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第34話 七夕の日、そして3年ぶりの再会へ…

34話目です。

今回の話の中に出てくる「エルチェの椰子園」は個人的にも好きな世界遺産の一つです。

椰子園という、世界的にも珍しい遺産です。


(※今回の登場人物たちについては、前回「○33話・34話の主な登場人物の紹介」の回をご参照ください)

公都のサンディアルゴ・デコンポーラ地区(※1)を目指し、馬車で移動するクレードたち。

その道中、


鵺洸丸「そういえば本日は7月7日…ワトニカでは七夕の日でございまするな…」

ナハグニ「全国的にはそうかもしれぬが、リュウキュウの七夕といえば8月でござるぞ」

 「お墓の掃除やお参りをする大事な行事でござる」

ススキ(馬車を操作しながら)「エゾでも七夕は8月の行事だわ」

 「家に来てくれた子供たちにお菓子をプレゼントするのよ」

ウェンディ「押忍!キョウノミヤの各地では、7月と8月に七夕祭をやるッス!」

タオツェイ「七夕か、ランフォンにも七姐誕という行事はあるが…」


クレードたちの馬車に来ていたシェルージェが、

シェルージェ「「たなばた」ってなあに?シェルージェ、初めて聞いたよ」

ウェンディ「押忍!織姫様と彦星様が1年に一度会える日だと言われているッス!」

ホヅミ「宇宙のぉ天の川をぉ渡ってぇ、会いに行くなんてぇ、ロマンチックですぅ」

リンカ「ワトニカでは有名な言い伝えなんだべ」

鵺洸丸「その他にも、短冊にご自分の願い事を書いて、笹に吊るすのでございまする…」

シェルージェ「へぇ、ワトニカには面白い行事があるんだね」


アンシー「そういえば、千巌坊って今日が誕生日じゃなかったけ?」

千巌坊(もう一台の馬車を操作しながら)「そうだな…30代も終わり、40代としての私が始まった…」

沖津灘「ハッハッハッ!誕生日が七夕とは、見かけによらず華やかなお生まれたい!」

千巌坊「その日は私が零詣寺れいけいじで見つかった日だ…実際はもう少し早く生まれているだろう…」

 「だが…本当の誕生日など知る由もない…」


シェルージェ「え、何?どういうこと?」

千巌坊「シェルージェ姫…私は寺に捨てられた子供なのですよ…」

シェルージェ「えっ、マジ!?置き去りにされちゃったの!?」

千巌坊「はい…親なのか別の人間かは存じませんが、何者かが赤ん坊だった私を零詣寺に置き去りにしたのです…」

 「ただ親が書いたと思える置手紙も付いておりまして、それには「私たちではこの子を育てることができないので、どうかよろしくお願いします」などと書かれており…」


タオツェイ「その話、初めて聞いたぞ」

沖津灘「オイもたい」

千巌坊「タオツェイや沖津灘、シェルージェ姫にまだ話してなかったからな…」

アンシー「最初に聞いたときは、私も驚いたわよ…」


シェルージェ「ひどい!ひどいすぎるよ!」

リンカ「姫様…」

シェルージェ「千巌坊のお父さんやお母さんは、自分の子供が可愛くなかったの!?」

 「赤ちゃんをお寺に置き去りにするなんて、何でそんなひどいことができるのよ!!」

千巌坊「シェルージェ姫…私を哀れんでいただき、ありがとうございます…」

 「ですが私は自分が不幸だと思ったことなどと一度もありません…」

シェルージェ「何でよ!千巌坊はお父さんたちに見捨てられたのよ!」

千巌坊「おっしゃる通り、本当の親には恵まれなかったかもしれません…」

 「ですが住職の鬼岩和尚は、寺に置き去りにされた私を本当の子供のように可愛がってくれました…」

 「以来40年、住職の愛情を受け、私は今日まで育ってきたのですよ…」


シェルージェ「あっ…」

千巌坊の話を聞いたシェルージェは、

シェルージェ「なんか千巌坊の気持ち分かる気がするよ…」

 「シェルージェも家出したときは、お祖父ちゃんやお母さんよりも血の繋がりのないおかしらや盗賊団のみんなのほうが好きになれたもん…」

アンシー「プリンセス…」


シェルージェ「それに家出したってことは、シェルージェはお祖父ちゃんやお母さんたちを見捨てたってことだよね…」

 「シェルージェ、千巌坊のお父さんたちとおんなじことしちゃったよ…」


オリンス(ベリル号に乗りながら)「シェルージェちゃん!落ち込むなんて君には似合わないよ!」

 「俺がついてるから、笑顔を見せてよ!」

クレード「今のお前を見てても元気になるというより、暑苦しいだけだがな…」


四日後の7月11日。

シェルージェたちはサンディアルゴ・デコンポーラ地区を目指す途中、公都のブエル・レティール地区(※2)を通り、


シェルージェ(馬車の中から外を見て)「うーん、ププラド通り(※2)の並木道はいつ来ても最高だねぇ!」

オリンス(ベリル号に乗りながら)「木々の緑がきれいだね、シェルージェちゃん!」

シェルージェ(馬車から)「シェルージェ、小さい時からこの通りが好きなんだ」


アンシー(馬車から)「遠くに噴水も見えるわ」

 「結構おしゃれな通りね」


サフクラント兵①(近くにいる女性騎兵)「このププラド通りは南の月(南側の大陸)の中で、最初に造られた並木道なんです」

サフクラント兵②(近くにいる女性騎兵)「今ではアイルクリートやベレスピアーヌにもたくさんの並木道がございますが、一番歴史があるはこの通りですよ」


サフクラント兵①(近くにいる女性騎兵)「このププラド通りには並木道や噴水以外にも大きな公園、植物園、美術館などもあり、いずれの場所もシェルージェ様たち、クランペリノ家の方々が管理しているのです」


クレード(馬車から)「つまりこの辺り一帯はシェルージェんのものってわけか」

鵺洸丸(馬車から)「さすがはこの国の姫君とされるお方のおいえ、治めている規模が違いまするな…」

ナハグニ(馬車から)「先日の港町や灯台といい、やはり名門公爵家の地盤はすごいでござるなあ」


次の日12日。

シェルージェたちは、実家の王宮がある公都のサンディアルゴ・デコンポーラ地区へとたどり着いた。

シェルージェの顔を見た市民たちは心配して、


市民①(男性)「シェルージェ様!サンディアルゴにお戻りになられて、何よりでございます!」

市民②(女性)「この地区の者たちはみんな心配していたのですよ!」

市民③(女性)「もう家出なんてしないでくださいね!」

市民④(お婆さん)「何か心配事がございましたら、私たちに遠慮なくおっしゃってください」

 「皆、クランペリノ家やシェルージェ様のお力になりたいのです」

シェルージェ「いろいろ悪いねぇ、みんな」

 「シェルージェ、ひとまず帰ってきたから」


マデレウス「シェルージェ様、伝令隊の報告により、ラプシェイア様たちも国にお帰りになったことはすでにご存じでしょう」

 「急ぎ王宮へ向かいましょう」

シェルージェ「そうだね。ここまで来たんだもん、シェルージェも覚悟を決めてお母さんたちに会わなきゃ」


12日の夕方、クレードやシェルージェたちはシェルージェの実家であるクランフェルジスの王宮へとたどり着いた。

そして入り口の庭園で、


サフクラント兵③(王宮の兵士)「お帰りなさいませ!シェルージェ様!」

サフクラント兵④(王宮の兵士)「伝令隊より話は伺っております!急ぎラプシェイア様たちにお顔をお見せください!」

シェルージェ「見張りの兵士さんたちもご苦労様」

 「3年前、勝手にいなくなっちゃってゴメンねぇ」

サフクラント兵③(王宮の兵士)「私たちのことなど、お気になさらないでください!」

サフクラント兵④(王宮の兵士)「さあ、お母様たちにお会いください!」

シェルージェ「ひぇー、3年ぶりだから、お母さんたちでも緊張しちゃうよぉ!」


一方王宮を見たクレードたちは、


アンシー「本当に大きいわね、屋敷や豪邸ってレベルじゃないわ」

リンカ「ほとんどお城だべ」

ススキ「言葉通り、「王宮」というわけね」

クレード「子爵家のセルタノの実家とは大違いだな」

タオツェイ「伯爵家の俺の実家だってここまで大きくはない」

 「さすがは名門公爵家といったところだな」


マデレウス「紋章に描かれている「農夫の家」を始め、クランフェルジスの王宮内(※3)には、白い陶磁器のタイルで覆われた「陶磁器の間」や、ダールファン王国風に装飾された「ダールファンの間」、庭園内には川も流れており「島の庭園」や「王子の庭園」といった大変趣のある場所もございますし、果樹園もあるのです」

 「さらには「クランフェルジス協奏曲」という、この王宮のために作られた音楽もございます」

ホヅミ「いろいろ凝っているですぅ、この王宮はぁテーマパークみたいですぅ」

マデレウス「ハッハッハッ!本当にそんな感じですよ、月に一度は市民たちにも開放され、中をいろいろ見学できますからね!」


マデレウス「他にも、「エルーチャの椰子園(※4)」という大規模な椰子園もこの近くにございましてね」

 「そちらの椰子園も代々クランペリノ家が管理しているのですよ」

同行している兵士「そのため椰子園で栽培されているナツメヤシと農園にかかる美しい虹はクランペリノ家の象徴として、紋章に描かれているのですよ」


王宮の建物内に入ったシェルージェたち。帰ってきた彼女に王宮内の者たちは喜び、


メイド①「シェルージェ、お帰りさないませ!」

メイド②「お元気そうで本当に良かったです!」

メイド③「毎日、毎日、心配でしたのよ…」

シェルージェ「まあまあ、落ち着いてよ」

 「とりあえずこうして帰ってきたんだからさあ…」


そこにシェルージェの母であるラプシェイア、祖母のマーシャたちもやって来て、

ラプシェイア「お帰りなさい、シェルージェ…」

マーシャ「お外は楽しかった?」

シェルージェ(涙ぐんで)「お母さん…お祖母ちゃん…」


シェルージェは母ラプシェイアに抱きついた。そして、

シェルージェ(号泣しながら)「ごめんなさい!勝手にいなくなっちゃって、ごめんなさい!」

ラプシェイア(泣きながら)「もういいの…もういいのよ…」

シェルージェ(号泣しながら)「うわーん!うわー!」


母との再会の場面を見た、マデレウスやアンシーたちは、


マデレウス(笑顔で)「良かったですな!シェルージェ様もラプシェイア様たちも!」

アンシー(少し泣きながら)「プリンセス、お母さんたちに愛されているのね…」

ウェンディ(泣きながら)「押忍!!母と娘の愛ぃ、感動ッスぅ!!」

リンカ(泣きながら)「涙が止まらねぇだ…」

 「おう、こういう場面さぇだよ…」

ススキ(少し泣きながら)「私もよ…無事に再会できて、本当に良かったと思うわ…」

鵺洸丸「左様でございまするな、ススキ殿」


千巌坊「神様や仏様に感謝いたしましょう…」

 「最愛の親子が再び出会えた今日の日を…」

ホヅミ「シェルージェ姫やぁお母さんたちのぉ「会いたい」という気持ちがぁ、きっとぉお空にぃ届いたんですぅ」

ナハグニ「まあ何はともあれ、あっぱれでござるよ!」

沖津灘「ハッハッハッ!ひとまず一件落着たい!」


オリンス「良かった!本当に良かったよ、シェルージェちゃん!」

 「俺も最高に嬉しいよ!」


一方、過去の記憶を多く失っているクレードは、

クレード(心の中で)「(親子か…)」

 「(もし俺にも親がいるのなら、俺が家に帰ってきたときちゃんと出迎えてくれるだろうか…)」


一方、タオツェイは、

タオツェイ(心の中で)「(聞いた限りでは、プリンセスの父親はすでに亡くなっているらしいな…)」

 「(もしこの場に父親もいたのなら、母親と同じように愛娘を温かく迎えてくれたはずだろう…)」


ラプシェイア(少し泣きながら)「さあ、シェルージェ」

 「お祖父ちゃんにも顔を見せてあげて」

 「お部屋で待っているから…」

シェルージェ(少し泣きながら)「うん…会いに行くよ…」


シェルージェはクレードたちと一旦別れ、母ラプシェイア、祖母マーシャ、オリンスたちと共に祖父であるオルブラングの寝室へと向かった。


シェルージェ「お祖父ちゃん、シェルージェだよぉ、帰ってきたよぉ」

そう言ってシェルージェは寝室の扉を開けた。

そして、


オルブラング「シェ、シェルージェ…」

 「よく帰ってきたな…」

 「ゴホッ!グゴッ!」

オルブラングは急に激しく咳き込んだ。


シェルージェ「お、お祖父ちゃん!?」

 「ど、どうしたのよ!」

部屋にいたオルブラングはベッドに横たわっており、その姿もかなりやつれていた。

シェルージェの祖父、オルブラングに何があったのか?

次回へ続く。


※1…地区の名前の由来は、スペインの世界遺産「サンティアゴ・デ・コンポステーラ(旧市街)」(文化遺産 1985年登録)より

☆※2…地区や通りの名前の由来は、スペインの世界遺産「プラド通りとブエン・レティーロ、芸術と科学の景観」(文化遺産 2021年登録)より

※3…王宮の名前の由来は、スペインの世界遺産「アランフェスの文化的景観」(文化遺産 2001年登録)の「アランフェスの王宮」より

☆※4…椰子園の名前の由来は、スペインの世界遺産「エルチェの椰子園」(文化遺産 2000年登録)より

(☆:物語初登場の世界遺産)

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