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第4話 ルリコ姫とチャドラン王子

第4話です。今までの1話・2話・3話は物語の序章として書きましたので、今回の4話から物語が本格的に始まります。そのためここから登場人物も増えますがどうか引き続きよろしくお願いします。

最初の冒険の国であるルスカンティア王国では、主に、エチオピア・ケニア・ザンビア・ジンバブエ・セネガル・タンザニア・ナイジェリア・マラウイ・南アフリカ等、アフリカ南部・東部・西部の国々にある世界遺産をモデルにした村・遺跡・自然などが登場します。


<主な登場人物の紹介>

☆◎オリンス・バルブランタ(男・28歳)

・緑色の髪をしているルスカンティア王国騎士団に所属する正団員の騎士。

馬にまたがり騎兵として戦うが、戦局によっては馬を降りて戦うこともある。使う武器は槍と斧。緑色の多い鎧と兜で全身を覆っている。愛馬の名はベリル号。

子供の頃から地理オタクで、大学で地理学を学んだ。

地理が好きなことから他国にも強い興味を持っており、ワトニカ出身であるナハグニや鵺洸丸に声をかけ彼らとも親しくなった。

この物語における重要人物の一人。

誕生日は5月4日。

☆○ルスディーノ29世(男・53歳)

・ルスカンティア王国の現国王で、国の代表者。第57代国家元主。

国内に魔獣たちが大量に出現しても冷静な判断を下せる芯の強い人物。また国王らしく態度も堂々としている。

誕生日は6月10日。

☆○パリンサ・ルスディーノ(女・51歳)

・国王29世の妻でルスカンティア王国の王妃。戦場に行こうとする息子の王子の身を案じる。

誕生日は12月12日。

☆○チャドラン・ルスディーノ(男・23歳)

・国王29世と王妃パリンサの息子で、ルスカンティア王国の王子。

政治に関してはまだ未熟であるが、父の跡を継ぎ次期国王になろうという気持ちは強い。

誕生日は9月27日。

☆○リガーデン・クルーヌ(男・74歳)

・ルスカンティア王国の大臣で、政治や軍事などの面で国王たちを支えている。

誕生日は10月29日。

☆○ラグラード・カドルック(男・56歳)

・ルスカンティア王国騎士団の団長。国王29世や大臣のリガーデンたちから厚く信頼されている。

今度の4月8日が誕生日で、57歳となる。

☆○セルタノ・リクゼストン(男・33歳)

・オリンスと同様、ルスカンティア王国騎士団に所属する正団員の騎士。先輩の騎士団員として新人だった頃のオリンスの面倒をよく見ていた。

立場的にセルタノはオリンスの先輩であるが、二人の関係としては先輩後輩というより友達に近い。そのためオリンスもセルタノに対し先輩などとは言わず、普通に名前で呼んでいる。

馬にまたがり弓騎兵として、ときには馬を降りアーチャーとして戦う。愛馬は白馬で名はグレビー号。

誕生日は9月7日。

☆○ナハグニ・按司里あじさと(男・31歳)

・ワトニカ将国(※1)リュウキュウ藩出身の侍。自称、うちなー侍。

ある事情により地元のリュウキュウ藩にいるのが嫌になり、5ヶ月前にワトニカから遠く離れたルスカンティアへとやって来た。準団員としてルスカンティア王国騎士団に所属している。

服装はシーサーが描かれた肩衣に袴。愛用する刀の名は「グスク刀」。

日本の世界遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」(文化遺産 2000年登録)からイメージしたキャラ。沖縄県出身のイメージ。

誕生日は12月2日。

☆○ルリコ・奄美大野あまみおおの(女・22歳)

・ワトニカ将国サツマダイ藩出身の女侍で、大名家、奄美大野家の長女で跡取り娘。

将来大名家を継ぐため異国のことも学ぼうと、大学を卒業後、社会人留学によりルスカンティアにやって来た。

普段は着物姿で、戦闘時は日本風の甲冑を身に着ける。武器は火縄銃と短筒。

日本の世界遺産「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」(自然遺産 2021年登録)からイメージしたキャラ。鹿児島県出身のイメージ。

誕生日は7月26日。

△クレード・ロインスタイト(男・?歳)

・青色の髪をしている本作の主人公である魔法剣士。

本作の主人公だが、今回は未登場。

鵺洸丸やこうまる(男・30歳)

・ワトニカ将国オガサワラ藩出身の忍者。

今回は名前のみ登場。

(☆:新キャラ)

ここは魔法大陸ムーンリアスのルスカンティア王国。

南の月(ムーンリアスの南側の大陸のこと)の中で一番南に位置するムーンリアス最南端の国。

約2億人の人口、建国約1000年の歴史、そして緑豊かな国。


しかし王国は今不穏な空気に包まれていた。


ケルビニアン暦2050K年4月4日。

ルスカンティア王国の王都、国王たちの住む城ジルスゴール城(※2)の玉座の間にて、


リガーデン(大臣)「何だと!?それは確かなのか!?」

ルスカンティア兵①(隊長格・騎士)「ハッ!現在セレンゲディアの大草原(※3)に大量の魔獣たちが巣くっております!」

 「推定によりますとその数は2000匹以上!」

パリンサ(王妃)「に、2千…そんなにいるなんて…」


ルスカンティア兵①(隊長格・騎士)「報告では大草原に生息するキリンやゾウなどの貴重な動物たちが襲われるなど、すでに被害が出ております!」

リガーデン「それはかなりまずいな…あの大草原には絶滅が危惧されているクロサイも生息しているというのに…」


ルスカンティア兵①(隊長格・騎士)「今現場では周辺の兵士たちが大草原から流れてくる魔獣たちの対処をしております!」

ラグラード(騎士団長)「だがやはり大草原にいる群れを倒さぬ限り、魔獣たちの流れは止まらぬか…」

ルスカンティア兵①(隊長格・騎士)「おっしゃる通りでございます!」

 「国王様!騎士団長!何卒ご対応を!」


ラグラード「確かに2000匹ともなるとこの王都からも兵たちを送らねば対処しきれんな…」

ルスディーノ29世(国王)「そうだな、ラグラード」

 「よし、すぐに兵や物資などをできる限り手配し、5000人以上の討伐隊を編成してくれ!そして明日にはセレンゲディアに向け出陣するのだ!」

 「急がせて悪いが、早急に対応してくれ」


チャドラン(王子)「父上!それでしたら余も皆とお供させてください!」

そばで話を聞いていたチャドラン王子が国王である父に申し出た。


しかしリガーデン大臣とパリンサ王妃はそれに反対し、

リガーデン「なりません、王子!王子を戦場へ送るなどとてもできることではございません!」

パリンサ「王子、あなたは次期国王となる者です!」

 「あなたに何かあったらこの国の未来はどうなるのですか!」

王子「母上、大臣殿、しかし余は…」


王子の言葉を聞いていた国王が口を開いた。

ルスディーノ29世「よろしい。そなたが同行したいと言うのなら止めはせぬ」

パリンサ「あなた!」

ルスディーノ29世「パリンサ、チャドランとてもう子供ではない。自分の意見があるのならそれを口に出すことも時には必要だ」

リガーデン「しかし、国王様…」


そして王は王子に対し、

ルスディーノ29世「チャドラン」

チャドラン「はい!父上!」

ルスディーノ29世「魔獣討伐隊に同行することを許そう」

 「ただしそなたは絶対に戦ってはならぬぞ。戦いは兵士たちに任せ、そなたは遠くから彼らの姿を見ているだけにするのだ。よいな」

チャドラン「承知いたしました。ありがとうございます、父上…」


そして王はラグラード騎士団長の名を呼び、

ルスディーノ29世「ラグラード、すまないが王子のことをよろしく頼むぞ」

ラグラード「かしこまりました、国王様。このラグラード、命に代えてもチャドラン王子をお守りいたします」

チャドラン「お願いいたします、ラグラード殿…」

チャドラン王子は騎士団長であるラグラードに深く頭を下げた。


パリンサ「それにしても魔獣たちもよりによってこんな忙しい時期に堂々と現れるなんて…」

リガーデン「4月になり新年度が始まりましたからね」

 「今は学校を卒業したばかりの新兵たちを指導していかなければならない大切な時期だというのに…」

パリンサ「それに一週間程前にルスコンドアの岩絵遺跡群(※4)に別の部隊を送ったばかりなんですよ…」

ルスディーノ29世「パリンサ、リガーデン、魔獣どもに人間の都合など一切関係ない。どんな時期であろうと現れたのならその都度対処していかなければならぬのだ」


ラグラード「では国王様、我々騎士団は討伐隊を編成いたしますゆえ、これで…」

ルスディーノ29世「ラグラード、ルスコンドアとセレンゲティアは位置的に近いというのもある。遠征している部隊とは現地で合流し共に戦うのが良いだろう」

ラグラード「左様でございますな。ルスコンドアの部隊も350名程おりますゆえ…」

ルスディーノ29世「では遠征部隊に伝令を出そう。急ぎルスコンドアへと向かってくれ」

ルスカンティア兵①(隊長格・騎士)「ハッ!なんなりと!」



ここは城内にある兵士たちの宿舎。

ラグラード騎士団長などによりセレンゲティアへ向かう討伐隊が編成され、彼ら討伐隊は宿舎で説明を受けていた。

ルスカンティア兵②(隊長格・騎士)「急がせてすまないが、我らセレンゲティア討伐隊は明日の早朝より出陣する」

 「武器や防具、衣類、食糧、水、薬など、必要な物資は城内の補給部隊が全て手配するゆえ、戦場に赴く兵たちは明日以降の戦いに備え今日はもう訓練等を止めて休むがよい」


ルスカンティア兵③(騎士)(心の中で)「(「果てしない平原」とか呼ばれるくらい広大なセレンゲティアでの戦いか…こいつはかなりのいくさになりそうだな…)」


ルスカンティア兵②(隊長格・騎士)「なお、今回の戦いではラグラード騎士団長だけでなくチャドラン王子も同行する」

ルスカンティア兵④(騎士)「チャ、チャドラン王子もですか!?」

ルスカンティア兵②(隊長格・騎士)「そうだ。今回は王子も我々騎士団とご同行し、我らが戦う姿をご覧になる予定だ」

 「なお王子の護衛については25人程の親衛隊及びラグラード騎士団長が受け持つとのことだ。お前たち一般の兵は各々の戦いに専念してくれて構わん」

セルタノ(ルスカンティア兵・弓騎兵)(心の中で)「(25人の親衛隊に加えて騎士団長もか…こりゃあ鉄壁の守りだな…)」


ルスカンティア兵⑤(騎士)「しかし王子様がご同行なさるのなら、我々騎士団も無様な姿をさらすわけにはいきませんな…」

ルスカンティア兵②(隊長格・騎士)「その通りだ。王子に対する敬意があるのなら各自しっかりと自覚したうえで戦ってくれ」

ルスカンティア兵⑥(騎士)(心の中で)「(王子の前で手柄を立てりゃあ出世も夢じゃない…こいつはチャンスだぜ…)」

オリンス(ルスカンティア兵・騎士)(心の中で)「(そうか…王子も戦いを自分の目で見るのか…)」

ルスカンティア兵②(隊長格・騎士)「話は以上だ。本日はこれで解散とする」


隊長格の兵の話も終わり、一般の兵たちは休息に入った。

その中で、オリンスとセルタノという二人の騎士団員、ナハグニとルリコという二人の侍、討伐隊に加わった四人の男女が椅子に座り話をしていた。


ナハグニ(心の中で)「(ああ…ルリコ殿…)」

 「(なんと、愛らしいお方…)」


ナハグニはルリコを見てときめているが、セルタノとオリンスはルリコに、


セルタノ「悪りぃな、ルリコ」

 「この城に来てまだ四日目だっていうのに、こんな大戦おおいくさに巻き込んじまってよ…」 

ルリコ「構いません、セルタノさん」

 「どこであろうと困っている民がいれば、手を差し伸べるのが大名家の娘である私の務めなのですから」

セルタノ「大名家ねぇ…他国でいえば貴族の公爵家みたいなもんか…」

ルリコ「私はそんな大名家の長女として生まれました」

 「そのため父の跡を継ぎ、将来は藩主となりたいと思っております」

 「今回のいくさも将来へのステップとして私は捉えております」


オリンス「でもルリコ、決して無理をしちゃダメだよ」

 「ルリコはまだ大学を出た直後で、実戦の経験だって乏しいんだし…」

 「それにルリコは兵士や戦士としてじゃなくて、社会人留学でこの国に来たんだから…」

ルリコ「ご心配ありがとうございます。オリンスさん」

 「ですが今は一般の社会人としてではなく、一人の戦士としてこの国のために戦いたいのです」

 「一人の戦士として、ルスカンティアの人々や貴重な動物たちを守るためお力になるつもりでございます」

 「騎士団長のラグラード様にもその旨をお伝えし、今回同行を許していただきました」

セルタノ「騎士団長が許したか…だったら俺の口から言うことはもうねぇなあ…」


ルリコ「私にはこの火縄銃と短筒がございます」

 「いかなる強敵であろうとこれらの銃を使い、存分に戦って参ります」

セルタノ「銃か…確か弓以上に強力な射撃武器だったな」

ルリコ「戦場では騎士団の皆様の足を引っ張るような真似は決していたしません」

 「どうかわたくしめをよろしくお願いいたします」


オリンス「ルリコの強い気持ちはよく分かったよ。だから一緒に行こうセレンゲティアに」

セルタノ「危なくなったらしっかりサポートするからよお」

ルリコ「ありがとうございます。オリンスさん、セルタノさん」


ナハグニ(心の中で)「(ああ…ルリコ殿…なんとご立派な…)」

オリンスとセルタノと違い、自称うちなー侍のナハグニはルリコの姿を見てただときめいていた。

しかしときめてデレデレしているナハグニはなんとも気持ち悪かった。


そしてルリコはそんなデレデレになっているナワグニを見て、

ルリコ(心の中で)「(遠い異国の地にワトニカの侍がいるというから早速お会いしてみることにしたんですけど、どうも私この人好きになれないです…)」

 「(もう下心見え見えで…)」


一方オリンスとセルタノはルリコを見て、

オリンス(心の中で)「(立派な考えだな…)」

 「(ルリコはまだ22歳で大学を出たばかりなのにちゃんとした気持ちがある…)」

 「(俺もルリコを見習わないとな。騎士としても人間としてももっと成長していかないと…)」


セルタノ(心の中で)「(大したもんだ。たとえ自分一人になっても戦おうという意志を感じるよ…)」

 「(ルリコは本来戦いとは無縁の世界で生きられるようなお姫様的立場なのに、人に守ってもらうことを当たり前のように思っちゃいない…)」

心の中でルリコのことを評価しているオリンスとセルタノであった。


だがセルタノは続いて心の中で、

セルタノ(心の中で)「(しかしそう考えるとうちのチャドラン王子は何だ)」

 「(誰かに守ってもらえることを当たり前のように思っているんじゃないのか?)」

 「(そりゃあ王子なんだし、国にとって大事な人物だというのはよく分かるんだがよ…)」


そしてルリコはそんな二人に話しかけ、

ルリコ「そういえば、オリンスさん、セルタノさん」

 「侍のナワグニさんの他にもう一人ワトニカの方がルスカンティアに来ていると伺っております。確か忍びの方でお名前は…」

セルタノ「ああ、忍者の鵺洸丸やこうまるのことか」

 「あいつは今別の部隊として遠征に出てるよ」

オリンス「一週間くらい前かな。洞窟壁画が有名なルスコンドアの岩絵遺跡群周辺に現れた魔獣たちの討伐のために向かったんだ」

ルリコ「それくらい前だとまだ私がお城に来る少し前の話ですね」


オリンス「ルスコンドアの遺跡はこれから向かうセレンゲティアの近くだから、鵺洸丸のいる部隊とも現地で合流できるんじゃないかな。遺跡周辺の魔獣たちを片付けたらセレンゲティアの部隊と合流するよう伝令を出したことだし」

セルタノ「まああいつとはセレンゲティアの現地で会えるだろ」


ルリコ「では鵺洸丸さんってどういう方なんですか?」

オリンス「結構気さくな人かな。素直に話してくれることも多いし」

セルタノ「確かあいつはオガサワラ藩ってとこの出身だったよな、オリンス?」

オリンス「そうだね。彼のお父さんは藩を守る忍者部隊の隊長だって聞いているよ」

ルリコ「お父様が忍者部隊の隊長…そうなると鵺洸丸さんの家系は代々忍びなのでは?」

セルタノ「ああ、確かそんなことも言ってはいたな…」

オリンス「鵺洸丸はお父さんと同じように忍者の道を選んだみたいだけど、彼のお兄さんは寿司職人になったっていう話もしていたよね」


忍者の鵺洸丸について話すオリンスとセルタノであるが、ナハグニはずっとルリコにときめきっぱなしで、

ナハグニ(心の中で)「(ああ…ルリコ殿…ルリコ殿…)」


そんなデレデレでダメダメなナワグニを再び見てやはりルリコは、

ルリコ(心の中で)「(ハァ…鵺洸丸さんって人はナワグニさんと違い、ちゃんとした方だと思いたいですね…)」


しかしルリコはその後ナワグニに声をかけられ、

ナハグニ「ときにルリコ殿!」

ルリコ(ちょっと引き気味)「は、はい…」

ナハグニ「王都の中心街からセレンゲティアまで行くとなると、ちょっとした旅になるでござるよ」

ルリコ「ま、まあ一週間程度はかかるんですよね…」

ナハグニ(爽やかな顔で)「女子おなごが旅をするというのは大変なこと…」

 「もし道中生理などでお困りになったのなら遠慮なく拙者に相談してくだされ」

ルリコ(怒った顔で)「何であなたにそういう話をしなければならないのですかっ!!」


ルリコはナハグニに対してすごく怒った。それを見たオリンスとセルタノは、

セルタノ(小声)「(ったく…ダメすぎだろ、あいつ)」

オリンス(小声)「(でも侍としての腕は確かだし、彼の持つグスク刀はすごい魔力を帯びているんだよね)」

セルタノ(小声)「(まああれだけの武器を扱えることは素直に評価するがよ)」



次の日5日、5000人以上の討伐隊、そして荷物や食糧などを積んだ500台以上の馬車が城を出発した。


そして城下町では大勢の国民たちが騎士団を見送り、

国民①(男性)「しっかり頼むぜ!騎士団!」

国民②(男性)「騎士団の勝利を信じています!」

騎士団に声援を送る国民たち。


また一方で、

国民③(男性)「頼みますよ、チャドラン王子様!」

国民④(女性)「チャドラン王子!ラグラード騎士団長!」

などと、チャドラン王子を称える声が上がると王子は、

チャドラン「民たちよ、その声や気持ちに感謝するぞ!余は王子として騎士団の戦いをしかと見届けるつもりである!」


力強く声を出す王子ではあるが、そんな王子の声を聞いた一人の女の子は、

女の子「えー、じゃあ王子様って見ているだけで何もしないのぉ?」

母親「こ、こらっ!」

チャドラン「うっ!?」

ラグラード「…」


思ったことを素直に口に出す女の子。

しかしそんな女の子のもとに王子の親衛隊たちがやって来て、

親衛隊①(笑顔で)「大丈夫だよ、お嬢ちゃん」

親衛隊②(笑顔で)「我々騎士団は魔獣たちなんかに負けたりはしないぞ」

女の子「わーっ!カッコいい!」

母親「どうもすいません…」

女の子の母親は親衛隊たちに深々と頭を下げた。

チャドラン「あっ…」


小さい女の子に見ているだけということをズバリ指摘されたチャドラン王子、そんな王子を見たラグラードや親衛隊は近くに寄り、

ラグラード(小声)「(フォローしてくれてすまない。お前たちには感謝するよ)」

親衛隊①(小声)「(しかし騎士団長、今回王子を連れてきて正解だったのでしょうか?)」

親衛隊②(小声)「(見ているだけで何もしない、あの子供の言う通りですからね)」

親衛隊③(小声)「(ここが王族や貴族たちが治める王国だとしても、今の世の中民たちも平等を重んじる風潮ですしね)」

ラグラード(小声)「(我々はあくまでその王族や貴族の方々に仕える騎士団であり親衛隊だ。その主たちが多少無茶を言ったとしても、我々は極力それらの声を尊重していかなければならん)」

 「(それが我々の立場というものだ。お前たちもそれを理解しているはずだぞ)」

親衛隊①(小声)「(お、おっしゃる通りではございますが…)」


ラグラード「…」

 (心の中で)「(王子、今のままで良いのかを決めるのは他ならぬあなた自身ですぞ…)」


チャドラン(心の中で)「(よ、余は…)」

チャドラン王子は落ち込んでいた。



セレンゲティアに向けて移動をする討伐隊。

王都の中心街を抜け川辺を歩いている時、オリンスたちは話をして、

オリンス「この辺りは王都の郊外に広がるルス・プールズの自然保護区(※5)だよ」

ナハグニ「おおっ!川にいる動物はカバやワニでござるな!」

 「いやあ、拙者動物園でカバやワニなどを見たことがあるでござるが、野生のものを見たのは初めてござるよ!」

セルタノ「カバやワニだけじゃねぇぞ、この辺りの草原や森には、ゾウ・シマウマ・キリン・ライオン・ヒョウ・ハイエナとか、とにかくいろんな動物たちが生息しているんだ」

オリンス「それに4月だからルスカンティアは今乾季の時期なんだ」

 「この乾季の時期になるとスイギュウもこの辺りに集まってくるんだよ」

ルリコ「ルスカンティアはまさに野生の王国って感じですね」

野生動物たちを見て楽しむナワグニやルリコ。


一方討伐隊の先頭辺りにいるチャドラン王子やラグラード騎士団長たちは、

チャドラン「ラグラード殿、王都からセレンゲディアまでは一週間程度でしたよね?」

ラグラード「そうですな。セレンゲディアへは12日の昼頃に到着を予定しております」

 「王子、まだ先はございますよ」

チャドラン「分かりました。ちゃんと付いて参ります…」


チャドラン(心の中で)「(セレンゲディアでどんな戦いになろうとも、余は最後までしっかりと見届けるつもりだ…)」

 「(余は父の跡を継ぎ国王となるのだ…ならば次期国王として戦いの現場というものも知っていかなければならないんだ…)」

 「(だからたとえ民から「見ているだけで何もしない」などと言われようと…)」


親衛隊①(小声)「(騎士団長、王子も少しは立ち直ったんじゃないですか?)」

ラグラード(小声)「(そうだな。まあ私としては他に考えていることもあるが…)」

親衛隊②(小声)「(ほお、それはどのようなお考えなのでしょうか?)」

ラグラード(小声)「(ワトニカから来た大名家のご息女であるルリコ殿と王子を会わせてみるつもりだ…)」



ルス・プールズの保護区を抜け、チャドラン王子とオリンスたち討伐隊の一行はその日の夜、ロロペニルス村(※6)にたどり着き、オリンスやルリコたちは村の砦で夕食を済ませ休んでいた。


ルリコ「お夕飯、美味しかったですよ」

オリンス「チャパティにウガリ、ヤギ肉を焼いたニャマチョマ…ルスカンティアの料理がルリコの口に合って良かったよ」

ルリコ「野菜サラダやルイボスティーも美味しかったですよ」

セルタノ「まあチャパティってのは元々ボルムネジアやブルスベイズの料理だ。移民や文化交流とかでルスカンティアにも広まったってわけさ」


ナハグニ「話は変わるでござるが、この村は周囲を大きな石壁で囲っているのでござるなあ」

オリンス「村の石壁は1000年以上前に造られたといわれているけど、誰が何の目的で石壁を造ったのかは分かってないんだ」

ルリコ「1000年以上前だと、まだ物の怪(※魔獣のことをワトニカでは「物の怪」という)たちが生まれていない時代ですね」

セルタノ「この村は昔黄金の採掘や交易で栄えていたようだが、村の石壁についてはよく分かってねぇんだ」

 「だが何であろうと石壁は今魔獣たちから村を守る壁として利用されている。結果だけ見れば役に立っているんだ。俺はそれで十分だと思うぜ」

ナハグニ「左様でござるなあ。正に石壁は奇跡の産物」

オリンス「いや、奇跡はちょっと大げさじゃないかな?」

ルリコ「でも人々の命がそれで守れるのなら、私はその言い方でも……」


少しの間話をしていたオリンスやルリコたちだったが、そこに王子を守る親衛隊たちがやって来て、

親衛隊①「ワトニカ出身のルリコ殿でございますね?」

親衛隊②「チャドラン王子様がお会いしたいとのことです。只今よろしいでしょうか?」

ルリコ「お、王子様が私にですか?」

親衛隊③「左様でございます。大名家の出であるルリコ殿のお話をぜひお聞きしたいとのことです」

ルリコ「承知いたしました。それでは参ります」

ルリコは親衛隊たちと共に王子のいる部屋へと向かった。


ナワグニ「おおっ!王子殿も夜のお相手にルリコ殿を選ぶとは!これぞ高貴な方同士のお付き合いというものでござるか!」

オリンス「いや、王子にそんな下心は全くないと思うよ…」

セルタノ「まあ今の王子は女性付き合いに対してかなり消極的らしいからな」

オリンス「それに王子の周りには今騎士団長や親衛隊もいることだし、さすがにそれは…」

セルタノ「昔だったら女性や周りにも遠慮なかったかもしれねぇが、今はもう時代が違う」


親衛隊たちに連れられ、ルリコはチャドラン王子と対面した。同じ部屋には他にラグラード騎士団長たちもいる。

ルリコ「チャドラン王子様、直接顔を合わせてお話しするのは今回が初めてでございますね」

チャドラン「突然すいません、ルリコ殿。いきなりお会いしたいなどと…」

 「ラグラード殿から大名家の娘であるルリコ殿と話をしてみてはどうかと言われましたので…」

ラグラード「王子とルリコ殿。やはり高貴なお方同士であれば何かお話をしてみるのも良いかと」


チャドラン「お硬くならなくても大丈夫でございます。どうぞ気を楽になさってください」

ルリコ「お気遣いありがとうございます。王子様」

 「ではまずどのようなことからお話しいたしましょうか?」

 「私のこと、大名家である奄美大野家のこと、出身地であるサツマダイ藩のこと、ワトニカ将国のこと、どのようなことでもお話しいたします」


チャドラン「それでしたらルリコ殿、余は気になることがございます」

 「ルリコ殿は遠い異国の地からルスカンティアに留学なされたお方。決して国の戦いを支援するために来たお方ではございません」

 「なのになぜ今回セレンゲティアの戦いに参加なされるのですか?」

 「ルリコ殿にとってここは遠い異国の地。来られたばかりのこの国のためにご自分の命を懸けられるのですか?」

 「余にはとてもそのような真似は…」


ルリコ「王子様、私は将来父の跡を継ぎ次期大名となりたく思っております」

 「大名であれば民を守る存在となりたいのです」

チャドラン「民を守ると…」

ルリコ「はい。人の命の前では国も国境もございません。どこであろうと、誰であろうと、辛く悲しい思いをしている方がいれば手を差し伸べてこそだと思います」

チャドラン「人の命の前では国も関係ないと…」

ルリコ「そのように思います」

 「それに我が国ワトニカも今や国際化の時代でございます。自分の藩や国だけに目を向けていては、本当の意味で良い国は作れないでしょう」

 「ワトニカ人が異国の地を学ぶことは今の時代とても大切だと思うのです」

チャドラン「国際化…異国を学ぶこと、知ること…」

その後もルリコとチャドラン王子は互いに語り合い、そして一夜が明けた。



次の日6日、ルリコはチャドランの王子のそばに行き、移動しながら話をしていた。

ルリコ(明るい表情で)「チャドラン王子、サツマダイにはトゲネズミという尖った毛で覆われたネズミの仲間がいるんですよ」

チャドラン(同じく明るい表情で)「トゲネズミ…そのようなネズミはルスカンティアでも見かけません」


明るく楽しそうなルリコとチャドラン王子を見て、二人の周りにいるラグラード騎士団長と親衛隊たちは、

親衛隊①(小声)「(二人ともイイ感じじゃないですか)」

親衛隊②(小声)「(騎士団長、本当はこれが狙いだったんじゃないですか?)」

親衛隊③(小声)「(もしチャドラン王子とルリコ殿がご結婚なされば、ルリコ殿との縁などにより我が国はサツマダイ藩やワトニカ将国から国際的な支援を受けられるかもしれないですからねぇ)」

ラグラード(小声)「(勘違いするな、お前たち。私は政治的な目的で王子とルリコ殿を会わせたわけではない)」

 「(ただ王子に彼女のような人間もいるということを知ってほしかったのだ。高貴な身分に生まれながら民のために自ら戦う意志を持った彼女のことを…)」


親衛隊④(小声)「(ですが騎士団長、もしあの二人が本当に結ばれればやはり最終的には政治の道へと繫がるでしょう)」

ラグラード(小声)「(二人が結ばれることになるのなら、あくまで一組の男女としてであってほしいよ…互いの出身国や立場など関係なくな…)」


一方少し離れた所から王子とルリコを見ているオリンスたち三人は、

ナハグニ(泣きながら小声で)「(くーっ!ルリコ殿!ルリコ殿ォォッ!)」

 「(きっと王子とベッドの上でお熱い夜を過ごされたのでござるなあ!)」

オリンス(小声)「(いや、普通に話をして仲良くなったんだと思うけど…)」

ナハグニ(泣きながら小声で)「(相手が王子殿であれば、もはや拙者の出る幕などござらん…)」

 「(拙者、ルリコ殿から素直に身を引くでござる…)」

セルタノ(小声)「(安心しろナハグニ。お前がルリコと結ばれる可能性は限りなく0だったよ。初めからな)」

オリンス(小声)「(うん。ルリコはナハグニのこと速攻で嫌ったもんね…)」



少し進むと大きな湖や湖畔の村が見えてきた。

ルリコ「チャドラン王子、大きな湖が見えますね」

チャドラン「あの湖はマーラウインズ湖(※7)です」

 「あの湖にはシクリッドと呼ばれる魚や大型のナマズなどが生息しているんです」


ルリコ「シクリッド?初めて聞くお魚ですね」

チャドラン「シクリッドは、シクリッド科もしくはカワスズメ科の魚の総称なんです」

 「種類も大変多く、あのマーラウインズ湖にも800種以上が生息しているんです」


チャドラン「シクリッドは色がきれいな種類が多いので王族や貴族たちは主に観賞用として利用しますが、食用としても重要な魚なんです」

 「あのマーラウインズ湖をはじめ、ルスカンティアの川や湖で獲れるシクリッドがこの国の食生活を支えているのです」

ルリコ「お詳しいのですね」

チャドラン「王子であればシクリッドくらいは分かっておりますよ…」


ルリコ「では王子、「きびなご」というお魚はご存じですか?」

チャドラン「きびなご…?いえ、聞いたことありません」

ルリコ「ニシンの仲間で、細い体をした小魚です」

 「私の故郷サツマダイでは、このきびなごをお刺身などにしてよく食べるんですよ」

 「サツマダイ名物、きびなごのお刺身…チャドラン王子にもぜひ味わっていただきたいと思っております…」

チャドラン(嬉しそうに)「ル、ルリコ殿…」


続いてルリコは、

ルリコ「それにしても青くてきれいな湖ですね」


チャドラン(心の中で)「(ルリコ殿、あなたもおきれいですよ…)」

 「(青く美しい湖に負けないほどに…)」


チャドラン王子はルリコへの気持ちをうまく口にできなかったが、彼の顔はとても嬉しそうであった。

チャドラン王子とルリコ、オリンスたちを含む討伐隊の一行はセレンゲティアの大草原を目指し進んで行った。

新キャラである、オリンス・セルタノ・ナハグニ・ルリコ・チャドラン王子たちのことを少しでも覚えてくれたら嬉しいです。

次回は主人公のクレードやオリンスたちが話した忍者の鵺洸丸も登場します。どうぞよろしくお願いします。


※1…将国の名前の由来は、和風の「和」と源氏物語の「いづれの御時にか」より

☆※2…城の名前の由来は、エチオピアの世界遺産「歴史的城塞都市ハラール・ジュゴル」(文化遺産 2006年登録)より

※3…大草原の名前の由来は、タンザニアの世界遺産「セレンゲティ国立公園」(自然遺産 1981年登録)より

☆※4…遺跡群の名前の由来は、タンザニアの世界遺産「コンドアの岩絵遺跡群」(文化遺産 2006年登録)より

☆※5…自然保護区の名前の由来は、ジンバブエの世界遺産「マナ・プールズ国立公園、サピサファリ地域、チュウォールサファリ地域」(自然遺産 1984年登録)より

☆※6…村の名前の由来は、ブルキナファソの世界遺産「ロロペニの遺跡群」(文化遺産 2009年登録)より

☆※7…湖の名前の由来は、マラウイの世界遺産「マラウイ湖国立公園」(自然遺産 1984年登録)より

(☆:物語初登場の世界遺産)

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