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第6話(前編) No.2 クリスターク・グリーン(前編)

(※今回の話は前編と後編に分かれています)


<主な登場人物紹介の紹介>

◎クレード・ロインスタイト(男・?歳)

・青色の髪をしている本作の主人公である魔法剣士。持っている剣の名は「魔蒼剣」、盾の名は「アイオライトの盾」。

魔法の宝石グラン・サファイアにより、クリスターク・ブルーに変身する。

(クリスターク・ブルーは鳥の翼で空を飛べる)

自分の出身地や年齢など、過去の記憶をいろいろなくしている。

以前ヴェルトン博士というアイルクリート第一魔法大学の元名誉教授の世話になった。

今は臨時団員としてルスカンティア王国騎士団に協力している。

◎オリンス・バルブランタ(男・28歳)

・緑色の髪をしているルスカンティア王国騎士団に所属する正団員である騎士。

馬にまたがり騎兵として戦う。使用する武器は槍と斧。愛馬の名はベリル号。

大草原セレンゲティアに巣くう魔獣たちと戦う討伐隊の一員として参加。

セルタノ・ナハグニ・鵺洸丸は彼の友人たち。

この物語における重要人物の一人。

○ラグラード・カドルック(男・57歳)

・ルスカンティア王国騎士団の団長であり、討伐隊の指揮官。国王29世たちから厚く信頼されている。

○ラドランク・カドルック(男・54歳)

・ルスカンティア王国西側の騎士団を束ねる副騎士団長。騎士団長ラグラードの弟。国の西側から援軍部隊を率いて戦いに参加。

○チャドラン・ルスディーノ(男・23歳)

・国王29世と王妃パリンサの息子で、ルスカンティア王国の王子。

「戦いはせず見届ける」という形で討伐隊に参加。セレンゲティアまでの道中でルリコと対面し、彼女と親しくなる。

○ルリコ・奄美大野あまみおおの(女・22歳)

・ワトニカ将国サツマダイ藩からやって来た女侍で、大名家の跡取り娘。

討伐隊に参加し、チャドラン王子と親しくなった。

武器は火縄銃と短筒。

日本の世界遺産「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」(自然遺産 2021年登録)からイメージしたキャラ。鹿児島県出身のイメージ。

○セルタノ・リクゼストン(男・33歳)

・ルスカンティア王国騎士団に所属する正団員。討伐隊に参加する。

馬にまたがり弓騎兵として戦う。愛馬は白馬で名はグレビー号。

○ナハグニ・按司里あじさと(男・31歳)

・ワトニカ将国(※2)リュウキュウ藩からルスカンティア王国へとやって来た侍。自称、うちなー侍。

準団員としてルスカンティア王国騎士団に所属している。討伐隊に参加。

愛用する刀の名は「グスク刀」。

日本の世界遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」(文化遺産 2000年登録)からイメージしたキャラ。沖縄県出身のイメージ。

鵺洸丸やこうまる(男・30歳)

・ワトニカ将国オガサワラ藩からからルスカンティア王国へとやって来た忍者。

鵺洸丸は忍びとしての名前で、彼の本名は、「タケル・南嵐みなみあらし」。

準団員としてルスカンティア王国騎士団に所属している。討伐隊に参加。

愛用するクナイの名は「硫黄のクナイ」。

日本の世界遺産「小笠原諸島」(自然遺産 2011年登録)からイメージしたキャラ。東京都小笠原村出身のイメージ。

ケルビニアン暦2050K年4月13日。

ルスカンティア王国領セレンゲティアの大草原(※1)。


約5000人だった討伐隊も道中加わった兵たちやラドランク副騎士団長の援軍部隊と合わさり、数も5000人から6000人となった。


騎士団(討伐隊)約6000人VS魔獣約2000匹、騎士団は日が昇ると同時に草原の魔獣たちに攻撃を開始した。セレンゲティアでの戦いが始まった。


騎士団長であり魔獣討伐隊の隊長である指揮官ラグラードの声が大草原に響く。

ラグラード(騎士団長)「まずは第一部隊出陣!弓騎兵たちよ、機動力と弓による遠距離攻撃で先陣を切れ!」


草原を駆ける弓騎兵部隊。その中にはオリンスの友人であるセルタノもいる。

セルタノ(ルスカンティア兵・弓騎兵)「魔獣どもが…一匹残らず駆除してやる!」

 「いくぞ!グレビー号!」

グレビー号(セルタノの愛馬)(鳴き声)「ヒッヒー!」

ルスカンティア兵①(弓騎兵)「先陣の役目、しっかりと果たしてやるぜ!」

無数の矢が魔獣たちの体を貫く。

魔獣たち「グッ!?」


ラグラード「よし、いいだろう!第一部隊、後退せよ!」

 「続いて第二部隊、弓や魔法で攻撃せよ!」

ルスカンティア兵②(アーチャー)「この一撃、外しはせん!」

ルスカンティア兵③(魔法使い)「魔獣どもめ!我が魔法を受けてみよ!」

 「炎の小魔法 エスブレイ!」

魔獣たち「ギュワ!?」

ルスカンティア兵④(アーチャー)「いいぞ!奴らがどんどん倒れていく」


しかし弓や魔法の攻撃を耐え抜いた魔獣たちが騎士団に向かってきた。

ラドランク(副騎士団長・弟)「弓と魔法の攻撃だけではまだ倒しきれんか…」

ラグラード(兄)「だからこその第三、第四部隊だ」

ラグラードはアーチャーや魔法使いたち第二部隊を後退させた。そして剣士や槍兵などの第三部隊を先に行かせ、その後に騎兵たち第四部隊を出陣させた。


ラドランク(弟)「剣士や槍兵たち、馬に乗らぬ兵たちから先に出陣されるか」

ラグラード(兄)「機動力のある騎兵と、そうでない兵たちではやはり移動に差がつく」

 「だからその移動の差を少しでも減らすために剣士たちなどを先に出陣させた」

 「機動力のある騎兵たちは後からでも十分追いつけるからな」

ラドランク(弟)「移動の差を減らすことが重要というわけか…」

ラグラード(兄)「全ては効率良く魔獣どのを駆逐するための戦術だ。奴らには少しの隙も与えんつもりだ」


出陣した第三部隊。その中にはオリンスの友人であるナハグニと鵺洸丸もいて、二人は魔獣たちと対面した。

魔獣たち「グルー!」

ナハグニ「うちなー侍、ナハグニ・按司里!お相手いたす!」

鵺洸丸「忍びの力、とくと味わうがよい…」

魔獣たち「ウガー!」


一方オリンスたち第四部隊の騎兵たちも戦場を駆け抜けていた。

ルスカンティア兵⑤(騎兵)「いくぞ!この槍で仕留めてやる!」

オリンス(ルスカンティア兵・騎兵)「俺たちルスカンティア王国騎士団は負けない!」

ベリル号(オリンスの愛馬)(鳴き声)「ヒヒー!」


前線から少し離れた所で、チャドラン王子、ルリコ、王子を守る親衛隊たちは騎士団(討伐隊)が戦う様子を見ていた。

チャドラン王子「これが魔獣との戦い…」

親衛隊①「目を離さず騎士団の戦う姿をしっかりと見ていてください」

 「それが国王様からの言付けでございます」


親衛隊②「ラグラード騎士団長とラドランク副騎士団長は前線で指揮を執っております」

 「代わりに我ら親衛隊が王子をお守りいたしますので、どうぞご安心なさってください」

親衛隊③「今回の戦いで何を見て何を感じたのか後日国王様にお聞かれになることでしょう」

 「どうか王子も今回の戦いをお忘れにならないように」

チャドラン「すいません親衛隊の方々…余のために何から何まで…」


親衛隊④「ルリコ殿も頼みますぞ。我々には王子様をお守りする使命があるのです」

ルリコ「はい。もちろんでございます」


一方でルリコは別のことも考えていた。

ルリコ(心の中で)「(王子を精一杯お守りしたいという気持ちはあります。ですが前線で戦いたいという気持ちもあるのです…)」

 「(弓や妖術(※魔法のことをワトニカでは「妖術」と呼ぶ)による遠距離攻撃だけではなく、この火縄銃による攻撃も加われば、もっと…)」


また王子を守る親衛隊も思うところがあり、

親衛隊①(心の中で)「(策は練っているものの、やはり今度の戦いでも兵たちの犠牲は避けられないだろう…)」

 「(王子…今の王子に戦死した者たちを直視する覚悟はございますかな?)」

王子を見ながら親衛隊の一人は思った。


一方戦場ではオリンスたち騎兵が戦っていた。

オリンス「ウォォ!」

魔獣「グギュ!?」

槍を刺しオリンスは魔獣を倒した。

オリンス「やった…」


そしてナハグニと鵺洸丸もやって来て、

ナハグニ「だいぶ物の怪ども(※魔獣のことをワトニカでは「物の怪」と呼ぶ)を倒したでござるが、それでもまだ500程度」

鵺洸丸「まだ戦いはこれから…」


オリンス「ハァ…ハァ…」

オリンスは少し疲れていた。


鵺洸丸「オリンス殿、少しお疲れならここは一旦後退するのも良かろう」

ナハグニ「左様でござるよ。後方にいる聖侶(※回復魔法やバリア魔法の使い手)の方々に回復の妖術をかけてもらうと良いでござる」

オリンス「そうだね。まだ倒れるわけにはいかないからね」


その時草原の奥から魔獣たちの群れがこちらに向かって来た。

魔獣たち「グォー!」

ルスカンティア兵⑥(騎兵)「ムッ!別の群れが現れたか!」

ルスカンティア兵⑦(剣士)「これでいいんだ!魔獣どもは仲間の血の匂いなどに集まる習性がある!」

 「ならば魔獣どもを倒し、奴らから現れるのを待つ!」

ルスカンティア兵⑧(騎兵)「奴らはどこに潜んでいるか分からない!闇雲に動くと却って危険だ!だから現れた奴らから確実に倒すんだ!」


ルスカンティア兵⑨(斧使い、アックスナイト)「まあとにかく我ら剣士や騎兵たちは全員一旦引くぞ」

ルスカンティア兵⑩(隊長格・騎兵)「第一部隊の弓騎兵たちを再度出陣させろ!魔獣どもの増援を迎え撃て!」


兵士たちのやり取りを見ていた鵺洸丸とナワグニは、

鵺洸丸「なるほど。増援が現れても、第一(弓騎兵の先陣部隊)、第二(弓兵や魔法使い)、第三(剣士など)、第四部隊(最後の騎兵部隊)による戦闘を繰り返していくわけか…」

ナハグニ「第一部隊の弓騎兵たちは我ら第三、第四部隊が戦っている間に妖術で疲労を回復させる…うまく考えたものでござるなあ!」

オリンス「第一部隊といえば、セルタノたちの番だ」

 「ここは彼らに任せて俺たちは一旦引こう」


侍ナハグニはうまく考えたと言ってはいたが、約6000人もの兵が動く大きな戦いとなると全員が無傷で済むのは難しい。

弓矢を外した弓騎兵が魔獣に接近されて襲われたり、攻撃をかわされた剣士が魔獣から反撃されるなどして戦死した者たちもいた。少数ではあるものの。


大草原セレンゲティアでの戦いが激化していく中、草原から離れたルスジンバブエやルスカミの遺跡(※2)に向かったクレードは、

クレード「ハッ!」

魔獣「ドゥッ!?」

魔蒼剣を振りかざし、遺跡に巣くう魔獣たちを倒していた。


そして別部隊の騎士団と協力し遺跡の魔獣たちを全て倒した。

クレード「これで終わりか…大したことなかったな…」


ルスカンティア兵⑪(女性聖侶・別部隊)「本当にありがとうございます。増援部隊として来ていただいた皆さんのおかげです…」

ルスカンティア兵⑫(騎士・増援部隊)「感謝なら後日ラドランク副騎士団長にも伝えてくれ。我々だけではそういう判断もできなかった」


クレード「しかしどちらの遺跡も面白い所だったな。特徴的な石の構造物とか」

ルスカンティア兵⑪(女性聖侶・別部隊)「ルスジンバブエ遺跡は、谷の遺跡に神殿、大きな石壁の大囲壁などで知られております」

 「このかつての都市も今は遺跡となって残っておりますが、11~15K世紀頃は農耕や牧畜、きんの交易などで栄えていたそうですよ」

ルスカンティア兵⑬(騎士・別部隊)「もう一つのルスカミの遺跡もかつては都市だったよ」

 「花崗岩を積み重ねた建造物、色が異なる石材を用いた装飾などで知られている」


ルスカンティア兵⑪(女性聖侶・別部隊)「ルスジンバブエにしてもルスカミにしてもバンリ帝国の陶磁器なんかが出土しているんですよね」

ルスカンティア兵⑬(騎士・別部隊)「この二つの都市が遠く離れたバンリ帝国と交易していたというんだから驚くよな」


ルスカンティア兵⑪(女性聖侶・別部隊)「でもルスジンバブエもルスカミも最終的には放棄されてしまったんですよね…」

ルスカンティア兵⑬(騎士・別部隊)「当時の文献によれば、都市が放棄された理由は干ばつや飢饉、それに人間同士の争いなども絡んでいたとか…」

クレード「そういう場所なのか、この遺跡は…」


そしてクレードは話を変え、

クレード「さて、それじゃあ俺はセレンゲティアに行くとするか」

ルスカンティア兵⑫(騎士・増援部隊)「魔法で空を飛ぶか…今のアイルクリートでもあまり聞かない話だぞ…」

ルスカンティア兵⑭(魔法使い・別部隊)「魔法国アイルクリートでも空を飛べる人は少数だと聞いてますね。今は」

ルスカンティア兵⑫(騎士・増援部隊)「空を飛ぶには自身の魔力だけでなく必要な物が他にあったよな」

ルスカンティア兵⑭(魔法使い・別部隊)「ええ、それは「箒」です」

 「高い魔力や妙な魔力を持っていれば箒に乗り空を飛ぶこともできるんですよ」

 「ただ空を飛ぶのに必要な道具がなぜ箒であるのかは全く分からないんですけどね」

 「まあとにかく箒で空を飛ぶことも可能なんですよ」

クレード「俺の飛行能力はそんなものとは別だと思うけどな」


続いてクレードは、

クレード「とにかく出発する。あとのことは任せたぞ」

 「カラーチェンジ&クリスタルオン!」

掛け声とともにクレードはスーツとマスク姿のクリスターク・ブルーへと変身した。

ブルー(クレード)「栄光のサファイア!クリスターク・ブルー!」


続いて、

ブルー(クレード)「サファイア・アビリティ!ジェイブルーウイング!」

スーツ姿のブルーの背中から青い鳥の翼が生え、ブルーはすぐさま空を飛んでいった。


しかし兵士たちはその異様な光景にただ驚いていた。

ルスカンティア兵⑫(騎士・増援部隊)「な、何だ…あのスーツ姿は…あの翼は…?」

ルスカンティア兵⑭(魔法使い・別部隊)「い、一体何が起きて…」

スーツとマスク姿のクリスターク・ブルーや背中から翼が生えるさまは彼らから見てとても異様な光景だったようだ。


一方セレンゲティアでは騎士団(討伐隊)が2000匹のうち1800匹以上の魔獣を倒したが、まだ油断できない状況であった。

戦いの前線で指揮を執るラグラード騎士団長(兄)とラドランク副騎士団長(弟)は、

ラドランク(弟)「兵たちの報告からすでに1800匹以上は倒したと思うが…」

ラグラード(兄)「問題はこれからだ…魔獣たちの更なる増援は必ずくるだろう…」

ラドランク(弟)「魔獣どもの血がこれだけ流れた。セレンゲティアだけではなく、周辺のルスンゴロ自然保護区(※3)に巣くう魔獣どもも集まるはずだ…」

ラグラード(兄)「そうだな。ルスンゴロは高地だが、奴らの嗅覚は計り知れんからな」

 「うまく仲間の血の匂いだけを嗅いで集まるかもしれん…」


セルタノや兵士たちの戦いは続いていた。

ルスカンティア兵⑮(弓騎兵)「まだ負けはせん!」

セルタノ「その通りだ!こっちも引けねぇんだよ!」

魔獣たち(吠えている)「グォーッ!」


激しい戦いが続く中、前線から離れた所にいるチャドラン王子は戦死した兵たちを見て嘆いていた。

チャドラン(涙を流しながら)「本当にすまない…この国や民のために戦ってくれたというのに…」


そんな悲しむ王子に親衛隊たちが声をかけ、

親衛隊①「王子、これが戦いというものなのです」

親衛隊②「6000対2000の大規模な戦いともなれば、全員が無傷で勝利するのはほぼ不可能なことです」

親衛隊③「策は練っても犠牲者は出てしまう、それが戦いなのです」

ルリコ(心の中で)「(やはりこのままでは…!)」


親衛隊の手伝いをしているルリコが口を開いた。

ルリコ「王子、親衛隊の皆様、お願いいたします」

 「私を第二部隊の一人として前線で戦わせてください」

チャドラン「ル、ルリコ殿!?」


親衛隊①「ルリコ殿、お気持ちはよく分かります」

 「ですが手伝いとはいえ、今はルリコ殿も親衛隊の一人なのです」

親衛隊②「王子をお守りすること、前線で戦うこと、どちらも任務であることに変わりはありません」

ルリコ「分かっております。しかし私が戦うことで人の命を守れるのかもしれないのなら、今はそこに賭けたいのです」


親衛隊③「分かりました。ではここは王子に決めていただきましょう」

チャドラン「よ、余が…?」

親衛隊④「ルリコ殿を前線に送ってよろしいでしょうか?」

ルリコ「チャドラン王子、王子のことは大切に想っております。ですが今は…」

チャドラン(心の中で)「(ルリコ殿、覚悟を決めたのですね…だったら余も!)」


親衛隊⑤「王子、どうかお声を」

チャドラン「分かりました。ルリコ殿、前線での戦いをお願いいたします…」

ルリコ「王子、ありがとうございます…」


チャドラン(強気になって)「ですがルリコ殿、あなた一人だけを行かせはしません!」

 「余もルリコ殿と共に戦います!」

ルリコ(少し驚いて)「お、王子!?」


親衛隊⑥「お待ちください、王子!何をおっしゃるのですか!」

親衛隊⑦「「王子は決して戦ってはならぬ」という王の言葉をお忘れですか!」

親衛隊⑧「王子は次期国王になられるお方。もしここで倒れてしまったら、この国の未来はどうなるのです!」

親衛隊⑨「それに万が一の事があれば、ここにいる親衛隊25人全員が厳しい処罰を受けるのです!王子だけの問題ではございませぬ!」

チャドラン「責任は全て余が一人で背負います!親衛隊の皆様には一切ご迷惑はおかけいたしません!」

親衛隊⑩「王子!」


チャドラン「今大事なのは父上でもその言葉でもありませぬ!」

 「今の余にとって父上以上に大事なのはルリコ殿と人の命です!」

ルリコ「チャ、チャドラン王子様!?」 ドキッ!


チャドラン「共に参りましょう、ルリコ殿」

 「そしてこの戦いが終わったらゆっくりお話しいたしましょう。余とルリコ殿、二人のこれからを…」

ルリコ(明るい笑顔で)「はい、喜んで…」


親衛隊⑪(小声)「(おいおい、こんなときにプロポーズかよ…王子も随分と大胆だねぇ…)」

親衛隊⑫(小声)「(ハハッ、まあいいじゃないか)」

 「(あの二人ならこのルスカンティアを今よりも良い国にしてくれるさ)」

 「(そうだろ、お前たち…)」

親衛隊の一人は戦死した兵士たちを見ながらそう言った。


一方戦場では戦いが続き、

ルスカンティア兵⑦(剣士)「私の剣を受けてみよ!」

魔獣たち「グギュ!?」


魔獣たちが倒されていくのを見てラグラード騎士団長(兄)とラドランク副騎士団長(弟)は、

ラドランク(弟)「これで1950匹くらいは倒したか…」

ラグラード(兄)「魔獣どもの増援が来るとしたらそろそろだな…」


その時二人のもとへ別部隊の伝令隊がやって来た。

ルスカンティア兵⑯(伝令隊・別部隊)「ラグラード騎士団長!ラドランク副騎士団長!」

ラドランク「お前たちは別部隊の兵たちか!?」

ルスカンティア兵⑰(伝令隊・別部隊)「ハッ!我々はルスデフォート・ドーム(※4)で戦っている部隊にございます!」

ラグラード「そちらにも魔獣どもが現れていたのか…」

ルスカンティア兵⑱(伝令隊・別部隊)「ハッ!左様にございます!」


ラドランク(弟)「しかしお前たちがここへ来たということは、やはり援軍の要請か?」

ルスカンティア兵⑯(伝令隊・別部隊)「ハッ!おっしゃる通りにございます!」

 「ラグラード騎士団長!ラドランク副騎士団長!何卒ご対応を!」

ラドランク(弟)「どうする、兄者?」

ラグラード(兄)「やむを得ん。兵を送ろう」

ルスカンティア兵⑰(伝令隊・別部隊)「ハッ!ありがたきに!」

ラグラード(兄)「送る兵は300名程だ。悪いがその人数で対応してくれ」


ラグラード騎士団長(兄)とラドランク副騎士団長(弟)に伝令が伝わったことで、別部隊の伝令隊はルスデフォート・ドームに向かえる者はいないかと声をかける。

ルスカンティア兵⑲(伝令隊・別部隊)「ラグラード様とラドランク様のお許しはいただいた!共に戦える者はおらぬか!」


セルタノ「やれやれ、今度はルスデフォート・ドームか…」

 「どれ、ちょっくら行ってくっか…」

後方で休んでいたセルタノが立ち上がった。


ルスカンティア兵⑳(女性聖侶・討伐隊)「大丈夫なんですか?皆さんもう7時間も連続で戦っているんですよ?」

セルタノ「心配ありがとよ。でも俺たちは戦いのプロだ。何時間だろうと、戦うときは戦うさ」

ルスカンティア兵㉑(弓騎兵)「いいのか、お前?」

 「第三、第四部隊で友人たちが戦ってるんだろ?」

セルタノ「心配すんな。あいつらは簡単にくたばったりはしねぇよ。俺は信じている」

そう言ってセルタノは大勢の兵士たちと共に援軍としてルスデフォート・ドームへ向かった。


そしてその道中セルタノは別の兵士たちから話しかけられた。

ルスカンティア兵㉒(弓騎兵)「そなた確かセルタノ・リクゼストンって名の騎士だったな?」

セルタノ「何だ、急に?」

ルスカンティア兵㉓(騎兵)「いや、リクゼストンって聞いたことがあるんだよ。確か由緒ある騎士の家柄で…」

セルタノ「セドルース村(※5)のリクゼストン家を知っているのか?まあ確かに王都でも家の名を知ってる奴はそれなりにいたが…」

ルスカンティア兵㉒(弓騎兵)「それは良かったではないか。名家であれば名は知られているほうが良いだろう」


セルタノ「それで俺に何の用だ」

ルスカンティア兵㉓(騎兵)「いやあ、我々でそなたを王族の親衛隊に推薦したいとも思ってな…」

セルタノ「親衛隊?俺がか?」

ルスカンティア兵㉔(騎兵)「そなたは魔力が高いとはいえんが、弓や馬術の腕は確かだ」

ルスカンティア兵㉒(弓騎兵)「それにリクゼストン家の者であれば家柄も十分だ」

 「どうだ?本気で考えてみないか?」

セルタノ「分かったよ。だから少し考える時間をくれ」

ルスカンティア兵㉓(騎兵)「良い返事を期待してるぞ」

セルタノ(心の中で)「(俺が親衛隊か…今まで考えたこともなかったな…)」


一方、第二部隊(弓や魔法など、馬に乗らない遠距離攻撃の部隊)の一員として戦場へと向かったルリコとチャドラン王子たちは、それぞれ武器を構え魔獣たちの戦闘に入った。


ルリコ「チャドラン王子。弓を上手く扱えますか?」

チャドラン「任せてください!日々訓練しておりますので!」

ルリコ「では王子、私も火縄銃で精一杯戦います!」


魔獣たち「グガーッ!」

親衛隊①「王子!ルリコ殿!魔獣どもがこちらに向かっております!」

ルリコ「大丈夫です!撃ちます!」

チャドラン「よ、余だって!」

ルリコは火縄銃から弾を撃ち、チャドラン王子は魔力がこもった矢を射った。

ルスカンティア兵②(アーチャー)「我らも王子とルリコ殿に続くのだ!」


アーチャーたちの弓の攻撃なども加わり、ルリコや王子は魔獣たちを倒した。

魔獣たち「グギャ!?」

ルリコ「やりましたね!チャドラン王子!」

チャドラン「はい!」


そして二人の戦いを見ていたラグラード(兄)とラドランク(弟)は、

ラドランク(弟)「王子にあれだけの魔力が…」

ラグラード(兄)「もし一人の戦士として王子を育てていれば、今頃はたくましい騎士になっていたかもしれんな…」

ルリコやチャドランも戦力として加わり、騎士団は当初の数であった約2000匹の魔獣の討伐に成功した。だが大草原セレンゲティアでの戦いはまだ終わらなかった…


チャドラン「これで2、2千…」

 「我がルスカンティア王国騎士団の勝利だ…」

ルリコ「王子!まだ油断してはなりません!」

親衛隊①「魔獣どもの足音がする!やはり来るか!」

魔獣たち(叫び声)「グワッ!グロー!」

大草原の奥から大量の魔獣たちがこちらへ向かって走ってくる。それも結構な速さで。


チャドラン「あ、あ…」

 「な、何であんなにたくさん…」

親衛隊②「あれが魔獣というものなのです、王子!」

 「2000匹の魔獣を倒せば、500匹程度の増援は予想されるのです!」

チャドラン「5、500匹…そんなに…」

親衛隊③「国王様やラグラード騎士団長は始めから5000VS2000の戦いだとは思っておりません!」

親衛隊④「5000人VS2500匹以上の戦いだと想定して、討伐隊には魔獣たちの2倍の5000人を編成したのです!」

チャドラン「ま、魔獣たちがそんなに厄介な存在だったなんて…」

親衛隊⑤(心の中で)「(やはり戦いの現場に出なければこういう事も分からないだろうな…)」


ルリコ「チャドラン王子!驚いている暇はございません!」

 「私たち第二部隊は一旦引くときなのです!」

チャドラン「すまないルリコ殿、余はもっとしっかりせねばな…」


ルスカンティア兵㉕(隊長格・弓騎兵)「第一部隊出撃!弓騎兵の力をもって増援の魔獣たちを迎え撃て!」


ルスカンティア兵①(弓騎兵)「まだ俺たちは負けてねぇ!」

増援の魔獣たちを相手に弓騎兵たちの第一部隊が先陣を切った。


ルスカンティア兵㉕(隊長格・弓騎兵)「かなりの群れだ、やはり500匹程度はいるかもしれん!」

 「ならば奴らを殲滅しこの戦いを終わらせる!」


そして騎士団(討伐隊)全体の指揮を執っていたラグラード騎士団長(兄)とラドランク副騎士団長(弟)も、

ラグラード(兄)「皆の者!あと一息かもしれん!力の限り頼むぞ!」

ラドランク(弟)「この魔獣どもはルスンゴロの自然保護区が流れて来た可能性が高い!ならばセレンゲティアだけではなくルスンゴロも守るつもりで戦うのだ!」


兵士たちの声も響いた。

兵士たち「オーッ!」


そしてオリンスも、

オリンス「いくぞ!これで決着をつけてやる!」

魔獣たち(叫び声)「ガー!グガーオッ!」

兵士たちは増援の魔獣たちと果敢に戦った。


ルリコとチャドラン王子も、

ルリコ「いきましょう、王子!」

チャドラン「はい!もう誰の命も奪わせません!」


ルリコとチャドラン王子に魔獣が襲いかかるが、

魔獣「ギエッ!ギル!」

ルリコ「チャドラン王子に!」

チャドラン「ルリコ殿に!」

ルリコ&チャドラン「指一本触れさせません!!」


そしてナハグニと鵺洸丸も続いて、

ナハグニ「鵺洸丸殿、まだ戦えるでござるか?」

鵺洸丸「誰に向かって口を聞いているのだ」

ナハグニ「なら安心でござるよ」


魔獣たち「ウゴーッ!」

魔獣たちがナハグニと鵺洸丸に向かって来た。しかし二人は怯むことなく、

ナハグニ「グスク刀・今帰仁なきじんの太刀!」

鵺洸丸「硫黄のクナイ・摺鉢火山斬り!」

魔獣たち「グッ!?グギャ!?」

ナハグニと鵺洸丸はその一撃で何匹もの魔獣を倒した。


ナハグニ「見たでござるか!これぞ、うちなー流!」

鵺洸丸「物の怪ごときにやられるそれがしではない」


ルスカンティアの兵士たちはナハグニと鵺洸丸に驚いた。

ルスカンティア兵㉖(剣士)「なんという実力だ!」

 「あの二人だけで300匹は倒しているぞ!」

ルスカンティア㉗(槍兵)「侍に忍者、あれがワトニカの戦士たちの力か!?」


ナハグニと鵺洸丸に続きオリンスたち騎兵部隊も出陣した。


戦場を愛馬ベリル号で駆け抜けるオリンス。しかし彼には思うものがあった。

オリンス(心の中で)「(ナハグニや鵺洸丸と比べると俺には何の技もない…)」

 「(ただ槍で敵を刺したり、ただ斧で敵を切ったりすることしかできない…)」

 「(でも戦えるのなら、それで誰かの命を助けられるかもしれないのなら、俺だって…)」


オリンスのところに魔獣が迫ってきた。

魔獣「グガーオッ!」

オリンス「負けるもんか!」

 「ハァァッ!」

オリンスは槍を刺し魔獣を倒した。

オリンス「やった!」


しかしオリンスの後ろには別の魔獣が迫っていた。それに気づいた兵士は、

ルスカンティア兵㉘(騎兵)「おいお前!後ろから敵が来るぞ!」

爪犬型の魔獣は鋭い爪でオリンスを襲おうとした。

爪犬型の魔獣「ウガー!」

オリンス「あっ!?」


しかし襲われる直前空から一人の戦士が現れた。その戦士こそルスジンバブエやルスカミの遺跡から空を飛んでセレンゲティアまでやって来たクリスターク・ブルー(クレード)であった。


青い翼が生えたブルー(クレード)は魔蒼剣でオリンスを襲おうとした爪犬型の魔獣を上から斬り倒した。

爪犬型の魔獣「グ…ギャ…ギャ…」

ブルー(クレード)「やれやれ、こんなものか…」


オリンス「あ…あっ…」

突然の事に驚くオリンス。そんな驚いたオリンスにブルー(クレード)は話しかけ、

ブルー「何だこのザマは。お前はもう少し周りを気にしたほうがいいぞ」

オリンス「き、君は…まさか…」

ブルー「サファイア・アビリティ…解除」

そう言ってブルーは背中の翼を消した。


しかしそのブルーの目立つ姿に周りが、

ルスカンティア兵㉘(騎兵)「青い戦士…ラドランク副騎士団長が話していた戦士とはあの者のことか!?」

ルスカンティア兵⑤(騎兵)「しかし何だ、あの姿は!」

ルスカンティア兵⑥(騎兵)「青いマスクに青いスーツ…かなり異質な姿だぞ!」

ルスカンティア兵㉙(騎兵)「何者だ…一体何者なんだ…」

ブルー「やれやれ、俺の変身姿はそんなに変か」


周りから見てあまりに不自然なクリスターク・ブルーの姿。そしてそこに、ルリコ・チャドラン王子・ラグラード騎士団長・ラドランク副騎士団長・ナハグニ・鵺洸丸・他の兵士たちまでやって来て、


ラドランク「青いマスクと青いスーツ姿…クレード、君なのか?」

ブルー(クレード)「悪いな、ラドランク副騎士団長」

 「あんたには変身した姿を見せてなかったからな」


ラグラード「何とも異様な姿だ…そなたのような戦士がこの国に現れるとはな…」


ルリコ「今朝物の怪たちとの戦いの前にラドランク副騎士団長が話していたのはあなたなんですね?」


チャドラン「あなたは一体何者なんですか!?その姿は何なのですか!?」


ブルー「悪いが俺は以前の記憶をほとんど忘れてしまったのだ」

 「だからこの姿の意味は俺自身にも分からない」


ナハグニ「ハッハッ…拙者驚いて腰を抜かしてしまったでござるよ…」

鵺洸丸「ワトニカ人の我らから見ても大変異質な姿…」


ナハグニ「だけどオリンス殿はあの青き戦士に助けられたんでござるな?」

オリンス「う、うん…彼は俺の恩人かもしれない…」


オリンス(心の中で)「(あの青い彼はさっき俺に周りを気にしたほうがいいって言ってたな…)」

 「(もしかしたらさっきの俺はどこか焦っていたのかも…強いナハグニや鵺洸丸に少しでも追いつこうとつい気持ちが先走って…それで周りが見えなくなって…)」


ブルー(クレード)はいろいろと聞かれ、オリンスは少しへこんでいた。だがそこに魔獣たちが迫り、

魔獣たち「ギャラー!」

ルスカンティア兵㉙(騎兵)「チッ!青い戦士に気を取られて、こいつらを忘れていた!」

ルスカンティア兵⑤(騎兵)「残りはあと100匹程度か!?」

ブルー「ならばどけ。俺一人であいつらを倒してやるよ」

ルスカンティア兵⑥(騎兵)「なんだと!今現れたばかりなのに何を勝手なことを!」


ラドランク「いや、それでいい。あとの100匹は彼に任せるとしよう」

ルスカンティア兵㉙(騎兵)「ラドランク副騎士団長!?し、しかし…」

ブルー(クレード)「いろいろと悪いな副騎士団長」

ラドランク(弟)「クレード、君も私があげた鎧やリュックなどの分を働いて返したいと言ったことだしな」

 「それに臨時団員とはいえ、今は君もルスカンティア王国騎士団の一員だ」

 「団員である以上仕事はしてもらわねばな」

ブルー「任せてくれ。どんな形であれ恩は返してやる」


戦う気満々のブルー。だがラグラードは弟のラドランクに聞いた。

ラグラード(兄)「ラドランク、あの青き戦士の腕は確かか?」

ラドランク(弟)「心配するな兄者。あの者は負けはせん」


ブルーは剣を構えた。

ブルー「んじゃ、いくとするか」

魔獣たち(吠えている)「グガッ!グッドゥッ!」

ブルー「待たせたな、ゴミども」

 「今俺が始末してやるよ。この魔蒼剣でな」

魔獣たち「グゴワー!」

ブルーに襲いかかる魔獣たち。しかしブルー(クレード)は魔蒼剣に魔力を込め、剣は魔法のオーラを纏った。

ブルー「終わりだ…くたばれ…」

オーラの剣でブルーは次々と魔獣を斬った。


チャドラン(驚いて)「なんという剣さばきと魔力!」

 「余が見てもはっきりと分かるぞ!」

ラグラード(驚いた様子で)「まさかこれほどとは…」

ナハグニ「あきさみよー!(※)すごいでござる!拙者以上の力を感じるでござるよ!」

(※「あきさみよー」は、沖縄で驚いたときなどに使う方言)

鵺洸丸「なんという手練れ!誠に恐れ入り申した!」

ルリコ「あの強さ…ワトニカ最強の侍といわれているタカノブさん以上かもしれません…」

オリンス「すごい…とにかくすごいよ…」

ブルーはあっという間に約100匹のも魔獣たちを倒した。


ルスカンティア兵⑤(騎兵)「なんという男だ…」

ルスカンティア兵⑥(騎兵)「我々の常識ではついていけん…」

ラドランク(弟)「元から剣の腕前はかなりのものだったが、変身すればさらに強くなるということか…」


ラグラード(兄)「あの者が一体何者なのか気にはなるが、まだ我々の仕事は終わっていない」

(※後編へ続きます)

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