第39話 シェルージェ memory ⑤ ~ ヨークガルフ一味 VS アンカブート盗賊団 ~
39話目です。
盗賊のみんなと食事、ナイフの特訓、盗賊団同士の抗争。
そして盗賊にとっての信頼の証とは?シェルージェとロイズデン(偽名、ヨークガルフ)が交わした約束とは?
ぜひ本編でお確かめください。
<主な登場人物の紹介>
◎シェルージェ・クランペリノ(女・当時10代)
・黄色い髪をしている名門公爵家クランペリノ家の人間で、3年前の大公(※サフクラントの国家元首)オルブラング・クランペリノの孫娘。
マナーや教養にうるさい貴族の生活が嫌になり、さらに最愛の父マグダイドを亡くしたことで、家出を決意。荷物をまとめ実家である王宮を抜け出す。
公都(※サフクラントの首都)でロイズデン(偽名、ヨークガルフ)たち盗賊と出会い、彼らと共に公都を脱出する。
そしてロイズデンたちと共にキャプテン・ゼベルクの船に乗り南のナプトレーマ王国(※1)までやって来た。
ロイズデンたちのアジトで盗賊の仲間として歓迎される。
この物語における重要人物の一人。
○ロイズデン・ギナデルク(ヨークガルフ)(男・当時44歳)
・サフクラント公国の南の国、ナプトレーマ王国の元騎士団員。
騎士団員から盗賊になった男。
ヨークガルフは盗賊としての偽名。
騎士団から盗んだ「スカラベのケペシュ」という鎌型の剣を使いこなす。この剣は振ることで光弾を飛ばすことができる。
シェルージェと出会い、行動を共にするようになる。
○モルバッサン(男・当時40代)
・ナプトレーマ王国で暗躍する盗賊。
ロイズデンを盗賊の仲間に誘った一人で、今ではロイズデンにとっては良き相棒。
モルバッサンは盗賊としての偽名。
「イエロースコーピオンのケペシュ」という剣を使いこなす。この剣はサソリの尾のような形をしており、モルバッサンがケペシュに魔力を込めると剣の先端が伸びる。
○オドン(男・当時3、40代)
・ナプトレーマ王国で暗躍する盗賊。
モルバッサンと共にロイズデンを盗賊の仲間に誘った一人。
オドンは盗賊としての偽名。
石板を武器にし、魔力を込めると巨大なナイルフグを具現化できる。
オドンは具現化したナイルフグを「ミウルス」と名付けている。
ナイルフグの他、コンゴテトラなどの魚も具現化できる。
△ビサローム・ダルハリド
・ロイズデンの仲間だった盗賊たち。
名前のみ登場。
今(2050K年)から3年前の2047K年。
遺跡のアジトで盗賊団と暮らすようになったシェルージェ。
頭であるヨークガルフから話があり、
ヨークガルフ「シェルージェ、この盗賊団の頭ということで、お前に俺の本名を教えておく」
「本当の名前を言うだけだが、それは盗賊にとって相手への信頼だということだ」
ヨークガルフは自分の本名をシェルージェに話した。
ヨークガルフ「俺の本名は、ロイズデン・ギナデルク。44歳だ」
「生まれも育ちもここナプトレーマで、王国の元騎士団員だ」
「まあ騎士団を勝手に辞めてからもう10年経つが」
シェルージェ「ヨークさんじゃなくて、本当はロイズデンさんって言うのね」
ヨークガルフ「俺のことは本名のロイズデンじゃなく、これからもヨークガルフの偽名で呼んでくれ」
「盗賊をやっているときはロイズデンの名を隠しておきたいからな」
ヨークガルフ「だから、シェルージェ」
「お前のこともこれからは基本的に「ルシア」って呼ぶからな」
「俺たちの口からもシェルージェとはまず言わねぇことにするし、お前も自分からシェルージェの名は言うなよ」
シェルージェ「それが盗賊ってことなのね」
「でもシェ…ルシアもそのほうが安心だよぉ」
「シェルージェの名を口にして、誰かに正体がバレたら嫌だもん」
ヨークガルフ「だがルシア、俺たちと盗賊をやるのなら一つだけ約束をしてほしい」
シェルージェ改めルシア「えっ?どんな約束?」
ヨークガルフ「アジトの外に出るときは必ずクランペリノ家の紋章を身につけてくれ」
「そして紋章は普段衣服に隠しておくんだ」
ルシア「えー、何で?」
「正体を隠すつもりでルシアを名乗るのに、身分を証明する紋章は持っておくのぉ?」
ヨークガルフ「その紋章はいざというときにお前を守ってくれるはずだからな」
ヨークガルフ「盗賊ってのはいつどこで騎士団に捕まるか分からねぇ」
「俺やモルバッサンたちだって今日いきなり捕まる可能性も0じゃねぇんだ」
「だがルシアには紋章がある」
「盗賊行為をしようが、お前がクランペリノ家の人間だと分かれば、兵士たちも簡単にお前を処罰できねぇはずだ」
「お前に処罰を与えるとしたら、それは国のトップたちが対応するレベルだ」
ルシア「そういう話聞くと、シェ…ルシアちゃんってやっぱすごいよね…」
「お国まで動かしちゃうんだもん…」
ヨークガルフ「お前の立場を知って、その重みを感じたからこそ、ビサロームやダルハリドたちは一味を抜けたんだ」
ヨークガルフ「とにかくお前は紋章を肌身離さず持っておくんだ。自分のためにもな」
「他のことはともかく、それだけは約束してくれ」
ルシア「分かったよぉ、ルシア、約束するよぉ」
ヨークガルフ「頼むぜ…」
ある日の夜、食事をしているヨークガルフやルシアたちは、
モルバッサン「ほらルシア、じっくり焼いた獣型魔獣の肉だ」
「遠慮なく食え」
ルシア「え、ナイフやフォークも使わないで、手で食べていいの?」
モルバッサン「骨付きの肉なんだ。そのほうが食いやすいだろ」
ルシア「なんかそういう食べ方ができるのは嬉しいよ」
「王宮にいた時は、ナイフやフォークの使い方とかお食事のマナーとか、きつく言われてたから、心の底から楽しく食事ができなかったよぉ」
ヨークガルフ「盗賊がそんな話を普段するわけねぇだろ」
「遠慮しないでかぶりつけ」
ルシア「マナーとか気にしなくていいのぉ!?」
「それじゃあ、いただきまーす!」
ルシアを魔獣の肉を口にした。
ルシア「うーん、美味しい!」 クチャクチャ
モルバッサン「まあみんなで食事している場なんだし、せめて咀嚼音くらいは気にしてほしいがな…」
ある日、ヨークガルフはルシアを買い物に連れて行こうと、
ヨークガルフ「魔獣の肉だけ食ってても人間の栄養は賄えねぇ」
「ルシア、俺たちは街へ行ってモロヘイヤとかを買ってくるが、お前も一緒に行くか?」
ルシア「マジ!?盗賊でも街でお買い物できるの!?」
ヨークガルフ「正体を隠せばいいだけだ」
「野菜や食い物を買うのに身分証とかは必要ねぇ」
ルシア「でも盗賊ならお買い物しないで、盗んじゃえばいいじゃん?」
ヨークガルフ「バカ、俺たちは一般市民の店で「盗み」なんてはしたない真似はしねぇよ」
「買い物するなら金を出す。礼儀としてな」
ルシア「そんな事言っても、ヨークさんたちは盗賊なんでしょ?」
ヨークガルフ「確かに盗賊として略奪行為もするが、それは騎士団や他の盗賊どもが相手だった場合だけだ」
「店での盗みも含め、堅気の市民には一切手を出さねぇ」
「それが俺たちのポリシーだ」
ルシア「ふーん、でも盗賊は盗賊じゃん」
「騎士団にも捕まっちゃうんでしょ?」
モルバッサン「まあルシア、お頭は腐っても元騎士団員だ」
「だからこそ掲げられるポリシーもあるんだよ」
オドン「ルシア、とにかく頭たちと街へ行ってこいよ」
「街じゃあマンゴージュースやマンゴーアイスも売ってるぜ」
ルシア「マジ!?どっちも美味しそう!」
ルシアはヨークガルフたちと街へ出かけた。
ある日、ルシアはナイフの特訓をしていた。
ルシア「せい!」
ルシアは魔獣の死骸にナイフを刺していた。
ヨークガルフ「ルシア、刺すんならもっとグサッといけ」
「でなけりゃ魔獣はくたばらねぇぞ」
ルシア「よーし!ならもう一度!」
ルシアは特訓を続けた。
お頭から貰ったナイフを大切にしながらも。
ある日、ルシアやヨークガルフたちは、砂漠で別の盗賊団たちと遭遇し、
敵の盗賊①「どこの盗賊団か知らねぇが、運が悪かったな」
敵の盗賊②「俺たちアンカブート盗賊団(※2)に出会ったら最後」
「死ぬか配下になるかのどっちかだぜ」
敵の盗賊③「命が欲しけりゃ、アジトにある宝でも持って俺たちの下につくんだな」
敵の盗賊④「こっちは24人。テメぇらは7人」
「勝ち目はねぇと思うぜ…」
ヨークガルフたちは小声で、
モルバッサン「(アンカブート盗賊団、ここ最近のし上がってる奴らか…)」
オドン「(どうする頭?撤退する気か?)」
ヨークガルフ「(ここで逃げる気はねぇよ、さっと片付けてやる)」
ルシア「(マジ!戦うの!?)」
ヨークガルフ「(言っただろ、殺伐とした世界で生きてるのが盗賊だって)」
モルバッサン「(心配すんなルシア、お前は俺たちが守ってやるからよ)」
敵の盗賊①「おい、そろそろ返事しろよ」
ヨークガルフ「そうだな。あいさつ代わりにナイフでもやるよ」
敵の盗賊①「なんだと!?」
ヨークガルフはナイフを投げ、敵の盗賊に当てた。
敵の盗賊①「ぐわっ!?」
敵の盗賊を一人倒した。
(だが敵の盗賊は命を落としてはいない)
敵の盗賊②「くそっ!あいつらを殺っちまえ!」
ヨークガルフ「仕方ねぇな、ゴミムシダマシのナイフで相手してやるよ…」
オドン「ここはアレステスに頼むか…」
ヨークガルフはナイフを取り出し、敵の盗賊たちを次々と斬った。
敵の盗賊③「うぐっ!」
敵の盗賊④「あがっ!」
オドンは石板に魔力を込め、巨大なコンゴテトラのアレステスを具現化した。
オドン「アレステス!光線を放て!」
アレステス「ピピッ!」
巨大コンゴテトラのアレステスは、光る鱗から光線を放った。
敵の盗賊⑤「熱っ!何だこの光線は!」
敵の盗賊⑥「くそ…か、体が焼かれちまう…」
仲間の盗賊①「お頭とオドンだけじゃねぇぞ!」
仲間の盗賊②「俺たちだって十分戦える!」
仲間の盗賊たちの戦いぶりを見てルシアは、
ルシア(小声)「(何かお頭たち、本気で戦ってない気がするよ!)」
「(もしかして、手を抜いてるの!?)」
モルバッサン(小声)「(ルシア、スカラベのケペシュやナイルフグのミウルスとかは強力すぎるんだよ)」
「(人間相手に使えば、相手はあっさり死ぬだけだ)」
ルシア(小声)「(あっさり!?そんなすごい攻撃だったんだ!?)」
モルバッサン(小声)「(他の盗賊団と抗争するときはいつもこうさ)」
「(向こうが俺たちを殺すつもりだとしても、頭は相手の命を奪わないように戦っている)」
「(たとえ悪人だとしても、人を殺めたくないのが頭なんだよ)」
ルシア(小声)「(なんかすごいよ…相手は遠慮ないってのに…)」
モルバッサン(小声)「(元騎士団員だからこそできる考えだ。俺たちも手下として頭には素直に従っている)」
その時、ルシアを襲おうと盗賊たちが、
敵の盗賊⑦「小娘なんか連れてやがって!」
敵の盗賊⑧「盗賊ナメんじゃねぇぞ!」
モルバッサン「チッ!ここは俺が…」
ルシア「大丈夫だよ、モルさん!」
「人間相手ならこのヤシの木ブーメランを投げちゃうんだから!」
「それ!」
ルシアの持つサンフラワーブーメランは人間相手には強力すぎるため、ルシアはヤシの木で作られたブーメランにほんの少しだけ魔力を込め、盗賊たちに投げた。
敵の盗賊⑦「ぐわっ!」
敵の盗賊⑧「うがっ!」
ブーメランに当たった盗賊たちは倒れた。
モルバッサン「俺の援護は必要なかったな、やるじゃねぇか」
ルシア「ヨークさんの仲間になったんだもん!」
「ルシアだって、足を引っ張るつもりはないよ!」
24人の敵盗賊のうち18人が敗れ、まだ戦っていない残りの6人は、
敵の盗賊⑨「ダメだ…こいつら、強すぎる!」
敵の盗賊⑩「おい!急いで撤退するぞ!」
仲間を置いて逃げていく6人。
敵の盗賊①「うっ…あっ…」
ヨークガルフ「おい、自分たちが助かりたきゃ、何をすべきか分かってるよな?」
敵の盗賊②「分かった!金や魔法アイテムとかは置いていく!」
「それで勘弁してくれぇ!!」
言葉通り金や魔法アイテムなどを置いて敗れた15人の盗賊たちは逃げていった。
しかし敗れた盗賊たちのうち、この場に残った3人は、
敵の盗賊⑪「あんたらの強さに恐れ入ったぜ」
敵の盗賊⑫「あんたらと一緒なら、どんな奴らも怖くねぇ」
敵の盗賊⑬「なあ、俺たちを仲間に入れてくれよ」
ヨークガルフ「だったら、俺たちのアジトに来い」
敵の盗賊⑪「おお、ありがてぇ!」
「分かってくれるのか!?」
ヨークガルフ「ただしお前らが持っている武器や道具はこの場で全て預かる」
「そしてアジトの部屋の中で四日間何も食わなかったら仲間にしてやる」
敵の盗賊⑫「お、おい、四日間も絶食かよ!」
モルバッサン「心配するな。飲み水だけは分けてやるよ」
オドン「お前らも盗賊なんだ。突然裏切らないよう警戒されてもしょうがねぇよな」
敵の盗賊⑬「ううっ…」
ルシア「盗賊って簡単に仲間にしてあげないんだね」
ヨークガルフ「仲間になる振りをしてすぐ裏切る奴もかなり多いからな」
「こっちもいろいろ慎重なんだよ」
ルシアやヨークガルフたちは、仲間になりたがっている盗賊たちを連れてアジトに戻った。
そして3人の盗賊たちは空腹に耐え、晴れて仲間入りできたのであった。
ある日、ルシアはラクダに乗って、
ルシア「いやっほー!」
メスのラクダ「ブェェッ!」
モルバッサン「ルシアの奴、随分と楽しそうにラクダを乗り回しているなあ」
ヨークガルフ「そうだな…」
オドン「まあ、微笑ましいものじゃないか」
モルバッサン「まったくだな。俺たちと初めて出会った時よりも生き生きしているよ」
ヨークガルフ「…」
(心の中で)「(ルシア…今は楽しいかもしれねぇが、いつまでもこの生活が続くかどうかは…)」
なんだかんだ言ってもシェルージェが公爵家の孫娘であることから、内心では彼女を心配しているヨークガルフ(ロイズデン)であるが、その予感はやがて的中することになり…
次回へ続く。
※1…王国の名前の由来は、「ナイル川」と、古代エジプトの王朝「プトレマイオス朝」より
※2…「アンカブート」はアラビア語で「蜘蛛」の意味。




