第33話 本家と分家、シェルージェとラバロンデ
33話目です。
約2000年の歴史を持ち、現役で稼働する世界最古の灯台「ヘラクレスの塔」は作中で出したい世界遺産の一つでもありました。
(※今回の登場人物たちについては、前回「○33話・34話の主な登場人物の紹介」の回をご参照ください)
ケルビニアン暦2050K年7月6日。
クレードやシェルージェたちを乗せた船は、サフクラント公国本土、公都(※サフクラントの首都)の港町、バレンジェリア地区(※1)へとたどり着いた。
船を下りたシェルージェは港町の市民たちから歓迎され、
市民①(女性)「シェルージ様、お帰りなさいませ!」
市民②(男性)「シェルージェ様がご無事で何よりです!」
シェルージェ「ありがとう、みんな!」
「シェルージェは元気だよぉ!」
市民③(男性)「クランペリノ家の方々を歓迎してこそ、バレンジェリアの市民です!」
市民④(男性)「この港町で豊かな暮らしができるのも、クランペリノ家のおかげなのです!」
市民たちがシェルージェを歓迎する様子を見て仲間たちは、
ウェンディ「押忍!やっぱりこの国の姫様ともいえるお方ッス!」
「この港町の人たちもシェルージェ姫を心から歓迎してるッス!」
千巌坊「人々のお声は本心といったところ…」
「クランペリノ家により、いい生活が送れているのだろう…」
タオツェイ(心の中で)「(豊かな港町か…バンリ本土の介入がなければ、ランフォンは今もそういう所だったんだがな…)」
騎士団長のマデレウスがシェルージェに、
マデレウス「シェルージェ様、ヘラクレンスの塔(※2)にも参りましょう」
「シェルージェ様のお顔を見れば、皆も喜びますぞ」
「それにこの港町地区を治めるラバロンデ様にもごあいさついたしましょう」
シェルージェ「そうだね、ヘラクレンスの塔はシェルージェちゃん家の紋章にも描かれているくらい大事な所だし、親戚のラバロンデさんにも顔を見せなきゃね」
オリンス「だったら早速行こう、シェルージェちゃん!」
シェルージェたちはクランペリノ家が管理する灯台「ヘラクレンスの塔」へ行き、
シェルージェ「大切な灯台を守ってくれて、みんな、ありがとね」
灯台守①(男性)「私たちこそ、主であるクランペリノ家には感謝しておりますよ」
「この灯台を維持するために多大な費用を出していただいているのですから」
灯台守②(男性)「そのおかげで、灯台で働く私たちにも給料としてお金が回っております」
灯台守③(男性)「毎月高いお給料をいただいていますからね、私たちもその分しっかりと働かないと」
灯台守④(男性)「約2000年の歴史があるムーンリアス最古のこの灯台が、今も現役で稼働できているのはクランペリノ家のおかげなのですよ」
灯台守①(男性)「この辺りの海の安全や航海のためにも、ヘラクレンスの塔は必要不可欠でございます」
灯台守②(男性)「現場で働く私たちだけでなく、港町の人々もこの大切な灯台を愛してくれていますからね」
「地元の方々のご愛顧は、私たちにとって喜ばしい限りですよ」
シェルージェ「そう言ってくると、シェルージェも嬉しいよ!」
「クランペリノ家のシンボルの一つなんだし、シェルージェちゃんも、ムーンリアスで一番古いこの灯台が大好きだもん!」
ヘラクレンスの塔を出たシェルージェたちは、彼女の親戚で町を治めるラバロンデ氏のいる屋敷へと行き、
ラバロンデ「シェルージェが家出したなんていうから、私も驚いたよ」
シェルージェ「ごめんね、ラバロンデさん」
「今はシェルージェもさすがに反省しているよぉ…」
ラバロンデ「そう思っているのなら、ラプシェイアさんやオルブラング伯父さんたちに早く顔を見せてあげなさい」
「きっとシェルージェのことを温かく迎えてくれるはずだから」
シェルージェ「そうだね…シェルージェちゃんも強がっていたけど、今はお母さんたちに会いたい気持ちでいっぱいだよぉ…」
話題を変え、
シェルージェ「そういえば、ラバロンデさん」
「この港町の人たちはラバロンデさんやクランペリノ家にとても感謝してたよぉ」
「それは地区長としてうまく仕事してるってことなのぉ?」
ラバロンデ「私の手腕というより、絹の取引がうまくいっているからなんだよ。それにより港町の経済も潤っているんだ」
ラバロンデ「大理石の床がある立派な商品取引所もあってね。そこはたくさんの商人たちでいつも賑わっているよ」
「私も地区長として毎日のように取引所に顔を出していてね」
シェルージェ「商売かぁ…シェルージェちゃん、お金の計算とか全然できないよぉ…」
ここでオリンスが、
オリンス「大丈夫だよ、シェルージェちゃん!」
「そういうことは俺が全部やってあげるから!」
シェルージェ「うーん、オリンスはシェルージェよりもずっとお勉強ができるから、頼りになりそうだけどさぁ…」
オリンスを見てラバロンデがマデレウスに、
ラバロンデ(小声)「(マデレウス騎士団長、あの緑の騎士様はどちら様で?)」
マデレウス(小声)「(自称シェルージェ様の騎士といったところですかな)」
「(自分から親衛隊のお手伝いがしたいおっしゃって)」
ラバロンデ(小声)「(信頼できる方でございますか?)」
マデレウス(小声)「(シェルージェ様のこととなると、どうにも熱くなってしまいますが、シェルージェ様への想いは確かなものかもしれませんよ)」
「(ナプトレーマではシェルージェ様を町にお連れし、一緒に食事をしたりラクダを買ったりと喜ばせてあげたらしいですから)」
マデレウス(小声)「(それもあってか、シェルージェ様も意外とオリンス殿には心を許しているようで)」
ラバロンデ(小声)「(そうですか。なにはともあれシェルージェの面倒を見ていただいたのなら、私からもお礼を言いましょう)」
ラバロンデがオリンスに、
ラバロンデ「オリンスさん、この度は親戚のシェルージェがお世話になりました」
オリンス「気にしないでください!」
「シェルージェちゃんのためなら、俺は何だってやり遂げる覚悟です!」
ラバロンデ「それでしたら、シェルージェのことをこれからもよろしく頼みますよ」
「今のシェルージェには身近にいて頼りになるお方が必要だと思いますから」
オリンス「任せてください!俺は生涯シェルージェちゃんを愛し、誰よりも守り抜くつもりです!」
ラバロンデ「その言葉、シェルージェのお祖父様であるオルブラングさんの前でも言えますか?」
オリンス「もちろん言えますよ!この世界で誰よりもシェルージェちゃんを愛しているのがこの俺なんですから!」
シェルージェ「うーん、オリンスは「頼れる友達」って感じなんだよねぇ」
「恋人や結婚相手とは、ちょっと違うかも…」
オリンス「だったら俺は君のためにもっともっと尽くすよ!絶対に友達以上の関係になってみせるから!」
ラバロンデ(心の中で)「(オリンスさんに対する恋愛感情はともかく、シェルージェが彼を「頼っている」のは確かなようだね)」
次の日、7月7日。
ラバロンデの屋敷で一泊したシェルージェやオリンス、マデレウスたち。
そして出発の際に、
ラバロンデ「シェルージェ、本家の血を引く君は私たちクランペリノ家の希望でもあるんだよ」
シェルージェ「希望かあ…なんかそっちのほうが響きがいいよ」
「お祖父ちゃんは、シェルージェのことを「跡継ぎ」や「跡取り」とかって言うんだもん」
「堅っ苦しい感じがして、そう言われるの好きじゃなかったよ」
ラバロンデ「だったらこれからは「希望」という言葉に置き換えるといいよ」
「クランペリノ家だけでなく、サフクラントにとっても君は希望になるはず…」
「君の親戚の一人としてそう信じているよ…」
シェルージェ「ラバロンデさん…」
ここでオリンスが、
オリンス「ラバロンデさん!だったら俺はシェルージェちゃんにとっての「希望」になってみせます!」
「俺は希望の戦士、クリスターク・グリーンなのですから!」
ラバロンデ「クリスターク・グリーン?それは君のあだ名かい?」
マデレウス「ゴホン!」
マデレウス「シェルージェ様、オリンス殿、そろそろ出発いたしましょう!」
「兵やクレード殿たちも砦で待っておりますので!」
シェルージェ「そうだね。じゃあ行こうか」
別れのあいさつとして、
シェルージェ「じゃあねぇ、ラバロンデさん」
「また会おうね」
ラバロンデ「オルブラング伯父さんやラプシェイアさんたちによろしくね」
屋敷を後にしたシェルージェたちは道中、
マデレウス(小声)「(迂闊ですな、オリンス殿)」
「(クリスタークの戦士やシェルージェ様がサフクラントから旅に出ることなどは、まだ多くの方々に隠しておきたいのですよ)」
オリンス(小声)「(すいませんマデレウスさん、希望という言葉につい反応してしまいまして)」
親衛隊(心の中で)「(この男、本当に反省しているのか…)」
シェルージェ(小声)「(マデレウスさん、ラバロンデさんになら別に言っちゃっても大丈夫だったよ)」
「(イビサーレ島(※3)の人たちと違って、ラバロンデさんはシェルージェの親戚なんだし)」
マデレウス(小声)「(むしろご親戚だからこそ、今は控えたいのですよ)」
マデレウス(小声)「(シェルージェ様は3年ぶりにこのサフクラントに戻られたのです)」
「(お戻りになって、またすぐいなくなってしまっては、ラバロンデ様も含め多くの方々がご心配してしまうことでしょう)」
シェルージェ(小声)「(うーん、確かにそうかもねぇ)」
「(ラバロンデさんもシェルージェにはかなり優しいし、心配かけちゃうよねぇ…)」
マデレウス(小声)「(シェルージェ様の旅立ちについては、お母様であるラプシェイア様のお許しをいただいた後、国の皆様にお伝えすれば良いと思います)」
「(クレード殿たちもシェルージェ様の旅立ちには慎重になっているのですから)」
シェルージェ(小声)「(シェルージェ、お母さんたちが許してくれなくても旅に出るよ)」
「(サフクラントに残ってみんなを安心させてあげてもいいんだけどさあ、やっぱりメタルクロノスのことも気になるしね)」
マデレウス(小声)「(左様でございますか。まあ私も「24の怪魚」のことが気になりますが)」
シェルージェ(小声)「(クリスターク・イエローとしてシェルージェは戦うよ)」
「(シェルージェがメタルクロノスと戦うことは、このサフクラントを守るためでもあると思うから)」
マデレウス(小声)「(ご立派ですぞ、シェルージェ様)」
「(真の覚悟がございますのなら、今のお言葉をラプシェイア様たちにぜひお聞かせください)」
オリンス(小声)「(大丈夫ですよ、マデレウスさん!)」
「(旅先では何があってもシェルージェちゃんをお守りしますから!)」
マデレウス(小声)「(まっ、オリンス殿にも期待させていただきますか、ラバロンデ様と同じく)」
シェルージェやオリンス、マデレウスたちは港町地区の砦でクレードたち仲間と合流し、
シェルージェ「おーい、シェルージェちゃん、戻ったよぉ」
アンシー「親戚の人とあいさつできましたか?」
シェルージェ「うん。ラバロンデさんから、シェルージェはクランペリノ家やサフクラントの希望だって言われたよ」
ウェンディ「押忍!つまり姫様はそれだけ期待されているってことッス!」
リンカ「そのラバロンデさんの言葉、忘れたらダメだべ、シェルージェ姫」
シェルージェ「もちろんだよ。希望って言われて、シェルージェも何か元気が出たもん」
オリンス「シェルージェちゃんには俺もついている!一緒に希望の戦士になろう!」
ホヅミ「オリンスさぁん、誰もぉ聞いてないですよぉ」
クレードたちはマデレウス騎士団長に、
クレード「騎士団長、砦の兵士たちに南の月馬車協定書(※4)を見せたぞ」
ナハグニ「おかげで、拙者らの馬車も馬に戻ったでござる」
馬車の馬たち(4頭)「ヒッ!ヒッー!」
鵺洸丸「この先の南の月(南側の大陸)に砂漠地帯はない…」
「つまりこの馬たちでそれがしたちは自由に旅ができるということでございまするかな?」
マデレウス「そうですな。南の月にいる間は馬たちをどうぞご活用ください」
「ですが、ワトニカやセントロンドス(※5)、北の月(北側の大陸)に行く場合は、港町で馬たちを返していただくのが良いでしょう」
「協定に関係なく、馬の返却は可能ですので」
沖津灘「ハッハッハッ!馬は最後までレンタルかのう!」
マデレウス「お金を出し、その馬たちを買うこともできますよ」
「そうすれば港で返さず、船に乗せ北の月へも連れて行けます」
「ですが、何日もかかる航海に馬を連れて行くのは、あまり良いとは言えません」
「船旅により体調を崩す馬も多いですからね」
クレード「確かに馬にとって航海はきついかもしれないな」
「航海中オリンスもベリル号が疲れないよう、時折グリーンに変身して、ベリル号を強健なエメラルド・ベリル号の姿に変えていたからな」
マデレウス「旅をするなら馬を買うよりも、馬車協定書などを活用するのがよろしいかと」
クレード「前にアンシーが言ってたな、北の月にも馬車協定書があるって」
千巌坊「北の月馬車協定書…念のために手に入れておきたいものだな…」
クレード「北の月にも砂漠地帯はあるらしいからな」
マデレウス「しかしクレード殿たちもタオツェイが加わって12人。そしてシェルージェ様も合わされば13人」
「4頭の馬と車両(箱)が2台の幌馬車だけでは、人数的にも窮屈でしょう」
鵺洸丸「まあ、ルスカンティアから旅立った時は7人でしたが、今はその倍くらいになりましたし…」
ススキ「人や荷物も増えれば、お馬さんたちの負担にもなるわね…」
マデレウス「皆様もそのようにお考えなら、我々公国騎士団から同じ構造の馬車をお一つ差し上げましょう」
シェルージェ「マジ!?シェルージェたちに新しい馬車をくれるの!?」
マデレウス「旅立つかもしれないシェルージェ様をお助けするのは騎士団として当然のことですし、シェルージェ様捜索の件やイビサーレ島を守っていただいたクレード殿たちにもお礼はしたいとこですしね」
クレード「そうか。ならば遠慮なく新しい馬車を頂くとしよう」
アンシー「ありがとうございます、騎士団長!馬車や馬だって決して安くはないのに」
マデレウス「ハッハッハッ!シェルージェ様や皆様のためなら、それくらいお安いものですよ!」
タオツェイ「しかし馬車が増えたとなると、動かす人間も必要になるな」
「ならば俺も御者の一人として馬車を動かそう」
千巌坊「タオツェイ、乗馬の知識や経験はあるのか?」
タオツェイ「俺も貴族の息子だ。乗馬くらい嗜むさ」
シェルージェ「お馬さん動かせるなんて、タオツェイ、すごいね」
「シェルージェも公爵家の娘として乗馬の練習をさせられたけど、全然うまくいかなかったよぉ」
タオツェイ「うまく乗れなければご無理をする必要はありません。落馬といった事故は怖いものですから」
オリンス「シェルージェちゃん!馬に乗りたかったら、俺がベリル号に乗せてあげるから!」
千巌坊「しかしタオツェイが御者をやってくるのは助かる…」
タオツェイ「千巌坊とススキとこの俺、時折交替しながら動かしていこう」
ススキ(心の中で)「(2台の馬車を3人で動かす…)」
「(欲を言えば、あと一人御者をしてくれる人が欲しいわね…)」
マデレウス騎士団長が砦の兵たちに、
マデレウス「砦から伝令隊を送ったか?」
サフクラント兵①(マタドールナイト)「ハッ!」
「今朝方、出発させました!」
サフクラント兵②(マタドールナイト)「騎士団長のご指示通り、ご実家であるクランフェルジスの王宮(※6)とサフクランドス大公様には最優先でお伝えするよう指示しております!」
マデレウス「ならば良い。ご家族であるラプシェイア様や大公様には真っ先にお伝えしなければならないからな」
サフクラント兵③(マタドールナイト)「その他王宮近くに住む貴族の方々にお伝えするよう伝令隊に指示いたしました!」
マデレウス「分かった。シェルージェ様がお戻りになったことはできる限り多くの方々に伝えておきたいからな」
マデレウスも兵士たちへの確認を終え、新たな馬車を手にしたクレードやシェルージェたちは、クランフェルジスの王宮がある公都のサンディアルゴ・デコンポーラ地区(※7)を目指し、港町地区を出発することに。
出発前シェルージェは、馬車に乗せられた愛ラクダのレモン号に、
レモン号「プエーッ!」
シェルージェ「レモン号もお外を歩きたいよね」
「でも公都には坂道や森も多いから、ラクダのレモン号が歩くのは大変かもしれないんだよ」
「王宮に着いたら、広い所に放してあげるから、もう少し辛抱してね」
レモン号「プエ。プエ」
クレード(心の中で)「(レモン号はイエローのアビリティにも大きく関わる奴だ…)」
「(レモン号をこの先連れて行けないのなら、せっかくのアビリティも使えなくなるだろうな…)」
クレードやシェルージェたちは港町地区を後にした。
いざ家族のもとへ。
クレードやシェルージェたちは公都を進む。
次回へ続く。
※1…地区の名前の由来は、スペインの世界遺産「バレンシアのラ・ロンハ・デ・ラ・セダ」(文化遺産 1996年登録)より
※2…塔の名前の由来は、スペインの世界遺産「ヘラクレスの塔」(文化遺産 2009年登録)より
※3…島の名前の由来は、スペインの世界遺産「イビサ島の生物多様性と文化」(複合遺産 1999年登録)より
※4…この協定書を持っていれば、南の月(南側の大陸)で砂漠地帯を移動する際、馬車の馬を無料で駱駝に変えてくれる。逆に砂漠地帯から草原や平地に行く場合は、馬車の駱駝を馬に変えてくれる。
※5……北の月(北側の大陸)にある「セントロンドス王国」のこと。
王国の名前の由来は、イギリスの世界遺産「セント・キルダ」(複合遺産 1986年登録 2004年・2005年拡張)等の「セント」と、イギリスの世界遺産「ロンドン塔」(文化遺産 1988年登録)より
※6…王宮の名前の由来は、スペインの世界遺産「アランフェスの文化的景観」(文化遺産 2001年登録)の「アランフェスの王宮」より
☆※7…地区の名前の由来は、スペインの世界遺産「サンティアゴ・デ・コンポステーラ(旧市街)」(文化遺産 1985年登録)より
(☆:物語初登場の世界遺産)




