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第16話(前編) クレビアンナイト(前編)

16話目です。サブタイトル通り、今回は文学作品『アラビアンナイト(千夜一夜物語)』を一部意識した話です。

主人公のクレード+アラビアンナイトで、「クレビアンナイト」です。

(※今回の話も前編と後編に分かれています)


<主な登場人物の紹介>


<クレード一行 計8人>

◎クレード・ロインスタイト(男・?歳)

・青色の髪をしている本作の主人公である魔法剣士。

魔法の宝石グラン・サファイアにより、クリスターク・ブルーに変身できる。

自分の出身地や年齢など、過去の記憶をいろいろなくしている。

○ナハグニ・按司里あじさと(男・31歳)

・ワトニカ将国リュウキュウ藩出身の侍。自称、うちなー侍。

○ウェンディ・京藤院きょうどういん(女・20歳)

・洋風な名前だがワトニカ将国キョウノミヤ藩出身。柔道家。

○ホヅミ・鶴野浦つるのうら(女・22歳)

・ワトニカ将国サド藩出身の女流棋士。

千巌坊せんがんぼう(男・39歳)

・ワトニカ将国キノクニ藩出身の僧(坊主、お坊さん)。

(別行動中の仲間たち)

△オリンス・バルブランタ(男・29歳)

・騎士。魔法の宝石グラン・エメラルドにより、クリスターク・グリーンに変身できる。

鵺洸丸やこうまる(男・30歳)・ススキ(女・22歳)


<その他人物>

◎アンシー・ヒズバイドン(女・22歳)

・北の月(北側の大陸)ウインベルク共和国出身(※1)。

白い髪をしている新人音楽家で、女性だけの楽団「ムーンマーメイド交響楽団」に非常勤の楽団員として所属している。(正楽団員から非常勤になった)

同じ楽団のマリーチェルとリンカはかけがえのない親友たち。

魔法の宝石グラン・ホワイトパールにより、クリスターク・ホワイトに変身できる。

得意な楽器はハープで、「ホワイトコーラルハープ」という魔力がこもったハープも所持している。

ダールファン王国でのコンサート終了後、クレード一行に加わる予定。

この物語における重要人物の一人。

○マリーチェル・アフランデウス(女・22歳)

・北の月(北側の大陸)ウインベルク共和国出身。

アンシーやリンカの親友でムーンマーメイド交響楽団に正楽団員として所属している。得意な楽器はフルート。

魔力は乏しいが、作曲や演奏などにセンスがある。

ダールファン王国に向かう途中、船の中でセーヤ王子と対面し彼と親しくなる。

○リンカ・白鳥森はくちょうもり(女・22歳)

・ワトニカ将国サンナイ藩出身。

マリーチェルと同じくアンシーの親友。津軽三味線の奏者でもあり、同時にヴァイオリニストでもあるため、オーケストラではヴァイオリンを担当する。

日本の世界遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」(文化遺産 2021年登録)からイメージしたキャラ。青森県出身のイメージ。

○ストルラーム・ウォーガンベルロ(女・75歳)

・北の月(北側の大陸)ウインベルク共和国出身。

ムーンマーメイド交響楽団の楽団長(代表)で、オーケストラの指揮者。

○ダルファンダニア35世(男・59歳)

・ダールファン王国の現国王で、国の代表者。第72代国家元主。

●ルパニーナ・ダルファンダニア(女・享年56歳)

・国王29世の亡き妻でダールファン王国の元王妃。

心優しく明るい人柄で、家族、家臣、騎士団、国民など生前は多くの人々に慕われた。

3ヶ月前、病で亡くなった。

○セーヤ・ダルファンダニア(男・25歳)

・国王35世と元王妃ルパニーナの息子で、ダールファン王国の王子。

最愛の母を亡くしたことで今も深く悲しんでおり、中々前向きな気持ちになれかったが、前向きで明るく、友達思いなマリーチェルと出会ったことで、心に大きな変化が起きている。

○シャルペイラ・ダルファンダニア(女・21歳)

・国王35世と元王妃ルパニーナの娘で、セーヤ王子の妹。ダールファン王国の姫様(王女)。

母を亡くし落ち込んでいる兄のセーヤ王子をとても心配している。

○アリムバルダ・モルジノス(男・58歳)

・ダールファン王国騎士団長。軽装な服装で曲刀「シャムシール」を持ち戦う、砂漠の騎士サンドナイトである。

○イルビーツ・サウロザーン(男・35歳)

・ダールファン王国東部の騎士団を束ねる副騎士団長(三人いる副騎士団長の一人)。

魔獣たちと戦うため、オリンスたちと共に王国の東部地方に向かったが…

△シェルージェ・クランペリノ(女・18歳)

・黄色い髪をしている女の子で、いろいろと訳ありの人物。

この物語における重要人物の一人だが、今回は名前のみの登場。

ケルビニアン暦2020K年5月29日。

ダールファン王国領ソコドラ島(※2)での戦いを終え、別部隊と合流するため王都のダールバビロン地区(※3)にある砦へと来たクレード・セーヤ王子・アリムバルダ騎士団長たちであったが、そこにクレードの仲間であるオリンス・鵺洸丸・ススキたちの姿はなかった。


クレードはその事を砦にいたナハグニ・ウェンディ・ホヅミ・千巌坊たちに聞き、

ナハグニ「オリンス殿、鵺洸丸殿、ススキ殿たちはそれぞれの場所で戦いを終え、その後拙者らと合流したようでござるが…」

ウェンディ「押忍!でもそれから東部地方のバムダールンという町(※4)の近くに大量の物の怪(※)たちが出現したみたいッス!」

(※ワトニカでは魔獣のことを「物の怪」という)

ホヅミ「それでぇオリンスさんやぁイルビーツ副騎士団長たちはぁ、急遽退治にぃ向かったんですぅ」

千巌坊「伝令隊がその事を伝えにこの砦までやって来たのだ…」

クレード「なるほど。だからオリンスたち三人だけじゃなく、イルビーツ副騎士団長までいないのか」

ダールファン兵①(心の中で悔しそうに)「(バムダールンの町か、確か47年前の2003K年に大地震で大きな被害を受けたんだよな…)」

 「(そこから復興して今の町があるというのに、魔獣どもが現れるなんて…)」


アリムバルダ「皆さん、伝令隊は他に何か言っていましたか?」

ナハグニ「バムダールンの町に限らず、東部地方は今物の怪たちが多いようでござる」

ウェンディ「押忍!その中でも特にお隣のナプトレーマ王国(※5)との国境付近にたんと(※6)いるみたいッス!」

アリムバルダ「国境付近となるとそれはいろいろと厄介だな…」

 「場合によってはナプトレーマの兵たちにも支援を頼む必要があるかもしれないからな…」

ダールファン兵②(サンドナイト)「逆に我々ダールファン王国騎士団がナプトレーマへ行き、戦いを支援しなければならないかもしれませんよ」

ダールファン兵③(サンドナイト)「そうなるとイルビーツ殿たちは今頃ナプトレーマ国内の町や村などで戦っている可能性もあり得ますね」

アリムバルダ「国境付近での戦いとなれば、やむを得ない場合もある」

千巌坊「いずれにせよ今後のことを東部のボスラダールの町(※7)で話し合いたいとのこと…」

ホヅミ「できたらぁ騎士団長にもぉ、話し合いに来てもらいたいらしいですぅ」

アリムバルダ「ボスラダールか、ならば船を使いサパルダース川から向かうか」

ダールファン兵②(サンドナイト)「アリムバルダ騎士団長、では東部の部隊と話し合うというわけですね」

アリムバルダ「ああ、そのつもりだ」

クレード「オリンスたちはどうなんだ?」

 「あいつらもその町にいるのか?」

ウェンディ「押忍!伝令隊の人たちの話だと、オリンスたちもそこで合流したいらしいッス!」

ダールファン兵②(サンドナイト)「イルビーツ殿にオリンス殿たち…」

 「騎士団長、早速準備をして町へと向かいましょうか?」

アリムバルダ「そうだな。だがひとまずは準備だけにしてといてくれ」

ダールファン兵②(敬礼して)「ハッ!」


アリムバルダ「出発は明後日以降にする。明日はムーンマーメイド交響楽団のコンサートもあることだしな」

ダールファン兵③(サンドナイト)「そうですよね。国王様や姫様たちもコンサート会場にお見えになる以上、我々騎士団はお守りしなければならないですし」

アリムバルダ「イルビーツもコンサートの件は分かっているはず、オリンス殿たちとて少しは待ってくれるだろう」

セーヤ「そういえばイルビーツ殿は今回のコンサートをぜひ鑑賞したいとおっしゃっていましたね…」

アリムバルダ「王子、魔獣どもが多く現れてはやむを得ませんよ」

親衛隊①「イルビーツ殿の分まで我々がコンサートを楽しみましょう、王子」


ここでクレードが、

クレード「まあイルビーツ副騎士団長や東部地方の兵たちにはクリスターク・グリーンに変身できるオリンスや忍びの鵺洸丸やススキたちもついているんだ」

 「あいつら三人は簡単に負ける奴らじゃないさ」

ナハグニ「左様でござる!お三方とも頼れる者たちでござるよ!」

ダールファン兵④(サンドナイト)「異国の皆様、イルビーツ副騎士団長だって十分強いですよ!」

 「魔法のランプを使い、魔神を具現化するイルビーツ殿は我が国屈指のつわものにございます!」


セーヤ「ですが、それでも油断してはいけない気がします…」

ダールファン兵④(サンドナイト)「お、王子…」

セーヤ「僕はソコドラ島の戦いで大量に出現したバッタ型の魔獣たちを見ました…」

 「大群を作るバッタ型たちを見て感じたのです、魔獣たちは僕たちが思っている以上に厄介で手の内が読みにくい存在なのだと…」

ダールファン兵⑤(ソコドラ島で戦った兵士)「お、お言葉ですが王子…」

 「ああいう魔獣たちは滅多に出現しない変種ですよ…」

セーヤ「確かに牙犬型や爪犬型などと比べれば、ほとんど見かけない種類かもしれません…」

 「ですが、魔獣たちに対してはもっと警戒してもいいと思うんです」

 「その種類がどうかではなく」

親衛隊①「そうですな、王子…」

 「なんであれ油断などするのは良くありませんしね…」

親衛隊②「王子のおっしゃる通りでございます」

 「魔獣たちに対しては今まで以上に警戒いたしましょう」

アリムバルダ(心の中で)「(王子もクレード殿から魔法武装組織メタルクロノスの話を聞いたのだ…)」

 「(それで王子なりにいろいろと考えているのだろう…)」


親衛隊③「それにしても王子、今のお気持ちはどうですか?」

セーヤ「僕の気持ちですか?」

親衛隊③「ええ、以前の王子と比べると前向きになれたような気がするんですよ」

 「なんというのでしょうか、ソコドラ島からお戻りになってからは明るい感じもして…」

セーヤ「それでしたら、きっとマリーチェルさんといろいろお話しできたからでしょう」

 「あの方のおかげで僕は少し前向きになれたような気がするんです…」

ホヅミ「王子様ぁ、マリーチェルさぁんって誰ですかぁ?」

セーヤ「明日コンサートを予定しているムーンマーメイド交響楽団のお方です」

 「帰りの船で彼女とお話しする機会があって…」


ナハグニ「そういえばクレード殿!お主も交響楽団の女子おなごたちをちゃんと守ったんでござろうな!」

 「もし女子おなごたちに傷を負わせてしまったのなら、拙者、お主を許さぬぞ!」

クレード「そうだな。アンシーの件もあるし、お前らにもここで話しておくか…」

ウェンディ「押忍!アンシーって誰ッスか!?」

クレードは楽団員のアンシーがクリスタークの戦士になったこと、コンサート終了後に仲間になることなどをナハグニたちに話した。


ここはコンサート会場であるアバサダールのオアシス(※8)前。

リハーサルでやって来たアンシー・マリーチェル・リンカたちの三人は、

アンシー「きれいなオアシスの泉にたくさんのナツメヤシ」

 「いかにも砂漠の国って感じだわ!」

マリーチェル「こんなに素敵な場所でコンサートできるなんて…ウインベルクから遥々来た甲斐があったというのもね」

アンシー「ええ!たくさんのヤシの木を見ているだけでフォルティシモな気持ちになれるわ!」

マリーチェル「いろいろ気合が入っているわね、アンシー」

アンシー「正楽団員としては最後のコンサートになるだろうからね」

マリーチェル「最後ねぇ…」

 「アンシー、もしあなたやクレードさんたちがメタルクロノスを壊滅させたとしたら、その時非常勤から正団員に戻るって手もあるかもしれないわよ」

 「だから今回が「正団員としては最後」とは限らないんじゃないの?」

アンシー「その時はその時で考えるわよ。メタルクロノスを壊滅させた後の話なんて今は想像もできないしね」

 「まあとにかく今回のコンサートは悔いのないよう最高の演奏をしてみせるわ!」

マリーチェル「そうね。私もセーヤ王子様のために精一杯演奏するつもりよ」


リンカ(心の中で寂しそうに)「(このコンサートが終わったら、アンシーとは離れ離れになるんだべ…)」

 「(アンシーだけじゃねぇだ…マリーチェルだってセーヤ王子様に好かれてこのままダールファンに残るかもしれねぇんだ…)」

 「(そうなると、一人になっちまうおらはどうしたら…)」

しかしリンカは気持ちを切り替えて、

リンカ(心の中で)「(いや、今は二人のことを考えるよりも自分のことさ考えるだ)」

 「(心の中に迷いがあったらいい音なんて出せねぇだ)」

続いてアンシーとマリーチェルは、

アンシー「今回のコンサート代は国から直接貰っているのよね」

マリーチェル「だからお客さんたちは無料で私たちの演奏を聴けるってわけ」

アンシー「だったら明日はお客さんがいっぱい来そうね。腕が鳴るわ!」


次の日の5月30日。

コンサート会場に大勢の人が集まり、クレードたち五人・セーヤ王子・アリムバルダ騎士団長たちも来ていた。

そして、国王のダルファンダニア35世と姫君のシャルペイラ王女たちも到着した。

セーヤ王子は国王の父と妹シャルペイラと対面し、

ダルファンダニア35世「セーヤ、ソコドラ島から無事に帰ってきてくれて、父は嬉しく思うぞ…」

シャルペイラ「お兄様、私、本当に心配したのですよ…」

セーヤ「父上、ご心配をおかけしました」

 「シャルペイラ、いろいろとごめんね」


続いて王は、

ダルファンダニア35世「セーヤよ、伝令隊たちからすでに聞いていることだが、私にも直接話してほしい」

セーヤ「分かりました、父上」

ダルファンダニア35世「では早速尋ねるが、そなたはソコドラ島で兵やクレード殿たちと共に魔獣たちと戦ったのか?」

 「正直に答えてくれぬか」

セーヤ「はい。魔法の絨毯に乗り僕も戦いました」

シャルペイラ「お兄様…やはり戦ってしまったのですね…」

セーヤ「ごめん、シャルペイラ」

 「でも僕の力で人を守ることができたのなら、それは十分意味があったのだと思うよ」


続いて、

セーヤ「魔法の絨毯は誰にでも扱える物じゃないんだ。強い魔力も必要なんだ」

 「だから僕はその魔力の持ち主として人のために役立つことをしたいと思った」

シャルペイラ「お兄様…」

ダルファンダニア35世「セーヤ…よく戦うことを決心できたな…」

セーヤ「国や民のために命懸けで戦うアリムバルダ騎士団長や兵の方々、音楽団でありながら戦うことを決心したムーンマーメイド交響楽団の方々、青き戦士のクレード殿と白き戦士のアンシー殿、皆様の戦う姿などを見て僕も決心できたのです」

ダルファンダニア35世「王族が戦うというのは常に正解というわけではない…兵たちを見捨て戦場から逃げたとしてもその高貴な血を守らねばならぬときもある…」

セーヤ「父上…」

ダルファンダニア35世「だが「戦う」という今回の決断は正解だったと思う」

 「王族として兵や民に力を見せねばならぬときもまたあるのだからな…」

セーヤ「父上にそう言っていただき僕は嬉しく思います…」


続いて、

ダルファンダニア35世「それにしてもアンシー殿か、私も彼女のことは伝令隊から聞いているよ」

 「なんでも交響楽団のお一方が戦闘中に、クレード殿と同様の力を得たのだと」

セーヤ「はい。僕もアンシー殿の魔力や戦いぶりに刺激を受けたから戦いを決心できたのですからね」

ダルファンダニア35世「ならばコンサートの後、アンシー殿にも直接お礼を言いたいものだな…」

セーヤ「父上、アンシー殿とお会いになるのなら、彼女の親友であるマリーチェルさんともお会いしてください。お願いいたします」

シャルペイラ「マリーチェル…?お兄様、その方は?」

セーヤ「明るく前向きで、友達思いなお方です」

 「彼女のおかげで僕は少し明るくなれた気がするんです」

ダルファンダニア35世「セーヤ、そのようなお方とも出会っていたのか?」

セーヤ「はい。今はマリーチェルさんのことも大切に思っております」

ダルファンダニア35世「だがセーヤよ、そのマリーチェルというお方については、伝令隊たちからも聞いてはおらぬが?」

セーヤ「伝令隊の方々にはマリーチェルさんのことは話さなくてもいいと僕のほうから頼んだのです」

 「マリーチェルさんについては僕の口から直接父上やシャルペイラに話したいので…」

セーヤは交響楽団員のマリーチェルについて父(国王)や妹に話した。


もうじきコンサートが始まる。観客たちの中には異国から来た者たちもいた。

貴婦人(笑顔で)「いよいよコンサートが始まるのね。私、楽しみだわ」

ガンマン(護衛役)「国境駅からダールファン縦貫鉄道(※9)に乗り換えて遥々やって来ましたからね」

 「期待したいものですよ」

クレードは彼らを見て、

クレード(心の中で)「(あれがルナウエスタン共和国の戦士ガンマンか…記憶をなくしてから初めて見るな…)」

 「(まあガンマンたちがいるルナウエスタンにも近いうちに行くわけだが…)」


クレードやセーヤ王子たち、大勢の観客たちが見守る中、いよいよムーンマーメイド交響楽団によるコンサートが始まった。

まずは楽団長のストルラームがあいさつとして、

ストルラーム「皆様、この度は私たち、ムーンマーメイド交響楽団のコンサートにお越しいただき、本当にありがとうございます」

 「私たちの音楽、最後までどうぞお楽しみください」


続いて、

ストルラーム「それではまず各楽団員たちによるソロ演奏から始めたいと思います」

 「一人一人違う、個性のある音や演奏などをどうぞお聴きください」

そして団員一人一人によるソロ演奏が始まり、やがてアンシー・マリーチェル・リンカたちの番がやってきた。


まずはアンシーがあいさつで、

アンシー「私、アンシー・ヒズバルドンと申します」

 「ピアニスト、チャロックスキー・ヒズバイドンの娘でございます」

観客①(男性)「チャロックスキーさんって、確か天才ピアニストとして知られているあのチャロックスキーさんのことか!?」

観客②(女性)「彼女はその娘さんなの!?」

観客③(女性)「訂正したパンフレットによると彼女は今非常勤みたいだけど、ムーンマーメイド交響楽団にはそんなすごい人の身内もいるのね」

アンシーの父親チャロックスキーについて話す観客たち。そしてクレードもまた、

クレード(心の中で)「(観客たちの声からすると、あいつの親父さんは名の知れた人間らしいな…)」

 「(名のある父を持つ娘がこの後俺たちの仲間に加わるってわけか…)」


そしてアンシーを見たナハグニたちは、

ナハグニ(心の中ですごく嬉しそうに)「(白い髪がお美しい方でござるなあ…)」

 「(あのような愛らしい女子おなごが拙者たちの仲間になってくれるとは…)」

ホヅミ(小声)「(ナハグニさん、アンシーさんにぃメロメロになってますよぉ)」

ウェンディ(小声)「(押忍!でも絶対モテるわけねぇッス!)」

千巌坊(小声)「(喝を入れたいところだが、今はコンサート中…)」

 「(さすがに止めておこう…)」

そして千巌坊は、

千巌坊(心の中で)「(チャロックスキー・ヒズバイドン…)」

 「(音楽家たちのことをほとんど知らない私でも一度は聞いたことがある名だ…)」

 「(著名人の娘とこれから旅をすることになると、我々の見方や立場もまた変わっていくかもしれぬな…)」


続いてアンシーは観客たちに、

アンシー「時には激しく、時には穏やか、時には寂しく…」

 「私は父ほど表現の使い分けができず、独創性もありません」

 「ですが私なりに音楽を表現し、このグランドハープによる美しい音色を皆様にお届けしたいと思っております」

 「どうかよろしくお願いいたします」

アンシーは一礼した。

そしてクレードは心の中で、

クレード(心の中で)「(戦闘中に持っていたあの白いハープとは別のやつか…)」

 「(戦いと演奏で楽器を使い分けているらしいな…)」


アンシーはハープを弾き、自分の音楽を奏でた。

真珠のように淡く優しい音色が会場を包んだ。

そしてアンシーのソロ演奏が終わり、観客たちが、

観客②(女性)「素敵だったわ!チャロックスキーさんの娘さん!」

観客③(女性)「穏やかな海の中にいたような気分を味わえたわ!」

観客④(女性)「きれいな音色だったわよ!」

 「ありがとう、アンシーさん!」

観客たちはアンシーに拍手を送った。

そしてアンシーも、

アンシー「皆様、ありがとうございます!」

 「ハープの音色の美しさ、ぜひ覚えていってください!」

クレード(心の中で)「(アンシー、完璧かはともかく、満足な演奏ができたようだな…)」


アンシーのソロ演奏が終わり、次は着物姿のリンカが舞台に立ち、

リンカ「おら、リンカ・白鳥森と申しますだ…」

 「ワトニカ将国サンナイ藩出身の楽団員だ…」

 「おらの故郷に伝わる伝統的な楽器「津軽三味線」を使って民謡「三内じょんがら節」を弾きますだ…」

 「よろすくお願いします」

リンカは一礼し曲を弾き始めた。


キレのある三味線の音が会場を包んだ。

リンカのソロ演奏が終わり、観客たちが、

観客②(女性)「これがワトニカの津軽三味線なのね!私初めて音を聞いたわ!」

観客③(女性)「ヴァイオリンのような弦楽器みたいだけど、音や弾き方も全然違ったわよね!」

観客④(女性)「世の中にはあんな楽器もあるのね…」

観客⑤(女性)「独特な響きだったけど、伝統的な雰囲気を感じたわ!」

観客⑥(女性)「ねえ、もう一度よく聴いてみない!」

観客⑦(女性)「リンカさんにアンコールしましょうよ!」

観客の一人がリンカに、

観客⑥(女性)「リンカさん、津軽三味線の演奏、もう一度お願いします!」

観客②(女性)「私も聴きたいわ!ぜひお願いします、リンカさん!」

リンカ「えっ!えっ!?」


観客たちの突然の反応にリンカは少し驚いた。

だがリンカは気を取り直して、

リンカ「もう一度おらの音楽を聴きてぇなんて言ってくれて、たんげ(※10)嬉しいだ…」

 「おら、みんなのためにもう一度弾くだ!」

リンカは再度「三内じょんがら節」を弾いた。

そして再び観客たちから、

観客②(女性)「リンカさん、アンコールありがとう!」

観客③(女性)「あなたの三味線の音色、心に響いたわよ!」

観客⑤(女性)「私、ワトニカって国に興味が湧いたわ!」

 「あなたのおかげよ、リンカさん」

リンカ「皆さん、おらの演奏を褒めていただき、ありがとごす(※10)」

嬉しさのあまり目に涙を浮かべ、そして深々と頭を下げるリンカ。

そんなにリンカに観客たちはたくさんの拍手を送った。


そしてリンカの演奏を聴いていたアンシーとマリーチェルたちも、

アンシー(小声)「(すごいわ、リンカ)」

 「(私以上にお客さんたちの心を掴むなんて!)」

マリーチェル(小声)「(津軽三味線の音が斬新だったっていうのもあるけど、リンカの演奏には一生懸命さもあったわ)」

アンシー(小声)「(音と気持ちが合わさって素晴らしい音楽になったのね!)」

そして、ストルラーム楽団長もリンカに対し、

ストルラーム(心の中で)「(ワトニカ出身の彼女なら、楽団に新しい風を吹かせてくれるのではないかと思い、私はリンカさんの入団を認めた…)」

 「(そしてその目に狂いはなかったと思うわ…)」

 「(だけど彼女はこれからきっと…)」


そして千巌坊とウェンディもリンカに対し、

千巌坊(小声)「(見事な演奏であった…)」

ウェンディ(小声)「(押忍!リンカさんの演奏、お客さんたちからすごく評価されてたッス!)」

 「(リンカさんと同じワトニカ人として彼女を誇らしく思うッス!)」

リンカを評価する二人だが、ここで、ホヅミが

ホヅミ(小声)「(リンカさんのぉお友達のぉアンシーさんがぁ、この後ぉ仲間にぃなるんですよねぇ?)」

クレード(小声)「(旅の準備はもうできているだろう)」

 「(コンサートが終わったら、俺たちとすぐ合流してくれるそうだ)」

ホヅミ(小声)「(だったらぁアンシーさんだけじゃなくてぇ、お友達のぉリンカさんもぉ、ホヅミたちの仲間にしちゃいましょうよぉ)」

クレード(小声)「(ホヅミ、アンシーは仲間になるが、あのリンカという友人まで加わるわけじゃないぞ)」

ホヅミ(小声)「(聞くだけぇ聞いてみましょうよぉ)」

 「(リンカさんがぁ遠慮したらぁ、ホヅミもすぐ諦めますからぁ)」

ウェンディ(小声)「(押忍!もしかしたらお友達と別れるのが寂しくなって、彼女も一緒についてくるかもしれねぇッス!)」

千巌坊(小声)「(だが彼女は名門交響楽団の一員…立場的に簡単に決心できるとは思えんが…)」

ホヅミ(小声)「(名誉よりもぉ友情を選ぶかもしれないですよぉ?)」

クレード(小声)「(まあいいさ。アンシーもこの後彼女と別れのあいさつをするだろう)」

 「(聞くのならその辺りでさり気なく聞いてみろ、ホヅミ)」

ホヅミ(小声)「(リンカさんのぉお気持ちぃ、ホヅミが確かめるですぅ)」

 「(ホヅミ、リンカさんをぉ仲間にしたいですぅ)」

 「(アンシーさんとのぉ友情のためでもぉありますけどぉ、ホヅミはぁあんな素敵なぁ演奏ができるぅリンカさんをぉ気に入りましたぁ)」

演奏を聞いてリンカのことを仲間にしたいと思うホヅミ。

一方ナハグニだけはリンカの演奏を全く聞いておらず、ただ見惚れていた。

ナハグニ(心の中で)「(ああ…リンカ殿♡)」

 「(長髪と着物姿が愛らしい女子おなご…)」


リンカのソロ演奏が終わり、マリーチェルの番が来た。

マリーチェルは観客たちにあいさつし、

マリーチェル「マリーチェル・アフランデウスと申します。この4月に入団した新人ではございますが、皆様よろしくお願いいたします」

 「私の奏でるフルートの音色、どうぞお聴きください」


そしてマリーチェルを見ていたセーヤ王子たちは、

シャルペイラ(小声)「(あのお方がマリーチェルさんなのですね)」

ダルファンダニア35世(小声)「(セーヤに明るさや前向きさを与えてくれたお方だ。父としても王としても彼女には深く感謝しなければなるまいな)」

セーヤ(心の中で)「(マリーチェルさん…僕はあなたの音楽を一番楽しみにしていました)」

 「(マリーチェルさんの想い、ご自身の音楽でぜひ表現してください)」

マリーチェルはフルートを吹き、演奏を始めた。

マリーチェル(心の中で)「(表現してみせる…私が描く物語を…)」

フルートの音色が会場に響き渡る。まるで一つの物語を描くように。


-ここはとある砂漠の町

町に住む一人の青年は遺跡に眠る宝物を求めて旅に出た

だけど青年は宝物がある遺跡へたどり着くことはできなかった

遺跡を見つけることができず、青年は落ち込んだ気持ちで故郷の町に帰ろうとした

しかし青年は途中、星の形をした珍しい砂丘を見つけた

砂丘の形の面白さに魅入られた青年は町へと戻り、幼馴染の女性に声をかけ、二人で砂丘を見に出かけた

星形の砂丘がある場所へとたどり着いた青年と女性の二人

笑顔で砂丘を見ていた青年であったが、女性は青年を見つめ、そして彼に愛を伝えた

女性は昔から青年を愛していたが、勇気がなくて青年に自身の愛や想いを伝えることができなかった

星形の砂丘が女性に勇気を与えてくれたのかもしれない

「えっ?女性から愛の言葉を聞いた青年はどう答えたのかって?」

「彼はこう言ったの」

「ありがとう。僕も君のことが……だけど……」-


フルートを奏でたマリーチェルの演奏が終わった。

マリーチェルは一礼し、観客たちは彼女に拍手を送った。

観客⑥(女性)「素敵…なんかうっとりしちゃうわ…」

観客⑦(女性)「まるで女性の愛の物語を聞いているような感じだったわ…」

観客④(女性)「すごいわ…音楽でこういう表現もできるなんて…」

そしてセーヤ王子たちも、

シャルペイラ(小声)「(きれいな音色でしたわ…)」

ダルファンダニア35世(小声)「(新人とはいえ、さすがは名門交響楽団の一員だ)」

 「(音楽の腕前も一流だな)」

シャルペイラ(小声)「(お父様、私は腕前だけではないと思いますわ)」

 「(マリーチェルさんの想いが確かだったのですよ…)」

セーヤ(心の中で)「(マリーチェルさん…やはり僕にはあなたが…)」


楽団員一人一人によるソロ演奏も終わり、フィナーレとして楽団員50人によるオーケストラが始まった。指揮者は楽団長のストルラーム。

アンシーたちもオーケストラに参加し、アンシーはコンサート用のグランドハープで、マリーチェルはフルートで、ドレスに着替えたリンカはヴァイオリンを持ちそれぞれ演奏を始めた。

ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバス・フルート・クラリネット・オーボエ・ホルン・トランペット・トロンボーン・ティンパニ、そしてアンシーのグランドハープ…様々な楽器が音を奏で、盛大な音楽が会場を包んだ。


演奏が終わり、ストルラーム楽団長が一礼すると、会場からたくさんの拍手や声援が送られ、

観客②(泣きながら)「最高の演奏会だったわ!」

 「ありがとう、ムーンマーメイド交響楽団!」

観客③(泣きながら)「また私たちの国に来て演奏してください!」

 「待っていますから!」

貴婦人(泣きながら)「いつかルナウエスタンにも来て!」

 「国を挙げて皆様を歓迎いたしますわ!」

ダルファンダニア35世(心の中で)「(ルパニーナよ…)」

 「(そなたが楽しみにしていたコンサート…実に素晴らしかったぞ…)」


ストルラーム楽団長も声援に深く感謝して、

ストルラーム「この度は私たちの音楽をお褒めいただき、本当にありがとうございます…」

またアンシーも、

アンシー(心の中で嬉しそうに)「(思い通りに全て表現できたわけじゃないけど、悔いのない演奏をすることができたわ…)」

 「(立つ鳥跡を濁さず…いい旅立ちができそうだわ…)」


一方ナハグニは、

ナハグニ(心の中で)「(ああ…なんと美しき女子おなごたち♡)」

ナハグニは最後まで音楽をまともに聴いておらず、ただ楽団員の女性たちに見惚れていただけであった。

(※後編へ続きます)

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