第31話 小笠原忍者、鵺洸丸の報告
31話目です。
イビサーレ島(※1)を出発したクレードたちは船の中でオガサワラ藩出身の忍者、鵺洸丸から話を聞くことになり…。
(※今回の登場人物たちについては、前回「○31話・32話の主な登場人物の紹介」の回をご参照ください)
ケルビニアン暦2050K年7月4日の昼。
サフクラント公国領イビサーレ島の怪魚型魔獣たちを退治したクレードやシェルージェ、サフクラント公国騎士団団長マデレウスたちを乗せた船は、魔法大陸ムーンリアスにあるサフクラント公国本土を目指し海原を進んでいた。
航海中、鵺洸丸が皆に話があるといい、船の大部屋にクレードやシェルージェ、マデレウスやタオツェイたちが集まり、そして、
鵺洸丸「話は他でもない、それがしが妙な大型魔獣を見かけたということだ」
「皆が集まったとき改めて話すことにいたした…」
ススキ「鵺洸丸さん…」
シェルージェ「それでどんな魔獣なのよ?話してみてよ」
鵺洸丸「ハッ!」
鵺洸丸「それがしはイビサーレ島のビスカーヤン橋(※2)で遠くにいた妙な影を見かけたため、橋から川に飛び込み、その川の中の影を追うことにいたした」
「水竹筒を使い川を泳ぎましたが、そこで妙な魔獣を見かけたのです」
鵺洸丸「その妙な魔獣の姿はイビサーレ島に現れた怪魚によく似ておった。体の色も同じ薄紫」
「大きさはザトウクジラ(13m程度)ほど。巨大な怪魚であった…」
リンカ「島の怪魚と似てたってことは、親玉だった個体だべか?」
ウェンディ「押忍!だったらその巨大な怪魚が子供を産んで増やしてたんッスか?」
ホヅミ「でもぉそれだけならぁ、単にぃ繫殖力がある大きな物の怪ってだけですぅ」
「具体的にはぁどこがぁ妙だったんですかぁ?」
鵺洸丸「それがしは遠くから見えたのですが、その妙な魔獣はそれがしに気づいたのか、そのまま海のほうへ「去って」いきました」
シェルージェ「何それ?どこが妙なのよぉ?」
マデレウス「シェルージェ様、お言葉ですが、十分すぎるほど妙な魔獣ですぞ」
シェルージェ「何がよぉ?」
マデレウス「去った…このような行動を取る魔獣を見かけるのはかなり稀なことです」
シェルージェ「逃げることがすごく珍しいってことなのぉ?」
マデレウス「その通りでございます」
「魔獣はどんなに体が傷ついても人間を目にすれば死ぬまで襲いかかってくるものです」
ウェンディ「押忍!物の怪との戦いに逃げはねぇッス!」
「やるかやられるかッス!」
タオツェイ「そうだな。俺も30年生きたが、逃げた魔獣なんて一度も見たことがない」
クレード「確かにヴェルトン博士も言っていたな」
「命ある限り魔獣たちは人を襲おうとすると」
鵺洸丸「怪魚の目にはそれがしの姿が映ったはず…」
「普通の怪魚ならば、その時点でそれがしを攻撃するものだが…」
千巌坊「ならば鵺洸丸に気づき、逃げていったということか…」
リンカ「自分の頭で考えて行動したのなら、たげ(※3)知的な物の怪だべ…」
鵺洸丸「だが妙な点は行動だけではなかった」
「その怪魚の額には「24」の数字が刻まれていた…」
ススキ「に、24って!?」
アンシー「何よそれ!数字が書かれた魔獣なんて明らかにおかしいわ!」
鵺洸丸「自然の中で生まれた野生の魔獣とは到底思えん…」
「ならば考えられることは…」
クレード「メタルクロノス!?」
「奴らが表で動き出しているっていうのか!?」
鵺洸丸「魔獣を改造できる者たちがいるとすれば、やはり…」
クレード「奴らが公の場に現れて宣戦布告をしたとは思えない…」
「だが改造した魔獣どもをすでに野に放っているのか…」
鵺洸丸「いずれにせよ「奇妙な怪魚がいたから、十分に警戒してほしい」などと、それがしはナプトレーマのネフェルーグ騎士団長にお伝えした…」
ここでタオツェイや他の兵士たちが、
タオツェイ「ちょっと待て、その「メタルクロノス」っていうのは何だ?」
「俺はその名を初めて聞いたぞ」
サフクラント兵①(マタドールナイト)「我々も聞いたことがありません!一体何なのですか!」
マデレウス「私はシェルージェ様やオリンス殿より話を聞いておりますぞ!」
シェルージェ「だって騎士団長のマデレウスさんには話さないわけにはいかないじゃん」
「シェルージェがクリスターク・イエローになったこととも関係するんだし」
サフクラント兵②(マタドールナイト)「シェルージェ様のあのお力とも関係が!?」
サフクラント兵③(マタドールナイト)「騎士団長!メタルクロノスとは一体!?」
マデレウス「その話はクレード殿よりお話し願いたい!」
「シェルージェ様やオリンス殿たちにメタルクロノスのことを伝えたのは彼なのだからな!」
クレード「分かっている。メタルクロノスのことなら俺の口から言うべきだ」
オリンス「頼むよ!クレード!」
クレードはタオツェイやサフクラントの兵士たちに魔法武装組織メタルクロノスのことを話した。
サフクラント兵①(マタドールナイト)「魔獣を改造し、自分たちの戦力にするだと…」
タオツェイ「そして世界を相手に宣戦布告する気か、物騒すぎる連中だな…」
クレード「そのメタルクロノスと戦い、奴らを壊滅させるのが俺たちクリスタークの戦士の目的だ」
「グラン・ジェムストーン(※4)を開発したヴェルトン博士の想いを無駄にはしない」
サフクラント兵④(マタドールナイト)「そうなるとメタルクロノスとの戦いで要になるのはクレード殿たちだというわけですね」
クレード「それが博士の望みなんだ。俺は博士のためにもやるべきことをやる」
アンシー(騎士団員たちに向けて)「クリスタークの戦士に変身できるのは、今のところ、私、クレード、オリンス、そしてシェルージェ様なのです」
シェルージェ「だからシェルージェもオリンスやクレードたちと一緒に行動することにしたんだ。魔法武装組織のメタルクロノスをやっつけるために」
「まあ旅に出るんなら、お時間もかかちゃうだろうけどね」
サフクラント兵②(マタドールナイト)「シェルージェ様が戦いをするため旅に!?」
マデレウス「シェルージェ様、お気持ちはよく分かりますが、まずはご実家に戻りオルブラング様たちとお話しいたしましょう!」
「旅立ちになるのはその後でも」
シェルージェ「分かってるよぉ、お母さんやお祖父ちゃんたちにはちゃんと会うから大丈夫だよぉ」
オリンス「シェルージェちゃん!俺もお義母様たちとしっかりお話しするから、心配しないで!」
ホヅミ(心の中で)「(うーん、今のオリンスさんじゃぁ、全然説得力がないですぅ)」
ここでナハグニが話題を変え、
ナハグニ「しかし、その24とはどういう意味でござろうか?」
沖津灘「さしずめ改造魔獣たちの番付かのぉ?」
千巌坊「それに近いものだとすれば、1や2など若い数字の魔獣ほど強いということなのかもしれんな…」
ススキ「そんな…知的なアンモ(※5)が24匹いたとしても十分な脅威なのに…」
リンカ「強さにも差があったら、余計おっかねぇだよ…」
クレード「とにかく俺たちは今以上に強くならなければならないと思っている」
「もっと強くなって、そしてあと11人のクリスタークの戦士を揃え、メタルクロノスを叩き潰してやる」
アンシー「クレード…」
シェルージェ「シェルージェちゃんだって負けないよ!」
「クリスターク・イエローにはまだすごい力が眠っていると思うもん!」
オリンス「シェルージェちゃんには俺がついているよ!」
「二人の愛の力でメタルクロノスをやっつけよう!」
クレードたちの様子を見ていたタオツェイが、
タオツェイ「クレード、もっと強くなりたいというお前の気持ちはよく分かった」
「ならば俺も力を貸そうじゃないか」
「紅王蘭流で戦う拳法家としてな」
クレード「タオツェイ、お前…」
タオツェイ「俺をお前たちの仲間にしてくれ」
「お前たちの言うクリスタークの戦士に俺がなれるかは分からんが、共に戦いたい」
クレード「奇遇だな」
「俺もお前を仲間にしようと思っていたよ」
タオツェイ「なら話は早いか」
クレード「よろしく頼む」
タオツェイ「俺のほうこそな」
タオツェイが仲間に加わった。
しかし兵士たちが、
サフクラント兵⑤(マタドールナイト)「タオツェイ、準団員とはいえ、お前も今は我が公国騎士団の一員なのだぞ」
「まだ契約期間内だというのに退職する気か?」
サフクラント兵⑥(マタドールナイト)「数日程度の短期間でも働ける臨時団員ならまだしも、準団員なら最低でも半年は勤務してもらわねば」
サフクラント兵⑤(マタドールナイト)「お前の契約期間はまだ4ヶ月半程度あるはずだぞ」
タオツェイ「すまないな。サフクラントで騎士団員をやっていくよりも、クレードたちと行動したほうが強くなれると思ったんでな」
マデレウス「ハッハッハッ!そう思うのなら、それでいいさ!」
「私は君の心の中まで知っているわけじゃないからな!」
サフクラント兵⑥(マタドールナイト)「騎士団長!?」
タオツェイ「騎士団長、無理を言ってすまない」
マデレウス「メタルクロノスとの戦いの中で要になるであろうクレード殿たちと行動することは十分に意味があるはずだ」
「タオツェイ、君の拳法をクレード殿たちのために役立てるといい」
タオツェイ「任せてくれ、騎士団長」
マデレウス「ではこの話し合いの後、退職のための書類を書いてくれ」
続いてマデレウスが鵺洸丸に、
マデレウス「鵺洸丸殿、お話しすることはまだございますかな?」
鵺洸丸「妙な魔獣の特徴に関しては以上でございまする」
「だがそれがしが奴を逃がしてしまった以上、奴はまたどこかに現れるかと…」
マデレウス「ハッハッハッ!だが行動が読めるものではないな!」
鵺洸丸「左様でございまする。次はどこの川や海に現れるのか分かりかねますし、イビサーレ島に現れた怪魚型のように陸を歩けるかもしれぬと思うと、どうにも予測できませぬ…」
アンシー「それなら私たちは今までよりも警戒していくしかないわね…」
クレード「俺はそれでもいいと思う」
「考えても分からないのなら、できることからやるだけだ」
マデレウス「しかし今はシェルージェ様をご実家にお連れすることを優先いたしましょう!」
「我々騎士団は今シェルージェ様の護衛の任務を受けており、クレード殿たちもその協力者であるのですから」
クレード「そうだな。24の数字を持つ怪魚に警戒しながら先へ進むか」
マデレウス「シェルージェ様もよろしいですね?」
シェルージェ「大丈夫だよ。シェルージェ、ちゃんと騎士団のみんなについていくから」
オリンス「シェルージェちゃん!メタルクロノスのお化け魚なんて俺が軽く捻り潰してみせるよ!」
謎の「24の怪魚」。その背後にはやはり魔法武装組織メタルクロノスが…。
次回へ続く。
※1…島の名前の由来は、スペインの世界遺産「イビサ島の生物多様性と文化」(複合遺産 1999年登録)
※2…橋の名前の由来は、スペインの世界遺産「ビスカヤ橋」(文化遺産 2006年登録)より
※3…元ネタは津軽弁。『たげ』は「かなり」などの意味。
※4…「グラン・ジェムストーン」とはヴェルトン博士が魔法や魔力を使い開発した特別な魔法の石で、この石に選ばれた人物はブルーやグリーンのようにクリスタークの戦士に変身できるようになる。
変身能力を得ると「グラン・ジェムストーン」は色や形を変えるので、クレード(ブルー)は「グラン・サファイア」、オリンス(グリーン)は「グラン・エメラルド」などとそれぞれ名付けた。
※5…元ネタはアイヌ語。『アンモ』は「鬼・妖怪・化け物」などの意味。エゾ藩の人間は魔獣を物の怪やアンモとも呼ぶ。




