表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/70

第2話 ガイノアース地理学

2話目の投稿です。クリスターク・ブルーに変身できるようになったクレードや彼を手助けするヴェルトン博士のことを引き続きよろしくお願いします。

南極・郷紳・中華料理・火縄銃など、実在する場所、地位、食べ物、武器なども出てきますが、あくまでこの作品内における設定ですので、ご了承ください。


<主な登場人物の紹介>

○クレード・ロインスタイト(男・?歳)

・青色の髪をしている本作の主人公である魔法剣士。魔法の宝石グラン・サファイアにより、クリスターク・ブルーに変身する。

謎の敵たちに襲われルスモーン島に命辛々流れ着くが、以前の記憶をなくしてしまった。そのため自分が何者なのかさえ忘れてしまっている。

今回も島のロッジでヴェルトン博士といろいろ話すことになる。

三日後の3月27日に島から旅立つ予定。

○ヴェルトン・リオロッグ(男・149歳→150歳)

・ルスモーン島に滞在する賢者の博士。アイルクリート第一魔法大学の元名誉教授。専攻分野は魔法道具学。

今回クレードに惑星ガイノアースや魔法大陸ムーンリアスの地理や歴史などの話をする。

今度の3月26日が誕生日で150歳になる。

ケルビニアン暦2050K年3月24日。

ここはパルクレッタ諸島ルスカンティア王国領ルスモーン島(※1)の海辺のロッジ。

昼食後クレードは博士から地理・歴史の講義を受けていた。


ヴェルトン「ムーンリアスというのはこのガイノアースの大陸の一つにすぎん」

クレード「ガイノアース…俺たちの住む星の名前か」

ヴェルトン「正確にいうとすれば、「惑星ガイノアースのムーンリアスに住んでいる」ということだ」

 「ガイノアースの表面は約7割が海、約3割が陸だといわれている」

クレード「つまり人間や陸上の生物たちはたった3割しかない土地で生きているということか。なんか過酷に思えるぞ」

ヴェルトン「海はガイノオーシャンと呼ばれ一つに繫がっているが、陸地は4つのエリアに分けられている」

 「ムーンリアス・サンクレッセル・シューティング諸島・南極の4エリアだ」

クレード「ムーンアリス以外にも地域があるのか。3割しかない陸地でも人はちゃんと住み分けているというわけか」

ヴェルトン「ただ南極は大陸のほぼ全域が氷に覆われた極寒の極地だ。寒すぎて人が住める所ではない」

 「ガイノアースで人が住んでいるのは、ここムーンリアスにサンクレッセル、シューティング諸島の3エリアだけだと考えられているよ」

ヴェルトン(心の中で)「(尤も高度な科学技術を持つサンクレッセル連邦国なら南極にも人が住める所を造れるかもしれんが…)」


ヴェルトン「それではその3つのエリアについて今から話していこう。まずはムーンリアスからだ」

 「1つ目のエリアは魔法大陸ムーンリアス。今我々がいる西側のパルクレッタ諸島もムーンリアスに含まれている」

クレード「俺がこれから向かうのがそのムーンリアスの本土か」

ヴェルトン「ムーンリアスは北側の大陸と南側の大陸の2つから成り立っている」

 「北側の大陸と南側の大陸はそれぞれ海で隔てられており、北側から南側に行こうとすれば船で渡る必要があり、逆に南側から北側に行こうとしても海を渡る必要がある」

クレード「つまり上下にそれぞれ大陸があり、海を挟むということか」

ヴェルトン「その通り」

 「北側も南側も大陸にはそれぞれ名前があり、北側の大陸は「北の月」、南側の大陸は「南の月」とそれぞれ呼ばれている」

 「現在ムーンリアスには20の国があり、それぞれ北の月(北側の大陸)に11カ国、南の月(南側の大陸)に9カ国ある」

クレード「北に11、南に9カ国か…ではそれぞれどんな国がある?」


ヴェルトン「その前に国というものを軽く説明しよう」

 「地域があってそこに人々が住む、そして地域の中で政治や経済などの活動が行われている。それが国というものだ」

 「まあ人々が住む場所を地域ごとに区切ったというわけだ」

クレード「その区切られた地域がムーンリアスには現在20あるということか?」

ヴェルトン「国という言葉は大まかな括りさ」

 「国の中には市町村があり、その中に首都があるなど、さらに細かく分かれているよ」

 「人口の規模でいえば、市が一番大きく、村が最も少ない。町はその真ん中といったところだ」

 「まあ、ムーンリアス全土で見ても市と呼べる都市の数は町や村に比べてだいぶ少ないがな」

クレード「市・町・村、合わせて市町村というわけか…」

ヴェルトン「人口や規模などにより、都市や集落の呼ばれ方も変わるということだ」

 「そしてその中でも首都とは政治活動の中心地だ」

 「首都は王国では「王都」、帝国では「帝都」と呼ばれ、そこに国王や皇帝など国の君主が住んでいるよ」

クレード「市町村に首都…それが国というものか」

ヴェルトン「まあ、ワトニカでは藩、バンリでは省と、一部の国では地域の分け方が異なる場合もある。まあ、今からそういった具体的な話もしていこうじゃないか」


ヴェルトン「ではまずは南の月(南側の大陸)の9カ国から説明しよう。君がこれから向かうのは南の月だからな」


ヴェルトン博士は1つ目のエリアである魔法大陸ムーンリアスの話を始めた。

そして最初の国の話として、

ヴェルトン「南の1つ目の国はルスカンティア王国」

 「南の月(南側の大陸)の最南端、つまりムーンリアスで最も南にある国だ」

 「人口約2億人と、ムーンリアス全体でも5番目に人口の多い大国だ。一方で自然がとても豊かな国でもあり、広大なサバンナ地帯であるセレンゲディアの大草原(※2)やヴィクトリアルスの滝(※3)という巨大な滝などが有名だな」

 「そして今私たちがいるここルスモーン島もルスカンティア王国の領土というわけだ」

クレード「ルスカンティア王国…俺がこれから向かう国か…」

ヴェルトン「領土ということもあってか、この島から最も近いのがその国だからな」

 「だがロッジにある記録によると、ルスカンティア本土からこのルスモーン島までは航海が順調にいっても着くのに二週間程度はかかるそうだ」

 「もし君が飛ぶ、泳ぐを繰り返しても本土に着くのは6日、7日、一週間程度かかるかもな…」

クレード「やると言ったからにはもうやるさ。俺もこの島を早く出たいと思っているしな」

ヴェルトン「まあクリスターク・ブルーの飛行や泳ぎの速さであれば、帆船よりも早く本土に着けるだろう。それは間違いないと思うが」

クレード「とにかく行ってみるさ、そのルスカンティア王国にな」

ヴェルトン「私も30代や40代の頃などにルスカンティアへ行った事がある。まあその雄大な自然の景色をよく見てくるといいだろう」


ヴェルトン「では南の2つ目の国、ダールファン王国。そして南の3つ目の国、ナプトレーマ王国(※4)」

 「このダールファンとナプトレーマ、二つの国はルスカンティアの北の砂漠地帯に位置する」

 「南のルスカンティアから見れば北西にダールファン王国があり、北東にナプトレーマ王国がある」

 「どちらも砂漠の国なのだが文化が少し異なる」

 「例えばダールファンでは王族や貴族は宮殿に住んでいるが、ナプトレーマでは王は神殿に住んでいるなど、建造物からしても文化が異なっている」

 「ダールファンは華やかな印象だが、ナプトレーマは長い歴史のある国らしく古代からの文明や文化を今も重んじる風習だしな」

クレード「同じような自然環境に住んでいても文化などが異なるから別々の国になったのか?」

ヴェルトン「まあそれはあるだろうな」

 「ちなみにナプトレーマは建国5000年以上の歴史があるムーンリアス最古の国だ」

 「そしてダールファンは1200年以上前にナプトレーマから独立して生まれた。ダールファンはその後独自の文化を築いていったわけだ」

 「だが国として分かれ、お互いの文化に違いがあるものの、砂漠にある両国の関係は昔から良好だ」

クレード「まあ隣同士の国々ならお互いうまくやってほしいものだな」


ヴェルトン「では次、南の4つ目の国、サフクラント公国」

 「砂漠地帯の北東、ナプトレーマ王国の北側に位置している。ムーンリアスでは唯一貴族が治めている国で、大勢の貴族が住んでいる。そして国の君主となる貴族は大公と呼ばれる」

 「大公となる者は数ある公爵家の中から選ばれることがほとんどだが、その中でも国名の由来にもなっており、建国に大きく携わったサフクランドス家やその分家、他名門貴族の一族であるクランペリノ家やバルデンベイル家などから多く選ばれているな」

クレード「貴族…王族や皇族に次いで地位のある者たちか」

ヴェルトン「公爵こうしゃく侯爵そうろうこうしゃく・伯爵・子爵・男爵、貴族には五つの爵位があるが、中でも一番上の公爵やその家柄である公爵家の人間たちともなれば別格だ」

 「公爵家は王族や皇族と結びつきが強く血縁を結ぶ者も多い。また大臣や家臣となり王や皇帝とともに国を治めたりもできるくらい高い身分だ」

 「一方最も下の爵位である男爵や男爵家の者たちは小さな領地を治めるくらいが仕事だ」

 「まあそれでもこのサフクラントを始め王国や帝国では町や村の長は男爵が務めたりすることも多いが」

クレード「なるほどな。同じ貴族でも差はあるわけか」

ヴェルトン「庶民から見れば貴族は誰もが華やかに見えるが、実際は格差が激しいようだ」

 「だが貴族は王国や帝国にとって重要な身分だ。貴族の制度があるからこそ国として成り立っているのだからな」

 「何よりこのサフクラント公国ではその貴族あっての国なのだ」

クレード(心の中で)「(貴族か…もしかしたら俺も高貴な貴族の生まれだったりしてな…)」

 「(まあ記憶が戻らなければそれも分からないがな…)」


ヴェルトン「南の5つ目の国はベレスピアーヌ共和国」

 「サフクラントの北側、アイルクリートの東側にある美しい街並みの国だ」

 「ベレスピアーヌはサフクラントと国境を接しているわけではなく、両国の間にはアイルクリートの東部地方がある」

クレード「つまりサフクラントからベレスピアーヌに行く場合は一度アイルクリートを通るわけか」

ヴェルトン博士はベレスピアーヌ共和国の話を続け、

ヴェルトン「国の中心地はセイヌス河岸(※5)一帯で、この地区には大広場や庭園、美術館や塔などがある」

 「ポトフ・ブイヤベース・アリゴ・フォアグラ・エスカルゴ・クレームブリュレといった国の料理も美味で、私も好きだ」

 「王国などではなく共和国ということで、この国には王族や貴族といった高貴な身分が存在しない」

 「王族や貴族などに代わり民が国を治める…つまり民主的な国ということだ」

 「尤もベレスピアーヌが共和国になったのは今から260年程前で、長らくは王国、君主制だったがな」

クレード「何で王国から民主的な国に変わったんだ?」

ヴェルトン「民を弾圧し王族や貴族を絶対とする圧政などが続いたからな。革命が起き国の体制も変わったのさ」

 「まあ私の祖国アイルクリートもそんな感じで帝国から共和国へと変わっていったのだがな」

 「やはり民を弾圧するような圧政では国はうまくいかないのさ…」

クレード「その国も博士の国もいろいろ大変だったんだな…」

ヴェルトン「まあ、先人たちも苦労はしてきただろうな…」

クレード「先人たちの苦労…それがあっての今か…」

ヴェルトン「まあとにかく南の6つ目の国として、私の祖国アイルクリートの話をしよう」


ヴェルトン「アイルクリート共和国。サフクラント公国の西にある大国だ」

 「広大な国土を有し、人口は約3億人と、ムーンリアスでは4番目に多い国だ」

 「私の祖国であり魔法の研究が盛んな国でもある」

 「私が教授をしていたアイルクリート第一魔法大学も今年で創立3003年になる」

 「つまりそれくらい昔から熱心に魔法を研究している国なのさ」

クレード「魔法の国か、何だか面白そうではあるが」

ヴェルトン「君はルスカンティアに着いたら、まずはアイルクリートを目指すといいだろう」

 「魔法の研究が盛んな国だけに、「記憶魔法」といった希少な魔法が使える者もいるからな」

 「この記憶魔法であれば、記憶喪失になった君の記憶を蘇らせることができるだろう」

 「うまく事情を話せばきっと力になってくれるはずだ」

クレード「なるほど。ならばアイルクリートに行き俺の記憶を取り戻したいものだ」

ヴェルトン「記憶魔法について尋ねるのならアイルクリートの首都であるアイルベニス市(※6)で聞くのが確実だな」

 「首都だけに国のあらゆる情報が集まっている。情報を得るには一番確実だ」

 「それにちょうどこのアイルベニス市はルスカンティア王都への直通便を出している」

 「王都の港でアイルベニス市行きの船に乗れば早めに着けるとは思うが…まあ船賃もそれなりにかかるがな」

クレード「だが道中困っている人間がいたら力になるつもりだ」

 「俺の記憶よりも人の命だ」

 「魔獣どもと戦う必要があるのなら、アイルクリートへ行くことよりもそちらを優先する」

ヴェルトン「そうか…己の事よりも人助けを優先してくれるのはありがたいよ…それが今の私の想いでもあるからな…」

 「だがルスカンティアからアイルクリートまで歩きや馬車などで行くとしたら、先程話した砂漠の国を通る必要がある…」

 「大勢の人間が住んでいるとはいえ、砂漠は日中熱く、夜は冷え込む…決して過ごしやすい環境ではないからな、そこは覚悟しておいてくれよ…」

クレード「まあそれも経験の一つだ。それはそれで体験してみるさ」

ヴェルトン「だが決して無理はするなよ。熱中症などで倒れたら元も子もないからな…」

クレード「現地の人たちの話をよく聞いて対策するさ。砂漠の国だろうと魔獣どもが現れたら戦うつもりだしな」

ヴェルトン「ならばそこは信じるとしよう…」


続いてヴェルトン博士は祖国のアイルクリートについて、

ヴェルトン「ちなみに私の故郷はアイルクリートのオルドルチャ村(※7)という所だ」

 「住んでいる人間は少ないが、まるで絵に描いたような美しい風景が広がる農村地帯さ」

 「首都であるアイルベニス市からは大きく離れているので君が訪れることはないと思うが、もし村を訪れることがあったらその美しい風景を見てみるといいだろう」

クレード「美しい景色か…まあ殺風景な所よりかはいいか」


ヴェルトン「では次、南の7つ目の国、ルナウエスタン共和国だ」

 「ここはムーンリアスで最も新しい国でな。アイルクリート共和国から独立して今年で建国10年目だ」

 「アイルクリートの南西側は荒野が広がっているが、その荒野を開拓し新たな国を造ろうとした。それでできたのがルナウエスタン共和国だ」

 「しかし荒野には凶悪な魔獣が多く生息している。そこで国はガンマンと呼ばれる銃で戦う戦士たちを集め、国を守る兵士として起用した」

クレード「銃…?そういう武器もあるのか?この間の武器の話では、俺が扱うような剣、短剣、飛び道具の弓、槍や斧などのことを聞いたが」

ヴェルトン「この銃という武器は異文明の技術により生まれたものだ」

 「銃について話すと同時に異文明についても話す必要があるからな。だから銃のことは後回しにさせてもらったよ」

クレード「異文明?さっき言っていた他のエリアと関係あるのか?」

ヴェルトン「まあ異文明や他のエリアのことについては、ムーンリアスの国々を全て話した後でな」

 「だから次いくぞ」

 

ヴェルトン「南の8つ目の国はコランターム共和国」

 「先程話したベレスピアーヌ共和国の北側に位置する国だ」

 「ここもルナウエスタンと同様歴史の浅い国で、20年前に南のベレスピアーヌから独立したばかりの国だよ」

 「赤道直下の暑い国で雨が多く、国土の多くが熱帯雨林に覆われている」

 「生息する動物も多種多様で、ゴリラやボノボといった類人猿や珍獣オカピなど、この国固有の動物も多い」 


ヴェルトン「南の9つ目の国はボルムネジア王国」

 「南の月、つまり南側の大陸では最も北にある国で、コランタームの北西部、アイルクリートの北側に位置している」

 「人口は約3億8千万人と、アイルクリートよりも多くムーンリアスでも3番目に多い国だ。ラープ、バンリに次ぐ第3の大国さ」

 「コランターム同様、ここも赤道直下の暑い国で熱帯雨林が多い」

 「だがオランウータンというコランタームにはいない類人猿やアジアゾウという別種のゾウが生息しているなど、動物相が異なる」

 「国としては、貿易などにより近年経済成長を遂げている。働ける若い世代が多いこともあってな」

 「また観光も盛んで、ボルンコール・ワットの寺院遺跡(※8)やサガルマンタの山々(※9)などが名所としてよく知られているよ」

 「果物のバナナの生産も盛んで他国にも多く輸出している」


ヴェルトン「以上、ルスカンティア・ダールファン・ナプトレーマ・サフクラント・ベレスピアーヌ・アイルクリート・ルナウエスタン・コランターム・ボルムネジアの9カ国が南の月(南側の大陸)にある国々だ」


ヴェルトン「では次に北の月、北側の大陸の11カ国について話そう」


ヴェルトン「北の1つ目の国はワトニカ将国(※10)」

 「北の月(北側の大陸)の東側に位置する島国で、別名「和の国」とも呼ばれている」

 「最高権力者である将軍とその将軍に仕える武士や侍を中心とした「幕府」と呼ばれる独自の政治体制により国を治めている」

 「国を治める将軍家の名は「家川家」。約450年間、現在に至るまで家川家によりワトニカは統治されている」

 「政治の中心地としてヤマトエドという城下町を築き、ヤマトエド以外の地方は「藩」と呼び、各大名に治めさせるなど政治体制も独特なのだが、ワトニカは国の文化も大変独特でな」

 「歌舞伎・人形浄瑠璃・落語・講談・相撲・柔道・剣道・和食・和菓子・和紙・茶道・華道・将棋・和楽器・盆踊り・浮世絵・着物・畳・襖・障子・だるま等々…これらワトニカ独自の文化も少しずつではあるが他国でも知られるようになってきた」

クレード「かなり独特な文化を持った国のようだな」

ヴェルトン「だがこの国の特徴はその個性的な文化だけではない」

 「武士や侍、忍者といったワトニカ独自の戦士たちの多くはつわものとして他国に知られている」

クレード「そういった戦士たちならば一度は手合わせしたいものだが…」

ヴェルトン「大昔はバンリやチョンミョームンなどとも盛んな交流があり、大航海・大開拓の時代では他国とともに人員を送ったのだが、この国は魔獣たちの出現により長年鎖国の状態にあった」

 「だが今から105年前、1945K年に鎖国を止め開国したことで他国との交流を進めており、今は自国から他国へ渡るワトニカ人も増えてきている」

 「実際私の教え子の中にもワトニカ出身の者がいたくらいだからな」

 「だから君もこの先ワトニカ出身の者と出会う機会はそれなりにあるだろう。ワトニカ本土に行かなくてもな」


話を聞いてクレードはヴェルトン博士に質問した。

クレード「鎖国やワトニカ人の件は大体分かったが、俺は話の中に出てきた「大航海・大開拓の時代」という言葉が気になった。ムーンリアスにはそういう時代もあったか?」

ヴェルトン「それについては先程話したルナウエスタン同様、異文明や他のエリアのことと深く関係がある話だ。後でまとめて話そう」

クレード「まずは俺たちが今いるムーンリアスの話が先か」


ヴェルトン博士はさらにワトニカ将国の話を続け、

ヴェルトン「侍や忍者たちも十分に強いが、先程言った相撲や柔道といった武道に携わる者たちも同じように強いぞ」

 「柔道家も有段者となれば並の侍たちをも凌駕する力を持つし、相撲取り、力士も横綱・大関・関脇といった三役の番付の者たちは大剣豪に匹敵する強さがあるともいわれている」

クレード「なるほどな。つまりワトニカは武道も優れた国というわけか」

ヴェルトン「まあバンリ帝国の拳法などとはまた違うものだがな」

クレード「いずれにせよ文化といいつわものたちといい、面白そうな国だということはよく分かったよ」

ヴェルトン「その他ワトニカには行事や食文化など、藩によっていろいろ独自の地域性がある」

クレード「ワトニカ自体が独特な文化の国だというのに、さらにその中で地域性まであるのか…」

ヴェルトン「中でも南のリュウキュウ藩のうちなー文化と北のエゾ藩のドサンヌ文化はかなり独特だが、その話をしていると長くなるので、次の国の話をしよう」

 「まあ気になるのならそれらの文化についても後で質問してくれて構わないが」

 「私も今は亡き妻と共にリュウキュウ藩へ観光に行ったことがあるしな」

クレード(心の中で)「(南のうちなーに、北のドサンヌか…)」


ヴェルトン「では北の2つ目の国、リベルジャイル王国。北の月(北側の大陸)の北東に位置する国だ」

 「ここは「氷の国」と呼べるくらい寒い北の国でな。国土のほとんどは「タイガ」と呼ばれる針葉樹林帯に覆われている」

クレード「寒い国か…あまり行きたいとは思わんが、場合によっては立ち寄ることになるかもな…」

ヴェルトン「南極ほど寒くはないが、それでもかなり寒冷な土地だ」

 「リベルジャイルとラープ帝国の北側のエリアなどは北極点に近いことから北極圏とも呼ばれている」


ヴェルトン「では次、北の3つ目の国はバンリ帝国(※11)」

 「人口は約5億人でラープ帝国に次ぐムーンリアスの大国だ。リベルジャイルの南にあり、北の月(北側の大陸)の東側に位置する」

 「南の月(南側の大陸)のナプトレーマよりも少しだけ浅いが、国の歴史は大変古く建国して5000年以上になる」

 「国の君主は家柄などに関係なく代々「羅皇帝」と呼ばれている」

クレード「羅皇帝…それがこの国で一番上の人間か」

ヴェルトン「国の中心地である首都は帝都で、それ以外の地方は「省」と呼ばれている。そして各省は「郷紳」という、他国でいえば貴族のような高い身分の者たちがそれぞれ治めている」

クレード「省?ワトニカでいう藩のようなものか?」

ヴェルトン「そうだ。要するに地方をまとめる自治体、行政機関といったところだな」

 「まあ帝都や省以外にも「ランフォン」と「マカーレン」という特別区も一部にはあるが」

続いてヴェルトン博士はバンリ帝国について、

ヴェルトン「国の文化としては、風水・五行思想・春節・中華料理・雑技・京劇・麻雀・山水画・漢服・旗袍・漢方薬、白磁や青磁といった陶磁器等々、ワトニカとはまた違った独自の文化があり、これらも他国に知られてきている」

クレード「この国も独特な感じだな…」

ヴェルトン「そんな独特な国を守る戦士たちだが、ワトニカの武士や侍たちに対し、バンリの戦士たちは「武人」と呼ばれ、主に青龍刀を武器としているよ」

 「また先程少し触れたが、バンリは拳法が盛んな国でもあり、この国の武闘家や拳法家たちはかなりのつわものだといわれている」

クレード「そっちもそっちで面白そうな国だな。機会があれば行ってみたいものだ」


ヴェルトン「北の4つ目の国はチョンミョームン王国(※12)。バンリ帝国の南にある国だ」

 「バンリとはまた違う文化を持った国だが、バンリ同様チョンミョームンの戦士たちもまた武人と呼ばれている。彼らはワトニカの刀やバンリの青龍刀とはまた違う刀剣を武器としているよ」

 「文化としては、チョゴリやチマチョゴリなどと呼ばれる伝統的な衣服、キムチやビビンバなどといった独自の料理、マッコリという酒、テコンドーという武術などが知られている」

 「また国の王は家柄などに関係なく代々「宗韓王」と呼ばれている」

クレード「王の名は代々同じか、その辺もバンリと似ているな」

ヴェルトン「ワトニカは「和の国」とも呼ばれているが、チョンミョームンも「韓の国」という別名があり、この韓は宗韓王の韓に由来している」


ヴェルトン「では次、北の5つ目の国、ラープ帝国。北の月(北側の大陸)の中央にある大国だ」

 「約5億5千万人の人口と広大な国土などを有するムーンリアス最大の国家である」

 「自然環境や地形も平野・草原・森林・山脈・湿地帯・三角州・砂漠・氷河・ツンドラ地帯などと様々だ」

クレード「そんな多様な環境下で暮らす人間たちがすんなり一つの国になれるのか?」

 「二つに分かれている砂漠の国々や島国のワトニカとか、今までの話だと住んでいる場所や環境で文化や考え方なども変わっているようだしな」 

ヴェルトン「察しがいいな。その通りだ」

 「様々な環境で暮らす人間たちが集まっていることもあってか、国内各地では独立運動が盛んだ。そのため将来的にラープの規模は縮小していくともいわれている」

 「だが歴代の皇帝たちは独立運動に対しては消極的だ。おそらくムーンリアス最大の国家として長く君臨したいのだろうな」

 「帝国内の各地が独立すれば、国の規模はバンリにも劣ることになるだろうしな」

クレード「最大の国家を維持するために、あえて民の言葉に耳を傾けないのか」

 「そこだけ聞くとあまりいい国のようには思えんな…」

ヴェルトン「まあ国としてはアイルクリート同様魔法教育が盛んではあるが、最近は魔法よりも農業・工業・商業と各産業の発展にも力を入れているようだがな」

クレード「国を発展させようとする意思だけは一応あるわけか…各地域の独立などは認めていないようだがな」


クレードの言った事に対して、ヴェルトン博士は補足として、

ヴェルトン「尤も独立運動が盛んなのはこのラープ帝国だけではないよ」

 「先程話したバンリ帝国北部のオルボン地域(※13)やルスカンティア王国東部の島アーブヒルマン島(※14)、貴族の国サフクラント公国の南部地域などでも独立運動は起きているし、大国のボルムネジアも将来は3つの国に分かれるのではないかともいわれている」

 「農業の技術や生産性の向上、労働力の確保のため、医療環境の整備、回復魔法を使える者が増えた事などにより出生率は年々増加し、ここ数年だと毎年3千万人以上の子供が生まれている」

 「現在ムーンリアスには約30億人が住んでいるが、人口は年々増加し、今の20カ国だけでは増え続ける人口を維持しきれないといわれている」

 「だから各国の王や代表たちは遅かれ早かれ独立運動と向き合い対応しなければならん時がくるだろう…」

クレード「そうなると今後は国が増えていくということか?」

ヴェルトン「将来的には現在の20カ国から35カ国程度に増えると予想されている」

クレード「人が増えて新しい国が生まれる…まあいい事だとは思うがな」

ヴェルトン「だが人が増えればそれだけ土地も必要になる」

 「そうなれば人間たちが生きるために植物や動物たちの土地を奪っていくことになるかもしれん…」

 「発展することは確かに大事だ。だが一方で懸念されている部分もあるのだよ…」

クレード「…」

ヴェルトン「まあこの話はここまでだ。次の国だ」


ヴェルトン「ブルスベイズ・エーゲポリス・ウインベルク・キンデルダム、今から話すこの4つの国は北の月(北側の大陸)の南西部にあり、並ぶように位置している。まずは北の6つ目の国ブルスベイズ王国からの説明だ」


ヴェルトン「ブルスベイズは北の月(北側の大陸)の国の中では南の月(南側の大陸)の国々とも昔から盛んに交易をしている所でな、それゆえ「北と南の大陸を結ぶ架け橋」ともいわれている国だ」

 「観光地としても知られた国であり、中でもカッパードルキア(※15)地方の「妖精の煙突」と呼ばれる奇岩群が有名だな」

 「またケバブやチョバン・サラタスといった料理やチャイという紅茶なども知られているよ」


続いてヴェルトン博士は、

ヴェルトン「ブルスベイズ料理、ベレスピアーヌ料理、そしてバンリの中華料理の三つはムーンリアス三大料理と呼ばれている」

クレード「中華料理…前に身近な食べ物の話で少し聞いたな」

 「確か、炒飯・餃子・焼売・小籠包・麻婆豆腐・海老のチリソースとかだったな」

ヴェルトン「よく覚えていたな。その通りだ」

 「まあ厳密に言えば、海老のチリソースは中華料理の本場であるバンリにはない料理らしいがな」

 「バンリの料理人が他国で中華料理の辛い海老料理を提供する際、他国の人間でも食べやすいように海老料理にケチャップや卵黄などを加え誕生したのが海老のチリソースだといわれているよ」

クレード「しかし何で中華料理というのだ?バンリの料理なら「バンリ料理」という言い方じゃないのか?前は聞かなかったが」

ヴェルトン「もちろんそういう「バンリ料理」という言い方もあるさ。だが中華料理という言葉のほうが世に浸透しているな」

クレード「ならその中華とはどういう意味だ?」

ヴェルトン「中華というのは初代羅皇帝の姓だ」

 「料理の名前に限らず、バンリ風の文化などを「中華風」という」

 「つまりバンリ帝国建国の父とされる初代羅皇帝に対する敬意から生まれた言葉だ」

クレード「偉人への敬意か…」

ヴェルトン「ちなみにワトニカ風の文化などを「和風」という。和風の和はワトニカのワのことだ」

 「和風と中華風、この言葉は覚えておくと良いだろう」

クレード「そうか」

ヴェルトン「分かったのなら各国の話に戻ろう」


ヴェルトン「北の7つ目の国はエーゲポリス王国(※16)」

 「南の月(南側の大陸)のナプトレーマ同様、古代からの文明や文化を重んじている国だ」

 「それゆえに国の人々は大昔から伝わっている神話・哲学・思想などを今も重んじているよ」

 「また神殿建築の技術が高く、国の王が住むパルテーノ神殿(※17)などが有名だ」


ヴェルトン「北の8つ目の国はウインベルク共和国(※18)」

 「製鉄業が盛んであり、同時に「音楽の国」ともいわれているくらい音楽活動や教育が盛んな国だ」

 「ウインベルクの音楽団はムーンリアス各地に赴き、ハイレベルな演奏を披露しているよ」

 「自然環境も豊かで、山間部の氷河地形はとても美しいといわれている」

クレード「音楽が盛んで、自然も美しいのか…」

 「何だかいい所だな」

ヴェルトン「このウインベルクはムーンリアスでは初の共和国で、建国当初からも共和国だった。「音楽を愛する心に皇族・貴族・庶民といった身分はない」という考えのもとで生まれた国だ」

クレード「文化を通じて身分が平等になるのか、まあいいことだと思うがな」


ヴェルトン「北の9つ目の国はキンデルダム王国(※19)」

 「この国は風車業が盛んだな」

クレード「風車?」

ヴェルトン「風の力を動力とする装置だ」

 「前方に羽根車が付いていて、それが回転することで動力を得る」

 「まあ装置とはいうが、実物は建物といえるくらいの大きさだ」

クレード「何のためにそんな物を作る?」

ヴェルトン「製粉・油絞り・脱穀など農産物を加工するために使われるが、キンデルダムでは排水のためにもよく使われるな」

 「キンデルダムはかなり土地の低い国だからな。今でも国土の約15%程度は海面よりも低いとさえいわれている。そのためこの国は干拓により土地を増やしていった」

 「「世界は神が作ったが、キンデルダムはキンデルダム人が作った」という、北の月(北側の大陸)では有名な言葉があるくらいこの国の人々は土地の開拓に苦労してきたのだよ」

クレード「その干拓や開拓のために貢献しているのが排水のための風車ということか」

ヴェルトン「そういうことだ。風車を使い干拓地に溢れた水を外へ排出するのだ」

クレード「低い土地に住むというのもいろいろと大変だな…」

ヴェルトン「だがこの国は風車だけではなく、花の栽培も盛んなんだ。風車が回っている傍で花の栽培も盛んに行われている」

 「風車と花畑が織りなす独特の景色…この景色はムーンリアス全土でも絶景といわれている」

 「私はキンデルダムに行ったことはないが、決して魅力のない国ではないと思うよ…」

クレード(心の中で)「(風車と花の国か…)」

 「…」

ヴェルトン「まあ最近はトマトやパプリカといった野菜の栽培も盛んになっているようだがな」


ヴェルトン「並んでいる4つの国の話が終わったので、残りのセントロンドスとガーランゲルドについて話をしよう」

 「北の10個目の国はセントロンドス王国(※20)」

 「ワトニカと同様島国で、北の月(北側の大陸)の西側に位置する」

 「国王や家臣たちなどが議事堂として利用するロンドミンスター宮殿(※21)やストーンベッジ(※22)と呼ばれる直立巨石が並ぶ遺跡などが有名だな」

 「それとフィッシュアンドチップスという料理や紅茶も有名だ」

 「地域としてセントロンドスは北の月の国だが、南の月(南側の大陸)のアイルクリートからでも船で行きやすい所でな」

 「先程話したワトニカのリュウキュウ藩のように妻と共に観光して、キュールズ王立植物園(※23)というムーンリアス一の植物園などを見て回ったよ」


ヴェルトン「では最後、北の11個目の国、ガーランゲルド王国(※24)」

 「北の月(北側の大陸)の北西部に位置している国だ」

 「この国には「ヴァイキング」と呼ばれる角付きの兜を被った屈強な戦士たちが大勢いる」

 「また造船技術が高い国で、大航海・大開拓の時代には多くの船を他国に提供した」


ヴェルトン「以上、ワトニカ・リベルジャイル・バンリ・チョンミョームン・ラープ・ブルスベイズ・エーゲポリス・ウインベルク・キンデルダム・セントロンドス・ガーランゲルドの11カ国が北の月(北側の大陸)にある国々だ」

 「そして先程話した南の月(南側の大陸)の9カ国と合わせた計20カ国が魔法大陸ムーンリアスの国々というわけだ」


クレードはヴェルトン博士の話を聞いて、

クレード「では俺はその20カ国のどこかの出身というわけか?」

ヴェルトン「少なくともワトニカの武士や侍、バンリやチョンミョームンの武人、ルナウエスタンのガンマンなどではないだろう。この島に流れ着いたとき君は騎士の鎧を身に付けていたからな」

 「そう考えれば、君はその4つ以外の国の剣士や戦士、あるいは騎士団に所属する正規軍の一員なのかもしれんな」

 「まあいずれにせよ君は剣士として戦っていたのだろう」

クレード「つまり、ワトニカ・バンリ・チョンミョームン・ルナウエスタン以外の16カ国のどこかであるという可能性が高いわけか」

 「まあこれから訪れるルスカンティアの人間だったら楽に思うよ」

ヴェルトン「だがルスカンティアの人間だとしても君は記憶を完全に取り戻したほうが良いと思うがな…」 

ヴェルトン(心の中で)「(しかし魔法などで記憶が蘇ったとしても、伝説の剣と盾と思わしき物を持っていた事や、彼が変身するクリスターク・ブルーが妙な姿をしている理由などもそれで分かるというのだろうか?)」

クレード「博士、ムーンリアスのことは大体分かった。だから次のエリアの話をしてくれ」

 「ルナウエスタンやワトニカの話などで出てきた「異文明」や「大航海・大開拓の時代」という言葉も気になるしな」

ヴェルトン「そうか…では次の話をしよう」


ヴェルトン博士は次の2つ目のエリアの話を始めた。

ヴェルトン「2つ目のエリアは「科学大陸サンクレッセル」。ムーンリアスとは遠い海で隔てられたもう一つの大陸だ。地図上で位置は確認できているし、大陸の形や地形も分かっている」

 「だがその文明のレベルはムーンリアスとは明らかに異なっている。科学大陸、まさに異文明と呼べる地だ」

クレード「魔法のムーンリアスに対して、サンクレッセルは科学ということなのか?」

ヴェルトン「科学大陸というのはムーンリアスの人間たちから見た言い方だ」

 「大陸にある国の名は「サンクレッセル連邦国」。ムーンリアスに流れ着いた漂流物から判明している」

クレード「科学大陸にある国の名前が分かったのか?そして大陸の名前がそのまま国名にもなっているのか?」

ヴェルトン「まあそれについてはまず歴史から話していく必要がある」

 「尤もこの歴史の話はケルビニアン暦や魔獣の誕生の件なども含めた内容になるがな」

クレード「何でもいいさ。早速聞かせてくれ」


ヴェルトン博士はクレードに、

ヴェルトン「かつてムーンリアスの民たちは後に科学大陸と呼ばれるサンクレッセルの民たちと交流していたのだが、魔獣たちの台頭により500年前頃から絶縁状態となってしまった。そのため科学大陸サンクレッセルの現状についてはほとんど何も分かっていない」

クレード「惜しい話だ。以前は交流していたというのにな…」

ヴェルトン「「サンクレッセル」という共通する名前から考えれば、サンクレッセル連邦国の前身となった国はムーンリアスの北側にかつて存在した大国「サンクレッセル帝国」だと思える」

 「そしてそのサンクレッセル帝国も元々はサニーロンズ王国という国だった」

ヴェルトン博士は元々の国であるサニーロンズ王国について話を始めた、

ヴェルトン「サンクレッセル帝国の前身であるサニーロンズ王国は長らく平穏な国であった。だがある時代の国王が奴隷制度を認めるといった圧政を敷いてしまい、国民の怒りを買うことになった」

 「それにより国内では激しい反乱が起き、国王や大臣など有力な人物たちは次々と処刑されサニーロンズ王国は崩壊した」

クレード「圧政により国が崩壊した…」

 「さっきのベレスピアーヌやアイルクリートの話と似ているな」

ヴェルトン「だがこの国のほうが時代はずっと古いよ」

クレード「それで国が崩壊して、その後どうなった?」

ヴェルトン「王国の元領土に「サンクレッセル帝国」という新たな国が造られた」

 「そして帝国の建国と同時にムーンリアス全土でケルビニアン暦(※25)が制定された」

 「ケルビニアン暦では「○○K年」と表記され、年数の後ろに付くKはケルビニアンのKを意味する」

 「またK世紀という、ケルビニアン暦を100年単位で区切った呼称もある」

 「今年は2050K年なので、今は21K世紀ということだ」

 「尤も2050K年だから、21K世紀も半世紀を迎えたがな」

クレード「ケルビニアン暦…確か今でもムーンリアスで用いられている暦だったな」

ヴェルトン「帝国の前身であるサニーロンズ王国自体が元々ムーンリアス一の大国だったからな。王国の民のほとんどは崩壊後に帝国の民となり、王国の広大な領土や資源などを多く受け継いだことで、サンクレッセル帝国は建国当初から大陸一の国家であった」

 「新たな大国の誕生、新たな歴史の誕生、その暁としてのケルビニアン暦というわけだ」

 「まあ尤もサンクレッセル帝国内だけではなく、ムーンリアス全土にまでこの暦を定めることには各国から反対の声が挙がったようだがな」

クレード「そりゃあそうだろう」

 「最大の大国とはいえ、新しい国が一つ誕生しただけで直接関係のない他の国々にまで決め事を押し付けるのはどうかと思うぞ」

ヴェルトン「まあそれはやはり最大の大国が決めた事だったからな。結局どの国々の反対意見も押し切られ、各国はこの暦を渋々定めたといわれているよ」

クレード「他国にまで自分たちの決めた暦を押し付ける。それだけ帝国がムーンリアス内で特別な存在でありたかったというわけか?」

ヴェルトン「まあそんなとこだろう」


クレード「しかしケルビニアンという名に何か由来はあるのか?」

ヴェルトン「ケルビニアンというのは、主に北の月(北側の大陸)の中央や西側の地域で古くから伝わる光の神様の名だ。この神様は太陽の光のような明るい光を放つといわれている」

 「ケルビニアンの放つ光は希望の光…サニーロンズ王国に抗った反乱軍たちは自分たちのシンボルとしてこのケルビニアンを掲げた」

クレード「なるほど。王国に勝利した反乱軍のシンボルだったからこそ新たな暦の名として用いたわけか」

ヴェルトン「まあ、そういうことだろうな」

クレード「しかしだったら国名として用いても良かったんじゃないのか?」

 「サンクレッセル帝国ではなくケルビニアン帝国という国名にしてな」

ヴェルトン「ケルビニアンは神様だからな」

 「人間が住む国の名として用いるよりも暦の名として用いたほうが神様らしい崇高な感じがしたからではないのかな?」

 「まあケルビニアンの名を国名ではなく暦の名として用いた理由については、当時の文献などを見てもはっきりしないから、そこはあくまで推測になるがな」


クレードはヴェルトン博士に話の続きを聞いた。

クレード「まあいい。それでケルビニアン暦という新暦が始まってその後どうなった?」

ヴェルトン「それからおよそ1400年後、つまり1400K年頃からムーンリアスは大航海・大開拓・交流の時代を迎えることになる」

クレード「航海に開拓?そして交流?」

ヴェルトン「大航海・大開拓・交流の時代は1400K年頃から1550K年頃、15K世紀から16K世紀半ばにかけてだ」

クレード「年代については分かった。それで具体にはどういう時代だったんだ?」

ヴェルトン「事の始まりはある長距離の航海だった」

 「ムーンリアスのラープ帝国やアイルクリート共和国などから見て遠い西側、ワトニカ将国などから見て遠い東側の位置にムーンリアスに匹敵するほどの大きな大陸を航海の中で新たに見つけたのだよ」

 「そして新大陸の発見に人々は心が躍り、人々は新大陸を開拓するために次々と海へ繰り出した」

 「多くの開拓民を乗せた船が何百、何千隻と海へ出る…」

 「世はまさに大航海・大開拓の時代とされた…」

 「そしてこの航海と開拓の時代の中心となっていたのがサンクレッセル帝国だった。帝国は周辺の国々と協力し、航海や開拓に必要な船や人員、道具や食糧などを大量に揃えた」

 「まあ開拓民の中には一般国民だけではなく奴隷も多くいたとは聞くがな…」

 「まあとにかくその後開拓が進み、帝国は国の本土を新大陸へと移すことにしたのだ」

 「それが1520K年頃、始まりの1400K年頃から120年くらい経ってからのことだった」

 「そして10年後の1530K年頃、サンクレッセル帝国が本土を新大陸へと移したことで、サンクレッセル帝国の領土跡地に、ラープ帝国・リベルジャイル王国・ウインベルク共和国・キンデルダム王国の4カ国がこの時期に造られた」

クレード「新大陸が開拓され、さらに4つの国が生まれる…」

 「話だけ聞いているとめでたく思うが…」

ヴェルトン「確かに一応はうまくいっていたさ。だがこの先大きな悲劇が起きた…」


続いてヴェルトン博士は、

ヴェルトン「1540K年、建国されて間もないラープ帝国はこの年に突如ムーンリアス全土に対して宣戦布告を行った」

 「宣戦布告の理由は領土の拡大や資源を得るためなどいわれている」

 「ラープ帝国はサンクレッセル帝国の元領土の大部分を受け継いでいたため、先程話したサンクレッセル帝国同様、建国当初からムーンリアス一の大国だったにもかかわらずだ…」

 「だがそれでも領土の拡大などを目指したのは、ラープ帝国初代皇帝の野心の表れだともいわれている」

 「そしてラープ帝国はまず戦争ための兵器として魔獣を作り出した」

クレード「戦争のため魔獣が人間たちの手で作られたという事は以前少し聞いたが、そんな前の時代だったとはな…」

ヴェルトン「魔獣の素は獣・鳥・魚・昆虫など様々な野生動物だ。素体となる動物に魔法を使い別の動物・植物・鉱物などと合成する…そうやって魔獣は作られていった…」

 「そういった経緯から魔獣は正式には「合成魔法獣」というのだが、そう呼ぶのは一部の学者くらいでほとんどの人間は「魔獣」と略して呼んでいる」

クレード「それで魔獣を作ってどうなったんだ?」

ヴェルトン「魔獣は作られた当初から凶暴で力のある生物だったからな」

 「突如として現れた魔獣たちを相手に兵士たちは為す術もなく倒れていったよ」

 「そこでラープのみならず他国も魔獣を作ることを考え、ムーンリアスで戦争のための魔獣が次々と生まれていった」

 「しかしこれが結果として今の時代にも続く悲劇を招くことになる…」

 「魔法で魔獣を次々と作り出すも、予想以上に凶暴な生物になってしまったため手を持て余した」

 「それにより研究施設などから凶暴化した魔獣たちが次々と逃げ出し、魔獣たちはムーンリアスであっという間に野生化した」

 「野生化した魔獣たちは次々と子供を産み爆発的に数を増やし、さらに魔獣同士で共食いなどを繰り返してきたためか突然変異した新種も次々と現れた」

 「以来約500年、野生化した魔獣たちを根絶できず、今に至るまで戦いが続いているわけだ…」

クレード「つまり先人たちの過ちが今の時代にも大きく響いているわけか」

ヴェルトン「魔獣たちの野生化により対処が必要になったことで戦争は終結。5ヶ月程度の短い戦いだった」

 「尤も人間同士の戦いが終わっただけで、魔獣たちとの戦いは今も続いているがな…」


話を聞いていて、クレードは気になった事があったのか、ヴェルトン博士に、

クレード「新大陸に移ったサンクレッセル帝国のほうはどうだった?その戦争により影響が出たのか?」

ヴェルトン「魔獣戦争が起き、さらに野生化した魔獣たちへの対処が必要になったことで、帝国との交流もいつのまにか途絶えてしまったよ…」

 「1540K年に戦争が起きた。そして10年後の1550K年頃にはほぼ交流が途絶えていた。その頃から新大陸にあるサンクレッセル帝国の人間がムーンリアスに来たという記録がほとんど残されていない…」

 「つまり新大陸、後の科学大陸と交流する余裕がないくらいムーンリアスの人間たちは魔獣の対処に追われていたというわけだ」

クレード「1550K年頃?」

 「なるほど、だから大航海・大開拓・交流の時代がその頃に終わったといえるわけだ」

 「しかしそうなるとその頃からサンクレッセルとは絶縁状態なのか?今に至るまで」

ヴェルトン「そうだ。サンクレッセルとの交流がなくなってもう500年くらい経つ」

クレード「ならばその国の現状など分かるはずもないか…」


しかしクレードが言った事に対して、ヴェルトン博士は、

ヴェルトン「だが今のサンクレッセル連邦国についても少しずつだが分かってきたこともある。先程少し話した漂流物の件からだ」

 「50年くらい前、ちょうど21K世紀に入った頃からムーンリアス各地の浜辺で見たこともない妙な物がいろいろと見つかり始めたのだ」

クレード「それはどんな物だ?」

ヴェルトン「大型の金属板(※船の鋼板のこと)・風車の羽のような金属の塊(※船のスクリューのこと)・謎の筒状の機械(※戦闘機のエンジンのこと)・ゴムや金属などを合わせたような車輪(※ゴムタイヤのこと)・表面が四角くそして厚みのない板状の機械(※タブレット・スマートフォンなどのこと)・ガラスとも違う未知の素材で作られた透明の板(※透明のアクリル板のこと)等々、どれもムーンリアスでは見たことがないような物だ…」

クレード「そんな物が浜に流れ着いているのか?」

ヴェルトン「これらの未知の物はムーンリアスではなく、サンクレッセル帝国があった新大陸から流れ着いたのではないかと推測されている」

クレード「なぜそういう推測ができる?」

ヴェルトン「漂流物の中には物に関する説明文が書かれている品もあってな、それにより、液晶テレビ・ノートパソコン・掃除機・冷蔵庫・ラジオ・消火器・発煙筒など名前が判明した物も結構ある」

 「それで物の説明文の中にはサンクレッセルのメリンカイル製などと、生産された場所が書かれているのもあった」

クレード「そういう情報はいろいろありがたいな。向こうの国が物に説明文を付けてくれたおかげだな」

ヴェルトン「そして漂流物の中には地図…おそらく海図だと思われるが、そういう貴重な物も見つかっている」

 「その海図に描かれていた陸地の形が、かつてムーンリアスの民たちが大開拓時代に描いた新大陸の地形図とほぼ一致しているのだ。そしてその海図には未知の物が作られたメリンカイルなる新大陸の地名が書かれている」

 「これにより異文明の地がかつて開拓を行った新大陸であることはほぼ確定している」

クレード「つまり新大陸とは交流こそなくなったが、大陸には今も人が住み、物を作るといった経済活動が行われているわけか」

ヴェルトン「まあ厳密に言えば、漂流物の全てにメリンカイルなどの新大陸の地名が書かれているわけではないからな。異文明の地が新大陸だとまだ100%断定はできない…」

 「だがおそらく新大陸ではムーンリアスとの交流が途絶えた後、全く違う独自の文明を築いたのだろう」

 「四角い板状の機械など、今のムーンリアスの科学力や技術では全く再現できないことから、新大陸ではムーンリアスに比べ科学文明が大きく発展したのかもしれん」

クレード「科学の発展か…」

ヴェルトン「だが逆に新大陸では魔法文明が大きく衰退したと考えらえている。四角い機械や消火器など、漂流物にはどれも魔力が全くないからな」

 「魔法や魔力で開発したのではないのなら、それらは科学の力で作ったといえる」

 「つまり新大陸は交流が途絶えた後独自の道を歩み、魔法文明よりも科学文明を発展させたのだと思える…」

クレード「それが新大陸を「科学大陸」と呼ぶ由来か。魔法に対しての科学ということで」


ヴェルトン博士は話を続け、

ヴェルトン「科学大陸、即ち新大陸にある「サンクレッセル連邦国」という国の名前がはっきり判明したのもその海図からだ」

 「おそらく大昔新大陸に領土を移した「サンクレッセル帝国」は、その後「サンクレッセル連邦国」と名前を変えたのであろう。サンクレッセルの名は今も残っていたのだ」

クレード「その海図から分かったことは他にあるのか?」

ヴェルトン「新大陸、つまり科学大陸にはある国はサンクレッセル連邦国一つだけのようだ」

 「だが国には全部で12の州があり、レマルアリゾン州・ラタビリア州・ウルカタ州(※26)・カリオルカ州(※27)・ナスカルーパ州(※28)などの地名が分かった」

 「先程口にしたメリンカイルも州の一つで、正確にはメリンカイル州というわけだ。このメリンカイル州に連邦国の首都であるメリンピア市という都市があるようだが」

クレード「州?ワトニカの藩やバンリの省のようなものか?」

ヴェルトン「おそらくそんなとこだろう。国内の地域を区分けし、それぞれの自治体が地域の管理などを行っているのだろうな」

 「まあ連邦国という今のサンクレッセルの国名から想像すれば、この国は王国や帝国とは違い共和国のような民主的な国であるかもしれないな。州を治めているのは大名や貴族たちではなく、民衆たちの中から選挙などによって選ばれた議員たちなどと思える」

 「連邦国は地域の集まり、地域共同体などの意味で捉えられているよ」

 「大陸にある全ての地域が一つの国になっているのだ。そういう意味での連邦国だろうな」

クレード「いずれにせよ12の地域があるということか…まあ今は交流のない土地の情報なだけに貴重ではあるな」


ヴェルトン博士はクレードが言った事に対して思うことがあったのか、続けて、

ヴェルトン「貴重な情報であることは間違いない。だが地図や海図から読み取れるのは地名や地形などだ」

 「海図を見たところで国内の社会情勢、人の考えまではっきり分かるものではないよ…」

 「サンクレッセル連邦国の人間たちが今何を考え、魔法大陸ムーンリアスのことをどう思っているかなどな…」

クレード「なら逆に魔法大陸の人間たちは科学大陸(新大陸)のサンクレッセル連邦国についてどう考えているんだ?」

ヴェルトン「漂流物の増加や、連邦国がムーンリアスに戦争を仕掛けてくるのではないかという不安などから、向こうの国との接触や交渉などを求める声は年々高まっているよ…」

ヴェルトン「だが君も分かっているだろうが、今のムーンリアスの国々は自国の領土であるこのパルクレッタ諸島にさえ満足に足を運べていない」

 「ましてや連邦国がある科学大陸はパルクレッタ諸島のさらに遠くに位置しているのだ」

 「今のムーンリアスの国々に科学大陸まで行く余裕など全くないだろう」

 「それに海であるガイノオーシャンには海流や海風の激しいエリアもあるし簡単にはいかんよ」

クレード「まったく…大航海の時代があったなんて嘘のように思えるぞ…」

ヴェルトン「おそらく科学大陸でも魔獣どもが繁殖し、人々は対処しているはずだろう」

 「実際漂流物の金属板などには魔獣のものと思える爪痕が残っているしな…」

クレード「奴らの爆発的な繁殖力を考えれば十分あり得るな…奴らなら人間たちとは違い遠い海さえも越えられそうだしな…」

ヴェルトン「我々魔法大陸の人間たちは科学大陸のサンクレッセル連邦国に対して魔獣どもを生んだ責任を取らなければならない…」

 「私は遅かれ早かれ連邦国との接触や交渉は実現させなければならないと思っているよ」

 「それがどんなに険しい道だとしてもだ…」

クレード「…」


ヴェルトン「……話を戻そう」

 「今までの話で何か気になった事はあったか?」

クレード「では二つ質問させてくれ」

 「一つ目はケルビニアン暦についてだ」

 「この暦は当時魔法大陸で一番の大国であったサンクレッセル帝国が定め、それを他国にも無理やり押し付けたのだろう」

 「暦を定めたサンクレッセル帝国が新大陸に移り交流がなくなった今もなぜこの暦を用いている?」

ヴェルトン「なるほど」

 「まあ大航海・大開拓・交流時代の始まりの時でさえすでに1400年程度も用いられてきた暦だったからな」

 「やはり長く用いられてきたことからか、人々の間で浸透し、それで今にまで至るのではないかな?」 

 「要するに長く用いられたため、今更変えようとも思わなかったのだろうな」

 「まあその辺の話はケルビニアンを新しい国の名前として用いなかった理由同様はっきりしていないよ。だからこれも推測というわけだが」

クレード「文献などから何もかも分かるというわけではないのか…」

ヴェルトン「大なり小なりいろいろ謎があるのも人間の歴史というものだ」

 「まあとにかくケルビニアン暦は今に至るまで長く用いられているということで納得してくれ」


クレード「なら次の質問だ」

 「先程ルナウエスタン共和国の話で、異文明、つまり科学大陸の技術から「銃」という武器を作ったそうだが、それは具体にどういうことなんだ?長らく交流していないのになぜそんな事ができた?」

ヴェルトン「銃が魔法大陸で誕生したきっかけは科学大陸からの漂流物の中に銃と呼ばれる武器が見つかった事からだ」

 「アサルトライフル・ショットガン・リボルバー拳銃…銃には様々な大きさの物があり、それらが漂流物として魔法大陸に流れ着いたのだ」

クレード「銃だのアサルトライフルだの科学大陸からの物の名前が分かったのはやはり物に名前が書いてあったからか?」

ヴェルトン「その通り。銃を解体したとき内部にその名称が書かれていた」

クレード「そうか。しかし解体したとなると銃について調べようと思ったわけか」

ヴェルトン「そうだ。魔法大陸の人間たちは銃が武器であることを見抜き、自分たちでそれらを作って再現し新たな戦力として取り入れようとした」

 「尤も科学大陸に比べ技術力が大きく劣る魔法大陸ではアサルトライフルなどの大型の銃の再現はできなかった」

 「だがそれらの銃などを参考にしたうえで、ラープ帝国では「マスケット銃」、ワトニカでは「火縄銃」と呼ばれる新たな銃を開発し、この2つの国の戦力は大きく向上した」

 「火縄銃はワトニカでのみ用いられているが、マスケット銃はその後セントロンドスとベレスピアーヌにも普及した」

クレード「魔法大陸の技術力では科学大陸の物と同じ物は作れなかった。だが参考にすることで別の物を生み出したというわけか」

ヴェルトン「尤も大型のアサルトライフルこそ再現できなかったが、リボルバー拳銃などの小型の銃は科学大陸の物と近い物が作れたよ」

 「そしてそのリボルバー拳銃などを主な武器にするのがガンマンであり、そのガンマンたちがルナウエスタン共和国に多く集まっているというわけだ」

クレード「なるほど。つまり銃は異文明、科学大陸からの恩恵だったというわけか…」

ヴェルトン「拳銃のほうもサンクレッセルのリボルバー式だけでなく、フリントロック式ピストル・短筒など、ムーンリアス独自の拳銃も後になって作られたことだしな…」

 「まあいずれにせよ銃は今優れた射撃武器として注目されているよ」

 「だが使いこなすにはやはり訓練が必要になるがな…」


クレード「分かった。とりあえず質問は一旦ここまでいい」

 「だから最後の3つ目のエリアについて話してくれ」

 「魔法大陸ムーンリアス、科学大陸サンクレッセル、そしてもう一か所あるんだろ?」

ヴェルトン「では最後にその話をするとしよう」


ヴェルトン博士は最後の3つ目のエリアの話をした。

ヴェルトン「先程話した通り魔法大陸ムーンリアスと科学大陸サンクレッセルは広い海で隔てられている。だがその広い海の間に「シューティング諸島」というエリアがある」

クレード「それが3つ目のエリアということか」

ヴェルトン「そうだ。だがこのシューティング諸島についてはほとんど何も分かってない。科学大陸サンクレッセル以上にな」

 「ムーンリアスとサンクレッセルの間にある海洋島の島々であるらしいが、位置すらもはっきり分かっていない」

クレード「何だそれは?位置さえも分かっていないのに、なぜそういう所があると言える?」

ヴェルトン「それは島を訪れた人間の記録がわずかにあるからだ。だがいつの時代の記録で誰が書いたのかさえもはっきりしていない。一応魔法大陸出身の人間が書いた記録ではあるらしいが…」

クレード「随分と曖昧だな…」

ヴェルトン「実際シューティング諸島に関する記録はただの作り話だとされ、そういった島々は存在しないと思っている者も結構いるよ…」

 「だが分かっていることを話そう」

 「島を訪れた人間のその記録によると、その土地には科学と呼べるくらいの高度な文明もなく、人々は農業も知らない。人々の服装はかなり軽装で、わずかな布や腰蓑などを纏っているくらい。武器も棒の先に尖った石を付けただけの石槍が主で、弓矢も知らない」

 「島の人々が話す言葉は我々魔法大陸の人間たちと同じであり話は通じる。しかし使う文字は異なる。人々は魔法が使えず、その体からは全く魔力も感じない…まあ記録から分かるのはこれくらいだがな…」

クレード「魔法大陸から見ても原始的な所だと思うぞ…」

ヴェルトン「だが広い海のどこかに小さな島々があり、そこに未知の人々が住んでいるという話自体は強ち間違いではないと思っているよ」

 「私はこの記録は作り話ではなく、シューティング諸島という島々が本当にあるのだと信じている」

クレード「どうして信じられる?」

ヴェルトン「新大陸、今の科学大陸の開拓に120年程度も費やしたが、その理由として………」

その後もヴェルトン博士の地理・歴史の講義は続き、クレードも再度質問をした。


そしてヴェルトン博士の話も全て終わり、

ヴェルトン「いろいろ話は長くなってしまったが、魔法文明が発展した魔法大陸ムーンリアス、科学文明が発展した科学大陸サンクレッセル、そして魔法文明も科学文明もない未知のシューティング諸島というエリアがあるかもしれないということだけは覚えておいてくれ」

クレード「博士の講義に心から感謝する」

 「これで俺も心置きなくムーンリアス本土へと行けそうだ」

ヴェルトン「それは良かった。では講義はここで終わりにし、次はそのための準備といこう」

 「クレード、君は数日前、私が今持っている17個のグラン・ジェムストーン(原石)を完全なものにするために協力すると言ったな」

クレード「ああ、確かに言った」

ヴェルトン「では協力してくれるのなら、君に渡したグラン・サファイア(完成品の魔法の宝石)を私に一旦返してくれないか?君からの協力はそれだけでいい」

クレード「分かった」

 「元々あんたが作った物だ。俺は拒んだりしないさ」

そう言ってクレードはヴェルトン博士にグラン・サファイアを手渡した。


ヴェルトン「よし。では早速作業に入る」

 「クレード、悪いが私はこれから部屋に引きこもる」

 「そして三日後の27日の朝8時頃、私の居る部屋に来てくれ」

クレード「つまりその時まであんたの居る部屋には入るなと…」

ヴェルトン「そういうことだ。今からそっとしておいてほしい…」

クレード「完成できそうなのか?今のあんたに」

ヴェルトン「私の全ての魔力をぶつけるつもりでやってみるさ…」


ヴェルトン「とにかく私は旅立つ君に完成品のグラン・ジェムストーンを持たせるつもりでいる」

 「だが正直今の私では残りの17個全てを完成させるのは無理かもしれない…」

 「だから一個でも多くの完成品を君に持たせたいと思っているよ…」

そう言ってヴェルトン博士はグラン・サファイアを持ちロッジの一室に入った。


そしてクレードは…

クレード(心の中で)「(博士…俺はあんたを信じているぞ…)」


次の日の25日、クレードは部屋にある魔力を帯びた時計(日付も分かる時計)を見つめていた。

クレード(心の中で)「(魔法時計…魔力を込めたことにより動く時計…)」

 「(本来は島に滞在する兵士たちなどのために置いているようだ…)」

 「(博士はこのルスモーン島に来て1年半程経つらしいが、あの魔法時計により日付を把握できた…)」

 「(まあこんな本土から離れた人けのない孤島では、あのような物でもないと日にちすらも分からなくなりそうだしな…)」

 「(…)」

 「(だが何だ、この妙な感じは…)」

 「(どういう訳か時計を見ていると大きな戦いが始まりそうな気がしてならないんだ…)」

 「(まあ俺の考えすぎであってほしいとこだが…)」

チクタク、チクタク…魔法時計は動き続けている。

 

次の日の26日、クレードは博士の事を考えていた。

クレード(心の中で)「(3月26日、今日は博士の150歳の誕生日だ…)」

 「(だが今は博士のいる部屋には入れないから代わりに明日何か持っていくか…)」


次の日の27日の早朝、部屋に引きこもっているヴェルトン博士は考えていた。その横にはグラン・サファイアと17個のグラン・ジェムストーンが連なって並んでいる。

ヴェルトン(心の中で)「(ロッジに紙とペンがあって本当に助かったよ…おかげでこの二日間で伝えるべき事を紙にまとめることができた…)」

 「(さて、次はいよいよ17個のグラン・ジェムストーンを完成させるときか…)」

 「(方法としてはグラン・サファイアに私の魔力をありったけ流し込む…そしてサファイアから溢れた魔力を隣のジェムストーンに吸収させ、どんどん完成させていく…)」

 「(だがこのやり方で17個のうち何個完成できるかは分からない…下手をしたら半分の8個程度しか完成しないかもしれない…)」

 「(全ての魔力を一気に流し込む…私が長年この方法を避けてきたのは、これだと全てのジェムストーンが完成しないと思ったからだ…)」

 「(それに一気に魔力を放出するような真似をすれば、私自身の体から魔力が消え、二度と魔法が使えなくなる可能性もあるしな…)」

 「(だからどんなに時間がかかったとしても、細かめにちまちまとジェムストーンに魔力を注ぐやり方が確実だと考えていた…)」

 「(しかしあのクレードをそんなにまで待たせておくわけにもいかんだろう…)」

 「(ならば今こそ決意の時だ、始めるとしよう…たとえ全てが完成しなかったとしても…)」

ヴェルトン博士の手が光り出した。博士はグラン・サファイアに向かって自身の全ての魔力を流し込んだ。力の限り。

ヴェルトン「うおおおっ!!」

グラン・サファイアから溢れた魔力が隣のジェムストーンに、そして隣のジェムストーンから溢れた魔力が隣のまた別のジェムストーンへ…連なって並んでいるジェムストーンに次々と魔力が吸収されていく、果たしてどうなるのか?

 

一方クレードはその頃島にある果樹園で、キウイフルーツ・イチジク・柿などを収穫していた。

クレード(心の中で)「(博士はワトニカ料理の照り焼きチキンを載せたピザが好きだと言っていたが、こんな孤島では用意ができない。だからせめて別のプレゼントとして果物でも渡してあげよう…)」


クレードはハサミを使って収穫しながら、

クレード(心の中で)「(しかしキウイフルーツや柿もそれなりに実っているな…まともに手入れなどしていないというのに…)」

北半球と南半球では季節が逆になる。そのため南半球にあるモスモーン島は今の3月でも季節は秋。だから3月でも柿が収穫できるのであった。

クレード(心の中で)「(まあちゃんと手入れしてやれば、味のいいのがもっとたくさん実ることだろうな…)」

 「(この果樹園も本来は島に滞在する兵士たちが果物を確保するための場所らしいが、今は博士のために利用させてくれ…)」


収穫した果物をかごに詰め、クレードはロッジに向かった。

そして道中でも歩きながら考え事をしていた。

クレード(心の中で)「(思えば博士は不思議な人だ…)」

 「(俺とは違い、全くの飲まず食わずでも問題なく生きていけるみたいだしな…)」

 「(150歳という異様な年齢、そして飲まず食わずでも生きていける体質になったのは、旧友に魔法をかけられたからだと言っていたが、一体博士はどんな魔法をかけられたのか?)」

 「(旅立つ前にその辺を聞いてみてもいいかもな…)」

 「(しかし今日は旅立ちの日か…果たして博士は残りのグラン・ジェムストーンを完成させたのだろうか?)」


ロッジに戻ったクレードは台所で収穫した果物を盛り付けていた。

クレード(心の中で)「(飲まず食わずでも生きていける博士に果物や食べ物などは本来必要ない…)」

 「(だが物を食べることはでき、味もちゃんと感じるようだ…)」

 「(だからこの果物はせめてもの気持ちだ…)」

そして盛り付けた果物を持ち、ヴェルトン博士の居る部屋に入ろうと…

クレード「博士、約束の時だ。悪いが扉を開けるぞ」

部屋の扉を開けるクレード。だがそこには疲労困憊し床に倒れている博士の姿があった。クレードもその疲れ切った博士の姿に驚き…

クレード「は、博士!どうした、一体何があった!?」

ヴェルトン「ク、クレード…き、来たか……」

 「うっっ!!」

起き上がろうとした博士は口から銀色の液体を大量に吐き出した。

そしてクレードはそれに驚き、

クレード「な、何だ!?この銀色の液体は!?まさか…」

果たしてヴェルトン博士に何があったのか?

次回へ続く。


※1…島の名前の由来は、モーリシャスの世界遺産「ル・モーンの文化的景観」(文化遺産 2008年登録)より

☆※2…大草原の名前の由来は、タンザニアの世界遺産「セレンゲティ国立公園」(自然遺産 1981年登録)より

☆※3…滝の名前の由来は、ジンバブエとザンビアの世界遺産「モシ・オ・トゥニャ/ヴィクトリアの滝」(自然遺産 1989年登録)より

※4…王国の名前の由来は、「ナイル川」と、古代エジプトの王朝「プトレマイオス朝」より

☆※5…河岸の由来はフランスの世界遺産「パリのセーヌ河岸」(文化遺産 1991年登録)より

☆※6…市の名前の由来は、イタリアの世界遺産「ヴェネツィアとその潟」(文化遺産 1987年登録)があるヴェネツィアの別名「ベニス」より

☆※7…村の名前の由来は、イタリアの世界遺産「ヴァル・ドルチャ(オルチア渓谷)」(文化遺産 2004年登録)より

☆※8…寺院遺跡の名前の由来は、カンボジアの世界遺産「アンコールの遺跡群」(文化遺産 1992年登録)の「アンコール・ワット」より

☆※9…山々の名前の由来は、ネパールの世界遺産「サガルマータ国立公園」(自然遺産 1979年登録)より

※10…将国の名前の由来は、和風の「和」と源氏物語の「いづれの御時にか」より

☆※11…帝国の名前の由来は、中国の世界遺産「万里の長城」(文化遺産 1987年登録)より

☆※12…王国の名前の由来は、韓国の世界遺産「宗廟」(文化遺産 1995年登録)より

☆※13…地域の名前の由来は、モンゴルの世界遺産「オルホン渓谷の文化的景観」(文化遺産 2004年登録)より

☆※14…島の名前の由来は、マダガスカルの世界遺産「アンブヒマンガの丘の王領地」(文化遺産 2001年登録)より

☆※15…地方の名前の由来は、トルコの世界遺産「ギョレメ国立公園およびカッパドキアの岩石遺跡群」(複合遺産 1985年登録)より

※16…王国の名前の由来は、「エーゲ海」と、古代ギリシャの都市国家「ポリス」より

☆※17…神殿の名前の由来は、ギリシャの世界遺産「アテナイ(アテネ)のアクロポリス」(文化遺産 1987年登録)の構成遺産「パルテノン神殿」より

☆※18…国の名前の由来は、オーストリアの世界遺産「ウィーン歴史地区」(文化遺産 2001年登録)とドイツの世界遺産「バンベルク市街」(文化遺産 1993年登録)より

☆※19…王国の名前の由来は、オランダの世界遺産「キンデルダイク=エルスハウトの風車網」(文化遺産 1997年登録)より

☆※20…王国の名前の由来は、イギリスの世界遺産「セント・キルダ」(複合遺産 1986年登録 2004年・2005年拡張)等の「セント」と、イギリスの世界遺産「ロンドン塔」(文化遺産 1988年登録)より

☆※21…宮殿の名前の由来は、イギリスの世界遺産「ウェストミンスター宮殿、ウェストミンスター寺院及び聖マーガレット教会」(文化遺産 1987年登録)より

☆※22…遺跡の名前の由来は、イギリスの世界遺産「ストーンヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群」(文化遺産 1986年登録)より

☆※23…植物園の名前の由来は、イギリスの世界遺産「キュー王立植物園」(文化遺産 2003年登録)より

☆※24…王国の名前の由来は、ノルウェーの世界遺産「西ノルウェーフィヨルド群‐ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルド」(自然遺産 2005年登録)より

※25…暦の名前の由来は、熱力学温度や色温度などの単位である「ケルビン」より

☆※26…州の名前の由来は、オーストラリアの世界遺産「ウルル=カタ・ジュタ国立公園」(複合遺産 1987年登録 1994年拡張)より

☆※27…州の名前の由来は、ブラジルの世界遺産「リオデジャネイロ:山と海との間のカリオカの景観群」(文化遺産 2012年登録)より

☆※28…州の名前の由来は、ペルーの世界遺産「ナスカとパルパの地上絵」(文化遺産 1994年登録)より

(☆:物語初登場の世界遺産)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ