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第10話 木と生きるバルブランタ家

10話目です。クレード・オリンス・ナハグニ・鵺洸丸・ウェンディ・ホヅミ・ススキ・千巌坊たち8人のことをどうかよろしくお願いします。


<主な登場人物の紹介>


<クレード一行 計8人>

◎クレード・ロインスタイト(男・?歳)

・青色の髪をしている本作の主人公である魔法剣士。

魔法の宝石グラン・サファイアにより、クリスターク・ブルーに変身する。

自分の出身地や年齢など、過去の記憶をいろいろなくしている。

◎オリンス・バルブランタ(男・29歳)

・緑色の髪をしている元ルスカンティア王国騎士団の騎士。

馬にまたがり騎兵として戦うことが多い。愛馬の名はベリル号。

魔法の宝石グラン・エメラルドにより、クリスターク・グリーンに変身する。

大学で地理を勉強した。

ルスカンティア王国ジルミエンス村(※1)出身。

5月4日が誕生日で、29歳になったばかり。

○ナハグニ・按司里あじさと(男・31歳)

・ワトニカ将国リュウキュウ藩出身の侍。自称、うちなー侍。

鵺洸丸やこうまる(男・30歳)

・ワトニカ将国オガサワラ藩出身の忍者。

○ウェンディ・京藤院きょうどういん(女・20歳)

・洋風な名前だがワトニカ将国キョウノミヤ藩出身。柔道家。

語頭に「押忍」、語尾に「~ッス」と付けて話すことが多い。

○ホヅミ・鶴野浦つるのうら(女・22歳)

・ワトニカ将国サド藩出身の女流棋士。

○ススキ(女・22歳)

・ワトニカ将国エゾ藩出身の新人くノ一。

千巌坊せんがんぼう(男・39歳)

・ワトニカ将国キノクニ藩出身の僧(坊主、お坊さん)。

回復魔法(※魔法はワトニカでは「妖術」という)が使える。


<その他人物>

☆○ザバンズ・バルブランタ(男・62歳)

・オリンスの父親。ルスカンティア王国ジルミエンス村に住む木こり。

誕生日は2月25日。

☆○リビンジーラ・バルブランタ(女・59歳)

・オリンスの母親。夫の手伝いをしている。

心優しい性格。

誕生日は9月11日。

☆○オルビリア・バルブランタ(女・31歳)

・オリンスの3つ上の姉。村の工房で動物などの木彫り細工を作る仕事をしており、細工は村のお土産として売られている。

独身で実家暮らし。

誕生日は1月12日で、次32歳になる。

(☆:新キャラ)

ケルビニアン暦2050K年5月5日。

オリンスの故郷であるジルミエンス村に向かうためルスケニーア山(※2)を登り始めたクレード一行。

一行はある程度山を登り、途中のマプングブエルス村(※3)の宿で休憩していた。

鵺洸丸「山を登って二日目の夜か…」

オリンス「明日の昼頃には故郷のジルミエンス村に着けると思うよ」

 「このマプングブエルス村は俺にとっては隣村のような身近な場所だから」

ススキ「ならもうひと踏ん張りですね」

クレード「しかし、ウェンディやホヅミは大丈夫なのか?」

 「だいぶ山を登ったぞ」

ウェンディ「押忍!修行だと思えば余裕ッス!」

ホヅミ「ホヅミの故郷のぉサド藩はぁ、金や銀のぉ鉱山地帯ですぅ」

 「サドの人はぁみんな山登りが得意ですぅ」

千巌坊「だがあまり無理はするなよ…山は空気が薄いからな…」

オリンス「高山病にも気をつけないとね」

ナハグニ「しかしこの村はサイのモニュメントが多いでござるなあ」

 「この宿にも飾っておるし」

オリンス「それは村の遺跡から金色のサイの像が出てきたからなんだ」

 「金色のサイの像は大昔の王族とかが象徴として持っていたとも考えられていて、今でも大切に保管されているくらい貴重な品なんだ」

 「そんな貴重なサイの像がこの村にあったことから、今ではサイは村のシンボルになっているんだよ」

クレード「村のシンボルだからサイのモニュメントが何基もあるということか」

オリンス「そういうこと」


次の日(5月6日)の昼、予定通りクレードやオリンスたちはジルミエンス村にたどり着いた。だが、

オリンス「ここまで来てもらって申し訳ないけど、俺とクレードだけで家族に会ってくるよ」

ナハグニ「それは殺生でござるぞ!拙者ら6人は置いてきぼりでござるか?」

オリンス「そういうわけじゃないんだ…ただ家が狭いから俺たち8人全員は入れなくて…」

ススキ(心の中で)「(そういえば、ご実家があまり裕福ではないようなことを言っていたわね…)」

鵺洸丸「ナハグニ殿、オリンス殿のご家庭はセルタノ殿のとことはまた事情が違うのだ…ここは我慢いたせ…」

ホヅミ「オリンスさんが会えればぁそれで良いですよぉ」

クレード「俺は家族に説明する役としてついて行く」

 「大学に論文を渡すことにしても記憶を取り戻すことにしても、この旅には俺が大きく関わっているからな」

千巌坊「頼むぞクレード…お主がいたほうが話も早いだろう…」

ウェンディ「押忍!だったらウチらはその間村を観光するッス!」

オリンス「この村のチョンゴニルス地区(※4)には大昔の岩絵があるから観光するならそこがいいんじゃなかな?」

鵺洸丸(心の中で)「(また岩絵か…この間遠征に出たルスコンドアの遺跡群(※5)といい、数日前のマトボルス村(※6)といい、この国は大昔の岩絵ばかり…)」

 「(まあそれだけ古くから人が住んでいるという証拠でもあるのだがな…)」

 「(さすがは人類誕生の地ルスカンティアといったところか…)」


岩絵などの話をしたオリンスだが、ホヅミは、

ホヅミ「うーん、観光もぉいいですけどぉ、ホヅミはぁ他に行きたいとこがありますぅ」

 「オリンスさぁん、この村にぃチェスのサロンとかぁありますかぁ?」

オリンス「中心街の商店街にはそういう店もあるんじゃないかなあ?俺はチェスをやったりしないから、地元の店でもよく分からないけど…」

ホヅミ「まあそれならぁホヅミ探してみますぅ」

 「ホヅミはぁ、将棋のことをぉ外国の人にもぉ知ってもらいたくてぇ、旅してるんですからぁ」

ススキ「そういえばホヅミさんはお城でそんな話をしていたわね」

ホヅミ「将棋もぉチェスもぉ、盤の上でぇ駒を動かす遊戯ですぅ」

 「チェスが好きな人ならぁ、将棋にも興味持てるとぉ思いますぅ」

クレード(心の中で)「(ボードゲームの「チェス」か…ヴェルトン博士から少し聞いたな…)」

 「(ホヅミには将棋の駒から小さい武者や小さい龍とかを作る魔力があるが、世の中にはチェスの駒を兵士ポーン騎士ナイトの姿に変えることができる奴もいるかもな…)」


ホヅミから将棋やチェスの話などを聞いたクレードやオリンスたち。そして、

オリンス「それじゃあ明日の昼頃、村の中央広場で会おう」

千巌坊「昼食は合流してから皆でいただくとしよう…」

ナハグニ(心の中で)「(では拙者はそれまで遊郭のような店で女子おなごたちと楽しいひと時を…)」

 「(様々な地域で女子おなごたちと触れ合う…これぞ旅の醍醐味でござる♡)」

クレードとオリンスはナハグニやホヅミたち6人と一旦別れ、オリンスの実家へと向かった。


実家の近くまでやって来たクレードとオリンス。

だが時間も昼から夜に変わっていた。

オリンス「クレード、辺りが暗いからランプをしっかり持っていてよ」

 「夜になっちゃったけど、俺の実家までもうすぐだから頼むよ」

ベリル号に乗りながらオリンスはクレードに話した。

クレード「中心街は栄えていたが、この辺りは田舎町だな。森の中を歩いている感じだ」

オリンス「でもこの森はこの辺りの人たちにとって恵ともいえるくらい大切な場所なんだ」

 「俺の父さんや母さんをはじめ、この辺りの人たちの多くは木こりの仕事をして暮らしているからね」

クレード「両親は木こりか。前に少し聞いたが、お前はセルタノのような騎士の家系の生まれではなく、一般庶民の子なんだな」

オリンス「確かにセルタノのような由緒ある家に生まれたわけじゃないけど、俺は大学を卒業して国の騎士団員になれたんだ」

 「騎士団に入れたってことは、それは国の人々から正式な騎士として認められたという証だからね」

 「まあ今の俺は騎士団も辞めちゃったから、騎士というよりかは一般の戦士なんだろうけど、騎士としての気持ちはこれからも持ち続けたいな…」

クレード「ならばそうしろ」

 「お前の信じる騎士道とやらを俺たちに見せてみろ」

オリンス「もちろんだよ」


そして、

クレード「話は変わるが、お前は王都に行くまでずっとこの田舎町にいたのか?」

オリンス「いや、大学に行っていた時だけは別の町にいたよ」

クレード「その町はこの国のどこかか?」

オリンス「うん。西の沖合にあるダーデルス島(※7)のリベイラルスの町(※7)という所にね」

 「俺の出身大学はその町にある私立リベイラルス文化大学で、そこの人文学部地理学科を卒業したんだ」

 「まあ留年せずに卒業できたんだけど、大学に入るのに一浪したよ」


クレード「大学を卒業してその後どうした?卒業してすぐ王都に行ったのか?」

オリンス「いや、この故郷の村へ一旦戻ったよ。だから兵士の採用試験はこの村の砦で受けたんだ」

 「そして正団員見習いとして採用され、2年間この地元の村で訓練や研修を受けたよ」

クレード「それで研修後に王都の兵士として正式に採用されたわけか」

オリンス「うん。俺もまさか自分が王都に行けるなんて思ってもいなかったよ」

 「見習いの中でも成績が優秀だったわけでもないのに」

クレード「だったら上司はお前の頑張りとかを見て評価したんじゃないのか?」

オリンス「うん。当時の教官もそんなこと言っていたよ」

 「「努力できる人間なら王都でしっかり磨いてこい」ってね」

クレード「まあお前の場合はそれで良かったと思うがな」

オリンス「王都に来たからセルタノにも会えたしね…」

クレード「だがそんなお前が騎士団を辞めたなんて言ったら家族もびっくりするんじゃないのか?」

オリンス「そこはもううまく話すしかないよ。そのために君に来てもらったんだしね」

クレード「話をして分かってくれるような家族なのか?」

オリンス「ちゃんと言えば大丈夫だと思うよ」


ここで二人は話題は変え、

クレード「それにしても夜空の星がきれいだな」

オリンス「実家の山で見る星空はまた格別なんだ…」


そしてクレードはオリンスは家(木製の家)にたどり着き、家のドアをノックした。

オリンス「父さん、母さん、姉ちゃん」

 「オリンスだよ。帰ってきたよ」

オルビリア「えっ!?オリンスなの!?」

家の中からオリンスの姉、オルビリアの声が聞こえた。


そしてオルビリアが中からドアを開け、弟オリンスと顔を合わせ、

オリンス(弟)「只今、姉ちゃん」

オルビリア(姉)「オ、オリンス!?どうしたのよ、こんな時期に家に帰ってきて!?」

そう言うとオルビリアはオリンスの隣にいたクレードに気づき、

オルビリア(姉)「って!?隣の青い髪のイケメンさんは誰よ!?」

 「まさかあたしの恋人になってくれる人を連れてきたってわけーっ!?」

クレード(心の中で)「(イケメン?俺のことか?)」

オリンス(弟)「いや姉ちゃん、彼は俺の仲間であって…」


玄関で話す姉と弟に気づき、両親も、

リビンジーラ(母)「オ、オリンスなの!?どうしたのよ、突然!?」

ザバンズ(父)「とにかく中に入りなさい。事情を聞こうじゃないか」

 「一緒にいる青い髪の剣士さんもこちらに来てくれないか」

 「君はオリンスと関係のある人間なんだろう?」

クレード「まあその通りなんだが…」


オルビリア(姉)「母さん!あの青い髪の人に温かい紅茶を入れてあげて!」

 「イケメンさん!お夕飯まだならうちで食べていって!」

クレード(心の中で)「(ダメだ…オリンスの姉貴のノリについていけん…)」

オリンス(心の中で)「(イケメンには目がない…姉ちゃんも相変わらずだな…)」


クレードとオリンスは家の中に入り、二人は夕飯を食べた。

そして二人は、ザバンズ(父)・リビンジーラ(母)・オルビリア(姉)の三人にこれまでの事を話した。

クレードがモスモーン島(※8)でヴェルトン博士に会った事、自分たち二人がグラン・ジェムストーンに選ばれ変身する能力を得た事、オリンスが騎士団を辞めた事、アイルローマ市(※9)にある魔法大学に論文を渡しにいかなければならない事、クレードの記憶を取り戻すためアイルクリートのアイルベニス市(※10)まで行く事など、これまでの事をいろいろ話した。


リビンジーラ(母)「ヴェルトンさんの事、変身する能力を得た事、いろいろと驚く話ね…」

ザバンズ(父)「だが西側の騎士団を束ねるラドランク副騎士団長が今王都に行っているという話は私も少し聞いたことがある」

 「このジルミエンス村も、ラドランクさんたち、西側の騎士団が管轄するエリアだからな」

オリンス(弟)「王都では今ルスモーン島に行くための準備をしている頃だと思うよ」

 「セドルース村(※11)の実家に帰っていたセルタノもそのために王都へ戻ったんだし」

ザバンズ(父)「とにかくそのヴェルトン元名誉教授の件で騎士団内で今大きな動きがあるということか…」

リビンジーラ(母)「そしてあなたたちもその件に大きく関わっているなんてね…」

オリンス(弟)「父さん、母さん、姉ちゃん、俺はクレードに会い特殊な力を得た。そして騎士団も辞めた…」

 「だからその分アイルローマ市やアイルベニス市へ行って旅の目的をひとまず達成したいんだ…」


オルビリア(姉)「でもオリンス。王妃様から聞いた話だとクレードさんってその苗字からラープとかキンデルダム(※12)とか北の月(北側の大陸)の出身である可能性が高いんでしょ」

 「もしクレードさんが記憶を取り戻したらあなたも北の月(北側の大陸)まで一緒に行くの?クレードさんの仲間として」

オリンス(弟)「もちろんそのつもりだよ。俺はこれからも彼と一緒に魔獣たちと戦うんだ」

 「同じクリスタークの戦士として…」

クレード「助かるよ、オリンス」

オリンス(弟)「もし俺がクレードと一緒に北の月の国まで行ったら、次、父さん、母さん、姉ちゃんに会えるのがいつになるか分からない…下手したら2、3年は会えないかもしれない…」

 「でもそれくらいの覚悟が今の俺にはあるんだ…」


オルビリア(姉)「ねえオリンス、だったらそのすごい力があるっていうクリスタークの戦士に変身してみせてよ。あたしたち三人の前でさあ」

リビンジーラ(母)「そうね。オリンスの覚悟や強さを確かめるために私もぜひ見たいわ」

ザバンズ(父)「母さんとオルビリアは私よりもずっと魔力に敏感だ。二人なら感じるものがあるだろう」

 「オリンス、変身してみてくれ。そして今までの話がデタラメでないことを証明してくれ」

クレード「ならばやるぞオリンス。俺もそのために来たようなもんだしな」

オリンス(弟)「やろうクレード!」

 「父さん、母さん、姉ちゃん、ちゃんと見ててよ!」


クレードはグラン・サファイア(青い丸い玉)を、オリンスはグラン・エメラルド(緑の丸い玉)をリュックから取り出し、

クレード&オリンス「カラーチェンジ!&クリスタルオン!」

クレードとオリンスの体が光り輝き、

ブルー(クレード)「栄光のサファイア!クリスターク・ブルー!」

グリーン(オリンス)「希望のエメラルド!クリスターク・グリーン!」

二人はそれぞれ変身した。


ブルー(クレード)とグリーン(オリンス)のそのマスクとスーツ姿に、そして変身した二人が放つ魔力のすごさに家族も驚き、

オルビリア(姉)「ちょっと何なのよ!?その姿も十分変わっているけど、何より魔力が凄まじいわ!」

リビンジーラ(母)「すごい魔力…普段のオリンスとは大違いだわ…」

ザバンズ(父)「う、うーむ…」

グリーン(オリンス)「父さん、母さん、姉ちゃん、俺はクレードと一緒にこのクリスタークの力で世界のために戦うよ!」

 「それが騎士団を辞めた俺の責任でもあるんだから!」


ブルー(クレード)「グリーン(オリンス)、これでご家族もクリスタークの戦士がどういうものか分かってくれただろう。変身を解くぞ」

グリーン(オリンス)「うん。ブルー(クレード)」

ブルー(クレード)&グリーン(オリンス)「カラー&クリスタルオフ」

クレードとオリンスは変身を解き元の姿に戻った。


リビンジーラ(母)「本当にすごい魔力だったわよ…腰を抜かしちゃうくらいよ…」

オルビリア(姉)「その力があれば魔獣たちなんて目じゃないと思うわ!」

オリンス(弟)「ありがとう、母さん、姉ちゃん」

 「変身した甲斐があったよ」

ザバンズ(父)「オリンス、母さんやオルビリアほどではないだろうけど、私も確かに魔力を感じたよ」

 「魔力に鈍い私が感じたくらいだ。そのすごさは確かなものなのだろう」

オリンス(弟)「父さん…」

ザバンズ(父)「オリンス、旅に出たいというのなら止はせん。その強さを世界のために役立たせてくれ」

オリンス(弟)「ありがとう、父さん」

オルビリア(姉)「オリンス、旅に出るのはいいけど、戦死なんてしたら許さないからね」

リビンジーラ(母)「たまには家にも帰ってくるのよ、オリンス」

オリンス(弟)「母さん…姉ちゃん…」

クレード(心の中で)「(どうやら俺もここへ来た役目を果たせたようだな…)」


その夜クレードとオリンスは家で一泊し、次の日(7日)の朝、朝食を食べ出発の準備をした。

準備を終え家を出るときオリンスの家族たちに見送られ、

リビンジーラ(母)「はいオリンス、これおにぎり16個ね」

オリンス(弟)「ありがとう母さん、ナハグニやウェンディたちにちゃんと渡すよ」

リビンジーラ(母)「ワトニカの人たちってお米が好きなんでしょう。だからどれも大きめに握ったわ」

オリンス(弟)「きっとナハグニやホヅミたちも喜ぶよ」

リビンジーラ(母)「おにぎりの中身は、この村の清流で養殖したマスの塩焼きと、うちの畑で採れた野沢菜の塩漬けよ」

 「ワトニカの人たちの口に合うといいけど」

ザバンズ(父)「本当はそのワトニカの人たちも泊めてあげれば良かったんだがな…」

オルビリア(姉)「うちの狭さじゃ11人で寝るのは無理だって」


続いてオルビリア(姉)がオリンス(弟)に動物の木彫りを渡した。

オリンス(弟)「ワリアアイベックスとゲラダヒヒの木彫り?」

クレード「どっちもよく出来ているじゃないか。確かこの村のシンボルにもなっている動物たちだよな」

オリンス(弟)「うん。ワリアアイベックスはヤギの仲間で、ゲラダヒヒはオナガザル科のサルの仲間なんだけど」

オルビリア(姉)「お守りとして持っていてよ」

オリンス(弟)「姉ちゃん、どうして俺に?」

オルビリア(姉)「旅をするあなたにとっては荷物になっちゃうかもしれないけど、その木彫りを見れば故郷や家族のことも思い出せるでしょう」

オリンス(弟)「姉ちゃん…」

オルビリア(姉)「たとえ長い旅に出たとしても故郷や家族のことを忘れないでほしい…」

 「その証としての木彫りよ」

オリンス(弟)「姉ちゃん、ありがとう!」


続いてオリンスは家族に、

オリンス(ベリル号に乗りながら)「それじゃあ、父さん、母さん、姉ちゃん、行ってくるよ!」

リビンジーラ(母)「オリンス、張り切るのもいいけど、無茶しちゃダメだからね」

ザバンズ(父)「クレード君、オリンスのことをよろしく頼むよ」

クレード「任せてください。仲間は守りますよ」

オルビリア(姉)「オリンス、あんまりクレードさんに迷惑かけないようにね」

オリンス(弟)「そうだね。大切な仲間なんだしね」

クレード(心の中で)「(ノリがいいだけの姉貴かと思ったら、弟への愛情もしっかりとあるようだな)」

クレードとオリンスは出発した。オリンスは家族に手を振り、

オリンス(弟)「父さん、母さん、姉ちゃん、元気でね!」

 「いつかまた家に帰ってくるよ!」

リビンジーラ(母)「気をつけるのよ、オリンス!」

ザバンズ(父)「オリンス、しっかりな」

オルビリア(姉)「次あなたに会う時までには、あたしも結婚しておくわ!」


そして二人の姿が見えなくなり、

リビンジーラ(母)「行っちゃったわね…」

ザバンズ(父)「オリンスなら大丈夫さ。騎士団員になる道を選んだ時から信用しているしな…」

オルビリア(姉)「さぁて、オリンスも行ったことだし、気持ちを切り替えて仕事しないとね」

リビンジーラ(母)「そういえばオルビリア、さっき結婚って言ってたけど、誰か気になる人でもいるの?」

オルビリア(姉)「ああ…あれは目標っていうかさ…」

ザバンズ(父)「やれやれ、早くいい相手を見つけて親を安心させてほしいものだ」


家を出たクレードとオリンスは道中話をし、

クレード「俺たちのことはいろいろ話したが、メタルクロノスの件だけは話さなかったな」

オリンス「家族にあまり心配をかけさせたくないからね」

 「メタルクロノスについては国王様からの公表を待つよ」

クレード「ヴェルトン博士はやがてくるであろうメタルクロノスたちとの戦いを想定し、クリスタークの力が秘められているグラン・ジェムストーンを作り上げた」

 「俺たちの敵は魔獣たちだけじゃない。それも忘れるなよ」

オリンス「そうだね。父さん、母さん、姉ちゃんたちの暮らしを守るためにも奴らと戦わないとね…」


クレードとオリンスは村の中央広場に行き、待っていたナハグニやウェンディたちと合流した。そしてオリンスはナハグニたちに家族としっかり話をしたことを伝えた。

千巌坊「そうか…ご家族は旅立ちを許してくれたか…」

オリンス「うん。これからは一人の戦士としてこの世界の平和のために精一杯頑張るよ」

ススキ「オリンスさんを送り出したアチャ(※13)たちの気持ちを無駄にしちゃいけないわよ…」

鵺洸丸「ご家族の愛や想い…この先何があっても忘れてはならぬぞ…」

オリンス「忘れたりなんかしないよ…姉ちゃんから貰ったこのワリアアイベックスとゲラダヒヒの木彫りに誓ってね…」

クレード「まあお前なら大丈夫だよ」

 「簡単にくたばるような奴だとは思ってない」

ナハグニ(肌つやがいい)「その通り!それがオリンス殿でござる!」

ホヅミ「とにかくぅご家族にちゃんと会えてぇ良かったですぅ」

ウェンディ「押忍!家族に恵まれたオリンスは幸せ者ッス!」

オリンス「いろいろありがとう、みんな」

 「クレードもいたけど、いい家族団欒だったよ」


ホヅミ「それは本当にぃ良かったですぅ」

 「ホヅミもぉチェスのお店見つけてぇ、将棋のことを話せたからぁこの村に来てぇ大満足ですぅ」

そしてホヅミと一緒に店に行ったススキも話し、

ススキ「ホヅミさん、将棋だけじゃなくてチェスもすごく強いのよ」

ホヅミ「チェスもぉちゃんと強くないとぉ、将棋のことを自信持ってぇ話せないですぅ」


続いてオリンスは、

オリンス「それはそうと母さんがみんなにおにぎりを作ってくれたんだよ」

 「おにぎりの中身はマスの塩焼きと野沢菜の塩漬けだってさ」

オリンスはおにぎりの入った竹かごを開けた。

ホヅミ「わぁ!大きなおにぎりですぅ!」

 「ホヅミ、おにぎり大好きですぅ!」

千巌坊「ならば昼食としていただこうではないか…」

ナハグニ「だったら拙者、総菜やルイボスティーを買ってくるでござる!」

 「おにぎりと一緒に食べるでござる!」

一行は昼食としてオリンスの母リビンジーラが作ったおにぎりなどを食べ、ジルミエンス村を後にした。


木こりの夫婦であるザバンズとリビンジーラ、お土産用の木彫り細工を彫るオルビリア、そして姉の木彫り細工を受け取った弟のオリンス。

オリンスたちバルブランタ家は木と共に生きているのであった。


村を出た一行はルスカンティアで有名な観光地であるヴィクトリアルスの滝(※14)にたどり着き、滝の迫力に圧倒された。

ホヅミ「わあ!すごい迫力ですぅ!」

鵺洸丸「うーむ…ワトニカの滝とは桁違いの大きさ…」

千巌坊「この国でこれほどの滝が見れるとは…」

ナハグニ「滝の音もすごい豪快でござるなあ!」

ウェンディ「ヒャーッ!離れていても水しぶきがすごいッス!」

ススキ(蕗の葉を模した傘を差しながら)「水煙に虹…景色も幻想的で素敵…」

オリンス「ヴィクトリアルスの滝はムーンリアス最大の滝なんだ」

 「ルスカンティアでは有名な観光地だよ」

 「この滝は今はヴィクトリアルスという名前で知られているけど、大昔の人はこの滝をモシ・オ・ルーニャと呼んで……」

クレード(心の中で)「(ヴェルトン博士から聞いたヴィクトリアルスの滝か…)」

 「(同じく博士から聞いたセレンゲティアのサバンナ地帯(※15)は戦場になってしまったが、こっちは大丈夫なようだな…)」

滝をじっくり見た一行は、その後ルスケニーア山を下山した。

己の騎士道や家族への愛を胸にオリンスは旅立つ。

ワリアアイベックスとゲラダヒヒの木彫りを持って。

次回に続く。


※1…村の名前の由来は、エチオピアの世界遺産「シミエン国立公園」(自然遺産 1978年登録)より

※2…山の名前の由来は、ケニアの世界遺産「ケニア山国立公園/自然林」(自然遺産 1997年登録 2013年拡張)より

☆※3…村の名前の由来は、南アフリカの世界遺産「マプングブエの文化的景観」(文化遺産 2003年登録)より

☆※4…地区の名前の由来は、マラウイの世界遺産「チョンゴニの岩絵地域」(文化遺産 2006年登録)より

※5…遺跡群の名前の由来は、タンザニアの世界遺産「コンドアの岩絵遺跡群」(文化遺産 2006年登録)より

※6…村の名前の由来は、ジンバブエの世界遺産「マトボの丘群」(文化遺産 2003年登録)より

☆※7…島や町の名前の由来は、カーボベルデの世界遺産「リベイラ・グランデの歴史地区シダーデ・ヴェーリャ」(文化遺産 2009年登録)より

※8…島の由来は、モーリシャスの世界遺産「ル・モーンの文化的景観」(文化遺産 2008年登録)より

※9…市の名前の由来は、イタリアとバチカンの世界遺産「ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂」(文化遺産 1980年登録1990年拡張)より

※10…市の名前の由来は、イタリアの世界遺産「ヴェネツィアとその潟」(文化遺産 1987年登録)があるヴェネツィアの別名「ベニス」より

※11…村の名前の由来は、タンザニアの世界遺産「セルース猟獣保護区」(自然遺産 1982年登録)より

※12…国の名前の由来は、オランダの世界遺産「キンデルダイク=エルスハウトの風車網」(文化遺産 1997年登録)より

※13…元ネタはアイヌ語。「アチャ」は「父、お父さん」などの意味。

※14…滝の名前の由来は、ジンバブエとザンビアの世界遺産「モシ・オ・トゥニャ/ヴィクトリアの滝」(自然遺産 1989年登録)より

※15…サバンナ地帯の名前の由来は、タンザニアの世界遺産「セレンゲティ国立公園」(自然遺産 1981年登録)より

(☆:物語初登場の世界遺産)

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