第14話 竜血樹の島
14話目です。主人公のクレードや音楽家のアンシー、ダールファン王国各地に赴いたオリンスたちのことをどうかよろしくお願いします。
<主な登場人物の紹介>
<クレード一行 計8人>
◎クレード・ロインスタイト(男・?歳)
・青色の髪をしている本作の主人公である魔法剣士。
持っている剣の名は「魔蒼剣」。盾の名は「アイオライトの盾」。
魔法の宝石グラン・サファイアにより、クリスターク・ブルーに変身する。
(クリスターク・ブルーは鳥の翼で空を飛べ、鮫の背びれのような翼により高速で泳げる)
自分の出身地や年齢など、過去の記憶をいろいろなくしている。
◎オリンス・バルブランタ(男・29歳)
・緑色の髪をしている元ルスカンティア王国騎士団の騎士。
魔法の宝石グラン・エメラルドにより、クリスターク・グリーンに変身する。
馬にまたがり騎兵として戦うが、戦局によっては馬を降りて戦うこともある。使う武器は槍(翠電槍他)と斧。愛馬の名はベリル号。
○ナハグニ・按司里(男・31歳)
・ワトニカ将国リュウキュウ藩出身の侍。自称、うちなー侍。
愛用する刀の名は「グスク刀」。
日本の世界遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」(文化遺産 2000年登録)からイメージしたキャラ。沖縄県出身のイメージ。
○鵺洸丸(男・30歳)
・ワトニカ将国オガサワラ藩出身の忍者。
日本の世界遺産「小笠原諸島」(自然遺産 2011年登録)からイメージしたキャラ。東京都小笠原村出身のイメージ。
○ウェンディ・京藤院(女・20歳)
・洋風な名前だがワトニカ将国キョウノミヤ藩出身。柔道家。
語頭に「押忍」、語尾に「~ッス」と付けて話すことが多い。
日本の世界遺産「古都京都の文化財」(文化遺産 1994年登録)からイメージしたキャラ。京都府出身のイメージ。
○ホヅミ・鶴野浦(女・22歳)
・ワトニカ将国サド藩出身の女流棋士。
日本の暫定リスト掲載物件「金を中心とする佐渡鉱山の遺産群」からイメージしたキャラ。新潟県出身のイメージ。
○ススキ(女・22歳)
・ワトニカ将国エゾ藩出身の新人くノ一。内気な性格だが、おしとやかで可憐な女性。
○千巌坊(男・39歳)
・ワトニカ将国キノクニ藩出身の僧(坊主、お坊さん)。
回復魔法(※魔法はワトニカでは「妖術」という)が使える。
日本の世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」(文化遺産 2004年登録)からイメージしたキャラ。和歌山県出身のイメージ。
<その他人物>
◎アンシー・ヒズバイドン(女・22歳)
・北の月(北側の大陸)ウインベルク共和国出身(※1)。
白い髪をしている新人音楽家。
女性だけの楽団「ムーンマーメイド交響楽団」に正楽団員として所属している。
得意な楽器はハープで、「ホワイトコーラルハープ」という魔力がこもったハープも所持している。またハープの腕前だけではなく、歌唱力もある。
同じ楽団に所属するマリーチェルとリンカはかけがえのない友人たち。
この物語における重要人物の一人。
○マリーチェル・アフランデウス(女・22歳)
・北の月(北側の大陸)ウインベルク共和国出身。
アンシーとは学生時代からの親友で、アンシーと同じくムーンマーメイド交響楽団に正楽団員として所属している。得意な楽器はフルート。
○リンカ・白鳥森(女・22歳)
・ワトニカ将国サンナイ藩出身で、津軽三味線の奏者だが、ヴァイオリニストでもある。そのためオーケストラではヴァイオリンを担当する。
ムーンマーメイド交響楽団に正楽団員として所属しており、楽団の中でアンシーとマリーチェルに知り合い友人となった。
日本の世界遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」(文化遺産 2021年登録)からイメージしたキャラ。青森県出身のイメージ。
○ストルラーム・ウォーガンベルロ(女・75歳)
・北の月(北側の大陸)ウインベルク共和国出身。
ムーンマーメイド交響楽団の楽団長(代表)で、オーケストラの指揮者。
普段は温厚で心優しい性格だが、いざとなれば戦うことを決断できるほど芯の強い人物でもある。
○セーヤ・ダルファンダニア(男・25歳)
・国王35世と元王妃ルパニーナの息子で、ダールファン王国の王子。
最愛の母を亡くしたことで深く悲しんでいたが、気持ちを切り替え一人の戦士として魔獣たちが蔓延るソコドラ島(※2)へと向かった。
魔法の絨毯に乗って空を飛ぶことができる。
○アリムバルダ・モルジノス(男・58歳)
・ダールファン王国騎士団団長。軽装な服装で曲刀、シャムシールを持ち戦う、砂漠の騎士サンドナイトである。
○イルビーツ・サウロザーン(男・35歳)
・ダールファン王国東部の騎士団を束ねる副騎士団長(三人いる副騎士団長の一人)。
魔力により魔法のランプを使い魔神を具現化できる。
オリンスと同行し、ダルート砂漠(※3)へと向かった。
ダールファン王国各地で蔓延る魔獣たちを倒すため、クレードやオリンスたち8人は各地へと赴いた。
そしてクレードはアリムバルダ騎士団長やセーヤ王子たちと共に、国に来訪するムーンマーメイド交響楽団を安全に迎い入れるため、楽団員たちを乗せた船が通るであろうソコドラ島へと向かった。
そしてケルビニアン暦2050年5月25日、クレードやアリムバルダたちは王都の港町地区から船に乗りソコドラ島へとたどり着いた。
到着後島の船着き場で、先に島に来ていた兵士たちとアリムバルダは話し、
アリムバルダ「では、交響楽団員たちを乗せた船はまだこの島の近海を通っていないのか?」
ダールファン兵①(鎧騎士)「ハッ!」
続いて兵士は、
ダールファン兵①(鎧騎士)「ですが本日は25日」
「楽団からの手紙によれば、今日25日にはソコドラ島付近を航海する予定となっております」
アリムバルダ「それで明日の26日には王都の港町地区に着港予定だったな」
続いて、
アリムバルダ「この島には現在どれくらい魔獣がいるのだ?」
ダールファン兵①(鎧騎士)「偵察部隊の報告によりますとその数はおよそ1200匹だそうです」
アリムバルダ「1200か…前の報告よりも200匹くらいは増えたな…」
ダールファン兵①(鎧騎士)「それに島には翼が生えた牙犬型の魔獣たちもいます」
「やはり交響楽団の船がこの近海を通るのは危ないです」
アリムバルダ「そうだな。翼を持った魔獣たちなら船に乗った人間を襲うかもな」
ダールファン兵①(鎧騎士)「翼で空を飛べるから海も越えられますしね」
アリムバルダ「まあいい。とにかく我々討伐隊がここに来た以上、魔獣たちを一掃しようではないか」
「セーヤ王子、クレード殿、そして兵たちよ」
「我々はこれより島の奥地へと進むが準備はよろしいか?」
ダールファン兵②(砂漠の騎士、サンドナイト)「ハッ!我々は問題ありません」
セーヤ「僕は魔法の絨毯で移動します。もちろんいざとなれば僕も剣を持ち戦います」
アリムバルダ「そのお心でお願いいたします」
「尤も王子を積極的に戦わせるような真似は決していたしませんが」
親衛隊①「王子には我々がついております!」
親衛隊②「我々が命を懸けて王子をお守りいたします!」
親衛隊③「王子に戦っていただくとすれば、それは本当にもしもの場合ですよ」
親衛隊④「戦いについては我ら親衛隊や騎士団に任せて大丈夫でございます!」
セーヤ「皆さん、お気遣いありがとうございます…」
アリムバルダ「ではクレード殿もよろしいですかな?」
クレード「任せてくれ、この島の魔獣どもは俺が叩き潰してやる」
「この臨時団員の紋章に描かれている精霊「イフリート」(※4)に誓ってな」
その頃クレードと同じ精霊イフリートの紋章を付けたオリンスたち仲間もダールファン王国各地に赴いていた。
ここは王国東部、ダルート砂漠。
砂漠に向かったオリンスやイルビーツ副騎士団長たちがいた。
ダルート砂漠を見てオリンスはその広大さに驚き、
オリンス「ひ、広い…辺り一面、砂と茶色い岩山の世界だ…」
イルビーツ「国王様もその広大さをおっしゃっておりましたが、このダルート砂漠は我が国最大の砂漠地帯です」
「そしてこの広大な砂漠の先にシャフレダールの遺跡(※5)があるのです」
ダールファン兵③(駱駝騎兵)「シャフレダールは大昔栄えていた古代の都市なのですが、今は放棄された場所となっております。都市が放棄された理由についてははっきりと分かっておりませんが、一説によると水の流れが変わり水源がなくなってしまったことや気候変動などにより都市は放棄されてしまったとか…」
「まあとにかく今は「消失の町」などとも呼ばれる遺跡となっております」
オリンス「消失の町ですか…でも俺はこれからそこへ向かうつもりです」
「ダルート砂漠が如何に広大だとしてもシャフレダールの遺跡にたどり着き、魔獣たちを倒してみせます」
「そのために俺はここへ来たんです」
イルビーツ「オリンス殿、あなたを信頼してよろしいのでしょうか?」
オリンス「任せてください!そのために俺の力をお見せいたします!」
「いくぞ!ベリル号!」
愛馬ベリル号(鳴き声)「ヒッヒーッ!」
オリンスはグラン・エメラルドを手に持ち、
オリンス「カラーチェンジ!&クリスタルオン!」
オリンスとベリル号の体が光り輝き、
グリーン(オリンス)「希望のエメラルド!クリスターク・グリーン!」
エメラルド・ベリル号(鳴き声)「ヒヒーンッ!」
オリンスはグリーンに、ベリル号はエメラルド・ベリル号にそれぞれ変身した。
ダールファン兵③(駱駝騎兵、驚いて)「緑色のマスクに、スーツ…」
「なんという変わった姿だ…」
続いてグリーン(オリンス)は、
グリーン「見ていてください!イルビーツさん!ここからが本領発揮です!」
「エメラルド・アビリティ!キャメル・ベリル号!」
エメラルド・ベリル号の体が光り輝き、エメラルド・ベリル号(馬)の姿がキャメル・ベリル号(駱駝)に変わった。
キャメル・ベリル号「ブエーン!」
グリーン「イルビーツ副騎士団長!ラクダの姿になったこのキャメル・ベリル号と共に精一杯戦ってみせます!」
イルビーツ「なるほど。ラクダに乗るそのお姿はまさしく砂漠の戦士」
続いてイルビーツは、
イルビーツ「オリンス殿!そなたの覚悟、確かに見届けました!」
「では私もランプに魔力を込め、力をお見せいたしましょう!」
「いでよ!ランプの魔神、ラジャナーン!」
イルビーツの持つ魔法のランプから大量の煙とともに魔神が現れた。
魔神ラジャナーン「オォォッ!」
グリーン「ランプから大きな人間が出てきた!?」
イルビーツ「ラジャナーンは私が魔力で作り出したランプの魔神です」
「私の手足となり戦ってくれるのです」
魔神ラジャナーン「フォフォフォ!」
ダールファン兵④(駱駝騎兵)「緑の戦士と魔神ラジャナーン…」
「この二つの力が合わされば、砂漠の魔獣たちに勝てるかもしれん…」
ダールファン兵⑤(駱駝騎兵)「副騎士団長!早速出陣いたしましょう!」
イルビーツ「うむ。ではこれより、ダルート砂漠及びシャフレダールの遺跡に巣くう魔獣たちを一掃する」
「兵たちよ!私とオリンス殿について参れ!」
兵士たち「ハッ!」
グリーン(オリンス)「いくよ!キャメル・ベリル号!」
「ダールファン王国を守るために!」
キャメル・ベリル号「ブゥオーッ!」
ここは王都周辺にあるバールダベック神殿(※6)。
神殿に向かったナハグニたちがいる。
ナハグニ「おおっ!なんという大きさ!随分と立派な神殿でござるなあ!」
「これだけ立派なのに今は人は住んでござらぬのか?」
ダールファン兵⑥(鎧騎士)「はい。6本の大列柱や土台の巨石などを含め、現在は遺跡として残しております」
ダールファン兵⑦(鎧騎士)「隣のナプトレーマと違い、現在のダールファンの民には神殿に暮らすという風習がないものでして…」
ダールファン兵⑥(鎧騎士)「ナプトレーマから独立する前の古き時代には神殿にも人々が住んでいたのですが、今は月日も経過してナプトレーマとは文化の異なる国となりましたので…」
ナハグニ「まあとにかく人がおらぬとしても立派な建物であることに変わりはござらぬ!」
「拙者が守って進ぜよう!」
ダールファン兵⑥(鎧騎士)「ありがとうございます…ワトニカのお侍様…」
ダールファン兵⑦(鎧騎士)「気をつけてください!神殿の内部は魔獣だらけにござまいす!」
ナハグニ「何匹いようと拙者とグスク刀の敵ではござらん!」
「返り討ちにしてやるでござる!」
ここは王国東部、シュシュダールンの水利施設(※7)。
施設に向かった鵺洸丸たちがいる。
鵺洸丸「立派な水源でございまするな」
「水が勢いよく流れておる」
ダールファン兵⑧(砂漠の騎士、サンドナイト)「この水利施設は大昔に造られたものですが、今も周辺の町や村々に水を届けております」
ダールファン兵⑨(サンドナイト)「ここは王国東部に住む人間にとってなくてならない大切な水源なのです」
鵺洸丸「砂漠の民たちにとって水は何よりも大切であろうからな」
ダールファン兵⑧(サンドナイト)「ですが川や運河を通ってたどり着いたのか、最近になってこの水利施設に怪魚型などの魔獣たちが住み着いたのです」
ダールファン兵⑨(サンドナイト)「敵が水中にいることもあり、我々はその対処に苦労しております」
鵺洸丸「ならばそれがしに任せるがよい」
「それがしならば、水手裏剣・水蜘蛛・水竹筒などを持っておりまする。これらを使い水の中の物の怪を退治いたしましょうぞ」
ダールファン兵⑧(サンドナイト)「水手裏剣?水蜘蛛?水竹筒?どれも聞いたことがない道具です」
鵺洸丸「水手裏剣は水中に投げても勢いが落ちることなく使える水中戦用の手裏剣でございまする」
「そしてこの丸い水蜘蛛は水の上を歩いたり走ったりする忍びの道具」
ダールファン兵⑨(サンドナイト)「水の上を歩いたり走ったり!?」
「そんなことが可能なのですか!?」
鵺洸丸「無論誰にでも扱える道具ではありませぬ。妖力(※ワトニカでは魔力を「妖力」という)を持ち修行を積んだ者だけが扱えるのです」
続いて鵺洸丸は、
鵺洸丸「そしてこれは水竹筒。忍びが使うシュノーケルでございます」
ダールファン⑧(サンドナイト)「忍び用のシュノーケルですか?」
鵺洸丸「左様。しかし普通のシュノーケルと違い水中では伸ばすことも可能で、深い所にも潜ることができまする」
「だがこれを扱うにもやはり妖力や修行が必要になりまするが」
続いて、
鵺洸丸「それがしも水竹筒を使いこなすため、何度も水に潜り妖力で肺を強化する修行をいたした」
ダールファン兵⑨(サンドナイト)「そ、そのような修行を積んできたとは…」
鵺洸丸「水中戦もこなしてこそ、忍び…」
「そなたらに忍びの力、そして我が武器であるユウゼンの水手裏剣の威力、とくとお見せいたそう…」
続いて、
鵺洸丸(心の中で)「(クレード殿、遠くから見ているとよい)」
「(水中戦ができるのはそなただけではないのだ)」
ここは王都周辺の町、ジバムダールの町(※8)。
町にウェンディたちが来ている。
ウェンディ「押忍!ここは面白い町ッス!まるで四角い柱の中に人が住んでいるみたいッス!」
ダールファン兵⑩(サンドナイト)「この町はムーンリアス全土でも珍しい高層住宅街です。「砂漠の摩天楼」などとも呼ばれている町で、歴史的にも景観的にも貴重な町なのです」
続いて兵士は、
ダールファン兵⑩(サンドナイト)「これらの建物は泥煉瓦でできており、多くは16K世紀頃建てられました」
ダールファン兵⑪(サンドナイト)「そしてこれらの建物が高く造られている理由は魔獣から人々を守るため、洪水の被害を防ぐためなどともいわれております」
ウェンディ「押忍!とにかく歴史的に大切な町ならウチがしっかり守ってみせるッス!」
「町の郊外にいる物の怪たち、覚悟するッス!」
ここは王都周辺にあるアルダビジュールの遺跡(※9)。
遺跡にはホヅミたちが来ていた。
ホヅミ「わぁ、とってもぉ面白いところですぅ!」
「神殿が大きなぁ岩の中にぃ埋まっているみたいですぅ!」
ダールファン兵⑫(駱駝騎兵)「大昔はこの辺りにも人が住んでいたようで、墓石も多く残っております」
ダールファン兵⑬(サンドナイト)「この辺りは「岩だらけの場所」とも呼ばれています」
「岩の中には「エレファント・ロック」と呼ばれる象のような形をした珍しい岩もあるのですよ」
ホヅミ「わぁ!象さんみたいな岩があるなんてぇますます面白いですぅ!」
「よぉし!物の怪さんたちを退治してぇ、象さん岩を見にいくですぅ!」
ダールファン兵⑫(駱駝騎兵)(心の中で)「(まあ一方でこの辺りは呪われた場所ともいわれているんだがな…)」
ここは王国東部、サマラダールの螺旋塔(※10)の前。
ススキたちは今、塔の前に立っている。しかし塔の外側には怪鳥型の魔獣たちがいる。
怪鳥型の魔獣「キシャーッ!」
ススキ「塔の外にアンモ(※11)がいるわ」
ダールファン兵⑭(鎧騎士)「外側だけではございません。報告によれば内部にも魔獣たちがいるようです」
ダールファン兵⑮(鎧騎士)「この螺旋の塔は神聖な建物、我々としても魔獣たちの好きにはさせません!」
ススキ「わ、分かりました…」
「わ、私もくノ一としてしっかり戦ってみせます」
ダールファン兵⑮(鎧騎士)「ススキ殿、戦いの準備はよろしいでしょうか?」
ススキ「大丈夫です。私はくノ一、高い場所での戦いだってへっちゃらです」
ススキ(心の中で)「(鵺洸丸さんは水中戦をするのよね…だったら私も頑張らなくちゃ…)」
ここは王都周辺のダールマッカスの町(※12)
町の砦に千巌坊たちがいた。
千巌坊「この町は栄えているな…」
ダールファン兵⑯(サンドナイト)「港町地区や王国南部へ行く人々にとって交通の要となっている場所です」
ダールファン兵⑰(駱駝騎兵)「大昔の聖典にも書かれている古い町で、大きな礼拝堂もございます」
千巌坊「ならば守らねばなるまい…」
「坊主としてこの聖なる都を守るために全力を尽くそう…」
ダールファン兵⑯(サンドナイト)「魔獣たちはこの町の郊外にたくさんいます」
「千巌坊殿、明日の戦い、よろしくお願いいたします…」
千巌坊「任せてくれ…私にできることは何でもする…」
場面はソコドラ島に戻る。
島の近海にはムーンマーメイド交響楽団を乗せた船が来ていた。
そして楽団の船は、島の浜辺にいるダールファン兵たちからの狼煙を確認して、
船長(老人)「黄色の狼煙が見える」
「島に近づくなということか…」
船乗り①「では船長、島を迂回して進みましょうか?」
船長「他国の楽団ならそういう決断をしただろうが、我々はウインベルクの民…」
「ここはストルラーム楽団長に決めていただこう…」
船長はムーンマーメイド交響楽団の楽団長ストルラームと話し、
ストルラーム「そうですか。ソコドラ島から黄色い狼煙が」
船長「おそらく島に魔獣たちが大量に出現したため、迂回するよう警告しているのでしょう」
ストルラーム「ダールファンの方々が私たちの安全のために気を遣っているのですね」
船長「いかがいたしましょうか?ストルラーム楽団長?」
「あなたが判断していただいて結構ですよ」
ストルラーム「それでしたら私たちのやるべき事は決まっておりますよ」
「「戦場もコンサートに変わる」。それがウインブルクの民というものですからね」
船長「そうおっしゃると思いましたよ」
そして船長は船乗りたちに、
船長「島への接近を知らせる青い狼煙を上げてくれ…我々はソコドラ島に上陸する…」
船乗り①「さすがはウインベルクの民の決断ですな」
船乗り②「では早速狼煙を上げましょう」
ストルラームはソコドラ島への上陸を決意。その事を楽団員の女性たちに伝え、
ストルラーム「急遽新しい予定を追加しました」
「私たちはこれよりソコドラ島に上陸し、オーケストラコンサートを行います」
「なお観客の方々の中には魔獣たちもいると思われます」
「皆さん、準備はよろしいですか?」
女性団員①「黄色の狼煙ってことは島に魔獣たちが現れたってことよね」
女性団員②「ええ、きっと魔獣たちの出現を知らせる警告だわ」
女性団員③「本当なら島を迂回して進むのが正解なんだろうけど、それでもコンサートを開くのが私たちよね」
女性団員④「やりましょう、楽団長。本番前のリハーサルってことで」
女性団員⑤「戦場をコンサート会場に変えてこそ、ウインベルクの民です」
ストルラーム「皆さんのお気持ちよく分かりました」
「それではソコドラ島に響かせましょう。私たちの最高のシンフォニーを」
女性団員⑥「はい!お任せください、楽団長!」
アンシー「私たち新人楽団員たちも精一杯演奏いたします!」
マリーチェル「私たちのシンフォニーで魔獣たちを天へと送りましょう」
リンカ「えっ!?」
魔獣たちがいる戦場に向かおうとするムーンマーメイド交響楽団の女性たち、楽団に入団したばかりのリンカだけはその行動にただ驚いていた。
リンカ(心の中で)「(みんな何でそったに(※13)好戦的なんだ…おらたちは楽団員だ…戦いのプロじゃねぇんだ…)」
ソコドラ島に上陸するためアンシー・マリーチェル・リンカの三人は船の相部屋で準備していた。
アンシー「ダールファンの本土に上陸するため前にハープを思いっきり弾けるってわけね!」
「ちょうど良いリハーサルだわ!」
マリーチェル「アンシー、今回はコンサート用のグランドハープじゃなくて、「ホワイトコーラルハープ」(アンシーの私物)を持っていくのね?」
アンシー「魔獣たちと戦うための魔力を生み出すのなら、このハープのほうがいいからね」
マリーチェル「アンシー、ソコドラ島は起伏もある地形らしいわよ。ハープを持ちながらの山登り、大丈夫なの?」
アンシー「問題ないわよ、マリーチェル」
「ウインベルクの民なら音楽だけじゃなく山登りも得意じゃないとね」
マリーチェル「あなたならそう言うと思った」
アンシー「だったら聞かなくても別に良かったんじゃない?」
マリーチェル「こっちも口にしてくれたほうが安心するから」
リンカ「あ、あの…」
マリーチェル「あらリンカ、もう準備は大丈夫なの?」
リンカ「それよりもおらはみんなのごどが心配だ!」
「おらたちはこれから戦場に行くようなもんだ!」
「アンシーやマリーチェルたちは怖くねぇんか!?命を落とすかもしれねぇんだよ!?」
マリーチェル「護衛役のウインベルク共和国騎士団が私たちをしっかりと守ってくれると思うわ」
アンシー「それだったら私たち楽団員は後ろでしっかりと演奏するのが筋ってもんじゃないの」
リンカ「な、なんか観点がズレている気がするだ…」
マリーチェル「まあ確かにリンカたちワトニカの人から見たら、私たちウインベルクの人間は好戦的に見えるかもしれないわね」
アンシー「私たち音楽家は戦いのプロではないんだしね」
リンカ「だったらなすて(※13)戦場なんかに!?」
マリーチェル「世界を平和にしてたくさんコンサートを開きたいからかな…」
リンカ「えっ!?」
アンシー「音楽の可能性は無限にあると思うけど、やっぱり平和な世界で奏でるのが素敵だと思うの…」
「音楽家でも世界平和のために貢献できることがきっとあるはずだわ…」
「私たちウインベルクの民は本気で音楽の力を証明したいと思っているのよ、リンカ」
リンカ「アンシー…マリーチェル…」
続いてリンカは、
リンカ(心の中で)「(ウインブルク共和国の人々…おらが思ったった(※13)以上に情熱的な人たちだったべ…)」
島にやって来た交響楽団、楽団の護衛役であるウインベルク共和国騎士団、船長や船乗りたちは船を下り、ダールファンの兵士たちと話し、
ダールファン兵①(鎧騎士)「迂回を伝える黄色の狼煙を上げたのですよ!」
「なのになぜこの島に!?」
ダールファン兵⑱(サンドナイト)「今、島では王都から来た討伐隊が魔獣たちと戦っているのですよ!」
ダールファン兵⑲(鎧騎士)「島に魔獣たちがいる以上危険です!すぐに船を出して島から離れてくれだい!」
船長「申し訳ございませんが、私たちウインベルクの民にも魔獣討伐を手伝わせていただきませんか」
ストルラーム「ダールファンの皆様のお気遣い感謝いたします」
「ですがこの島で音楽を奏でたいという気持ちもあるのです」
ダールファン兵①(鎧騎士)「ここは戦場です!コンサート会場でございませぬ!」
ストルラーム「私たちにとっては戦場もコンサート会場なのです」
ダールファン兵⑱(サンドナイト)「なんですとっ!?」
ウインベルク兵①(鎧騎士)「ダールファン王国騎士団の皆さん、楽団員たちは我々が命に代えても守ります」
ウインベルク兵②(魔法使い)「それに楽団員たちの多くは楽器を使い戦うことができます」
「奏でる音を光の弾のように変え遠距離から攻撃することができるのです」
ウインベルク兵③(鎧騎士)「楽団員たちは我々にとっても大変心強い味方なのです」
「どうか我々騎士団たちのことも含め、ウインベルクの民たちを信用してください」
ダールファン兵⑲(鎧騎士)「し、しかし…」
ダールファン兵⑱(サンドナイト)「皆様にもしものことがあったら、責任を取らされるのは他ならぬ我々ダールファンの騎士団なのですよ!」
船長「それでしたら全ての責任は私が取りましょう」
「もし楽団員が一人でも命を落としたのなら、船長の私をどうぞ処刑してください」
ダールファン兵⑱(サンドナイト)「そ、そのような真似など…」
ストルラーム「船長ではなく楽団長の私を処刑していただいても結構です」
「私たちにとって音楽は命。ウインベルクの民にとって音楽は空気や水と同じくらいかけがえのない存在です」
「音を奏でてこその民なのです」
女性団員①「お願いします!私たちは音楽を届けたいです!」
女性団員②「自分たちにできることを精一杯やりたいんです!」
アンシー「私たちは簡単には退きません!」
リンカ(心の中で心配そうに)「(アンシー…)」
ダールファン兵⑲(鎧騎士)「で、ですから…」
お互い中々話が進まないが、ここで一人のダールファンの兵士が、
ダールファン兵⑳(魔法使い)「分かりました…ムーンマーメイド交響楽団の皆さん、ウインベルク共和国騎士団の皆さん…コンサートをぜひよろしくお願いします…」
ダールファン兵①(鎧騎士)「おい!何を言い出すんだ!」
ダールファン兵⑳(魔法使い)「この方々の音楽に対する情熱や想いは本物だ…」
「私たちに止められるものではない…」
ダールファン兵⑱(サンドナイト)「そうだな…ウインベルクの方々にも退けぬ想いがあるのだろう…」
ストルラーム「それでは私たちの上陸を許してくれるのですね?」
ダールファン兵⑲(鎧騎士)「皆さんには負けましたよ…」
ダールファン兵⑱(サンドナイト)「責任については後で考えますので…」
ストルラーム「ダールファンの皆様、本当にありがとうございます」
女性団員たち「ありがとうございます!」
ウインベルク兵①(鎧騎士)「我々騎士団も心よりお礼を申し上げます」
船長「感謝いたしますぞ」
島への上陸を許してもらえたことから、ストルラーム、楽団員の女性たち、ウインベルクの騎士団たち、船長や船乗りたち、皆がダールファンの兵士たちに頭を下げた。
そして船長や船乗りたちは船を守るために残り、楽団員、ウインベルクの騎士団、護衛や案内役についたダールファンの騎士団たちは島の奥地へと進んで行った。
楽団員とウインベルクの騎士団たちは道中「竜血樹」のことなど、この島に関する話を聞いた。
一方、島の陸地ではクレード、アリムバルダ騎士団長たちが戦っており、
虫型魔獣「ジッ!ジッ!」
虫型魔獣がクレードに接近してきたが、クレードはアイオライトの盾で攻撃を防ぎ、魔蒼剣で魔獣を斬った。
虫型魔獣「ジッ…」
クレード「貴様らの体当たり攻撃など、このアイオライトの盾の前では無意味だ」
そしてアリムバルダも、
アリムバルダ「ハァァッ!」
アリムバルダは曲刀、シャムシールで虫型魔獣たちを斬った。
クレードたちは辺りの魔獣たちを倒した。そして、
クレード「翼が生えた牙犬型どもも何匹かいたが、虫型の魔獣のほうが多かったな」
アリムバルダ「そうですな。虫型ということもあってか貴重なベニイロリュウケツジュが奴らに何本も食い荒らされてしまったようで…」
ダールファン兵㉑(サンドナイト)「ベニイロリュウケツジュはこの島の貴重な固有種です。我々兵は一本でも多く守らねばならぬというのに…」
クレード「確かに面白い形の木だな。樹木なのにキノコみたいな形をしている」
ダールファン兵㉒(サンドナイト)「リュウケツジュ(竜血樹)の「リュウケツ」とは「竜の血」のことをいっている」
「このベニイロリュウケツジュからもまるで竜の血のような赤い樹脂が採れ染料として使えるのだが、今は樹脂を採ることよりも木を保護することを重視している」
クレード「だったらもっとしっかり木を守ってやるんだな」
「魔獣どもに荒らされる前に」
ダールファン兵㉓(サンドナイト)「その通りですな。なんとも面目ない…」
その時虫型魔獣の増援が大量に現れた。
虫型の魔獣「ジュジュジュ…」
ダールファン兵㉑(サンドナイト)「む、虫型魔獣たちの増援かっ!?」
ダールファン兵㉒(サンドナイト)「猫くらいの大きさで、姿はバッタに近いな…」
ダールファン兵㉓(サンドナイト)「それよりもあの数だ!かなりいるぞ!」
ダールファン兵㉔(魔法使い)「バッタの姿といい、その数といい、まるでサバクトビバッタが魔獣化したみたいだ…」
ダールファン兵㉕(サンドナイト)「あのような魔獣たちは報告にない!我々が倒した約1200匹の魔獣たちとは別の集団か!?」
クレード「まあ何であれ現れたのなら仕方がない。こうなったからには俺もクリスターク・ブルーに変身する」
アリムバルダ「クレード殿、あの青きマスクとスーツの戦士に変身なさるのか?」
クレード「あの数だ。変身してさっさと倒してやるよ」
クレードの変身に興味を持ったのか近くにいたセーヤ王子も、
セーヤ(魔法の絨毯に乗りながら)「クレードさん、あの青き戦士に変身するのですね?」
クレード「そのつもりだ、王子」
セーヤ「僕も魔法の絨毯に乗れるという特殊な魔力がある人間なので、魔法の宝石を使って変身できるあなたやその魔力に興味があります」
「クレードさん、僕に変身したあなたの姿をもう一度見せてください」
クレード「任せろ、王子」
ダールファン兵㉖(サンドナイト)(心の中で)「(この男、国王様の前では言葉遣いも丁寧な感じだったが、王子や騎士団長などの前では全然丁寧ではないな…)」
「(王だけは特別なのか?)」
クレードはグラン・サファイアを手に持ち、そしてクリスターク・ブルーに変身した。
ブルー(クレード)「栄光のサファイア!クリスターク・ブルー!」
ブルーを見たセーヤ王子は、
セーヤ(心の中で)「(宮殿ではあまり気にしなかったけどすごい魔力だ…改めて感じるよ…)」
ブルーは魔蒼剣を構え、
ブルー「いくぞ…虫型魔獣ども」
虫型の魔獣「ジュ…ジュ…」
魔獣たちと戦おうとするブルー。
しかしその時ムーンマーメイド交響楽団と護衛役のウインベルク共和国騎士団たちが戦いの場に現れ、
ストルラーム「ダールファン王国の皆様、私たちはムーンマーメイド交響楽団です」
「皆様の戦いを助けるために参りました」
アリムバルダ「交響楽団がなぜここに!?」
ストルラーム「島の浜辺にいるダールファンの兵士様たちからお許しはいただきました」
ダールファン兵⑱(護衛や案内役)「申し訳ございません、騎士団長」
「ですが、この方々の音楽に対する想いや情熱は本物でございます」
「どうかここはご理解を…」
ストルラーム「今からこの場でコンサートをさせてください」
「私たちは音楽の力で戦うことができるのです」
セーヤ(少し驚いて)「お、音楽の力で戦うって…」
ブルー(心の中で)「(楽器を武器にできるということか?だが今は…)」
船からホワイトコーラルハープを持ってきた交響楽団員のアンシーは、
アンシー(心の中で)「(私たちの音楽を響かせたいわ。この竜血樹の島で)」
ブルーに変身したクレード、そしてムーンマーメイド交響楽団の音楽による戦う力とは?
次回へ続く。
※1…国の名前の由来は、オーストリアの世界遺産「ウィーン歴史地区」(文化遺産 2001年登録)と、ドイツの世界遺産「バンベルク市街」(文化遺産 1993年登録)より
※2…島の名前の由来は、イエメンの世界遺産「ソコトラ諸島(orソコトラ群島)」(自然遺産 2008年登録)より
※3…砂漠の名前の由来は、イランの世界遺産「ルート砂漠」(自然遺産 2016年登録)より
※4…ダールファン王国騎士団員の紋章はそれぞれ、正団員には「ロック鳥」が、正団員見習いには「ロック鳥の卵」が、準団員には「ジン(精霊)」が、クレードたちのような臨時団員もしくは騎士団協力者には「イフリート(精霊)」が描かれている。
※5…遺跡の名前の由来は、イランの世界遺産「シャフリ・ソフタ(orシャフレ・ソフテ)」(文化遺産 2014年登録)より
※6…神殿の名前の由来は、レバノンの世界遺産「バールベック」(文化遺産 1984年登録)より
※7…水利施設の名前の由来は、イランの世界遺産「シューシュタルの歴史的水利施設」(文化遺産 2009年登録)より
※8…町の名前の由来は、イエメンの世界遺産「シバームの旧城壁都市」(文化遺産 1982年登録)より
※9…遺跡の名前の由来は、サウジアラビアの世界遺産「ヘグラの考古遺跡(アル=ヒジュル/マダイン・サーレハ)」(文化遺産 2008年登録)より
※10…塔の名前の由来は、イラクの世界遺産「都市遺跡サーマッラー(orサーマッラーの考古学都市)」(文化遺産 2007年登録)より
※11…元ネタはアイヌ語。『アンモ』は「鬼・妖怪・化け物」などの意味。エゾ藩の人間は魔獣を物の怪やアンモとも呼ぶ。
※12…町の名前の由来は、シリアの世界遺産「古代都市ダマスカス」(文化遺産 1979年登録)より
※13…元ネタは「津軽弁」など。『そったに』は「そんなに」、『なすて』は「どうして?」の意味。
『思ったった』は「思っていた」を津軽弁風に言って。




