第29話 チャドラン王子の決意、ヴェルトン博士が見た夢
29話目です。今回は主人公クレードたちの話ではなく、ルスカンティア王国のチャドラン王子やワトニカ将国サツマダイ藩大名の娘ルリコたちの話となります。
この話の中で「奴隷」という言葉が出てきますが、それはある世界遺産(負の世界遺産)と関係しているからです。
「世界遺産は綺麗事だけじゃない」、僕はそう思いながらこの作品を書いています。
<主な登場人物の紹介>
○チャドラン・ルスディーノ(男・23歳)
・国王29世と王妃パリンサの息子で、ルスカンティア王国の王子。
サツマダイ藩の大名家の娘、ルリコとは相思相愛の仲。
クレードの恩人であるヴェルトン博士を保護するため、ルスモーン島(※1)へ向かった。
剣や弓で戦うことができ、魔力も高いほう。
○ルリコ・奄美大野(女・22歳)
・ワトニカ将国サツマダイ藩出身の女侍で、大名家の娘(長女)。瑠璃姫とも呼ばれる。
社会人留学によりルスカンティアにやって来た。
大草原セレンゲティア(※2)での戦いなどを通じ、チャドラン王子の愛を受け止めた。
チャドランたちと共にルスモーン島へ向かった。
武器は火縄銃と短筒。
日本の世界遺産「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」(自然遺産 2021年登録)からイメージしたキャラ。鹿児島県出身のイメージ。
○ラドランク・カドルック(男・54歳)
・ルスカンティア王国騎士団副騎士団長(三人いる副騎士団長の一人)で、王国西部の兵士たちを束ねている。
チャドランたちと共にルスモーン島へ向かうこととなり、遠征部隊の指揮を任された。
騎士団長ラグラードの弟。
○セルタノ・リクゼストン(男・33歳)
・ルスカンティア王国騎士団所属の親衛隊員。
馬に跨り弓騎兵として戦うことが多いが、今回は船に乗っているため、馬に乗らない「アーチャー(弓兵)」として王子たちを護衛した。
○ヴェルトン・リオロッグ(男・150歳)
・ルスモーン島に滞在する賢者の博士。
とある理由により深い眠りに就いてしまった。
○ルスディーノ29世(男・53→ 54歳)
・ルスカンティア王国の現国王で、国の代表者。第57代国家元主。
国王らしく態度も堂々としている。
誕生日は6月10日で、54歳となった。
○パリンサ・ルスディーノ(女・51歳)
・国王29世の妻でルスカンティア王国の王妃。
息子であるチャドラン王子を何かと心配しているが、ルリコとの仲は認めている。
○リガーデン・クルーヌ(男・74歳)
・ルスカンティア王国の大臣で、政治や軍事などの面で国王たちを支えている。
○ラグラード・カドルック(男・57歳)
・ルスカンティア王国騎士団団長であり、副騎士団長ラドランクの兄。
☆○ブレデリット・マルドバリド(男・50歳)
・ルスカンティア王国騎士団親衛隊隊長。立場的には副騎士団長と同等。
誕生日は10月8日。
(☆:新キャラ)
◎クレード・ロインスタイト(男・?歳)
・本作の主人公。ルスモーン島へ流れ着き、ヴェルトン博士の世話になった。
今回は特殊な形で登場。
魔法の宝石グラン・サファイアにより、クリスターク・ブルーに変身できる。
◎オリンス・バルブランタ(男・29歳)
・クレードの仲間である元ルスカンティア王国の騎士団員。
本来はセルタノの後輩だが、彼にとっては親友である。
魔法の宝石グラン・エメラルドにより、クリスターク・グリーンに変身できる。
クレード同様、今回は特殊な形で登場。
ケルビニアン暦2050K年6月29日の昼。ルスカンティア王国にて。
国王たちの居城であるジルスゴール城(※3)の兵士用休憩室で親衛隊員のセルタノが他の隊員たちと話をしていた。
親衛隊①「王子と瑠璃姫は相変わらず博士の様子を見に行ってるのか?」
セルタノ「ああ、毎日のように顔を出しているよ」
親衛隊②「日々回復魔法をかけてはいるものの中々博士も回復しないな」
親衛隊③「それもあって王子や瑠璃姫も心配しているのだろう」
セルタノ「まあ、博士がどこかで目を覚ましてくれるのを期待するしかねぇだろ」
親衛隊④「しかし目を覚ましたら、その後はどうするつもりなんだろうな?」
親衛隊⑤「そうだよな、博士は我がルスカンティアの国民じゃなくてアイルクリートの国民だからな」
親衛隊①「アイルクリートに博士の親族がいて、身内として博士を引き取りたいと言ってくるかもしれないから、その件とかに関して王は先日アイルクリートの首相宛てに手紙を書いて送ったんだがな」
親衛隊②「博士の親族の調査に、手紙のやり取り、これは時間がかかりそうだな」
セルタノ「まあ、それでもいいんじゃねぇのか」
「その分博士もゆっくりできるだろうからな…」
その頃城内の寝室では、大きなベッドの上でヴェルトン博士が深い眠りに就いていた。
ヴェルトン「…」
眠っている博士のそばにいるチャドラン王子とルリコは、
チャドラン「ヴェルトン博士…」
ルリコ「今日も安らかな顔をして眠ってらっしゃいますね、博士は」
チャドラン「そうですね、ルリコさん…」
ルリコ「お城にある立派なベッドの上ですからね、きっとロッジのベッドもよりも気持ちよく眠れますよ…」
チャドラン王子とルリコは、ヴェルトン博士を保護するため、ルスモーン島に向かった時のことを思い出していた。
(ここから回想シーン)
ルスモーン島に向かうため、王都のモンバルザースの港町地区(※4)から船に乗り込んだチャドラン王子、ルリコ、セルタノ、ラドランク副騎士団長(遠征部隊の隊長)たち。
港町からルスモーン島へまっすぐ向かうはずであったが、王子の希望でとある小島に立ち寄った。
ここはルスカンティア王国領、ゴレドルス島(※5)。
上陸したチャドラン王子たちは花屋で多くの花束を買い、
おばさん(店主)「さ、35万カラン!?」
「王子様!これ程の大金は頂けません!」
チャドラン「お気になさらないでください」
「余がこの島でできることなど、これくらいしかございませんので」
ルリコ「王子、こんなにたくさんの花束を買って一体何に!?」
チャドラン「これから向かう場所に手向けるのですよ」
島の海岸沿いを進むと、ある建物が見えた。
ルリコ「赤い壁の建物?昔からあるお屋敷なのですか?」
チャドラン「そのような華やか場所でございません」
「ここは「奴隷の家」と呼ばれる建物でございます」
ルリコ「ど、奴隷の家!?」
ここで同行しているラドランク副騎士団長が奴隷の家について話し始めた。
ラドランク「2階は奴隷商人たちの住居」
「1階には奴隷たちが収容されていました」
「しかし奴隷たちが置かれた環境は大変酷く、薄暗くて狭い部屋に多人数が詰め込まれ、さらに20人程度を鎖で繋ぎ拘束していたのです」
「家の中で伝染病が広まっても彼らは治療もされず、その遺体は供養もされず海へと投げ捨てられました」
「商人たちにとって奴隷たちは人ではなく商品に過ぎなかったのですよ」
ルリコ「ひ、酷すぎます…」
「なぜそのような非道な行いを…」
ラドランク「大航海や大開拓の時代に労働力が必要だったのですよ」
「彼らは望まない形で新大陸へと連れて行かれ、そこで重労働をさせられました」
ルリコ「新大陸を開拓するための労働力に奴隷の方々がいたことは知ってはいましたが、このような施設があったなんて…」
ラドランク「1階の扉は「帰らざる扉」とも呼ばれております」
「この家に入ったら強制的に新大陸へと連れて行かれるので、「二度と故郷に戻ることができない」ことを意味する扉ということで」
ルリコ「新たな土地を開拓することは大事だと思います。ですがここまでの扱いを…」
ここで同行している親衛隊員のセルタノも、
セルタノ「瑠璃姫、昔は今よりもずっと魔力が物を言う世の中だったんですよ」
「魔力が強い人間が有利な立場に立ち、そうでない者たちは下等な存在と見なされ、奴隷にされる…」
「ムーンリアスの歴史はこんなことを何千年と繰り返してきたのですよ」
ラドランク「特に我がルスカンティア方面は酷いものでしたな」
「今までこそこの国の民たちは皆共通語を喋れておりますが、大昔は独自の言語で喋っていましたからね」
「言葉が通じないというのもあり、ルスカンティアの民たちは奴隷にしやすかったのでしょう」
セルタノ「何を訴えても言葉が通じないんじゃ、異国の人間たちの心には刺さりにくいでしょうからね」
ラドランク「「止めてくれ!」などと一言通じれば、また違ったのかもしれませんが」
ルリコ「言葉が通じなくても涙は流せたはずです…」
「奴隷たちの涙は誰の目にも留まらなかったのでしょうか…」
チャドラン「ルリコさん、今となってはこの奴隷の家は負の遺産でしかありません」
「ですがあえて取り壊さずに残しているのは未来への教訓のためです」
「「奴隷が認められる社会なんて二度とあってはならない」、それを今に伝えるための場所なんです、ここは」
ルリコ「王子…」
チャドラン「それに見てくださいよ」
「家の周りにはたくさんの花束が手向けられているではありませんか」
「奴隷となってしまった方々のご冥福を今でも多くの人たちが祈っているのですよ」
「ルリコさん、僕たちも花束を手向け、祈りを捧げましょう」
ルリコ「そうですね、王子…」
「それが今を生きる私たちにできることなんですからね」
チャドランやルリコたちは島の花屋で購入した大量の花束を奴隷の家の前に手向けた。
ゴレドルス島に穏やかな海風が吹く。
ゴレドルス島を出港して10日後、チャドランやルリコたちはパルクレッタ諸島(※6)、アープラヴァルス島(※7)にやって来た。
ルスカンティア王国領であるこの島は現在無人島であるが、かつては人々が住んでおり、病院や製糖所などの跡地、サトウキビ畑が今も残っている。
しかし兵士もいない無人島であることから、住み着いた魔獣たちが退治されず島で繁殖していた。
チャドラン・ルリコ・ラドランク・セルタノ・親衛隊や兵士たちは、なんとか魔獣たちを駆除した。そして集落の跡地を見て、
セルタノ「管理する兵士がいなければ島も魔獣の住処になってしまうだけですよ」
ラドランク「この島はパルクレッタ諸島の中では人が住んでいたほうなんだがな」
「ルスカンティア本土での戦いの激化により、島々に兵士を派遣しづらくなったことから、20年頃前には島民たちも島を離れてしまったよ」
「兵士たちが来なければ島の安全も保障できないからな」
チャドラン「ですが近いうちに兵士や職人さんたちを送り、島を再び開拓するのですね?」
ラドランク「左様でございます」
「自国の領土である以上蔑ろにはできないと、国王様たちも今回決意したようですからね」
ルリコ「王子、自国の島々を物の怪たちの巣にさせてはなりません」
「そのためにも人々の手で管理していく必要があるのですよ」
チャドラン「ルリコさん、実際に島を見るとこで、余もその意味がよく分かりましたよ」
ラドランク「このアープラヴァルス島は、周辺のヴァレルス島(※8)やルスアルダブラ環礁(※9)へ出向くための拠点となる場所です」
「まずはこの島の再開発が第一です」
親衛隊⑥「ヴァレルス島にはフタゴヤシ、ルスアルダブラ環礁にはアルダブラゾウガメなど、貴重な動植物もおります」
「どうか王子もお忘れなく」
チャドラン「そうですね、人の命だけではなく、自然や動物たちも守らなければいけないのですからね」
ラドランク「左様ですな」
「ドードーの二の舞は避けたいとこです…」
アープラヴァルス島を出港して5日後、チャドランやルリコたちは眠っているヴェルトン博士がいるルスモーン島へとたどり着いた。
しかし、アープラヴァルス島同様、島は魔獣たちで溢れていた。
牙犬型魔獣たち(鳴き声)「ウガーッ!!」
セルタノ「やっぱりこの島も魔獣だらけですか」
「俺も弓の手入れをしていた甲斐があるというものです」
爪犬型魔獣たち「ガッ!ガッ!ギーッ!」
ラドランク「とにかく迎え撃つぞ」
「我々の邪魔はさせん」
チャドラン「ルリコさん、僕も剣で戦うつもりです!」
ルリコ「分かりました。共に参りましょう!」
チャドラン「はい!」
親衛隊⑥「王子と瑠璃姫をお守りつつ戦うのだ!」
「行くぞ!」
親衛隊と兵士たち「オーッ!」
ルスモーン島の浜辺で戦いが始まった。
牙犬型魔獣たち「ウガッ!ウギッ!」
セルタノ「手間暇かけて、ようやくこの島に来たんだ」
「負けるつもりはねぇぞ」
セルタノは次々と矢を放ち、魔獣たちを仕留めた。
牙犬型魔獣たち(断末魔)「ガッ…ブ…」
セルタノの戦いを見た親衛隊は、
親衛隊⑦「わずかだが、矢に魔力のオーラを感じたぞ」
「お前も親衛隊員になって魔力が上がったんじゃないのか?」
セルタノ「はっ、戦いで向上する魔力なんて好きになれねぇがな…」
爪犬型魔獣たち「ガッ!デデン!」
ラドランク(副騎士団長)「ここは私も前に出よう」
ルスカンティア兵①(騎士)「副騎士団長、よろしいのですか?」
ラドランク「たまには剣の腕も見せなければなるまい」
爪犬型魔獣たち「ガン!ガッ!」
ラドランク「この「インカニヤンバの剣」でお相手しよう」
「野生動物でも魔獣でもないUMA(未確認生物)の力、とくと味わうがいい」
ラドランク「フンッ!」
ラドランクは剣を振り次々と魔獣たちを切り裂いた。
爪犬型魔獣たち(断末魔)「ガッ…ブベ…」
ルスカンティア兵①(騎士)「感服いたしました!」
「さすがは我らの副騎士団長です!」
ラドランク「魔獣どもはまだ残っている、油断するな」
ルスカンティア兵②(騎士)「ハッ!」
蛸犬型魔獣たち「ニュッ、ニュッ」
ルリコ「犬のような頭で、体は蛸ですか」
蛸犬型魔獣たち「ニュッ、ガガッ!」
ルリコ「いかなる姿であろうと私は怯みません」
「撃たせていただきます」
ルリコは短筒から弾を連射し、魔獣たちを仕留めた。
蛸犬型魔獣たち「ニュガッ!」
ルリコ「どこにいようと無駄です」
ルリコは火縄銃を使い、離れた所にいる魔獣たちを仕留めた。
ルリコの戦う姿を見たチャドラン王子は、
チャドラン「さすがです、ルリコさん」
「余も負けてはいられません」
棘犬型魔獣たち「ギギビビ!」
親衛隊⑥「王子!魔獣たちがこちらに向かってきます!」
親衛隊⑦「今前に出るのは危険かもしれません!すぐに退いてください!」
チャドラン「大丈夫です、ルリコさんを愛する男はそんなにヤワではありません」
「父上から譲り受けた「シャンゴのロングソード」で戦い抜いてみせます」
棘犬型魔獣たち「ギーギーギー!」
チャドラン「余に魔力を…雷と風の力を…」
チャンドランはロングソードに魔力を込め、魔獣たちに向かって行った。
チャドラン「ハァァッ!」
小さな竜巻を纏った剣が魔獣たちを切り裂き、そして雷のようなオーラで魔獣たちの体は焼き尽くされた。
棘犬型魔獣たち(断末魔)「ギ…ベベ…」
チャドラン「ハァ、ハァ…」
親衛隊⑥「お見事です!チャドラン王子!」
親衛隊⑦「先のアープラヴァルス島での戦いといい、大変ご立派でございます」
チャドラン「あ、ありがとうございます…」
「ですが、余はもっと強くならねばなりません…」
「余の腕でルリコさんを守っていきたいのですから…」
ルリコ「ハァァッ!」
バン!バン!バン!(銃声)
短筒による連続射撃が魔獣たちの体を貫く。
ルリコの戦う姿を見てチャドラン王子は、
チャドラン「さすがです、ルリコさん…」
「余も追いついてみせますから…」
チャドランやルリコたちにより、浜辺の魔獣たちは駆除された。
そして島のロッジへと進むと、中ではヴェルトン博士が眠っていた。
ヴェルトン「…」
チャドラン「この方がクレードさんの言っていたヴェルトン博士なのですね…」
セルタノ「間違いないでしょう。クレードやオリンスたちに力を与えてくれたのがこの博士ですよ」
ヴェルトン「…」
ルリコ「3月末からずっとここで眠っているのですね…」
ルスカンティア兵③(騎士)「心臓の音が聞こえます」
「博士は生きているはずです」
ルリコ「ご無事でしたのね、良かった…」
ラドランク「とにかく博士をお連れするぞ」
「眠っている博士の体を持ち上げるんだ」
ルスカンティア兵④(騎士)「ハッ!」
ラドランク「クレードから聞いた話だと、金属化により博士の体はかなり重たいようだ」
「何人がかりでもいいから、うまく持ち上げてくれ」
ルスカンティア兵⑤(騎士)「承知いたしました。慎重にお運びいたします」
チャドラン「余もお手伝いします」
セルタノ「博士にはクレードやオリンスへの恩がありますからね、俺もご丁寧に対応いたしますよ」
眠っているヴェルトン博士をロッジから連れ出し、チャドランたちは島を後にした。
そして3週間ほどが経ち、チャドラン王子たちはヴェルトン博士を連れ、無事城へと戻った。そして王子はラドランク副騎士団長から、
ラドランク「ヴェルトン博士の一件、本当にお疲れ様でございました」
チャドラン「ラドランク副騎士団長、町にお戻りになるのですね…」
ラドランク「私の職場はあくまでザンジバルスの町(※10)の砦でございますから」
チャドラン「副騎士団長、次お会いする時までには余はもっと成長してみせます」
「王子としても、一人の戦士としても…」
ラドランク「期待しておりますぞ、王子」
ランドランク「それでは私はこれで失礼いたします」
「騎士団長の兄者によろしくお伝えください」
チャドラン「副騎士団長、この度はいろいろとお世話になりました…」
チャドラン王子は頭を下げ、ランドランクや彼に同行する兵士たちを見送った。
(回想シーン終わり)
チャドラン「振り返ってみても、余にとっては大冒険でしたよ…」
ルリコ「王子…」
チャドラン「ですがルリコさん、余は更なる冒険をしようと思います」
ルリコ「えっ?」
チャドランはルリコに今後の話をし、そしてチャドランは国王ルスディーノ29世たちの前に立ち、
ルスディーノ29世「チャドラン、瑠璃姫の祖国であるワトニカに行きたいと申すのか?」
チャドラン「お願いいたします、父上…」
「余はルリコさんのご家族とお会いしたいのです…」
ルリコ「国王様、家族に会うだけではなく、王子様にはワトニカにお越しいただきたいのです…」
「ワトニカのことを王子様に直接お伝えしたいのです…」
「何卒よろしくお願いいたします…」
ルスディーノ29世「分かった。そこまで言うのならチャドランと瑠璃姫の要望を聞き入れよう…」
パリンサ「あなた、ワトニカは北半球の国なのですよ!」
「今回のルスモーン島へ行くのとは訳が違うのですよ!」
リガーデン「サツマダイ藩はワトニカの中でも南にあるようですが、それでも行き帰りを考えると3ヶ月程度は見越しておきたいかと…」
ルスディーノ29世「確かにいざ向かうとなれば手間や費用なども馬鹿にならないであろう」
パリンサ「あなた、私は手間や費用などよりも、チャドランの安全を心配しているのですが…」
ルスディーノ29世「気持ちは分かるぞ、パリンサ」
「だが行ける機会があるのなら、私はそれでも良いと思っている」
チャドラン「父上…」
ルスディーノ29世「メタルクロノスのことを考えると、いつどこで何が起きてもおかしくない状況だ」
「ならば奴らが宣戦布告をしていないうちに行動するのも良いだろう」
チャドラン「父上、そう思っていただき余は何よりです」
ルスディーノ29世「宣戦布告後では瑠璃姫もご家族に会うのが厳しくなるかもしれんからな」
「私としてもそこは避けておきたい」
ルリコ「国王様、本当にありがとうございます…」
チャドラン「ルリコさんは余が責任を持ってお連れいたします」
「道中何があってもルリコさんをお守りするつもりです」
ルスディーノ29世「分かった。チャドランの決意を信じよう」
パンリサ「お父様がそう言うのでしたら、私はもう止めません」
チャドラン「母上、申し訳ございません…」
パリンサ「瑠璃姫、引き続きチャドランのことをよろしく頼みますよ」
ルリコ「お任せください、王妃様」
ルスディーノ29世「ラグラード、近いうちに大遠征のための会議を開きたい」
「できる限り兵を集めてくれ」
ラグラード「ハッ!早急にご対応いたします」
ルスディーノ29世「それとブレデリット」
ブレデリット「ハッ!」
ルスディーノ29世「3ヶ月、あるいはそれ以上になるかもしれない長期の遠征となれば、騎士団長のラグラードを向かわせることはできない」
「ラグラードに代わり、親衛隊隊長のそなたを遠征部隊の隊長に任命したいと思っている」
「引き受けてはくれぬか?」
ブレデリット「ハッ!」
「このブレデリット、親衛隊隊長としてチャドラン王子と瑠璃姫様を命懸けでお守りいたしましょう!」
チャドラン「よろしくお願いしますね、ブレデリットさん」
ルリコ「ご同行していただき、心より感謝いたします」
ブレデリット「お気になさらないでください、王子、瑠璃姫」
「これも親衛隊としての任務のうちです」
ルスディーノ29世「チャドラン、月世界会議(※11)の訪問を除けば、私も含めた歴代57人の王や女王たちの中でワトニカに行った者は3人といない」
「異文化というものにしっかり触れてくるがよい」
チャドラン「父上!ありがとうございます!」
その頃、寝室で眠っているヴェルトン博士は夢を見ていた。
(ここから博士の夢の中)
クリスターク・ブルー「久しぶりだな、博士」
ヴェルトン「クレード、変身しているのか」
ブルー「俺を含めグラン・ジェムストーンに選ばれた15人の戦士が揃った」
「だから博士の前に連れてきた」
ヴェルトン博士はブルーたち15人の戦士を見て、
ヴェルトン「フッ…」
「随分とカラフルな戦闘集団だな」
ブルー「15人一人一人別の色にしろとアドバイスしたのはあんただぞ」
ヴェルトン「そうだな…他でもないこの私だな…」
ブルー「まあいい、博士に俺たちクリスタルナンバーズの決意を見せてやる」
ヴェルトン「クリスタルナンバーズ?それは君たち15人のチーム名なのか?」
ブルー「ああ、仲間のホワイトが考えてくれたんだ」
ブルーたちは博士の前で名乗り始めた。
ブルー(クレード)「栄光のサファイア。クリスターク・ブルー」
グリーン(オリンス)「希望のエメラルド!クリスターク・グリーン!」
ホワイト(アンシー)「祝福のパール!クリスターク・ホワイト!」
イエロー(シェルージェ)「幸運のシトリン!クリスターク・イエロー!」
ピンク(サンナ)「愛情のルビー。クリスターク・ピンク」
パープル(ティム)「崇高のアメジスト。クリスターク・パープル」
オレンジ(ケンイー)「勇気のオパール!クリスターク・オレンジ!」
グレー(ロゼル)「円満のムーンストーン…クリスターク・グレー…」
レッド(エリック)「情熱のガーネット!!クリスターク・レッド!!」
ネイビー(ミレイヤ)「神秘のラピスラズリ。クリスターク・ネイビー」
シルバー(ハリウ)「不屈のダイヤモンド!クリスターク・シルバー!」
ブラック(カミッシュ)「威厳のオニキス!クリスターク・ブラック!」
シアン(セフィーニ)「自由のアクアマリン!クリスターク・シアン!」
ゴールド(シバト)「勝利のトパーズ!クリスターク・ゴールド!」
ライム(ニトイ)「生命のペリドット……クリスターク・ライム……」 ボソ…
リーダーのシルバー「全ての色!全ての宝石!全ての遺産を越えてゆく!」
一同「我ら15人!宝石の輝士団!クリスタルナンバーズ!」
ヴェルトン「…」
「君たちの決意、確かに見届けさせてもらった…」
「光り輝く15人の戦士たちよ、この世界を頼んだぞ…」
(夢の中のシーン終わり)
ヴェルトン博士「フッ…」
眠っている博士ではあるが、とても清々しい顔をしていた。
栄光・希望・祝福・幸運・愛情・崇高・勇気・円満・情熱・神秘・不屈・威厳・自由・勝利・生命…
15人の戦士が描く物語とは?
次回へ続く。
※1…島の名前の由来は、モーリシャスの世界遺産「ル・モーンの文化的景観」(文化遺産 2008年登録)より
※2…大草原の名前の由来は、タンザニアの世界遺産「セレンゲティ国立公園」(自然遺産 1981年登録)より
※3…城の名前の由来は、エチオピアの世界遺産「歴史的城塞都市ハラール・ジュゴル」(文化遺産 2006年登録)より
※4…港町地区の名前の由来は、ケニアの世界遺産「モンバサのジーザス要塞」(文化遺産 2011年登録)より
☆※5…島の名前の由来は、セネガルの世界遺産「ゴレ島」(文化遺産 1978年登録)より。
なおこの「ゴレ島」をモデルにしたゴレドルス島は、魔法大陸ムーンリアス西側に点在するパルクレッタ諸島には含まれていない。
ゴレドルス島は大陸内のルスカンティア王国本土に近い島である。
※6…ムーンリアスの西側にある諸島で、ルスカンティア王国の他、アイルクリート共和国やセントロンドス王国が管理する島々もある。
☆※7…島の名前の由来は、モーリシャスの世界遺産「アープラヴァシ・ガート」(文化遺産 2006年登録)より
※8…島の名前の由来は、セーシェルの世界遺産「ヴァレ・ド・メ自然保護区」(自然遺産 1983年登録)より
※9…環礁の名前の由来は、セーシェルの世界遺産「アルダブラ環礁」(自然遺産 1982年登録)より
※10…町の名前の由来は、タンザニアの世界遺産「ザンジバル島のストーン・タウン」(文化遺産 2000年登録)より
※11…3年に一度開かれるムーンリアス全20カ国による国際会議。
各国の代表(国王・皇帝・将軍・大公・首相)が一堂に集まる。
最近では一昨年2048K年に開催された。開催国は20カ国の中から選ばれ、2048K年の会議は、北の月(北側の大陸)のエーゲポリス王国で開催された。
(☆:物語初登場の世界遺産)




