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第13話 思い出のチャハルバーグ

13話目です。今回はイランの世界遺産「ペルシャ式庭園」をモデルにした庭園が登場します。

宮殿・爽やかな青い泉・噴水・ヤシの木・花などがきれいな「ペルシャ式庭園」は個人的にも好きな世界遺産です。


<主な登場人物の紹介>


<クレード一行 計8人>

◎クレード・ロインスタイト(男・?歳)

・青色の髪をしている本作の主人公である魔法剣士。

持っている剣の名は「魔蒼剣」、盾の名は「アイオライトの盾」。

魔法の宝石グラン・サファイアにより、クリスターク・ブルーに変身する。

自分の出身地や年齢など、過去の記憶をいろいろなくしている。

◎オリンス・バルブランタ(男・29歳)

・緑色の髪をしている元ルスカンティア王国騎士団の騎士。

魔法の宝石グラン・エメラルドにより、クリスターク・グリーンに変身する。

馬にまたがり騎兵として戦うが、戦局によっては馬を降りて戦うこともある。使う武器は槍(翠電槍他)と斧。愛馬の名はベリル号。

○ナハグニ・按司里あじさと(男・31歳)

・ワトニカ将国リュウキュウ藩出身の侍。自称、うちなー侍。

鵺洸丸やこうまる(男・30歳)

・ワトニカ将国オガサワラ藩出身の忍者。

○ウェンディ・京藤院きょうどういん(女・20歳)

・洋風な名前だがワトニカ将国キョウノミヤ藩出身。柔道家。

語頭に「押忍」、語尾に「~ッス」と付けて話すことが多い。

○ホヅミ・鶴野浦つるのうら(女・22歳)

・ワトニカ将国サド藩出身の女流棋士。

○ススキ(女・22歳)

・ワトニカ将国エゾ藩出身の新人くノ一。内気な性格だが、おしとやかで可憐な女性。

駱駝車を操縦する御者。

千巌坊せんがんぼう(男・39歳)

・ワトニカ将国キノクニ藩出身の僧(坊主、お坊さん)。

回復魔法(※魔法はワトニカでは「妖術」という)が使える。

ススキと同様、駱駝車を操縦する御者。


<その他人物>

◎アンシー・ヒズバイドン(女・22歳)

・北の月(北側の大陸)ウインベルク共和国出身(※1)。

白い髪をしている新人音楽家。

この4月に国立ウインベルク第三音楽大学を卒業したばかりで、女性だけの楽団「ムーンマーメイド交響楽団」に正楽団員として所属している。

この物語における重要人物の一人。

○アケメス・パルーザン(男・52歳)

・ダールファン騎士団の部隊長。兵たちを束ね王都周辺の警備をしている。

名前の由来は、ペルシアの「アケメネス朝」とイランのファールス地方の古地名「パールサ地方」より。

☆○ダルファンダニア35世(男・59歳)

・ダールファン王国の現国王で、国の代表者。第72代国家元主。

今は息子のことでいろいろ悩んでいる。

誕生日は10月3日。

☆●ルパニーナ・ダルファンダニア(故人・女・享年56歳)

・国王35世の亡き妻で、ダールファン王国の元王妃。

心優しく明るい人柄で、家族、家臣、騎士団、国民など生前は多くの人々に慕われた。

3ヶ月前、病で亡くなった。

☆○セーヤ・ダルファンダニア(男・25歳)

・国王35世と元王妃ルパニーナの息子で、ダールファン王国の王子。

最愛の母を亡くしたことで今も深く悲しんでおり、前向きな気持ちになれないでいる。

誕生日は9月20日。

☆○シャルペイラ・ダルファンダニア(女・21歳)

・国王35世と元王妃ルパニーナの娘でセーヤ王子の妹。ダールファン王国の姫様。

母を亡くし落ち込んでいる兄のセーヤ王子をとても心配している。

誕生日は4月19日。

☆○アリムバルダ・モルジノス(男・58歳)

・ダールファン王国騎士団長。軽装な服装で曲刀、シャムシールを持ち戦う、砂漠の騎士サンドナイトである。

誕生日は11月4日。

☆○イルビーツ・サウロザーン(男・35歳)

・ダールファン王国東部の騎士団を束ねる副騎士団長(三人いる副騎士団長の一人)。自身の特殊な魔力により魔法のランプで魔神を具現化できる。

男爵家の出。イケメンだが独身。恋愛には疎いのだ。

誕生日は2月13日。

(☆:新キャラ)

ケルビニアン暦2050K年5月20日の夜。

ベルゼポリスの遺跡(※2)での戦いを終えたクレードやオリンスたちは、ダールファン王国騎士団部隊長のアケメスに案内され、王都の郊外、アフラジダール地区(※3)の砦で休んでいた。

クレード「王都の郊外には砂漠だけでなく、ヤシの木とか緑もあるのか」

オリンス「兵士たちに聞いたんだけど、この辺りの地区には昔からの灌漑システムが残っていて、今でも生活や農業のために利用されているんだって」

クレード「砂漠で農業ができるのはありがたいな」

 「それも灌漑システムによる水路のおかげってわけか」

オリンス「そうだね。この辺りで採れるデーツが王都の人たちの食生活を支えているみたいだしね」

続いてオリンスはクレードに、

オリンス「ナツメヤシの実であるデーツは、栄養豊富で熱中症の予防にもなるといわれてるんだよ。砂漠の国では大切なフルーツなんだ」


次の日の5月21日の朝。

クレードや騎士団部隊長のアケメスたちは、ダールファン王国王都の中心街に来ていた。人や店で賑わう中心街、そこで、

ウェンディ「押忍!茶色い円錐形の塔が見えるッス!」

アケメス「あれはゴンバデ・ダールースの塔(※4)だ」

 「ムーンリアスで最も高いレンガ造りの塔だといわれている」

鵺洸丸「ほう、レンガであのような高い塔を造るとは…」

アケメス「千年以上前に造られたあの塔も、今ではこの中心街の観光名所になっているよ」

ナハグニ「うーむ、それならば拙者たちも塔を登ってみたいとこでござるが…」

アケメス「すまないが、そこまで時間にゆとりはない」

 「我々兵たちも今日の昼頃にはゴレスダール宮殿(※5)に着いておきたいしな」


中心街を進み、そして、

ホヅミ「大きなぁ広場とぉ宮殿が見えるですぅ」

アケメス「イマムダール広場(※6)とアリンカップ宮殿(※6)だ」

千巌坊(駱駝車を操縦しながら)「泉の前に佇む美しき宮殿でございますが、国王様がいらっしゃる所ではないのですね…」

アケメス「確かに国王様たちはおらぬが、今はダルバンダラス家という国王様たちの家系とは別の王族の方々が住んでいらっしゃる」

ススキ「さすがは王族ね、あんな大きな宮殿で暮らせるなんて」

アケメス「だが広場は憩いの場として国民たちにも提供している」

 「今の時代、王族や貴族でも国民に寄り添った考え方が必要なのだ。そうでないと、政府と国民の間で対立が起き、争いにまで発展するかもしれないからな」


そしてゴレスダール宮殿近くのアレッポス地区(※7)まで来て、

クレード「この辺りは店が特に多いな。中心街の中でも一番賑わっている所なんじゃないのか?」

アケメス「まあその通りなんだが、昔はもっと商店の規模がすごかったよ」

クレード「この地区で何かあったのか?」

アケメス「35年くらい前だ、当時の政治体制に反対する者たちがこの地区でデモを行い、そして王国騎士団との武力衝突へと発展してしまった」

 「その結果、ムーンリアスの中でも最大規模といわれたこのスーク(※市場のこと)も被害を受け、多くの店が消失したのだよ」

オリンス(ベリル号に乗りながら)「その話、俺も時事問題の講義で聞いたことがあります」

 「最終的には王国騎士団が反対派の者たちを抑え込んだことで、戦いは終わったみたいですが…」

アケメス「人間同士の争いにより被害が出たバルトトラやパルミランの遺跡(※8)もそうだ」

 「世の中で怖いのは魔獣だけではない…人の心の闇というのも恐ろしいものなのだ…」

続いてアケメスは、

アケメス「もう二度とこの国で内戦など起きてほしくないよ…」

クレード(心の中で)「(魔獣だけではなく人間による被害か…)」

 「(世の中綺麗事だけじゃないってわけか。まあだからこそメタルクロノスのような連中も現れたのだろう…)」


そして同じ日(21日)の昼、

クレードたちはアケメスや騎士団に案内され、国王のいるゴレスダール宮殿までやって来た。

宮殿の壁や天井はきらきらと光り輝く鏡張りの造りで非常に美しかった。


そしてアケメスは宮殿内で兵士たちと話し、

ダールファン兵①(鎧の騎士)「これはアケメス殿、よくぞお戻りで」

アケメス「王子はどうなさっている?やはりエイラム庭園(※9)にいらっしゃるのか?」

ダールファン兵②(鎧の騎士)「はい…やはり今日も朝から庭園に行かれておりまして…」

ダールファン兵①(鎧の騎士)「王子にとって庭園は王妃様との思い出の場所ですからね…」

アケメス「姫様も王子とご一緒なのか?」

ダールファン兵②(鎧の騎士)「ええ…セーヤ王子と共に庭園へ向かわれました…」

アケメス「分かった。では私は先に国王様よりも王子と姫様にお会いしよう」


アケメスはクレードたちを城の中庭であるエイラム庭園にまで連れて行き、クレードたちは庭園を見て、

ホヅミ「わぁ!素敵なお庭ですぅ!」

ウェンディ「押忍!ヤシの木・花壇・噴水、実に豪勢ッス!」

ススキ「小さい女の子と若い女の人もいるわ。親子かしら?」

アケメス「チャハルバーグともいう四分庭園の様式で造られたこの庭園は、元々宮殿に暮らす王族や貴族などの憩いの場所であったが、王妃のルパニーナ様が一般市民にも開放したのだよ」

鵺洸丸「先程のイマムダール広場と同じような事例でありますな」

ナハグニ「いやあしかし、これだけお美しい中庭を国民の方々にもご提供なさるとは、ちびらーさん(※10)な王妃様でござるなあ」

アケメス「だがそのルパニーナ様も3ヶ月ほど前にお亡くなりになられた」

千巌坊「なんと…」

アケメス「ご病気だったのであろう…お亡くなりになる数ヶ月前からあまり体調もよろしくなかった…」

クレード「回復魔法もあるというのに病気で亡くなる人間もいるというわけか」

鵺洸丸「クレード殿、それが世の中というものでございまする」

オリンス「そりゃあ回復魔法で治る怪我とかもあるけど、魔法は決して万能じゃないんだよ、クレード」


続いてアケメスは、

アケメス「本当に惜しい方を亡くした…とてもお優しい方で、ご家族である国王様・王子様・姫様のみならず、家臣や騎士団、そして国民たちにも愛されていた…」

千巌坊「アケメス殿…王妃様のお墓は近くにございますかな?」

 「よろしければ我々も墓参りをさせていただきたいのだが…」

アケメス「ルパニーナ様の王墓はこの庭園の奥にある」

 「国王様や家臣の方々の計らいで、王妃様が生前愛したこの庭園に王墓を造ることにしたのだ」

オリンス「それでしたら俺たちもルパニーナ様の王墓へ行かせてください」

ウェンディ「押忍!お墓の前でしっかりと手を合わせたいッス!」

ホヅミ「素敵なお庭をぉ見せてくれたことをぉ王妃様にお礼したいですぅ」

ススキ「そんなお優しいお方なら、私たちからもご冥福をお祈りしたいわ」

アケメス「心配しなくても良い。君たちもルパニーナ様の王墓まで連れて行くつもりだったよ」

 「そこに王子様たちもいらっしゃるのだからな」


アケメスやクレードは庭園を進み、ルパニーナ王妃の王墓までやって来た。

王妃の墓の前までは、セーヤ王子とシャルペイラ姫、二人を守る親衛隊たちがいた。

セーヤ(王子)「母上…どうして…どうして…」

シャルペイラ(姫)「お兄様…」

セーヤは王妃である母ルパニーナ様と庭園で過ごしたことを泣きながら思い出していた。


(回想シーン)


ルパニーナ(故人の母)「セーヤ、あまり走り回っては危ないわよ」

幼いセーヤ「はーい」


幼いセーヤ「お庭の噴水がきれいだね、母上」

ルパニーナ「セーヤ、あれは魔法の力で動かしているのよ」

幼いセーヤ「魔法って、すごいや」

ルパニーナ「セーヤ、あなたにもすごい魔力があるのよ」

幼いセーヤ「そうみたいだね。魔法使いの先生たちにも言われたことあるよ」

ルパニーナ「その魔力、困っている国民の皆様のために使うのですよ、セーヤ」

幼いセーヤ「うん。僕将来優しい王様になりたいもん」

ルパニーナ「母としてあなたに期待していますよ」


(回想終わり)


下を向き悲しんでいる王子。

アケメスは王子よりも先に親衛隊たちに話しかけ、

アケメス(小声)「(王子はずっとこんな感じか?)」

親衛隊①(小声)「(はい。やはり今日も朝からルパニーナ様のお墓の前で悲しんでおられまして…)」

親衛隊②(女性、小声で)「(シャルペイラ様も王子様がご心配で、ずっと付き添っていらっしゃいます…)」

アケメス(小声)「(そうか。だが王子に声をかけねばなるまい)」


アケメスは王子に声をかけた、

アケメス「王子様、只今よろしいでしょうか?」

セーヤ(涙顔)「ア、アケメス殿…?」

姫のシャルペイラはアケメスの後ろにいるクレードたちに気づき、

シャルペイラ「アケメスさん、そちらの方々は?」

アケメス「この者たちは南のルスカンティア王国から来た者たちです」

クレード「私はクレード・ロインスタイトと申します」

 「よろしくお願いいたします。王子様、お姫様」

相手が王子や姫ということで、クレードは珍しく丁寧に話した。

そしてオリンスやナハグニたち7人も姫に挨拶し、その後アケメスが、

アケメス「この者たちはルスカンティアの国王様より紹介状を貰っております」

 「この国で困ったことがあれば力になりたいとのことです」

セーヤ「僕たちの国のために、お力を…?」

シャルペイラ「それでしたら皆様、王である父にお会いしてください」

 「父は今玉座の間にいるはずです」

 「私たちが父の所まで案内いたします」

 「お兄様もよろしいですね?」

セーヤ「う、うん…」

移動の前にクレードたち8人は王妃ルパニーナの王墓に手を合わせ、王妃のご冥福を祈った。


その後宮殿の王座の間へと向かい、ダールファン王国の王と対面した。

王座の間には王の他、騎士団長のアリムバルダと、三人いる副騎士団長の一人であるイルビーツもいた。

アケメスは国王やシャルペイラ姫たちにクレードたちのことを話した。

そして王はクレードたちに王都周辺のベルゼポリスの遺跡での戦いに加勢し、魔獣たちを退治したことへの礼をまず言った。


話を始めたクレードと国王たち。

オリンスはルスカンティアの国王、ルスディーノ29世からの紹介状を王に渡し、王は紹介状に目を通し、

ダルファンダニア35世(王様)「ルスディーノ殿の紹介状、確かに確認させてもらった」

オリンス(跪きながら)「ハッ!」

ダルファンダニア35世(王様)「して、そなたらはこの国のために力になりたいと?」

オリンス(跪きながら)「どうかよろしくお願いいたします。魔獣たちによる被害が出ているのなら、私たちが対処いたします」

千巌坊(跪きながら)「この国の教会で話を聞いております…」

 「なんでも王都周辺や東部地域では被害が拡大していると…」

イルビーツ(副騎士団長の一人)「確かに国の東部では魔獣たちによる被害が拡大しつつあります」

 「そのため、東部地域の騎士団を束ねる副騎士団長の私もこうして王都に相談に来ているくらいです」

アリムバルダ(騎士団長)「そして話通りこの王都周辺にも魔獣が多く、我々も対処に苦労しているのだ」

シャルペイラ(姫)「王都の郊外にあるベルゼポリスの遺跡にも現れるくらい魔獣たちがたくさんいるのですよ…」


続いて姫は、

シャルペイラ(姫)「皆様!どうかお力をお貸しください!お願いいたします!」

 「皆様はルスカンティアの国王様やアケメスさんがお認めになるほどの強き戦士様たちでございます!ですからその強き力をどうか私たちの国のために…」

クレード(跪きながら)「ご安心なさってください、プリンセス」

 「我々は最初から力になるためにこの国に来たのです」

オリンス(跪きながら)「姫様のご期待を裏切るような真似は決していたしません。この国のために一働きさせてください」

ナハグニ(跪きながら)「うちなー侍、ナハグニ・按司里!麗しき姫様のための力となりましょう!」

ウェンディ(跪きながら)「押忍!魔獣退治ならウチらに任せてほしいッス!」

ホヅミ(跪きながら)「砂漠の国でもぉ、ホヅミやぁ駒人形さんたちはぁやる気いっぱいですぅ!」

ススキ(跪きながら)「私はまだ新人のくノ一ですが、できる限りのことをして参ります…よろしくお願いします…」

シャルペイラ(何度も頭を下げながら)「皆様、ありがとうございます!ありがとうございます!」

セーヤ(王子、小声で)「あ、ありがとうございます…」


ここで鵺洸丸が、

鵺洸丸(跪きながら)「その他今月末にはウインベルク共和国からムーンマーメイド交響楽団が来訪すると聞いておりまする」

 「そちらの音楽団を安全にお迎えするためにも、周辺の物の怪どもを一掃する必要があるかと…」

ナハグニ(跪きながら大きな声で)「女子おなごだけの音楽団だというのなら、尚の事安全にお迎えせねばなりますまい!」

ホヅミ(ナハグニを見て心の中で)「(調子いいですねぇこの人はぁ)」

ダルファンダニア35世(王様)「交響楽団の件も知っているのなら話は早い」

 「ならば早速魔獣討伐の会議を始めたいとこが、そなたらもよろしいか?」

オリンス(跪きながら)「ハッ!この国のためにぜひ戦わせてください!」


続いて国王は王子と姫に、

ダルファンダニア35世「セーヤ、シャルペイラ、すまぬが二人も魔獣討伐のための会議に参加してくれ」

セーヤ「えっ?」

シャルペイラ「お父様、私とお兄様もですか!?」

ダルファンダニア35世「そうだ。王族の仕事だと思って話を聞くのだ」

セーヤ王子とシャルペイラ姫も王やクレードたちと共に討伐会議に参加することになった。


そして騎士団長のアリムバルダがアケメスに、

アリムバルダ「アケメスよ、ここまでの案内ご苦労であった」

 「我々はこれよりクレード殿やオリンス殿たちと魔獣討伐のための会議を始める」

 「そなたは兵を率いて再び王都郊外の警備に当たってくれ」

アケメス「ハッ!」

アリムバルダ「クレード殿たちはそなたも認めた強き者」

 「ならば私も彼らを信じるとしよう」

アケメス「ハッ!ありがたきに!」

警備に戻るアケメスにクレードたちは礼を言って、

クレード「あんたにはいろいろ世話になったな。ここまで案内してくれたことに感謝する」

オリンス「私たちの力を認めていただきありがとうございます」

アケメス「必ずや国王様たちのお力になってくれ。あとは頼んだぞ」

クレードたちはアケメスと別れた。


アケメスと別れた後、クレードや国王たちは部屋を変え、部隊編成などの話を進めていた。

アリムバルダ「現在、王都周辺及び東部地方で魔獣による被害が大きい所は主に9つあります」

 「ダルート砂漠(※11)・ダルート砂漠内にあるシャフレダールの遺跡(※12)・シュシュダールンの水利施設(※13)・サマラダールの螺旋塔付近(※14)・アルダビジュールの遺跡(※15)・ジバムーダルの町付近(※16)・ダールマッカスの町付近(※17)・バールダベック神殿(※18)、そしてソコドラ島(※19)の9つでございます」

 「兵たちの報告から、このうち最も魔獣の数が多いのはソコドラ島とされています」

イルビーツ「ソコドラ島の魔獣たち…早急に一掃したいとこですが…」

ナハグニ「そこは重要な所なのでござるか?」

イルビーツ「ソコドラ島には灯台もあり、我が国にとっては航海の目印となっている重要な場所なのです」

 「そのため船で他国から来られる方々は航海ルートの中でこの島を一つの目印としていることがほとんどです」

 「今度我が国にお見えになるムーンマーメイド交響楽団も島の近海を船で通ると聞いております」

クレード(改まって)「航海にとって重要な拠点であり、そしてそこに魔獣どもが集まっている…」

 「そういうことならばこの島へは私が行きましょう」

 「島の魔獣どもを一掃し、交響楽団を安全にお迎えいたしましょう」

ダルファンダニア35世「青き剣士よ、ソコドラ島へ行き戦ってくれるのか?」

クレード「お任せください、国王様」


続いてオリンスも、

オリンス「では私はダルート砂漠へ行かせていください」

 「私は特殊な魔力により馬をラクダに変えることができます」

 「ラクダの姿であるキャメル・ベリル号に跨り騎兵として砂漠や砂漠の遺跡で戦って見せます」

ダルファンダニア35世「ダルート砂漠は広大な土地だ。そこで戦ってくれるというのなら、本当にありがたい…」


ここで王は、

ダルファンダニア35世「青の剣士、緑の騎士よ」

 「ルスディーノ殿の紹介状やアケメスからの報告によると、そなたら二人は特殊な魔力によりマスクとスーツ姿の戦士に変身できるようだな」

 「ならば私にもその変身した姿を見せてはくれぬか?」

オリンス「かしこまりました。国王様」

 「どうぞご覧ください」

クレード「これが私たちの特殊な力です」

クレードはグラン・サファイアを、オリンスはグラン・エメラルドをそれぞれ袋から取り出し、そして、

クレード&オリンス「カラーチェンジ!&クリスタルオン!」

二人の体が光り輝き、

ブルー(クレード)「栄光のサファイア!クリスターク・ブルー!」

グリーン(オリンス)「希望のエメラルド!クリスターク・グリーン!」

二人はそれぞれ変身した。


それを見た王たちは大変驚き、

ダルファンダニア35世「おおっ!なんという姿か!」

アリムバルダ「なんとも妙な姿だ…確かにマスクとスーツ姿の戦士といえるな…」

イルビーツ「そなたらのそのお姿、何か意味があってのことでございますか?」

ブルー「申し訳ございませんが、私にもこの姿の意味は分かりません」

 「今は過去の記憶をほとんどなくしておりますので…」

シャルペイラ「ま、まあでも見た目はともかく、お二人にはすごい魔力を感じますわ!」

 「まるで魔力の洪水と思えるくらいのすごいお力を…」

セーヤ(元気なさそうに)「そうだねシャルペイラ、凄まじいほどの魔力だよね…」

シャルペイラ(心の中で)「(なんか素っ気ない感じだわ…)」

 「(お兄様、あまり関心ないのかしら…)」

 「(やはりお兄様はお母様のことでどうしても…)」

ダルファンダニア35世「と、とにかくそなたらのすごさはよく分かった!」

 「も、もう変身を解いてもよいぞ!」

グリーン「ハッ!」

ブルー(クレード)&グリーン(オリンス)「カラー&クリスタルオフ」

二人は変身を解いて元の姿に戻った。


そして国王は、

ダルファンダニア35世「うむ。そなたらほどの魔力の持ち主であれば討伐を任せて全く問題なかろう」

 「ぜひともよろしくお願いしたい」

オリンス「ハッ!信頼していただき誠にありがとうございます!」

イルビーツ「さすがはルスカンティアの国王様が見込んだ方々ですね。その魔力にお見それいたしました」

ダルファンダニア35世「うむ。そなたらと一緒であれば王子を同行させても大丈夫であろう」

アリムバルダ「国王様、今何と?」

ダルファンダニア35世「私は今回の討伐に王子も同行させたいと思っていたのだ」

セーヤ「ち、父上、僕もですか?」

ダルファンダニア35世「その通りだ、セーヤ。そなたも討伐隊の一人として加わるがよい」

シャルペイラ「なぜです、お父様!」

 「なぜお兄様を戦いの場に!」

ダルファンダニア35世「それが今のセーヤに必要だと思ったからだ…」

シャルペイラ「お父様!お兄様はお母様の死を誰よりも悲しんでいるのですよ!」

 「そんな今のお兄様に戦えと言うのですか!」

ダルファンダニア35世「セーヤの悲しみはよく分かるさ」

 「私だってずっと悲しむセーヤのことを考えていたのだからな…」

 「だがセーヤが悲しんでいるからといって、魔獣たちがそれに同情してくれると思うか?」

シャルペイラ「そ、それは…」

ダルファンダニア35世「警備の甘かったザビトダール村(※20)では村人たちが魔獣に襲われ命を落とし、アッシュダールの町(※21)では魔獣たちに堰を破壊され水害が出たばかりなのだ…」


続いて王は、

ダルファンダニア35世「私だって妻であるルパニーナの死は悲しいさ…」

 「だが魔獣たちによる被害は少しでも食い止めねばならん。悲しんでばかりではいられぬのだ」

 「前を向き魔獣たちに対ししっかりと対応せねば」

シャルペイラ「お父様…」

セーヤ(心の中で)「(そうだ…父上だって悲しいのだ…)」

 「(だったら僕だけが悲しんでいるわけにも…)」


セーヤは少し前向きな気持ちになれた。そして、

セーヤ「分かりました父上。僕も同行させてください…」

シャルペイラ「お、お兄様!?」

ダルファンダニア35世「セーヤよ、討伐隊に同行してくれるのか?」

セーヤ「はい。お願いいたします」

シャルペイラ「お兄様!お父様!どうか考え直してください!」

 「今のお兄様が戦場へ行くなんてとても…」

セーヤ「確かにちょっと心配だけど今ここで落ち込んでいるわけにもいかないんだよ、シャルペイラ…」

 「王子として国を守るために今動かないと…」

シャルペイラ「お兄様…」

親衛隊③「シャルペイラ様、王子様は我々親衛隊がお守りいたします」

親衛隊④「どうかご安心なさってください」

アリムバルダ「親衛隊だけではございませぬ」

 「この騎士団長アリムバルダも王子をお守りいたします」

シャルペイラ(少し安心して)「親衛隊の皆さん…アリムバルダさん…」

セーラ「大丈夫だよ、シャルペイラ」

 「僕は絶対に生きて戻ってくる…」

ダルファンダニア35世「セーヤ、よくぞ決心してくれた」

セーヤ「父上…」


ダルファンダニア35世「ではセーヤよ、選ぶがよい」

 「クレード殿と共にソコドラ島に行くか、オリンス殿と共にダルート砂漠に行くかを」

セーヤ「それでしたら僕はクレード殿とソコドラ島へ向かいます」

 「ムーンマーメイド交響楽団の方々もソコドラ島近海を通るというのなら、僕もお力になりたいです」

 「王子としてムーンマーメイド交響楽団の方々を安全にお迎えしたいのです。そのためなら島にいる魔獣たちとも戦うつもりです」

ダルファンダニア35世「セーヤよ、そなたは魔法の絨毯に乗り空を飛ぶことができるのだ」

 「その特別な能力、皆様のために役立てるがよかろう」

セーヤ「はい、父上…」

アリムバルダ「セーヤ様、魔法の絨毯は誰にでも扱える物ではございませぬ」

イルビーツ「ですがセーヤ王子は絨毯を使いこなせているではありませんか」

アリムバルダ「セーヤ王子、どうか自信をお持ちになってください」

 「王子には特別なお力があるのですから」

セーヤ「ありがとうございます。騎士団長、副騎士団長…」

 「愛する母も僕の魔力に期待してくれました…」

 「母の想いに応えるためにも、僕も皆様と参ります…」

クレード(改まって)「よろしくお願いいたします、王子様」


クレード・セーヤ王子・アリムバルダ騎士団長・親衛隊たちはソコドラ島へ向かうことになった。

そして討伐会議はその後も続き、ナハグニはバールダベック神殿へ、鵺洸丸はシュシュダールンの水利施設へ、ウェンディはジバムーダルの町付近へ、ホヅミはアルダビジュールの遺跡へ、ススキはサマラダールの螺旋塔付近へ、千巌坊はダールマッカスの町付近へ、また副騎士団長のイルビーツはオリンスと共にダルート砂漠及びシャフレダールの遺跡へそれぞれ向かうことになった。


戦いや移動の準備を済ませ、次の日の22日の朝、クレードたちはそれぞれ宮殿を出た。

出発の際、クレードや王子たちは国王やシャルペイラ姫たちから見送られ、

シャルペイラ「アリムバルダ騎士団長、親衛隊の皆さん、クレードさん」

 「どうかお兄様をよろしくお願いいたします」

親衛隊③「国王様、姫様、お任せください!」

アリムバルダ「民のため、ムーンマーメイド交響楽団のために、ソコドラ島の魔獣たちを我らの手で一掃いたしましょう」

クレード(丁寧な感じで)「最高のコンサートをお届けするため、私も一肌脱がせていただきます」

セーヤ「父上、僕たちは行きます」

ダルファンダニア35世「頼むぞ、セーヤ」

 「無理のない範囲でな…」

セーヤ「はい…」


王都付近の島、ソコドラ島に向けて出発するクレードやセーヤ王子たち。

その頃船で移動中の楽団員のアンシーは、

アンシー(心の中で)「(真珠のように淡く澄んだ曲…)」

 「(全体の曲調としてはフラットでピアニッシモな感じが良いのかしら?)」

アンシーもソロ演奏で披露する曲を完成させるため、いろいろと考えていた。

ソコドラ島へ向かう青い髪のクレードと曲の完成を目指す白い髪のアンシー、そしてオリンスたち仲間はこの後どう動くか? 

次回へ続く。


※1…国の名前の由来は、オーストリアの世界遺産「ウィーン歴史地区」(文化遺産 2001年登録)と、ドイツの世界遺産「バンベルク市街」(文化遺産 1993年登録)より

※2…遺跡の名前の由来はイランの世界遺産「ペルセポリス」(文化遺産 1979年登録)より

☆※3…地区の名前の由来は、オマーンの世界遺産「アフラージュ、オマーンの灌漑システム」(文化遺産 2006年登録)より

☆※4…塔の名前の由来は、イランの世界遺産「ゴンバデ・カーブース」(文化遺産 2012年登録)より

※5…宮殿の名前の由来は、イランの世界遺産「ゴレスターン宮殿」(文化遺産 2013年登録)より

☆※6…広場の名前の由来は、イランの世界遺産「イスファハーン(or エスファハーン)のイマーム広場」(文化遺産 1979年登録)、宮殿の名前の由来は同「イマーム広場」の「アリ・カプ宮殿」より

☆※7…地区の名前の由来は、シリアの世界遺産「古代都市アレッポ」(文化遺産 1986年登録)より

☆※8…遺跡の名前の由来は、イラクの世界遺産「円形都市ハトラ」(文化遺産 1985年登録)と、シリアの世界遺産「パルミラの遺跡」(文化遺産 1980年登録)より

☆※9…庭園の名前の由来は、イランの世界遺産「ペルシャ式庭園」(文化遺産 2011年登録)の構成資産、「エラム庭園」より

※10…元ネタは沖縄の方言。「ちびらーさん」は「素晴らしい」などの意味。

☆※11…砂漠の名前の由来は、イランの世界遺産「ルート砂漠」(自然遺産 2016年登録)より

☆※12…遺跡の名前の由来は、イランの世界遺産「シャフリ・ソフタ(or シャフレ・ソフテ)」(文化遺産 2014年登録)より

☆13…水利施設の名前の由来は、イランの世界遺産「シューシュタルの歴史的水利施設」(文化遺産 2009年登録)より

☆※14…塔の名前の由来は、イラクの世界遺産「都市遺跡サーマッラー(or サーマッラーの考古学都市)」(文化遺産 2007年登録)より

☆※15…遺跡の名前の由来は、サウジアラビアの世界遺産「ヘグラの考古遺跡(アル=ヒジュル/マダイン・サーレハ)」(文化遺産 2008年登録)より

☆※16…町の名前の由来は、イエメンの世界遺産「シバームの旧城壁都市」(文化遺産 1982年登録)より

☆※17…町の名前の由来は、シリアの世界遺産「古代都市ダマスカス」(文化遺産 1979年登録)より

☆※18…神殿の名前の由来は、レバノンの世界遺産「バールベック」(文化遺産 1984年登録)より

☆※19…島の名前の由来は、イエメンの世界遺産「ソコトラ諸島(or ソコトラ群島)」(自然遺産 2008年登録)より

☆※20…村の名前の由来は、イエメンの世界遺産「古都ザビード」(文化遺産 1993年登録)より

☆※21…町の名前の由来は、イラクの世界遺産「アッシュール(カラット・シェルカット)」(文化遺産 2003年登録)より

(☆:物語初登場の世界遺産)

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