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第38話(後編) シェルージェ memory ④ ~ 船旅、砂漠旅、目指すは盗賊団のアジト ~(後編)

(※38話の後半部分です)

宿屋でご馳走を食べ、寝泊りをした次の日。


ヨークガルフやシェルージェたちは砂漠の見回りをする騎士団の部隊を目にし、見つからないよう岩陰に隠れていた。

シェルージェ(小声)「(この国の兵士さんたちの兜って、金と黒の縞模様なんだね)」

ヨークガルフ(小声)「(男の王たちが身につけるツタムカーメンのマスクをモデルにしてんだよ)」

シェルージェ(小声)「(女の兵士さんたちは金色のサークレットを頭に着けてるよ)」

ヨークガルフ(小声)「(ナプトレーマの騎士団員は、男はファラオナイト、女はイシスナイトと呼ばれている)」


騎士団員のラクダ「ブエー!」

シェルージェ(小声)「(あの動物ってラクダさん!?)」

 「(シェルージェ、本物は初めて見るよ!)」

ヨークガルフ(小声)「(砂漠を移動するのに欠かせない動物だ)」

 「(うちの盗賊団にも6頭いるから、後で乗せてやるよ)」


次の日。


シェルージェ「うわーっ、随分でこぼこした砂漠だなあ」

ヨークガルフ「この辺りはナプトテネレ砂漠(※6)だ」

 「見ての通り砂と砂丘ばかりだから「何もない土地」とも呼ばれている」

モルバッサン「だがこの砂漠の砂丘はナプトレーマの中では形がきれいだといわれてるんだぜ」

オドン「ここは砂地だが、中央の山には水源があってな」

 「水のおかげでアダックスやダマガゼルとか貴重な動物たちが暮らしていける」

ヨークガルフ「俺たちのアジトがあるエネディナープ山塊(※7)に行くにはここを通らなきゃならねぇ」

 「シェルージェ、歩きにくい砂地だが、しっかりついてこいよ」

シェルージェ「う、うん」


ナプトテネレの砂漠を進むシェルージェやヨークガルフたち、途中とある遺跡で休憩しようとしたが、

ムカデやヒヨケムシ型の魔獣たち「ギギッ!」

ヨークガルフ「やれやれ、休憩するつもりで来たんだが、見たくもねぇ顔を見ちまうとはな…」

モルバッサン「まあこいつらの視界に入った以上、やるしかねぇだろう」

シェルージェ「マジ!?遺跡で魔獣たちと戦うの!?」


オドン「シェルージェ、危ないと思うんなら下がっててくれ」

モルバッサン「25匹くらいいるが、俺たちの相手じゃねぇからな」

シェルージェ「余裕なの?でもシェルージェちゃんもこの「サンフラワーブーメラン」で援護しちゃうんだから!」

 「お祖父ちゃんがお金をいっぱい出して作ったこのブーメランはすごいよ!」

ヨークガルフ「お前のブーメランの魔力がすげぇのは認める」

 「だがそれで戦ったとしても油断はするなよ」

モルバッサン「援護してくれるんなら、よろしく頼むぜ、シェルージェ」

シェルージェ「任せてよ!」

オドン「俺もそのブーメランの威力が気になっていた」

 「できるんならその力を拝ませてもらうぜ」


ムカデやヒヨケムシ型の魔獣たち「ギレギュウーッ!」

ヨークガルフ「よし、いくぞお前ら」

シェルージェたち「オーッ!」


大昔の城塞跡であるハンマーベニドの遺跡(※8)。

高さ20m程度の尖塔がそびえたつこの遺跡でヨークガルフやシェルージェたちは戦いを始めた。


ムカデ型魔獣「ギババッ!」

ヨークガルフ「調子に乗ってんじゃねぇぞ…」

ヨークガルフはスカラベのケペシュを振り、無数の球体光弾を飛ばした。

ムカデ型魔獣(断末魔)「ギ…ベ…」

光弾に当たった魔獣たちは倒れた。


ヒヨケムシ型魔獣「ギン!ギーン!」

モルバッサン「サソリの強さを見せてやるよ、ヒヨケムシ」

モルバッサンはイエロースコーピオンのケペシュ(剣)に魔力を込め、剣の先端を伸ばした。

伸びた剣先は次々と魔獣たちを刺した。まるでサソリが針で攻撃するかのような動きで。


オドン「魔獣ども!テメェらはミウルスの餌になってもらうぜ!」

オドンは石板に魔力を込め、巨大なナイルフグのミウルスを具現化した。

オドン「ミウルス!奴らを嚙み砕け!」

ミウルス「ププッ!」

赤い体のミウルスは魔獣たちに勢いよく噛み付き、次々と飲み込んでいった。

オドン「ナイルフグは単独飼育が基本だ」

 「他者を寄せ付けないナイルフグの気性の荒さを思い知れ!」

ミウルス「プーッ!」


ヨークガルフたち三人の戦いを見たシェルージェは彼らの強さに驚き、

シェルージェ「ボールみたいな光弾、伸びる剣、おっきいお魚さん…」

 「三人とも、すげぇ!」


だがシェルージェの周りに5匹のムカデ型魔獣たちが集まり、

モルバッサン「まずい!魔獣たちがシェルージェのほうに集まってるぞ!」

ヨークガルフ「チッ!こうなりゃ俺が!」

シェルージェ「大丈夫だよぉ、心配しないで」

ムカデ型魔獣「ギギ!バーン!」


襲いかかろうとするムカデ型魔獣たちだが、シェルージェは冷静にブーメランを投げた。

シェルージェ「よっと」

シェルージェはあまり魔力を込めず軽く投げただけだが、ムカデ型魔獣たちはあっけなく倒れた。

ムカデ型魔獣(断末魔)「ギ…ベ…」

シェルージェ「余裕、余裕」


サンフラワーブーメランの威力を見て今度はヨークガルフたちが驚き、

モルバッサン「昆虫やムカデ型の魔獣とかは硬い外骨格に覆われていることが多い」

 「通常の個体は、並みの武器じゃ歯が立たねぇくらい表面は硬いってのに…」

オドン「だがあのブーメランはそんな奴らを一瞬でなぎ倒した」

 「その魔力も含め、驚きの武器だな」

シェルージェ「だから言ったじゃん。すごいブーメランだって」


ヨークガルフ「よくお前の祖父じいさんもそんな強力な武器を作ってくれたな」

シェルージェ「護身術の授業のとき、先生にブーメランの扱いが上手だって褒められたことがあるんだ」

 「先生がそれをお祖父ちゃんに話したら、喜んでくれてさあ」

 「シェルージェのために特別なやつを作ってくれたんだよ。ものすごいお金を使って」


モルバッサン「いい祖父さんじゃねぇか、孫娘のためにそこまでするなんて」

シェルージェ「そんなことないよぉ、いつも貴族やマナーのことで口うるさく言うばかりだもん」

ヨークガルフ「まあ俺は祖父さんがそれだけお前に期待していたんだと思うけどな」

 「大公の仕事で忙しい中、お前のことも気にかけていたんだろうから」

シェルージェ「でもあれこれ言われんのはヤダよぉ」

モルバッサン「まあそれが言う側と言われる側の差なんだろうな」


その日の夜、シェルージェやヨークガルフたちはアスルキーア村(※9)の宿に泊まっていた。

食事を済ませ入浴をし、シェルージェはすぐに眠った。

シェルージェ「くぅー…」

気持ちよさそうに眠るシェルージェ。

その横ではヨークガルフたちは、

ヨークガルフ「明日の夕方にはアジトに着くな…」

モルバッサン「アジトに残っている仲間たちがシェルージェを受け入れてくれりゃあいいが…」

オドン「まあ何人減ったとしても、俺は頭についていくよ。これからもな」


次の日の朝、少しの息抜きということで、シェルージェたちは村の名所である墳墓を見学した。

シェルージェ「茶色の泥の山に、突き刺さったたくさんの木の枝」

 「こんな形の王様のお墓、サフクラントにはないよぉ」


ヨークガルフも墳墓を見ながら、

ヨークガルフ(心の中で)「(中世の誇り高き王よ…一人の元兵士として願う…)」

 「(公爵家の娘シェルージェに王のご加護を…)」


その日の夕方、ヨークガルフたちはアジトのあるエネディナープ山塊にたどり着き、

シェルージェ「ごつごつした茶色い岩ばっかじゃん」

 「ここにヨークさんたちのアジトがあるのね」

モルバッサン「盗賊たちはこういう複雑な地形にアジトを作ることが多い」

 「簡単に捕まるわけにはいかないから、見つかりにくい場所を好むんだ」


狭い道を通りながら山塊を進んで行くヨークガルフたち。

彼らはある場所で立ち止まり、

モルバッサン(小声)「(シェルージェ、ここが俺たちのアジトの入り口だ)」


周りに仲間ではない盗賊がいるかもしれないので、小声で話し出した。

シェルージェ(小声)「(えっ?周りは岩しかないじゃん?)」

オドン(小声)「(岩だらけの場所だが、一ヶ所だけ入れる所がある)」

オドンはある岩をどかした。

シェルージェ(小声)「(オドンさん、やるじゃん。重そうな岩を動かしちゃうなんて)」

 「(体に魔力でも込めたの?)」

オドン(小声)「(この岩は作りもんだ。そんなに重くはない)」


偽物の岩をどけると、そこには洞穴ほらあながあった。

ヨークガルフ(小声)「(シェルージェ、ここを通っていくぞ)」

シェルージェ(小声)「(偽の岩でこの穴を隠してたのね)」


洞穴はそんなに長くはなくすぐ外へ出られた。そしてそこには遺跡があった。

シェルージェ「えっ!?こんなとこに遺跡があんだ!?」

ラクダたち「ブェー!!」

シェルージェ「ラクダさんたちの小屋もあるじゃん!」

モルバッサン「ラクダ小屋は俺たちで造ったんだが、遺跡は大昔からあったんだと思うぜ」

オドン「俺たちもこの遺跡がなんなのかよく分からねぇんだよ」

 「まあ今はアジトとして利用させてもらってるがな」

シェルージェ「え、よく分からない遺跡をアジトにしてるの?」

ヨークガルフ「約5000年の歴史がある国だ。その分遺跡も至る所にある」

モルバッサン「ここの遺跡もそうだと思うが、この国には役人や学者たちも把握していない未知の遺跡がまだまだあるだろう」

オドン「俺たちだけじゃなく遺跡をアジトにしている盗賊どもは多い」

モルバッサン「だからこの国は盗賊や野盗が多く集まって治安が悪いとか思われてんだろうな」

ヨークガルフ「俺たちもその盗賊どもだぜ。他の奴らを非難することはできねぇよ」


ここでシェルージェが、

シェルージェ「遺跡をアジトにしているのは分かったけど、他の人たちはどこにいるの?」

ヨークガルフ「この下にいる。ちょっと待ってろ」

そう言ってヨークガルフは砂の中に隠されていた取っ手を掴み持ち上げた。

ヨークガルフ「ほら、蓋を上げると階段が出てきたろ」

モルバッサン「ここが俺たちのアジトの入り口だぜ」

オドン「さあ、シェルージェ、早速入ろうぜ」

シェルージェ「う、うん」


階段を下り遺跡の地下に入ると、そこには扉があった。

ヨークガルフ「シェルージェ、今扉を開けてやるよ」

シェルージェ「えっ?鍵穴が6つもあるじゃん」

モルバッサン「穴の数通り、この扉を開けるには鍵が6つ必要なんだよ」

オドン「だがどこから鍵を挿してもいいわけじゃない」

 「決まった順番通り挿していかないと扉は開かないぜ」

シェルージェ「ひゃー、そこまで厳重なんだ」

ヨークガルフ「他の奴らに簡単に侵入されるようじゃ盗賊のアジトとはいえねぇよ」

オドン「だからこういう扉を俺たちで作ったのさ。元々遺跡にあったわけじゃない」


ヨークガルフは6つの鍵を使いアジトの扉を開けた。

遺跡のアジトの中には9人の盗賊たちがヨークガルフたちの帰りを待っていた。

盗賊②「かしら、よく戻ってきたな!」

盗賊③「遠いサフクラントの公都に行くって話だったからな!」

 「毎日心配していたぜ!」

ヨークガルフ「公都に行ってコブラの彫刻を見つけ、そして破壊した」

 「ゼベルクからの相談事も解決できたよ」

盗賊④「さすがは頭だ!闇市に流れた彫刻が見つかる可能性はかなり低かったっていうのに!」

盗賊⑤「それを見つけて破壊もできたんだ!」

 「さすがの運だぜ!」


盗賊⑥「モルバッサンとオドンも長旅ご苦労だったな!」

モルバッサン「まあ頭とキャプテン・ゼベルクの力になれて良かったよ」


盗賊⑦「ところで頭」

 「一緒について行ったビサロームやダルハリドたち5人はどうしたんだ?」

 「あいつらに何かあったのか?」

盗賊⑧「それに頭の横にいるそのむすめは何者だ?」

 「あんたにロリコンの趣味はねぇと思うが」

ヨークガルフ「ああ、その事なんだが、今まとめて話してやる」


ヨークガルフは公都で公爵家の孫娘シェルージェと出会った事、シェルージェの事でビサロームやダルハリドたちが一味を抜けた事などを話した。

ヨークガルフの話を聞き、アジトで出会った盗賊9人のうち2人が抜けることになった。

その2人にしても公爵家の孫娘と行動することを荷が重く感じたようだ。

次の日の朝、2人の盗賊はアジトを出て行った。


シェルージェ「なんかシェルージェ、責任感じちゃうよ…」

 「シェルージェの事で仲間がどんどんいなくなっちゃって…」

ヨークガルフ「気にすんな」

 「盗賊の集団なんて仲間の入れ替えや裏切りを繰り返すようなもんだ」

 「仲間の数が多けりゃいいわけじゃない」


オドン「まあ、ここに残った俺たち10人とシェルージェで再出発だな」

シェルージェ「えっ!?本当にシェルージェを仲間として認めてくれるの!?」

モルバッサン「でなきゃこんな所までわざわざ連れてくるわけないだろ」

ヨークガルフ「お前のことはかしらである俺が誰よりも責任を取る」

 「言いたいことがあるんなら、遠慮なく話せよ」

盗賊②「よろしくな、シェルージェ」

盗賊③「誰だろうと頭が信じた奴なら、仲間として受け入れてやるよ」

シェルージェ「あ、ありがとう!みんな!」


盗賊④「一国の姫君と呼べるようなむすめを一味に加えちまうんだ!」

 「ゼベルクが言っていた通り、そんな事ができる盗賊は今時まずいねぇ!」

盗賊⑤「だからこそ俺たちはそんなすごい頭についていくんだよ」

ヨークガルフ「俺のことをそう思ってんなら、お前らもシェルージェの面倒をしっかり見てやってくれよな」


盗賊②「それじゃあ、改めてシェルージェにアジトの説明をするか」

モルバッサン「シェルージェ、ここは結構広いからちゃんとついてこいよ」

シェルージェ「うん!」

オドン「ハッハッハッ!ノーブルプリンセスのシェルージェは今日からバンデットプリンセス(※10)だな」


こうして名門公爵家の孫娘であるシェルージェは盗賊の仲間となった。

雅な貴族の暮らしから、殺伐とした盗賊たちの世界へ。

シェルージェは新しい生き方を選んだ。

シェルージェの盗賊生活が始まる。

次回へ続く。


※1…王国の名前の由来は、「ナイル川」と、古代エジプトの王朝「プトレマイオス朝」より

☆※2…島の名前の由来は、ポルトガルの世界遺産「マデイラ島の照葉樹林(or マデイラ諸島のラウリシルヴァ)」(自然遺産 1999年登録)より

※3…「noble princess」、「貴族のお姫様」ということで。

☆※4…港町の名前の由来は、モロッコの世界遺産「エッサウィラ(旧名、モガドール)のメディナ」(文化遺産 2001年登録)より

※5…この辺りの詳細は第26話「ロイズデンとスカラベのケペシュ」(前編・後編)にて書かれている。

☆※6…砂漠の名前の由来は、ニジェールの世界遺産「アイル・テネレ自然保護区」(自然遺産 1991年登録)より

※7…山塊の名前の由来は、チャドの世界遺産「エネディ山塊:自然的・文化的景観」(複合遺産 2016年登録)より

☆※8…遺跡の名前の由来は、アルジェリアの世界遺産「ベニ・ハンマードの城塞」(文化遺産 1980年登録)より

☆※9…村の名前の由来は、マリの世界遺産「アスキアの墓」(文化遺産 2004年登録)より

※10…「bandit princess」、「盗賊のお姫様」ということで。

(☆:物語初登場の世界遺産)

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