第17話 その名は「宝石の輝士団 クリスタルナンバーズ」
17話目です。仲間に加わったアンシーとリンカをよろしくお願いします。
サブタイトル通り、今回はこの作品のタイトル、主人公たちのチーム名に関する話もあります。
<主な登場人物の紹介>
<クレード一行 計10人>
◎クレード・ロインスタイト(男・?歳)
・青色の髪をしている本作の主人公である魔法剣士。
持っている剣の名は「魔蒼剣」、盾の名は「アイオライトの盾」。
魔法の宝石グラン・サファイアにより、クリスターク・ブルーに変身できる。
自分の出身地や年齢など、過去の記憶をいろいろなくしている。
◎アンシー・ヒズバイドン(女・22歳)
・白い髪(髪型はショートヘア)をしている新人音楽家。
容姿は、2本の羽がついた大きめの帽子を被り、丈の短いピンクのマントを身に着け、白多めの上着に、水色のスカートを穿いている。水色のソックスに、白多めのブーツを履いている。また腰に小さな宝石を紐で繋いだ飾りをつけている。
武器はハープと鞭。ハープの名は「ホワイトコーラルハープ」、鞭の名は「真珠貝の鞭」。
魔法の宝石グラン・ホワイトパールにより、クリスターク・ホワイトに変身できる。
○ナハグニ・按司里(男・31歳)
・ワトニカ将国リュウキュウ藩出身の侍。自称、うちなー侍。
日本の世界遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」(文化遺産 2000年登録)からイメージしたキャラ。
○ウェンディ・京藤院(女・20歳)
・洋風な名前だがワトニカ将国キョウノミヤ藩出身。柔道家。
日本の世界遺産「古都京都の文化財」(文化遺産 1994年登録)からイメージしたキャラ。
○ホヅミ・鶴野浦(女・22歳)
・ワトニカ将国サド藩出身の女流棋士。
日本の暫定リスト掲載物件「金を中心とする佐渡鉱山の遺産群」からイメージしたキャラ。
○千巌坊(男・39歳)
・ワトニカ将国キノクニ藩出身の僧(坊主、お坊さん)。
日本の世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」(文化遺産 2004年登録)からイメージしたキャラ。
○リンカ・白鳥森(女・22歳)
・津軽三味線を弾く新人音楽家。
日本の世界遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」(文化遺産 2021年登録)からイメージしたキャラ。
(別行動中の仲間たち)
△オリンス・バルブランタ(男・29歳)
・騎士(騎兵)。魔法の宝石グラン・エメラルドにより、クリスターク・グリーンに変身できる。
△鵺洸丸(男・30歳)
・忍者。
日本の世界遺産「小笠原諸島」(自然遺産 2011年登録)からイメージしたキャラ。
△ススキ(女・22歳)
・新人くノ一。
<その他人物>
☆◎シェルージェ・クランペリノ(女・18歳)
・黄色い髪をしている女の子。
貴族の国サフクラント公国の前大公の孫娘だが、なぜか南のナプトレーマ王国(※1)で目撃されるなど、いろいろと訳ありの人物。
誕生日は11月3日。
この物語における重要人物の一人。
○アリムバルダ・モルジノス(男・58歳)
・ダールファン王国騎士団団長。
○イルビーツ・サウロザーン(男・35歳)
・ダールファン王国東部の騎士団を束ねる副騎士団長(三人いる副騎士団長の一人)。
☆○ロイズデン・ギナデルク(男・47歳)
・ナプトレーマ王国で暗躍する盗賊団の頭。
誕生日は1月24日。
(☆:新キャラ)
(名前のみ登場する人物たち)
△セーヤ・ダルファンダニア(男・25歳)
・国王の息子で、ダールファン王国の王子。
△ヴェルトン・リオロッグ(男・150歳)
・魔法道具学を専攻するアイルクリート第一魔法大学の元名誉教授であり、魔法武装組織メタルクロノスの元一員。通称、ヴェルトン博士。
クレードにとっては恩人であり、ルスモーン島(※2)に流れ着いた彼を手当てし、過去の記憶の多くをなくしてしまった彼にいろいろと知識を教えた。
クリスタークの戦士に変身することができるようになる重要アイテム、「グラン・ジェムストーン」を開発した人物でもある。
△キャプテン・ゼベルク(男・享年80歳)
・ナプトレーマ王国近海を縄張りとしていた海賊の頭だったが、半年ほど前病により亡くなった。
キャプテン・ゼベルクの名は海賊としての名前であり、彼の本名ではない。
「黒鰐の舶刀」という舶刀を武器にしていた。
ケルビニアン暦2050K年6月3日。
大河サパルダース川を船で進み、ダールファン王国の東部ボスラダールの町(※3)に向かったクレードやアリムバルダ騎士団長。町の船着き場でイルビーツ副騎士団長と会い、彼から、サフクラント公国の前大公の孫娘シェルージェ・クランペリノに関する話を聞いた。
イルビーツによると、ナプトレーマ国内にてシェルージェらしき女性を当国の騎士団員が目撃したとのことである。
「なぜ前大公の孫娘が異国にいたのか?」、
「ナプトレーマの兵士たちは事情を知らないことから、シェルージェは王族との交流など公的な目的で国に来たわけではないはず。ならばなぜナプトレーマに彼女がいたのか?」、
「シェルージェは実は行方不明になっていたのかもしれない。だとすれば祖父の前大公はその件を公表した様子がない。一体なぜ?大事な孫娘だというのに…」、
いろいろと思ったイルビーツは真相を確かめるため、そして目撃されたがまだ保護されていないシェルージェの捜索に協力したいということで、自身とダールファン王国東部の騎士団をナプトレーマに向かわせてほしいとアリムバルダに頼み、
イルビーツ「お願いいたします!騎士団長!我々もシェルージェ様の捜索に協力させてください!」
アリムバルダは少し考えたが、口を開き、
アリムバルダ「分かった…」
「イルビーツよ、対応を頼む…」
イルビーツ「騎士団長…ありがとうございます…」
イルビーツ副騎士団長はアリムバルダ騎士団長に頭を下げた。
アリムバルダ「しかしシェルージェ様らしき女性を目撃したナプトレーマの兵士もよく彼女だと思えたな」
イルビーツ「なんでもその兵士はサフクラントの出身だったらしいです」
「だから前大公の孫娘であるシェルージェ様のお顔も分かっていたようで…」
アリムバルダ「まあとにかく我々も真相を確かめたいものだ」
「どのような事情があろうとも、貴族の国サフクラント公国のクランペリノ家といえば、ムーンリアス全土で名の知れた名門公爵家なのだからな」
ここでクレードが、
クレード「そんなに名の知れた家系なのか?」
「まあ確かにヴェルトン博士もサフクラントの話をしたとき、そのクランペリノ家のことを言ってはいたがな…」
イルビーツ「ムーンリアスでは歴史や地理の授業に出てくるほどの名家です」
「貴族が治める国サフクラント公国は、サフクランドス家・クランペリノ家・バルデンベイル家の三大公爵家によって成り立っているといっても過言ではありません」
クレード「なるほどな。そう考えると、クランペリノ家のシェルージェ様は一国の姫君や王族みたいな立場だな」
イルビーツ「だからこそ我々も彼女を探すための手伝いがしたいのですよ」
「それだけ高貴な方であれば放っておきたいとは思えません…」
アンシー「イルビーツさんのように思ったからオリンスたちは、ナプトレーマに向かったわけですね」
イルビーツ「オリンス殿たちは旅人ゆえ自由に行動できますが、私はこのダールファン王国騎士団の副騎士団長…」
「国王様や騎士団長のお許しがなければ他国へは遠征できないのです…」
アリムバルダ「そう考えれば騎士団長の私がここへ来た意味があったな」
ここでアリムバルダ騎士団長が、
アリムバルダ「イルビーツよ、遠征に必要な兵や物資等を直ちに手配し、明日にはナプトレーマに向けて出発してくれ」
イルビーツ「ハッ!」
続いてアリムバルダはクレードやアンシーたちに、
アリムバルダ「そなたらはこれからどうするおつもりですかな?」
「旅の目的地の一つであるアイルローマ市(※4)は、ここから北へ進めばたどり着きますが」
クレード「ナプトレーマは訪問する予定のない国だったが、仲間であるオリンスたちがそこに向かった以上、俺たちも行かなければならないだろう」
「それにサフクラントのクランペリノ家の話は俺も博士から少し聞いているしな」
「博士が言うほどの名家のお嬢様であれば、捜索に協力しても良いと思う」
アンシー「私も同じです。そこまで聞いた以上、シェルージェ様を放っておくわけにはいきません!」
ナハグニ「うむ!女子を助けてこそ真の侍でござるよ!」
ウェンディ「押忍!めっちゃすごいお嬢様なら尚の事ッス!」
ホヅミ「ホヅミたちにぃお任せですぅ」
千巌坊「人助けは、神の道、仏の道…」
リンカ「サフクラントの人たち、きっとシェルージェ様のことを心配しているはずだ…」
「おらたちも力になりてぇだ」
アリムバルダ「左様ですか…クレード殿たちに心より感謝いたします」
イルビーツ「皆様がご一緒なら私も大変心強いですよ」
アリムバルダ「私はこの国の騎士団長故、余程の事体ではない限りこの国から離れることはできない」
「イルビーツ、そしてクレード殿たちよ」
「シェルージェ様のことをよろしく頼むぞ」
イルビーツ「お任せください、騎士団長!このイルビーツ、シェルージェ様のため、他国のため、全身全霊の思いで事に当たります!」
クレード「魔獣と戦うだけの俺たちじゃない」
「それ以外でも人助けができるのなら、やってみるさ」
アンシー「アリムバルダ騎士団長!どうか私たちに期待してください!」
アリムバルダ「分かりました。そなたらを信じましょう」
続いてイルビーツ副騎士団長からクレードたちに、
イルビーツ「それでは我々ダールファン王国騎士団は、これより遠征のための準備に入りますので、クレード殿たちは、今日はもうゆっくりしてください」
「出発は明日の朝の予定です。それまでは町を観光していただいても構いませんよ」
クレード「俺たちは明日の朝まで自由行動していいわけか?」
イルビーツ「夜になったら船着き場の砦に来てください」
「砦に泊まっていただき、明日、私や兵たちと共に出発していただきたい」
アンシー「分かりました。夜には砦へ行きますので」
イルビーツ「食事なども外で食べていただいて結構です」
「時間が許す限りゆっくりしていってください」
ナハグニ「イルビーツ殿!ご厚意に感謝するでござる!」
クレードたちはボスラダールの町の中心街へ向かい、観光案内板を見た。
クレード「この町の名所は、劇場・浴場・聖堂とかだな」
アンシー「だったら劇場にはぜひ行きたいわね!」
「コンサートをやっているかもしれないし!」
リンカ「劇場ももちろんだべが、おらは浴場も行きてぇだ!」
「サンナイ藩の人間はみんなお風呂が大好きだ!」
千巌坊「私はやはり聖堂へ行きたい…」
「聖職者の一人として礼拝せねば…」
クレード「なら回る順番は、最初に劇場、次に浴場、最後に聖堂でいいか」
アンシー「一通り回ったら食事を食べて砦に向かいましょう」
ホヅミ「それにしてもぉ、ナハグニさんはぁさっさと一人でぇどっか行っちゃいましたねぇ」
ウェンディ「押忍!どうせ遊郭みたいないかがわしい店にでも行ってるッス!」
リンカ「ふ、不潔!」
クレードたちは劇場へ行き、ちょうど開かれていたコンサートを鑑賞した。
コンサートでは地元ダールファン王国の伝統的な楽器が用いられ、アンシーやリンカはそれらの楽器による音楽を聴いて、
アンシー(心の中で)「(竪琴、ハープとはまた音が違うけど、カーヌーン(※5)は撥弦楽器ってわけね)」
リンカ(心の中で)「(ラバーブ(※5)はヴァイオリン、ウード(※5)はマンドリンみてぇな楽器だな…)」
コンサートが終わりクレードはアンシーたちに、
クレード「この町のコンサートはどうだった?」
アンシー「良いに決まってるじゃない!地域性がよく出ていて、まさに砂漠の国の音楽って感じだったわ!」
「ウインベルクの音楽とはまた違うものを聴けて、私は大満足よ!」
リンカ「ラバーブ、ウード、カーヌーン、太鼓みてぇなダラブッカ(※5)に、タンバリンみてぇなリック(※5)、おら、これらの楽器を初めて見ただ」
アンシー「私にとっても初めての音だったし、すごく参考になったわ!」
リンカ「アンシー、今日見た楽器のことはよく覚えておくだ」
アンシー「そうね。砦に着いたら自分のノートに書いておくわ」
「私は世界の楽器を紹介する本を持っているけど、自分で実際に見たことや聴いた音とかはちゃんと記録しておきたいしね」
続いて、
アンシー「次はナプトレーマに行くのよね!またそこでも新しい音を聴いてみたいわ!」
「世界にはいろいろな楽器がある。旅を通じてどんどん知っていきたいわ!」
クレード(心の中で)「(まあ、アンシーやリンカが満足してくれて何よりだ…)」
劇場から浴場に向かう一行。
その途中楽器屋を見つけ、
アンシー「あら、商店街に楽器屋さんがあるわ」
「ちょっと寄っていってもいいかしら?」
クレード「まあまだ時間に余裕はあるし、別にいいぞ」
アンシー「それじゃあ見にいってくるわね」
「いきましょう、リンカ」
リンカ「んだ。行くだ」
しかしウェンディは、
ウェンディ「楽器屋ッスか」
「さっきコンサートを聴いたんッスけど、ウチはそこまで音楽や楽器に興味ねぇッス」
「申し訳ねぇッスけど、ウチは近くの屋台にでも寄ってるッス」
ホヅミ「それじゃあホヅミもぉウェンディさんにぃついて行くですぅ」
ウェンディとホヅミは一旦別行動をすることに。
そして、クレード・アンシー・千巌坊・リンカたち4人は楽器屋に入り、
店主のおばちゃん「あら、いらっしゃい」
「うちの店では、この国伝統の楽器を多く扱っているわよ」
「いろいろ見ていってね」
店主に勧められ、店内の楽器を見て回るアンシーたち、
アンシー「ラバーブ・ウード・カーヌーン・ダラブッカ・リック…さっきコンサートで見た楽器がたくさんあるわね」
「もう一度実物を見れて良かったわ」
リンカ「馬車に積める荷物の量には限りがあるだ。買って持ってけねぇから、今のうちによく見とくだ」
一方千巌坊は別の楽器を見て、
千巌坊「ナイ(※5)もしくはネイなどと呼ばれる楽器は葦で作った笛か…」
クレード「千巌坊、お前も音楽に興味があるのか。意外だな」
千巌坊「ワトニカの虚無僧たちは尺八を吹くからな…」
「私も笛などには関心があるのだ…」
クレード「虚無僧?」
「同じ坊さんでもお前とはまた違うわけか?」
千巌坊「宗派の違いなど、そこはいろいろと事情があるのだ…」
店内を一通り見て回ったアンシーとリンカ、そして、
リンカ「どうするだ、アンシー」
「もう店を出るだか?」
アンシー「でも何も買わないで出るのもお店の人に悪いわ」
そしてアンシーは、店主と話し、
アンシー「おばさま、何か変わった楽器はありませんか?」
「もしあれば私にも見せていただきたいのですが」
店主のおばちゃん「変わった楽器ねぇ…」
「それじゃあこの「ルゥルゥのオカリナ」はどうかしら?」
店主はオカリナを取り出し、アンシーとリンカたちに見せた。
店主のおばちゃん「お嬢ちゃん、白くてきれいな髪だから、真珠をモチーフにしたこのオカリナなんか似合うんじゃないかしら」
アンシー「わあ、素敵!真珠のオカリナだなんて、まるで私のための楽器みたいじゃない!」
リンカ「白いオカリナだけど、時折虹色に光ってたんげ(※6)きれいだ!」
店主のおばちゃん「「ルゥルゥ(※7)」っていうのはこの国では真珠を意味する言葉なの」
「真珠の産地であるダールファンだからこそ作れるオカリナね」
「でも数の少ない貴重品なのよ」
アンシー「おばさま!このオカリナ、ぜひ買わせてください!」
「おいくらですか!」
店主のおばちゃん「悪いけどこれは結構高いわよ」
「33万カラン(※8)、払えるかしら?」
アンシー「大丈夫です!それくらいはお財布にありますから!」
店主のおばちゃん「あらあら、お嬢さんはお金持ちね」
「羨ましいわ」
アンシー「まあ魔獣たちをたくさん倒してきましたから…」
オカリナを衝動買いしようとするアンシー。しかしリンカが、
リンカ「アンシー、少し落ち着くだ!」
「買ってもいいけど、アンシーはオカリナを上手く吹けるだか?」
アンシー「あ!?」
「そうよね…私ハープ(竪琴)一筋だったから、オカリナを吹いたことなんて一度もないわ…」
しかしここで店主が、
店主のおばちゃん「お嬢ちゃんたち、ここは楽器屋よ」
「オカリナの吹き方を書いた教本くらい売っているわよ」
リンカ「それはありがたいだ。すごく助かるだ」
アンシー「そうね。教本さえあれば、あとは練習して…」
店主のおばちゃん「本代は別に3000カランかかるけど」
アンシー「だったら一緒に買わせてください」
アンシーは自分の財布から33万3千カランを出し、「ルゥルゥのオカリナ」とオカリナの教本を購入した。
買い物を済ませ、クレードやアンシーたちは楽器屋を出た。
そして、
クレード「いい楽器を買えたみたいだな、アンシー」
アンシー「店の人から他にも聞いたんだけど、この「ルゥルゥのオカリナ」って、魔力が宿った楽器みたいなの」
「上手く吹くことができれば、怒りの感情を鎮めたり、心に癒しを与えたりすることができるらしいの」
千巌坊「人々に癒安や安らぎを与えられる楽器か…」
アンシー「もしかしたらこのオカリナもこの先役に立つかもれしない…」
「だから私は教本を読んで、たくさん練習してみるわ」
リンカ「アンシー、その意気だ」
クレード「ハープ以外の楽器も使いこなせば力になるかもしれない」
「自分の思った通りにやってみろ、アンシー」
アンシー「任せてよ。これからはハープだけじゃなくて、オカリナも上手くなってみせるから」
そして屋台などに行っていたウェンディとホヅミたちとも合流し、
ウェンディ「押忍!ルゲマート(※9)っていう丸いドーナツみたいなお菓子を買ったッス!」
「みんなで食べてみるッス!」
ホヅミ「ナツメヤシのぉ蜜がぁかかっててぇ、甘くて美味しそうですぅ」
リンカ「ええ、でもこれから夕飯を食べるだよ…」
アンシー「ちょっとくらいは良いんじゃないの」
「一旦おやつにしましょうよ、リンカ」
おやつを食べ、ちょっと一休みをしたアンシーやリンカたちは、その後浴場へと行った。
女湯では、
リンカ(心の中で)「(はぁ…お風呂、最高だ…)」
リンカはお湯に浸かり、すごくまったりしていた。
アンシー(心の中で)「(幸せそうな顔をしているわ。リンカ、本当にお風呂が好きなのね)」
続いて聖堂へ行き、クレードや千巌坊たちはお祈りをし、その後飲食店で食事をした。
日も暮れて砦に向かう途中、彼らはダールファンで食べた料理の話をしていた。
クレード「ホブズ(※9)っていうこの国のパンは美味かったな」
「チーズと一緒に食うと最高だった」
アンシー「私は前菜で食べたホンモス(※9)が美味しいと思ったわ」
「ひよこ豆の味がよく出ていたわよ」
ウェンディ「この国ではケバブのことをカバーブ(※9)と呼んでたッスが、とにかく美味かったッス!」
「じっくり焼いた羊肉は最高だったッス!」
ホヅミ「ホヅミぃ、お酒飲んじゃいましたぁ」
「ナツメヤシやぁ葡萄をぉ発酵させたぁ、蒸留酒のアラック(※9)の味はぁフルーティーでしたぁ」
千巌坊「私はタッブーレ(※9)やファットゥーシュ(※9)が良かった…」
「精進料理を好む私にとって野菜の多いサラダは実にありがたい…」
リンカ「おらはリモナナ(※9)が良かっただ」
「レモンとミントの爽やかなジュースだっただ」
船着き場の砦にたどり着いたクレードたち6人。6人は砦の休憩室でくつろいでいたが、ナハグニもそこにやって来て、
ナハグニ(すごく清々しい顔で)「いやあ、女子たちと楽しき時間を過ごせたでござるよ!」
「実にあっぱれ!」
そんなナハグニを見てリンカは、
リンカ「ナハグニさん…な(※6)は、いかがわしい店に行ってただか…?」 ゴゴゴゴ…
ナハグニ「これはリンカ殿、どうしたでござるか?」
リンカ「そった(※6)店に行ってぎだのかと、おらは聞いているだ…」 ゴゴゴゴ…
ナハグニ「いやいやリンカ殿、拙者も三十のいい大人でござるぞ」
「店に入り女子たちと遊んでも別に…」
リンカ「ふ、不潔だっ!」
「不潔!不潔!不潔!」
リンカはそう言いながらナハグニを箒で叩いた。
ナハグニ「リ、リンカ殿、落ち着いてくだされ!」
「というかその箒、砦のものでござるぞ!」
リンカ「不潔!不潔!」
その様子を見ていたクレードたちは、
ウェンディ「押忍!リンカさん急に激しくなったッス!」
アンシー(少し顔を赤くしながら)「そ、その、リンカはエッチな話とかにかなり敏感だから…」
「リンカの中では恋愛の好きは良いみたいなんだけど、その先まで行けないっていうか…」
クレード「まあナハグニと比べたら、かなり心がきれいってことだろ?」
アンシー「そういう感じかしらね…」
「?」
アンシーはクレードの言葉に違和感を覚え、彼に、
アンシー「ていうか、クレード!」
「あんた記憶を失っているのに「その先」の意味分かってるの!?」
クレード「ヴェルトン博士から性教育ということで聞いた」
「だからルスカンティア本土に来る前から俺は知っていたよ」
アンシー「なんで博士はそんな事まで教えるのよ!」
「別に急いでする話じゃないでしょうが!」
クレード「ならば公衆の面前で子供の作り方を堂々と聞いてもいいというのか?」
アンシー「そ、それは!?」
クレード「まあ150歳のヴェルトン博士も童貞らしいがな」
アンシー「誰も聞いてないわよ!」
千巌坊「二人とも、痴話喧嘩はそこまでだ…」
アンシー「誰が痴話喧嘩よ!」
ホヅミ「だってぇ、クレードさんとぉアンシーさんのぉ二人ってぇ、彼氏と彼女にしか見えないですよぉ」
アンシー(顔が赤くなって)「何言ってるのよ!私たちはそんなんじゃ…」
クレード「だから俺に恋人とかがいなかったら、お前を彼女にしてやってもいいと言っているだろ」
アンシー(顔が赤くなって)「あんたは黙ってなさいよ!」
一方リンカとナハグニは、
リンカ「不潔!不潔!不潔ぅ!」
そう言ってリンカはナハグニを叩き続けるが、
ナハグニ「リンカ殿!」
ナハグニはリンカから箒を取り上げ、
ナハグニ「リンカ殿!拙者を許せぬというなら、箒ではなくその美しき手で拙者を直接叩いてくだされ!」
リンカ「なっ!?」
ナハグニ「うちなー侍、ナハグニ・按司里!逃げも隠れもせぬ!」
「さあ拙者の体にお手を!」
リンカ(叫び声)「いやーっ!変態ぃぃ!」
ウェンディ(怒りながら)「ナハグニ!いい加減にするッス!」
若者たちの夜は過ぎていった。
翌朝(6月4日の朝)クレードたちは砦を出て、サパルダース川の船着き場へと向かった。
クレードやイルビーツ副騎士団長、遠征するダールファンの兵士たちはアリムバルダ騎士団長にあいさつし、
アリムバルダ「ナプトレーマではよろしく頼むぞ」
イルビーツ「ハッ!シェルージェ様の捜索に協力し、その真相を確かめて参ります!」
アリムバルダ「イルビーツ、副騎士団長であるそなたが同行していれば必要ないかもしれないが、一応騎士団長の私からナプトレーマの国王様宛てに紹介状を書いた」
「国王など国の元首たちが書く紹介状ほど権限はないだろうが、向こうの国の方々に見せても良いであろう」
イルビーツ「騎士団長、紹介状を書いていただき心より感謝いたします」
アリムバルダ「少しでも役に立てるのなら、私はそれで十分だ」
クレード「いろいろ世話になったな、騎士団長」
アンシー「この国で素晴らしいコンサートができたことを心より感謝いたします」
「非常勤ではありますが、ムーンマーメイド交響楽団の団員としてお礼を言わせてください」
アリムバルダ「魔獣退治、コンサート、セーヤ王子の件、こちらこそいろいろとお世話になりました」
「このアリムバルダ、クレード殿やアンシー殿たちからのご恩をこれからも大切にさせていただく」
アンシー「そう言っていただけるとこちらも嬉しいです」
イルビーツ「騎士団長、王都に戻られましたらセーヤ王子にお伝えください」
「「前を向いていただき、副騎士団長として嬉しく思います」などと」
ダールファン兵①(遠征部隊)「我々一般の兵たちも同じ想いです」
ダールファン兵②(遠征部隊)「ぜひ王子によろしくお伝えください」
アリムバルダ「分かった」
ナハグニ「それでは拙者らは行って参る」
「にふぇーでーびる(※10)。騎士団長や皆のお心遣いに感謝するでござる」
アリムバルダ「ナハグニ殿、何やら顔が腫れているようですが…」
ナハグニ「いやいや、大したことではござらんよ。どうかお気になさらず」
しかしナハグニは心の中で、
ナハグニ(心の中で)「(昨夜はリンカ殿を困らせた件で、あの後ウェンディ殿やホヅミ殿たちからも叩かれてしまったが、拙者はむしろ大満足でござるよ…)」
「(ああ…ウェンディ殿が…ホヅミ殿が…拙者の体に触れて…♡)」
にやけているナハグニを見てアリムバルダも思わず心の中で、
アリムバルダ(心の中で)「(本当に彼らに任せて大丈夫なのだろうか?)」
「(なんだか不安になってきたが…)」
何はともあれ別れのあいさつを済ませ、クレードたちやイルビーツ副騎士団長たちは船に乗った。
船は東のナプトレーマ王国の王都を目指し、サパルダースの大河を進んで行った。
そして船の一室ではクレードとアンシーの二人が話し合いをして、
アンシー「これから緑の戦士に変身するオリンスって騎士に会うのよね?」
クレード「まあ、その予定だが」
アンシー「だったら変身できる私たち3人のチーム名でも考えない?」
クレード「お前、何を言って…」
アンシー「良いじゃない。青・緑・白の戦士たちのチーム名を考えましょうよ」
クレード「俺はチーム名なんて別になくてもいいと思うが、お前がそこまで言うのなら…」
アンシー「決まりね」
続いて、
アンシー「クレード、あなたは何か思い浮かぶ?」
クレード「なら「宝石の騎士団」や「宝石の戦士団」とかでいいだろう?これからクリスタークの戦士になる奴らも含め、俺たちは宝石をモチーフにした戦士の集まりなんだしな」
アンシー「騎士団か…確かに剣士のクレードや騎士のオリンスならそれで似合うと思うけど、私は音楽家よ。あまり騎士団の一員って感じがしないわ」
「まあ、私の故郷のウインベルクならまだしも騎士団に所属している音楽家は世界的に見れば多くないはずよ」
クレード「だったら「戦士団」のほうにするか?」
「お前は音楽家だが、自分が戦士だってことは自覚しているようだしな」
アンシー「私は戦士団よりも騎士団のほうが、響きがいいと思うわ」
クレード「だが「騎士団」の名では納得しないんだろ?」
アンシー「だからそのままじゃなくて、アレンジしてみるのよ」
「騎士の「き」の字を「騎」から輝きの「輝」に変えた「宝石の輝士団」っていうのはどう?」
クレード「輝きの「輝」か、確かにその字を使ったほうが宝石の戦士らしい気がするな…」
アンシー「そう思うでしょ」
クレード「ならそれでも良いさ。俺たちのチーム名は「宝石の輝士団」としよう」
アンシー「うーん…」
クレード「どうした、まだ何かあるのか?」
アンシー「漢字ばかりで少し地味な感じがするわ…」
「だからプラスしてカタカナ、横文字っぽいのも入れてみない?」
クレード「それだと長くなるだろうが」
アンシー「良いじゃない。私たちは宝石がモチーフなんだから、その名前も派手な感じにしましょうよ」
クレード「それでどんな言葉を足すんだよ?」
アンシー「そうねえ…」
アンシーは少し考えて、
アンシー「じゃあこうしましょうよ」
「水晶の「クリスタル」、数や数字を表す「ナンバー」、複数形やチームを表す「ズ」…」
「これら三つの言葉も後ろに付けて、「宝石の輝士団 クリスタルナンバーズ」っていうのはどうよ?」
クレード「「宝石の輝士団 クリスタルナンバーズ」、まあ悪い響きじゃないな」
「俺はもうそれで良いと思うぞ」
アンシー「だったら決定ね。私たちは今から「宝石の輝士団 クリスタルナンバーズ」よ」
続いて、
アンシー「ナンバーは数字を表すから、クレードがNo.1、オリンスがNo.2、そして私がNo.3ってことになるわ」
「今は3人だけど、これからNo.4、No.5、No.6と、ナンバーズの仲間はどんどん増えていくはずだわ」
クレード「そう考えていくと、最後の奴はNo.15ってことになるな」
アンシー「でも他に未完成品のジェムストーンが3個あるのよね」
「場合によっては戦士の数は15人から18人になるんじゃない」
クレード「確かに18人になるという可能性も一応あるにはある」
「だがクリスタークの戦士を誕生させるなら、変身の元となるジェムストーンは完成品でなければならない。未完成品のままでは意味がないんだ」
アンシー「だけど魔法大学に持っていっても、未完成品が完成品となる確率は極めて低いってヴェルトン博士は言ってたんでしょ?」
クレード「ああ。だから18人の戦士が揃うとは正直俺も思えない」
「魔獣どもにメタルクロノス、俺たちはそいつら相手に15人で戦っていくことになりそうだ…」
アンシー「だったら変身できる人をあと12人見つけて、15人を確実に揃えましょうよ」
クレード「お前…」
アンシー「18人の戦士というのは、ひとまず置いておきましょう」
「まずはとにかく15人よ」
クレード「15人のナンバーズか…」
続いて、
アンシー「これからどんな宝石をモチーフにした戦士たちが誕生するのかしらね?」
クレード「そうだな」
「シトリン・ルビー・アメジスト・オパール・ムーンストーン・ガーネット・ラピスラズリ・ダイヤモンド・オニキス・アクアマリン・トパーズ・ペリドット辺りか?」
一方ナプトレーマ王国では盗賊たちがアジトで、
盗賊①「よりによってシェルージェの顔を見られちまうとはな…」
盗賊②「シェルージェらしき女がこの国にいると分かってから、ナプトレーマ王国騎士団も兵士たちをあちこちに送ってやがる」
盗賊③「見回りや警備を強化しているわけか、俺たちにとっては厄介でしかないな」
盗賊④「シェルージェの一件で北のサフクラントからも近いうちに援軍が来るだろうし、時が経てば西のダールファンからも援軍が来るかもな」
盗賊⑤「シェルージェの捜索のために各国の騎士団がこの国に集まってくるわけか…」
盗賊⑥「どうする頭、これを機に俺たちの盗賊稼業も終わりにするか?」
「同盟相手であるキャプテン・ゼベルクも亡くなっちまったしな」
盗賊⑦「80の爺さんだったが、いるといないじゃだいぶ違う」
ロイズデン(盗賊の頭)「俺たちは足を洗い、シェルージェをサフクラントに返す…」
「それが現状では一番確かな選択肢だろうな」
盗賊①「頭、だったらシェルージェも呼んで話をするか?」
ロイズデン「そうだな、悪いが部屋まで行って呼んできてくれ」
そして盗賊の一人が彼女の部屋へ行き、
盗賊②「おい、シェルージェ」
「頭がお呼びだ。一緒に来てくれ」
盗賊は彼女の部屋のドアを叩いたが、返事がなかったので仕方なく部屋に入った。
しかしシェルージェは中で昼寝していた。
シェルージェ(気持ちよさそうに寝ている)「うーん…むにゃむにゃ…」
盗賊②「やれやれ、寝てるのか…」
盗賊はロイズデンのところに戻り訳を話した。
ロイズデン「お得意のシエスタ(※昼休憩、昼寝)か。シェルージェらしいな」
盗賊②「頭、シェルージェを起こすか?」
ロイズデン「いや、別にいい。とりあえず今は寝かせてやれ」
「今のシェルージェに必要なのは安らぎとかだからな…」
一方部屋にいるシェルージェは、
シェルージェ(シエスタ中)「むにゃむにゃ…」
シェルージェ(寝言)「お母さん…お祖母ちゃん……お祖父ちゃん…」
「宝石の輝士団 クリスタルナンバーズ」というチーム名を決めたクレードとアンシー。
そして物語の舞台は、ダールファン王国からナプトレーマ王国へ。
次回へ続く。
※1…王国の名前の由来は、「ナイル川」と、古代エジプトの王朝「プトレマイオス朝」より
※2…島の名前の由来は、モーリシャスの世界遺産「ル・モーンの文化的景観」(文化遺産 2008年登録)より
※3…町の名前の由来は、シリアの世界遺産「古代都市ボスラ(or 隊商都市ボスラ)」(文化遺産 1980年登録)より
※4…市の名前の由来は、イタリアとバチカンの世界遺産「ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂」(文化遺産 1980年登録 1990年拡張)より
※5…どれも実際にあるアラビア地方などの楽器。
※6…元ネタは津軽弁など。『たんげ』は「とても」、「すごく」、『な』は「あなた」、『そった』は「そんな」などの意味。
※7…元ネタはアラビア語。『ルゥルゥ』は「真珠」の意味。
※8…「カラン」とは魔法大陸ムーンリアス全土で流通しているお金。1カランは日本円の1円とほぼ同じ価値。
※9…どれもアラブ諸国などの食べ物や飲み物。
※10…元ネタは沖縄の方言。『にふぇーでーびる』は「ありがとう」の意味。




