヌ首相」
「急なご対応をしていただいて…」
部屋を変えて話をするシェルージェや首相たち。
ソフィアーヌ「奇妙な怪魚型の魔獣…」
「申し訳ありませんが、そのような話は存じ上げておりません」
アドレンデ「私もです。ニューカレドニアル島(※4)などの島々からもそのような情報はきておりません」
シェルージェ「それじゃあ怪魚はこの国に来てないってこと?」
ソフィアーヌ「私だけではなく、アドレンデさんもご存じないのであれば、やはり…」
シェルージェ「首相さんも騎士団長さんも話してくれてありがとう」
「それじゃあシェルージェたちは北にあるコランターム共和国に行ってみるね」
「あとは市民のサンナちゃんとじっくり話をしてあげてよ」
サンナ「えっ!?」
シェルージェ「それとセイヌ川をきれいにしてね。汚れてると見栄えが悪いよぉ」
ソフィアーヌ「セイヌ川ですか…旅行者の方々からも「川が汚い」という指摘をここ最近受けております」
「私たちとしても清掃活動や下水道の見直しなどを行い、水質を改善したいところですが…」
シェルージェ「きれいにしようとは思ってるわけね。まあそれならいいけどさあ」
そして話を聞いたシェルージェは、
シェルージェ「川のこともちゃんと話したし、もういいや」
「シェルージェたちは次の国へ行こう」
ビオランテ「シェルージェ様、そんなあっさりと…」
シェルージェ「だって一番聞きたい怪魚の情報がないんじゃ、長居してもしょうがないじゃん」
「これからこの国に現れるかもしれないけど、のんびり待ってるよりかは行動したいよぉ」
シェルージェ「ねぇソフィアーヌさん、短い文章でいいから、コランタームの首相さんと会えるよう紹介状をさくっと書いてよぉ」
アンシー「ちょっと、シェルージェ!」
「さすがにそれはソフィアーヌ首相に対して失礼すぎるわ!」
ビオランテ「シェルージェ様、ソフィアーヌ首相やアドレンデ騎士団長もお忙しい中、突然訪問した私たちにご対応していただいているのですよ」
「やはりこちらも節度を弁えねばなりません」
リンカ「この場はオラたちも誠実にならなきゃいけねぇだよ」
ソフィアーヌ「まあ皆さん、シェルージェ様が紹介状をご希望でしたら、私が対応いたしますのでご安心ください」
シェルージェ「さすが、首相さん。話が分かるねぇ」
ソフィアーヌ「その代わりといってはなんですが、シェルージェ様たちも明日のブロイス様たちとの会談にご出席ください」
「コランターム共和国の首相、ポランレス様への紹介状はその後お渡しいたしますので」
シェルージェ「なにそれ、ギブアンドテイクじゃん」
「シェルージェ、今紹介状がほしいんだけどなあ…」
カルパーラ(出されたお菓子を食べながら)「シェルージェ様、ブロイス皇子やミレイヤ皇女たちとお話しできるというのでしたら、ぜひご参加ください」
「将来サフクラントの大公におなりになるかもしれませぬシェルージェ様にとっては大変有意義なことだと思いますわ」
ススキ「異国の皇子様たちとお話しさせていただくご機会をお与えになったり、紹介状のご用意までしてくださったりと、ソフィアーヌ首相はとても親切にご対応していただいているのよ」
ウェンディ「押忍!シェルージェもお姫様のようなお人なら、同じお姫様であるミレイヤ様と会って話をしてみるといいッス!」
ホヅミ「それにぃラープ帝国にぃ、24の怪魚が現れたかぁ聞いてみるのもぉいいと思いますぅ」
シェルージェ「分かったよぉ。紹介状がほしいから、シェルージェ、言うこときくよぉ」
アンシー「サンナさんにだって、首相と話せる時間はちゃんと必要だわ」
「今は急な面会なんだし、じっくりと話ができる明日の会談まで待ちましょう」
サンナ「わ、私との話なんて優先していただかなくても…」
ソフィアーヌ「そちらのピンクの修道服を着たシスターさんは共に旅をしているお方ではないのですか?」
サンナ「私は市内のブルボラン地区(※1)に住むシスターです…」
「シェルージェ様たちを宮殿までご案内するために同行したのですが、アンシーさんたちの提案で、私もお話の場に同席することにいたしまして…」
アンシー「私、首相と市民が直接話し合えるのはとても良いことだと思うんです」
「私もいつかウインベルク現首相のフォンチェルトさんとお話ししたいと思っていますし」
アドレンデ「アンシーさんはウインベルク共和国(※5)のお方でしたか」
アンシー「はい。コンサートのために訪れたダールファン王国で仲間たちと出会って、それからベレスピアーヌまで旅をしてきたんです」
ソフィアーヌ「ウインベルク出身で、「ヒズバイドン」という姓…」
「もしかしてアンシーさんは、チャロックスキーさんの娘さんでいらっしゃいますか?」
「あの天才ピアニストと称賛されるお方の」
アンシー「えっ、ええ、まあ…」
アドレンデ「そうなると明日のブロイス様たちとの会談には、公爵家のシェルージェ様だけでなく、チャロックスキー氏のご息女も同席するということになりますね」
ソフィアーヌ「ブロイス様やミレイヤ様もチャロックスキーさんのことは当然ご存じでしょう」
「明日の会談ではラープ帝国の皆さんも驚いてしまうかもしれませんねぇ」
アンシー「そうですね…父の偉大さは娘としてよく存じていますので…」
リンカ(心の中で)「(アンシー、お父さんの名前が出でぎて固くなってらだ…)」
「(天才のお父さんは、アンシーにとってはプレッシャーでもあるんだべなあ…)」
短い時間であったが、ソフィアーヌ首相たちとの話も一旦終わり、アンシーやサンナたちは、その日宮殿内で一泊した。
次の日13日の昼、宮殿にラープ帝国のブロイス皇子とミレイヤ第3皇女、護衛役の親衛隊や騎士団員たちがやって来た。
ソフィアーヌ首相はブロイスとミレイヤにあいさつし、
ソフィアーヌ「ラープ帝国のブロイス皇子様、そしてミレイヤ第3皇女様でいらっしゃいますね」
「よくぞセイヌ・パリスまでお越しくださいました」
ミレイヤ「初めまして、ソフィアーヌ首相」
「私はラープ帝国第3皇女様、ミレイヤ・ラープフォークと申します」
「こちらは兄のブロイスでございます」
ブロイス「ブ、ブロイス・ラープフォークと申します…」
「よろしくお願いいたします、首相」
アドレンデ騎士団長「ラープ帝国の皆様、ようこそベレスピアーヌへ」
「私はこの国の騎士団長、アドレンデ・リパレスカーブと申します」
「ラープの皆様の大切な命、我ら共和国騎士団が全身全霊をかけてお守りいたしましょう」
ミレイヤ「ミレイヤ・ラープフォークでございます」
「兄のブロイス共々よろしくお願いいたします」
ミレイヤ「アドレンデ様は優れたお方ですわ」
「ムーンリアス全体で見ても女性の騎士団長というのは珍しいですもの」
アドレンデ「私の実力はともかく、女性の騎士団長が少数だというのは確かでございましょう」
「私の知る限りでは、女性の騎士団長は、アイルクリート共和国のロレンシィ魔法部隊団長と、北の月(北側の大陸)リベルジャイル王国のペカチェリーナ騎士団長のお二方だけでございますし」
ミレイヤはソフィアーヌやアドレンデの近くにいるアンシーやシェルージェたちについて聞き、
ミレイヤ「ソフィアーヌ首相、こちらの皆様は?」
ソフィアーヌ首相「ルスカンティア王国やサフクラント公国など、南の月(南側の大陸)の各地を旅してきた方々でございます」
「昨日こちらの宮殿へお見えになりまして」
アドレンデ「アンシーさん、シェルージェ様、そして他の皆様」
「ミレイヤ様たちに自己紹介をなさってください」
アンシー「はい。アドレンデさん」
アンシーはミレイヤたちに…
アンシー「私は、アンシー・ヒズバイドンと申します」
「ピアニスト、チャロックスキー・ヒズバイドンの娘にございます」
ブロイス「な、なんと…」
ミレイヤ「まあ!あのチャロックスキー氏の娘さんなのですか!」
アンシー「はい。父が46歳の時、ウインベルクで私が生まれました」
「以来音楽の国ウインベルクで育ち、今年3月ウインベルク第三音楽大学を卒業したのです」
ミレイヤ「天才ピアニストと呼ばれるあの方の娘さんとこのような場所でお会いできるとは思いもしませんでしたわ」
「私、以前チャロックスキー氏の奏でるピアノを聴いたことがあるのですが、大変素晴らしかったですわ」
「彼の演奏を聴いている間、まるで緑の美しい土地を旅しているような気分になっていましたもの」
アンシー「父の演奏技術やセンスをお褒めいただきありがとうございます」
「父に会いましたら、ミレイヤ様のお言葉を伝えておきますので」
続いて、シェルージェがミレイヤたちに…
シェルージェ「シェルージェちゃんだよ。サフクラント公国のクランペリノ家本家の子供だよ」
ブロイス「ク、クランペリノだとっ!?」
ミレイヤ「サフクラントの三大貴族のお方とも出会えるなんてますます驚きですわ」
シェルージェ「いいねぇ、ミレイヤさん」
「美人で、大人の女性って感じがするよ」
ミレイヤ(褒められて嬉しそうに)「美人だなんて…そんな…」
シェルージェ「ミレイヤさんみたいな素敵な人とこの後お話しできるなんて、シェルージェも嬉しいよ」
ブロイス「は、話をするだと?」
ソフィアーヌ「本日午後の会談は私とブロイス様、ミレイヤ様と3名で行うご予定でしたが、昨日アンシーさんやシェルージェ様たちが宮殿にお見えになられたので、こちらの皆様も共に会談に出席していただきたく思っております」
ソフィアーヌ「ブロイス様、ミレイヤ様、シェルージェ様たちもご一緒させていただいてよろしいでしょうか?」
ブロイス「お、お待ちください、首相…」
「今回の会談はあくまで私たち3名だけのはずですよ…」
ミレイヤ「よろしいではありませんか、お兄様」
ブロイス「ミ、ミレイヤ…」
ミレイヤ「著名な音楽家やクランペリノ家のお嬢様方とお話できるのです」
「ラープの未来を担う私たちにとって参考になるお話が聞けるかもしれませんわ」
ブロイス「分かった…ミレイヤが望むのなら…」
カルパーラ(心の中で)「(ラープ帝国のブロイス皇子様…)」
「(今日初めてお会いしましたが、自分に自信が持てず弱気な感じがします)」
「(それに妹であるミレイヤ様をいろいろと当てにしているような…)」
ソフィアーヌ「会談は昼食後になります」
「まずは皆でお食事にいたしましょう」
シェルージェ「わーい!ご飯、ご飯!」
(※中編へ続きます)




