第26話(前編) ロイズデンとスカラベのケペシュ(前編)
26話目です。今回はシェルージェの恩人であるロイズデン(元騎士団員であり元盗賊の頭)を中心とした話です。
(※今回の話も前編と後編に分かれています)
<主な登場人物の紹介>
<クレード一行 計11人>
(宝石の輝士団クリスタルナンバーズ 3人)
◎クレード・ロインスタイト(男・?歳)
・青色の髪をしている本作の主人公である魔法剣士。
魔法の宝石グラン・サファイアにより、クリスターク・ブルーに変身できる。
自分の出身地や年齢など、過去の記憶をいろいろなくしている。
◎オリンス・バルブランタ(男・29歳)
・緑色の髪をしている元ルスカンティア王国騎士団の騎士。
馬にまたがり騎兵として戦うことが多い。愛馬の名は「ベリル号」。
魔法の宝石グラン・エメラルドにより、クリスターク・グリーンに変身できる。
ナプトレーマ王国(※1)ではシェルージェと二人っきりになり、彼女と楽しいひと時を過ごした。
普段は真面目で大人しい人物ではあるが、シェルージェに対してメロメロになってしまう。
◎アンシー・ヒズバイドン(女・22歳)
・白い髪をしている新人音楽家で、ムーンマーメイド交響楽団の非常勤楽団員。
魔法の宝石グラン・ホワイトパールにより、クリスターク・ホワイトに変身できる。
(ナンバーズの協力者たち 8人)
○ナハグニ・按司里(男・31歳)
・ワトニカ将国リュウキュウ藩出身の侍。自称、うちなー侍。
○ウェンディ・京藤院(女・20歳)
・洋風な名前だがワトニカ将国キョウノミヤ藩出身。公家の娘で柔道家。
○ホヅミ・鶴野浦(女・22歳)
・ワトニカ将国サド藩出身の女流棋士。
○リンカ・白鳥森(女・22歳)
・ワトニカ将国サンナイ藩出身。津軽三味線を弾く新人音楽家。
○沖津灘(男・32歳)
・ワトニカ将国ヤハタ藩出身。ワトニカ大相撲の現役力士で、大関経験者。
△千巌坊(男・39歳)
・ワトニカ将国キノクニ藩出身の僧(坊主、お坊さん)。
クレード一行の御者として駱駝車(※2)を引いている。
△鵺洸丸・ススキ
<その他人物>
◎シェルージェ・クランペリノ(女・18歳)
・黄色い髪(※長髪)をしている女盗賊。
貴族の国サフクラント公国の前大公の孫娘だが、貴族の生活が嫌になり家出した。元盗賊の頭ロイズデンたちの力を借り、南のナプトレーマ王国にやって来た。
魔法の宝石グラン・シトリンにより、クリスターク・イエローに変身できる。
「サンフラワーブーメラン」というブーメラン、「イエロークォーツナイフ」というナイフを武器にする他、投げナイフなども扱える。
一時的にオリンスと二人っきりになり、彼と楽しいひと時を過ごした。
「仲間になってほしい」というクレードやアンシーたちの頼みに、シェルージェはあっさり「O.K.」の返事をするが…
この物語における重要人物の一人。
○ロイズデン・ギナデルク(男・47歳)
・元盗賊団の頭で、北のサフクラント公国で出会ったシェルージェを仲間に入れ、彼女を盗賊として育てた。
実は元ナプトレーマ王国騎士団の団員で、現騎士団長ネフェルーグの部下でもあった。
○ネフェルーグ・ラバルペリド(男・52歳)
・ナプトレーマ王国騎士団団長。
「ラーレのケペシュ」と呼ばれる鎌型の剣を使いこなす、ファラオナイト(※)。
(※ナプトレーマの騎士団員は、男性の場合「ファラオナイト」、女性の場合「イシスナイト」と呼ばれる)
○イザベリス・デラムジャール(女・23歳)
・ナプトレーマ王国騎士団の女兵士。
「ネクベトのケペシュ」と呼ばれる鎌型の剣を使いこなす、イシスナイト。
ナプトレーマ王国の兵士ではあるが、王国の北にあるサフクラント公国の出身。
ナプトレーマ王国内でサフクラントの前大公の孫娘シェルージェを見かけた人物。
○イルビーツ・サウロザーン(男・35歳)
・ダールファン王国東部の騎士団を束ねる副騎士団長(三人いる副騎士団長の一人)。
行方不明になっていたシェルージェの捜索に協力するため、クレードや兵士たちと共にダールファン王国の東の国ナプトレーマ王国へとやって来た。
魔力により魔法のランプを使うことができ、魔神ラジャナーンを呼び出せる。
<名前のみの登場>
△キャプテン・ゼベルク(男・享年80歳)
・ロイズデンと手を組んでいた元海賊の頭。故人。
「黒鰐の舶刀」という舶刀「カットラス」を武器にしていたが、譲り受けたロイズデンは自分が持っていた「スカラベのケペシュ」、シェルージェへの手紙と一緒にこれを置いていった。
シェルージェを通じ「黒鰐の舶刀」を手に入れたクレード一行だが、船刀はいずれ仲間になる者のために取っておくことにした。
△アリムバルダ・モルジノス(男・58歳)
・ダールファン王国騎士団団長。イルビーツの上司。
△セーヤ・ダルファンダニア(男・25歳)
・ダールファン王国の王子で、「魔法の絨毯」を乗りこなす。
ケルビニアン暦2050K年6月20日。
国王の待つアブジンベルノン神殿(※3)へ向かうクレードやシェルージェたち。
クレードやアンシーたちは自分たちの駱駝車にやって来たクリスターク・イエローのシェルージェに自己紹介をし、彼女に「イエロークォーツナイフ」を渡すなどした。
そしてシェルージェが世話になった、元騎士団員で元盗賊のお頭、ロイズデンのことを話し始めた。
ホヅミ「それにしてもぉ、盗賊のお頭さんもぉ、騎士団を辞めちゃうなんてぇもったいないですぅ」
シェルージェ「お頭はお頭で、あの時はいろいろ悩んでたみたいなんだよ」
「まあ結局、騎士団が所有する名剣「スカラベのケペシュ」を勝手に持って逃げちゃったんだけどさあ」
「シェルージェ、前にその時の事、お頭に聞いたよぉ」
クレード「俺も昨日の夜ネフェルーグ騎士団長から少し聞いたんだが、ロイズデンの頭は13年前に騎士団から姿を消したらしいな」
シェルージェ「じゅうさん?」
「えっと…それって1と3の組み合わせだったけ?」
アンシー「えっ?何?」
リンカ「まあそうだべが、なすて(※4)姫様は13をそった(※4)風に言うだ?」
シェルージェ「いやあ、シェルージェおバカだから数字とか全然ダメなんだよぉ」
「シェルージェ、0から9までしか数字覚えられないよぉ」
「だからシェルージェ、9よりも数が多いときは「いっぱい」って答えるんだ」
クレード(小声)「(もしかして、こいつ…)」
アンシー(小声)「(壊滅的に頭が悪いわけ!?)」
ここでアンシーがシェルージェに、
アンシー「ひ、姫様、大変失礼ですが、1+1はおいくつでしょうか?」
シェルージェ「えっ、1+1!?」
「えっとねぇ…」
「お指が一本、二本…」
シェルージェは自分の手の指を使って1+1を計算し始めた。そして、
シェルージェ「分かった!2だよ、2!」
リンカ「そ、それで合ってるだべが…」
シェルージェ「ふぅ…お勉強すると頭クラクラしちゃうよぉ…」
クレード「おい、シェルージェ」
「お前、その勉強をもっとやってみる気はないのか?」
シェルージェ「やだやだやだ!シェルージェ、お勉強なんて大っ嫌い!」
「算数なんかできたって全然楽しくないよ!」
「シェルージェ、勉強ばっかさせられるから家出したんだよぉ!」
ウェンディ(心の中で)「(いやあ、ウチも勉強は好きじゃないッスけど、さすがにそこまで頭が悪くなりたくねぇッス…)」
あまり勉強のできないナハグニ(心の中で)「(うーむ、姫様見てると拙者らまで考えさせられるでござるなあ…)」
アンシー(心の中で)「(彼女は元から頭が悪いわけじゃなくて、勉強をしないから学力が低すぎるのかも?)」
クレード(心の中で)「(まったく…とんだアホ娘だな…)」
沖津灘「ハッハッハッ!素直に何でも言うお姫様たい!」
ここでオリンス(沖津灘に体を押さえられながら)が、
オリンス「いいじゃないか、シェルージェちゃん!」
「勉強しないおバカな君でも俺は大好きだよ!」
「ひたすら元気なおバカ娘、そんな娘になろうよ!」
シェルージェ「ありがとう、オリンス!」
「おバカを褒めてくれたみたいで嬉しいよ!」
アンシー「何言ってるのよ、オリンス!」
「プリンセスはむしろ今すぐ勉強しなきゃダメだと思うわ!」
クレード「このままだったら公爵家の孫娘として大恥を掻くのは彼女自身だぞ」
シェルージェ「だからそうやって「公爵家の孫娘だから」とか言われるのが嫌なんだよぉ!」
リンカ「みんな、落ち着くだ!」
ホヅミ「姫様ぁ。今はぁ勉強の話よりもぉお頭のことをぉホヅミたちにぃ話してほしいですぅ」
リンカ「そうだべ。お頭がどった経緯で、名剣ば持って騎士団辞めだのか教えてほしいべ」
シェルージェ「分かったよぉ、今お話しするよぉ」
「あれは今から1と3年前の時ね…」
シェルージェは盗賊の頭だったロイズデンの過去について話し始めた。
(ここから回想シーン)
13年前(2037K年)のナプトレーマ王国。
古代の円形闘技場が残る王都のエルジェイル地区(※5)の酒場に当時王国騎士団員だったロイズデン(当時34歳)がいた。
ロイズデン「ちっ…クソったれめが…」
酒場のマスター「大丈夫かいあんた、結構飲んでるみたいだけど…」
ロイズデン「構わねぇ、今日は非番だ…」
「今の俺には酒くらいしか癒せるもんがねぇんだよ…」
酒場のマスター「まあ、こっちはちゃんとお代を払っていただければ何も言いませんが…」
ロイズデン「心配すんな…財布の中には今12万カラン(※6)くらい入ってる…」
酒を飲みながらロイズデンは考えていた。
ロイズデン(心の中で)「(騎士団が金に物を言わせ、凄腕の鍛冶屋たちに作らせた「スカラベのケペシュ」…)」
「(そいつを手にしてから心は全然穏やかじゃねぇよ…)」
「(王都の騎士団の中で俺が上手く扱えているようだから、部隊長とかも俺にケペシュを持たせてくれる…だが陰でそれを妬む奴らが多すぎるんだよ…この王都には何万と兵士たちがいるからな)」
「(「何でお前みたいな学歴が低く貧相な家に生まれた奴が上手く扱えるんだ」とか、陰で思われてよ…)」
「(俺からしたら、たまたまケペシュの魔力と俺の魔力が相性良かったから使えているだけかもしれねぇってのによ…)」
ロイズデン(声に出して)「チッ!」
苛立ちながら酒を飲むロイズデン。その時彼の後ろの席で、若い女性2人が男たちに手を掴まれ、
若い女性①「離してください!お願いします!」
男①「おう、姉ちゃんたち。俺たちゃ闘技場での賭けに負けて今イライラしてんだよ」
男②「だから俺たちと少し付き合ってくんねぇかな」
若い女性②「私たちちょっと飲みに来ただけなんです!見逃してください!」
男③「固い事言うなよ、楽しくいこうじゃねぇか」
女性たちの声を聞いてロイズデンが立ち上がった。男たちの前に近づき、
ロイズデン「おい、その娘さんたちを放してやりな」
男④「なんだテメェは!俺たちに指図する気か!」
「ああっ!」
ロイズデン「俺が気に食わないんなら、相手になってやる。先に店の外に出てろ」
男③「いい度胸だな。その喧嘩買ってやるから逃げ出すんじゃねぇぞ」
若い女性①「あっ…」
男たちは若い女性たちの手を放した。
ロイズデン「マスターに酒代とかを払いてぇからな。終わったらすぐに来てやるよ」
男②「ハッハッハッ!だったら財布の中は多めに残しておくんだな!」
「俺たちに命乞いする分としてな!」
4人の男たちは先に酒場を出た。
そしてロイズデンは酒場のマスターに、
ロイズデン「騒がせたな、マスター」
「ほらよ、酒代だ」
ロイズデンは7万カラン支払った。
酒場のマスター「あんた、それなりに飲んだが、ここまでの額はいってないぞ…」
ロイズデン「騒がせちまった詫びだ」
「釣りはいらねぇからとっておきな」
続いてロイズデンは若い女性たちに、
ロイズデン「酒場にはああいう荒くれ者たちも多い」
「安全に酒を楽しみたきゃお家で飲みな」
若い女性①「すいません、助けていただいて…」
ロイズデン「まあ今日はもうしょうがねぇさ」
ロイズデン「ほらよ、5万カランだ。これで酒でもジュースでも好きなの飲んでさっきのことは忘れてくれ」
若い女性②「そ、そんな!お金なんていただけませんよ!」
ロイズデン「怖い思いをさせちまった詫びだ」
「2人で5万じゃ物足りないかもしれねぇが、それで俺の財布もほとんど空になるんだ。勘弁してくれ」
若い女性たちに金を渡すと、ロイズデンは酒場を出た。
そして人けのない路地裏にいた男たちの前で、
ロイズデン「待たせたな。今相手してやるよ」
男①「よく表口から堂々と出てきたじゃねぇか」
「俺は裏口からこっそり逃げちまったのかと思ったよ」
男②「まあ、どこに逃げようがしつこく追い回すつもりだったがな」
ロイズデン「王都騎士団所属ロイズデン・ギナデルク、相手になってやる…」
男③「何っ!?テメェ騎士団員か!?」
ロイズデン「生憎今日は非番なんでな…」
「好きなだけ酒を飲ませてもらった!」
そう言ってロイズデンは男の一人を思いっきり殴った。
男④(殴られて)「ぐわっ!」
男③「おい、しっかりしろ!」
男④は倒れた。
男①「テメェ!騎士団員だからって勝てると思うなよ!」
男②「こうなりゃ遠慮はいらねぇ!」
男②はナイフを取り出しロイズデンを刺そうとしたが、ロイズデンはナイフをかわし、男を殴った。
男②「うおっ!?」
男②は倒れた。
男①「コノヤローがっ!」
男①は全力で殴りかかってきたが、ロイズデンは男の拳をかわし、蹴りで反撃した。
男①「あ…ぐっ…」
ロイズデンの蹴りを食らい男①は倒れた。
そして残った男③は勝てないと分かり逃げ出した。
男③「くそっ!覚えてやがれ!」
ロイズデン「覚えてやがれ?違ぇだろ」
「二度と俺の前に顔を出すんじゃねぇよ」
男③「ひいっ!」
睨みつけるロイズデン、男③はビビりながら逃げて行った。
男①(倒れている)「ぐっ…ぐが…」
ロイズデン「やれやれ…こんなとこ他の騎士団員に見られたら俺は傷害罪で捕まるな…」
その時ロイズデンの前に別の男たちがやって来た。
別のグループの男①「あんた、大したもんだな」
別のグループの男②「男たちの叫び声がチラッと聞こえたんでな。こっちまで来たわけよ」
別のグループの男①「全部じゃないがあんたの戦いぶりは離れた所から見させてもらった」
別のグループの男②「かなりの強さだったな。俺たちとこれから行動してほしいくらいだ」
ロイズデン「なんだテメェらは?」
「こいつらとは別の奴らか?」
男②(倒れている)「うっ…」
別のグループの男①「俺たちは町に忍び込んだ盗賊だ」
「そんな特技のないチンピラどもと一緒にしないでくれよ」
ロイズデン「盗賊か…一体俺に何の用だ?」
別のグループの男②「俺たち盗賊の仲間になってくれねぇか?つわものとしてあんたをスカウトしたい」
ロイズデン「バカかテメェらは。俺は騎士団員だぜ」
別のグループの男①「誰だろうと構わねぇ、仲間にしてぇ奴は仲間にしてぇんだよ」
ロイズデン「俺は今日非番だが、兵士の規則でテメェらを盗賊としてここで捕らえることもできるんだぜ」
別のグループの男②「あんたは俺たちにそんなことはしない。俺には分かる」
ロイズデン「分かったような口を聞いてんじゃねぇよ」
別のグループの男①「まあとにかく落ち着いてくれ」
「仲間になるかどうかの答えは今すぐ出さなくてもいいからさあ」
別のグループの男②「たがもし仲間になってくれんなら、明日の夜10時頃この地区にあるオリーブ広場まで来てくれ」
「広場には貴重な魔法時計もある。時間も分かる」
ロイズデン「その頃には騎士団の任務も終わってるが、そこに来る気なんてねぇよ。さっさと俺の前から消えてくれ…」
別のグループの男①「いや、俺は期待させてもらうぜ。あんたは必ず来るだろうからな」
ロイズデン「なんで、そう言い切れんだよ…」
別のグループの男②「あんたに大きな苛立ちを感じるからだよ。まあ騎士団やってるストレスなんだと思うがな」
ロイズデン「テ、テメェら!?」
別のグループの男①「あばよ。俺たちはもう行くぜ」
別のグループの男②「騎士団での堅っ苦しい生活は終わりにして、自由に楽しくやろうや」
盗賊の男たちは去って行った。
そしてロイズデンは、
ロイズデン(心の中で)「(盗賊ごときに心を見透かされるとはな…)」
ロイズデンは独身の兵士たちが寝泊りする宿舎に帰ってきた。だが宿舎の入り口で、
ナプトレーマ兵①(宿舎の門番)「おい、酒臭いぞ。また何杯も飲んで帰ってきたな」
「いくら非番とはいえ、ほどほどにしてほしいものだな」
ロイズデン「チッ!」
宿舎内の自分の部屋に戻ったロイズデン。そこで彼は、
ロイズデン(心の中で)「(堅っ苦しい生活を捨てて、自由にか…)」
「(お袋も亡くなった今、俺はどう生きる…)」
(※後編へ続きます)




