第9話 オリンスの誕生日
9話目です。前回「翠電槍」という強力な槍を手にしたオリンス。そして三日後の5月4には誕生日を迎え…騎士(騎兵)オリンスのことをよろしくお願いします。
<主な登場人物の紹介>
<クレード一行 計7人>
◎クレード・ロインスタイト(男・?歳)
・青色の髪をしている本作の主人公である魔法剣士。
持っている剣の名は「魔蒼剣」、盾の名は「アイオライトの盾」。
魔法の宝石グラン・サファイアにより、クリスターク・ブルーに変身する。
自分の出身地や年齢など、過去の記憶をいろいろなくしている。
ヴェルトン博士という世話になった恩人がいる。
◎オリンス・バルブランタ(男・28歳→29歳)
・緑色の髪をしている元ルスカンティア王国騎士団の騎士。
馬にまたがり騎兵として戦う。愛馬の名はベリル号。
魔法の宝石グラン・エメラルドにより、クリスターク・グリーンに変身する。
セルタノの父ゼランダルから「翠電槍」という強力な槍を譲り受ける。
ルスカンティア王国ジルミエンス村(※1)出身で、一行は今彼の故郷へと向かっている。
誕生日は5月4日で、今回29歳の誕生日を迎える。
○ナハグニ・按司里(男・31歳)
・ワトニカ将国リュウキュウ藩出身の侍。自称、うちなー侍。
服装はシーサーが描かれた肩衣に袴。愛用する刀の名は「グスク刀」。
日本の世界遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」(文化遺産 2000年登録)からイメージしたキャラ。沖縄県出身のイメージ。
○鵺洸丸(男・30歳)
・ワトニカ将国オガサワラ藩出身の忍者。
鵺洸丸は忍びとしての名前で、彼の本名は、「タケル・南嵐」。
日本の世界遺産「小笠原諸島」(自然遺産 2011年登録)からイメージしたキャラ。東京都小笠原村出身のイメージ。
○ウェンディ・京藤院(女・20歳)
・洋風な名前だがワトニカ将国キョウノミヤ藩出身で、公家の娘。
柔道家で五段の腕前。
語頭に「押忍」、語尾に「~ッス」と付けて話すことが多い。
日本の世界遺産「古都京都の文化財」(文化遺産 1994年登録)からイメージしたキャラ。京都府出身のイメージ。
○ホヅミ・鶴野浦(女・22歳)
・ワトニカ将国サド藩出身の女性棋士で女流二段の腕前。
日本の暫定リスト掲載物件「金を中心とする佐渡鉱山の遺産群」からイメージしたキャラ。新潟県出身のイメージ。
○ススキ(女・22歳)
・ワトニカ将国エゾ藩出身の新人くノ一。
ススキはくノ一としての名前で、彼女の本名は、「モエ・豊中島」。
クレード一行の御者として馬車を操縦している。
北海道出身のイメージ。
<その他人物>
○千巌坊(男・39歳)
・ワトニカ将国キノクニ藩出身の僧(坊主、お坊さん)。冷静で物静かな性格。回復妖術(※回復魔法のこと)が使える。
千巌坊という名は僧名の「千巌」と坊主の「坊」より。なお彼の本名は、「コウイチロウ・熊野道」。
己の修行のためルスカンティア王国の聖堂や教会を巡礼している。
日本の世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」(文化遺産 2004年登録)からイメージしたキャラ。和歌山県出身のイメージ。
○セルタノ・リクゼストン(男・33歳)
・オリンスの親友で、ルスカンティア王国騎士団に所属する正団員。弓騎兵。
任務のため故郷のセドルース村(※2)から王都へと向かった。
○ラグラード・カドルック(男・57歳)
・ルスカンティア王国騎士団団長。
○ラドランク・カドルック(男・54歳)
・ルスカンティア王国西側に常駐している兵士たちを束ねる騎士団の副団長(三人いる副騎士団長の一人)だが、訳あってルスカンティア王国王都に来ている。
騎士団長ラグラードの弟。
○チャドラン・ルスディーノ(男・23歳)
・国王29世と王妃パリンサの息子で、ルスカンティア王国の現王子。
サツマダイ藩の大名家の娘、ルリコとは相思相愛の仲。
○ルリコ・奄美大野(女・22歳)
・ワトニカ将国サツマダイ藩出身の女侍で、大名家の娘。瑠璃姫とも呼ばれる。
社会人留学によりルスカンティアにやって来た。
チャドラン王子とは相思相愛の仲。
日本の世界遺産「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」(自然遺産 2021年登録)からイメージしたキャラ。鹿児島県出身のイメージ。
ケルビニアン暦2050K年5月1日。
ゾウやシマウマなどが生息する緑豊かなセドルース村を抜け、一行はマトボルス村(※3)に入ったが、その郊外で魔獣の群れと遭遇し、
牙犬型の魔獣たち「バァオオッ!」
ウェンディ「押忍!ついに物の怪たちが現れたッスね!」
ナハグニ「旅立ってから初めて遭遇したでござるなあ!」
クレード「武器を取れ、お前ら」
「このゴミどもを仕留めるぞ…」
鵺洸丸「御意…」
ウェンディ「押忍!だったらまずは立礼をするッス!」
「たとえ相手が物の怪だとしても礼をするのが柔道家というものッス!」
ウェンディは頭を下げ立礼した。
続いてホヅミは、
ホヅミ「柔道だけじゃなくてぇ将棋も礼が大事ですぅ」
そう言ってホヅミは荷物から将棋盤を取り出し、駒を素早く並べた。
駒を並べるとホヅミの妖力(※魔力のこと)により、目の前に、武者の姿をしている駒人形(金将・銀将・桂馬・香車・歩兵の駒が生み出した人形たちで、それぞれ顔には「金」・「銀」・「桂」・「香」・「歩」と書かれている)、飛車龍(飛車の駒が生み出した小さい龍)、角龍馬(角行の駒が生み出した、頭が龍で体が馬の小さい幻獣)たちが現れた。
続いてオリンスが、
オリンス「いくよ、翠電槍…これが俺たちの最初の戦いだ…」
魔獣たち「グガーオッ!」
ススキ「物の怪たちがこっちに来ます!」
クレード「いくぞ…」
ウェンディ「はじめぇ!」
ホヅミ「よろしくお願いしますぅ」
戦いが始まった。
まずはクレードが、
クレード「オーラの剣で叩き潰してやる…」
「ハッ!」
クレードはオーラを纏った剣を振り、魔獣たちを次々と斬り倒した。
続いてオリンスが、
オリンス「この翠電槍の力なら…」
オリンスは翠電槍を魔獣に刺し、魔力を込めた。
オリンス「いけぇ!」
魔獣「ギョワッ!?」
翠電槍から発生した電撃が魔獣の体を焼き尽くした。
魔獣を倒したオリンス、だが疲労も感じた。
オリンス(心の中で)「(意外と疲れる…やっぱりまだ翠電槍を完全に扱いきれてないんだろうな…)」
そしてナハグニたちも、
ナハグニ「グスク刀・座喜味の太刀!」
(世界遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」からイメージしたキャラ)
まるで石の城に押し潰されるような強烈な一撃で魔獣たちを倒す。
鵺洸丸「父なる島よ、母なる島よ、それがしに力を…」
「小笠原忍法:シマアカネとオガサワラゼミの舞」
(世界遺産「小笠原諸島」からイメージしたキャラ)
忍法により赤く光るトンボと緑に光るセミが大量に現れ、体当たりして魔獣たちを攻撃する。
ウェンディ「押忍!京の女の意地見せてやるッス!」
(世界遺産「古都京都の文化財」からイメージしたキャラ)
ウェンディは魔獣の体を掴んで持ち上げ、
魔獣「ギョバッ!?」
ウェンディ「上賀茂!雷一本背負い!」
一本背負い投げで魔獣を倒した。
ウェンディはその後も柔道の技で次々と魔獣たちを倒した。
ホヅミ「王将や玉将の駒がないのはぁ、ホヅミ自身がぁ代わりになっているからですぅ!」
(暫定リスト「金を中心とする佐渡鉱山の遺産群」からイメージしたキャラ)
魔獣「グゥゥ!」
ホヅミ「それじゃあ一局指すですぅ!」
「みんな、いくですぅ!」
ホヅミが金色の将棋盤の上で金色の駒を動かすと、駒の分身である駒人形や角龍馬たちも動き出し、
駒人形(歩兵)「歩!歩!歩!」
駒人形(香車)「香!香!香!」
角龍馬「角!角!角!」
駒人形や角龍馬たちは皆小さな体だがそのパワーは強力。魔獣たちをあっという間に片付けた。
ススキ「蕗の葉手裏剣を使います!こ、これでぇ!」
蕗の葉を模した手裏剣を連続で投げ、魔獣たちを倒した。
クレードやワトニカ人であるナハグニやウェンディたちの強さを見てオリンスは驚いていた。
オリンス「クレードが放つオーラの剣技はすごいな…ブルーに変身しなくても十分強いよ…」
「それにナハグニと鵺洸丸だけじゃなくて、ウェンディたちもすごい…」
「クレードやワトニカのみんなは強いっていうのに、俺は変身していないとあまり強くない…」
ベリル号(愛馬)「ヒンッ!?」
戦闘中劣等感を感じてしまったのか、オリンスは愛馬ベリル号に乗ったまま立ち止まってしまった。
だがそこに一匹の魔獣(牙犬型)が近付き、
牙犬型の魔獣「ウガーッ!」
オリンス「!?」
オリンスは横から魔獣に襲われ、ベリル号から転げ落ちてしまった。
オリンス「うわっ!!」
ベリル号「ヒッ!?」
オリンス「くっ、くそ!」
転げ落ちたオリンスであったが翠電槍で反撃しなんとか魔獣を倒した。
牙犬型の魔獣「グギャ!?」
オリンス「ハァ…ハァ…」
160匹ほどの魔獣の群れを倒したクレードたちであったが、オリンスはベリル号から転げ落ちたことで体を痛めてしまった。
オリンス「うっ…くっ…」
ナハグニ「オリンス殿!しっかりしてくだされ!」
ススキ「やっぱり戦いとなると怪我をするものね…」
鵺洸丸「とにかく村にある教会へ急ぎ参ろう。大抵の神父なら回復妖術(※回復魔法のこと)が使えるであろうからな」
オリンス「ごめん…俺のせいで…」
「翠電槍を手にしたばかりだっていうのに…」
クレード「確かに翠電槍はお前を受け入れたようだが、上手く使いこなせるかどうかはまた別らしいな」
オリンス「うん…翠電槍での戦いは思っていた以上に体力を使ったよ…」
クレード「ならば場合によっては翠電槍だけでなく城で貰った槍も使え。そっちの槍だってまだ新品なんだしな」
オリンス「そうだね。その槍もラグラード騎士団長たちから貰った物だしね…」
ホヅミ「妖力(※魔力のこと)のあるぅ道具や武器を使いこなすのはぁ楽じゃないですよぉ」
「ホヅミもぉアマチュアだった頃はぁ、駒人形さんも作れなかったんですよぉ」
オリンス「ホヅミは最初から将棋が強かったわけじゃないんだ…」
ホヅミ「何度も何度も指しましたよぉ。それで将棋もぉ妖力もぉ強くなったんですぅ」
オリンス「そうなんだ…だったら俺も戦いとかを通じてもっと強くならないと…」
「あっ!イっ、イタ…」
ウェンディ「押忍!今は怪我を直すのが先ッス!」
鵺洸丸「オリンス殿、拙者は薬を持っておりまする」
「ひとまず痛みのあるところに塗って進ぜよう」
オリンス「あ、ありがとう…鵺洸丸…」
ススキ「多くの忍者やくノ一は薬草とかから作った薬をそれぞれ持っているけど、やっぱり回復妖術には敵わないわ」
ウェンディ「押忍!だったらなんとしても回復妖術が使える人を見つけて旅についてきてもらうッス!」
クレードたちは村を進み、オリンスは中心街の教会で手当てを受けた。
そして回復魔法をかけてくれた神父と話し、
神父①(中年)「そうですか、皆さんは旅をしているのですね?」
オリンス「はい。俺たち7人は旅の途中なんです」
ウェンディ「押忍!旅の目的地はアイルクリートのアイルローマ市(※4)やアイルベニス市(※5)ッス!」
神父①(中年)「それでしたらまだ数ヶ月はかかるでしょうね…」
「やはり旅の仲間に回復魔法を使える方がいたほうがいいですよ」
ホヅミ「神父さぁんは、ホヅミたちとぉ旅してくれそうなぁ人をぉ誰か知っていますかぁ?」
ナハグニ「どなたか紹介していただければ拙者らも助かるでござるよ」
神父①(中年)「なるほど。それでしたら皆さんと相性が良さそうな方を一人存じておりますね」
クレード「その人物とはすぐ会えそうなのか?」
「直接会って話をしてみたいとこだが…」
神父①(中年)「いえ、さすがに今すぐには無理ですよ。その方は二日前にこの教会を訪れその後村を出たでしょうからね」
「ただその方は歩き旅でしたので、馬車で移動する皆さんの足ならなんとか追いつけそうかと思いまして…」
オリンス「その方はどういう方なんですか?やはり神父さんと同じような聖職者の方ですか?」
神父①(中年)「確かに聖職者ではありますが、その方はワトニカの方なんですよ。ナハグニさんやホヅミさんたちと同じ」
鵺洸丸「な、なんと!?」
「このルスカンティアで旅をしているワトニカ人がそれがしたち以外にもいたとは…」
ススキ「でも同じワトニカの人なら、確かに私たちと相性良いかも」
ナハグニ「神父殿!ワトニカ人ということならそのお方は袴姿の巫女さんでござったか!?お美しい女子でござったか!?」
神父①(中年)「いえ、大柄な男性のお坊様でしたよ。確かお年も今年で40になると…」
それを聞いてナハグニは愕然とした。
ナハグニ(落ち込みながら)「皆の衆よ…その坊さんは別にほっといても良いのでは?」
「それよりもこのマトボルスの村は変わった岩の景色や岩絵などが見えるようなので拙者らはゆっくり観光を…」
ウェンディ「押忍!今は観光どころの話じゃねぇッス!」
ホヅミ「そうですよぉ、早くぅそのお坊さんをぉ、追いかけましょうよぉ」
ススキ「そのお坊さんは歩きだけど、こっちは馬車…神父さんの言う通り二日の差があってもなんとか追いつけるかも…」
ウェンディ「押忍!こんな遠い異国の地にいるワトニカの同胞をほっとくわけにはいかねぇッス!急ぐッス!」
鵺洸丸(心の中で)「(そんなこと言ったらナハグニ殿だって遠い異国の地で出会ったワトニカの同胞なのだ…)」
「(そう言うのなら、もう少しあの者に優しくしてあげても…)」
「(まあスケベ心などはそれでも許せぬのだろうな…これは仕方あるまいか…)」
オリンス「神父さん、そのお坊さんはどちらへ向かいましたか?」
神父①(中年)「西の隣村、ルスラリベラ村(※6)です」
「その村にはギョルース聖堂(※6)というルスカンティアでは有名な聖堂がございましてね…」
「そちらの聖堂へ向かうとおっしゃっていましたよ…」
クレード「ならば急ごう。ナハグニ、お前も早く気持ちを切り替えて動け」
オリンス「俺だってみんなにこの村の奇岩の景観や岩絵群を見てほしいけど、今はそのお坊さんに会うことを優先しないと」
ナハグニ「分かったでござるよ…」
ナハグニ「くぅぅ!なんで可愛い巫女さんじゃなくて、アラフォーおじさんなんでござるかっ!」
神父①(中年)「皆さん、お坊様は自分のことを僧名の「千巌」に坊主の「坊」を付けて「千巌坊」(せんがんぼう)と名乗っていましたよ」
「千巌坊、その名を忘れないでくださいね…」
千巌坊の名を聞き、マトボルス村を出たクレードたち。
二日後の5月3日。
ルスラリベラ村の郊外、アクルスムの遺跡(※7)に250匹ほどの魔獣たちが出現し、ルスカンティア王国騎士団は魔獣たちと戦っていた。
倒された魔獣たち(断末魔)「グガッ…ギベェ…」
ルスカンティア兵①(騎兵)「魔獣どもめ、好きにはさせんぞ!」
ルスカンティア兵②(アーチャー)「お前たちに村や遺跡を荒らされてたまるものか!」
ルスカンティア兵③(剣士)「遺跡のオベリスク(巨石柱)は我らが守ってみせる!」
戦う兵士たちではあるが、戦場の後方では負傷した兵士たちが手当てを受けていた。
そして手当てをしている者たちの中にはクレードたちが探している千巌坊もいた。
千巌坊は負傷した兵士に回復妖術(※回復魔法のこと)をかけ、
千巌坊「回復の小妖術・浅陽治光…」
ルスカンティア兵④(斧使い、アックスナイト)「助かるぜ、ワトニカの坊さん!」
「これでまた戦場で戦えるぜ!」
千巌坊「戻ってもよいが、あまり無理はするな…兵の数は物の怪(※魔獣のこと)よりも多いのだからな…」
女性聖侶①(※回復魔法などの使い手)「助かります、千巌坊さん」
「回復役は一人でも多くほしいとこですから…」
女性聖侶②「戦いに巻き込んでしまって申し訳ありません…」
「これからギョルース聖堂へ行かれるというのに…」
千巌坊「構わぬ…私に手伝えることがあるのなら何でも言ってくれ…」
魔獣たちと戦うルスカンティア王国騎士団。
そこにクレードたちもやって来て、戦いに気づき、
オリンス「ルスカンティア王国騎士団があんなに!?魔獣の群れがこの村に現れたのか!?」
クレード「ならば加勢してやろう」
クレードやオリンスたちは騎士団の前に姿を見せ、
オリンス「騎士団の方々ですね!俺たちは旅の戦士です!」
「皆さんに加勢いたします!」
クレード「俺たちに任せろ」
ルスカンティア兵⑤(女性・魔法使い)「えっ!?あなたたちって、もしかして、あの…」
ルスカンティア兵⑥(剣士)「すまないが名前を言ってくれないか?」
オリンス「オリンス・バルブランタです!」
クレード「クレード・ロインスタイトだ」
ナハグニ「ナハグニ・按司里でござる!」
鵺洸丸「オガサワラ藩の忍び、鵺洸丸…」
ウェンディ「押忍!ウェンディ・京藤院ッス!」
ホヅミ「ホヅミ・鶴野浦ですぅ」
ススキ「エゾ藩のくノ一、ススキです…」
ルスカンティア兵⑦(槍兵)「おお!やはりあのクレード殿たちでしたか!」
ルスカンティア兵⑧(弓騎兵)「皆さんのご活躍は噂で聞いております!」
「なんでもルスカンティアの様々な場所で魔獣たちと戦ってくれたと!」
クレード「道中に出会った他の兵士たちも言ってたが、俺たちはもうこの国じゃ名の知れた戦士たちらしいな」
オリンス「俺たちはセレンゲティアとかでの戦いを通じて、国王様やチャドラン王子、ラグラード騎士団長やラドランク副騎士団長たちとも大きく関わったんだしね」
鵺洸丸「ならば名のある戦士として恥じぬ戦いをしてみせよう…」
ウェンディ「押忍!何であれまずは一礼からッス!」
ススキ「この戦場には千巌坊さんも来ているのかしら?」
「馬車での移動だったから、そろそろ追いつけると思うんだけど…」
ススキの声を聞いた兵士たちがここで、
ルスカンティア兵⑨(騎兵)「千巌坊?確かそういう名のお坊さんが来ておりますよ」
ルスカンティア兵⑥(女性・魔法使い)「今は後方で負傷した兵たちの手当てをしているはずです」
ホヅミ「おおっ!ここにぃ来ているんですかぁ!」
「だったらぁ、物の怪たちを倒してぇ会いにいくですぅ!」
ナハグニ(落ち込みながら)「ハァ…待っているのはアラフォーおじさん…」
クレードたちは魔獣たちとの戦いを始めた。
クレードは魔蒼剣に魔力のオーラを注ぎ、
クレード「よし、溢れ出るオーラを竜巻に変えてやる」
「ハァッ!」
クレードが魔蒼剣を振ると、溢れ出たオーラが竜巻となり魔獣たちを襲う、
魔獣たち「グゴッ!?」
続いてオリンスも、
オリンス「今回は城で貰った槍を使う!」
「この槍は魔力がない分重く感じない…」
「なら俺自身の槍の腕で勝負だ!」
そしてナハグニたちも、
ナハグニ「さて、気持ちを切り替えるでござるか…」
魔獣たち「ジャ!バーッ!」
ナハグニ「緑に溶け込むように斬るでござる…」
「グスク刀・識名の太刀…」
魔獣たち「ギュ?」
次の瞬間、魔獣たちの体からバラバラに。
ナハグニは静寂な刀技で魔獣たちを切り裂いた。
鵺洸丸「逃がしはせぬ…タコノキの吹き矢…」
プッ… (吹き矢を発射した音)
妖力のこもった木製の矢が次々と魔獣たちに刺さる。
ウェンディ「押忍!下鴨背負い投げッス!」
背負い投げで魔獣を倒した。
ホヅミ「桂馬さぁん、槍で倒しちゃってくださぁい」
ホヅミが将棋盤の桂馬の駒を動かすと、分身である駒人形も動き、
駒人形(桂馬)①「桂!桂!桂!」
駒人形(桂馬)②「桂!!桂!!桂!!桂っ!!」
馬に乗った武者の姿をした桂馬の駒人形2体が魔獣たちを倒した。
ススキ「ノナ(※8)のまきびし」
ススキはウニの形をしたまきびしをばら撒き、まきびしを踏んだ魔獣たちは倒れた。
クレードたちはあっという間に魔獣たちを倒した。
ルスカンティア兵⑥(女性・魔法使い)「すごいわ!あの魔獣の群れを一瞬で!」
ルスカンティア兵⑨(騎兵)(心の中で)「(だがあのオリンスっていう騎兵はそこまで強くなかったな…どうやら元騎士団員のようだが…)」
戦いが終わり、クレードたちは後方で兵士を回復させていた千巌坊と出会った。
千巌坊「強き旅の者たちよ…そなたらの噂は私も少し聞いている…」
ススキ「私たち、マトボルス村の教会で千巌坊さんの話を聞いて、あなたを追いかけてきたんです」
千巌坊「なんと…」
「それほどまでにこの私に用があるのか?」
ウェンディ「押忍!ストレートに言わせてもらうッスよ!」
「ウチらの仲間になってほしいッス!」
千巌坊「何?」
ホヅミ「同じワトニカの同胞さぁんとしてぇ、力を貸してほしいですぅ」
鵺洸丸「それがしたちはアイルクリート共和国のアイルベニス市やアイルローマ市まで旅をしなければならぬ」
クレード「アイルローマにある魔法大学に論文などを届けるため、アイルベニスで記憶魔法が使える人物の情報を聞くためにな…」
千巌坊「ほう…そのような目的があるとは…」
オリンス「少なくとも俺たちは数ヶ月旅をしなければなりません」
千巌坊「ならば回復の術が使える者がいたほうが心強いというわけか…」
オリンス「お願いできますか?千巌坊さん?」
クレード「ここであんたと出会ったのも何かの縁だと思うし、俺たちの仲間にはあんたと同じワトニカ人が5人もいる」
「回復役として、力を貸してくれないか?」
ホヅミ「お願いしますぅ」
千巌坊「…」
千巌坊は少し黙ってしまったが、口を開いて、
千巌坊「いいだろう…私でよければ力になろう…」
ウェンディ「押忍!それはありがたいッス!」
オリンス「よろしくお願いします」
千巌坊「あまり硬くならなくていい…フランクに接してくれて構わない…」
ワトニカの僧(坊主、坊さん)、千巌坊が仲間に加わった。
だがナハグニだけは千巌坊を受け入れられず、
ナハグニ(心の中で)「(うーむ、大柄でいかつい40のおっさんでござるなあ…)」
「(なんで可愛い巫女さんではないのでござろうか…)」
千巌坊「むっ…」
次の瞬間、千巌坊はナハグニに、
千巌坊「喝ーっ!」
千巌坊はナハグニの肩を隠し持っていた警策で叩いた。
ナハグニ「痛っ!」
「な、何するんでござるか!?」
千巌坊「これはすまぬ…だがあまりにも煩悩が渦巻いておったものでな…」
ナハグニ「拙者の何が煩悩なんでござるか!」
ウェンディ「いや、むしろ煩悩以外何も見えねぇッスけど」
ホヅミ「まったくですぅ」
「この人ぉ女性に対してぇ、失礼なことをぉ平気でぇ言うんですぅ」
鵺洸丸(心の中で)「(まあ侍としての腕は確かなのだが、どうにも女子に好かれんな…)」
千巌坊を仲間にした一行は村の宿に泊まった。
次の日(5月4日)一行はルスラリベラ村の砦で、アクルスムの遺跡での戦いに加勢し魔獣を倒した報酬として35万カラン(※9)受け取った。
そして道中、千巌坊と話をして…
クレード「それであんたはそのギョルース聖堂って所に行こうとしているわけか?」
千巌坊「全ては己の修行のため…」
「私は将来育ての親である鬼岩和尚の跡を継ぎ、零詣寺の住職とならねばならぬ…」
「そのために他国の教会や聖堂を訪れ、世の中というものを広く知っておきたいのだ…」
オリンス「でも教会や聖堂だったらアイルクリートやベレスピアーヌとかのほうがずっとたくさんあるよ」
千巌坊「だがこのルスカンティアは人類誕生の地とされる場所…」
「人というものが初めて生まれた土地だからこそ、私は大切に思うのだ…」
ウェンディ「押忍!このルスカンティアってそういう国なんッスか?」
ホヅミ「もお、ウェンディさぁんはぁ世界地理の授業忘れすぎですよぉ」
オリンス「旅の途中通らなかったけど、反対方向のルスカンティア東部を流れるオモルス川(※10)やルワッシュ川(※10)の下流域とかでは、アウストラロピテクスといった大昔の人類の化石がたくさん見つかっているんだ」
「だからこのルスカンティアは人類誕生の地だとされているんだよ」
ウェンディ「押忍!人類誕生の地とは驚きッス!」
クレード「しかしそう考えると人間は随分あちこちに移動したもんだな…」
ススキ(御者として馬車を操縦しながら)「魔法大陸ムーンリアス全土のみならず、遠い海の向こうの科学大陸サンクレッセルにまで足を運んだんですからね…」
鵺洸丸「そう考えるとこの国を感慨深く思えまするな」
ナハグニ(心の中で)「(ああ、聖堂にきれいなシスターさんがいてほしいでござるなあ…)」
ナハグニだけは全く別のことを考えていた。
そして一行はギョルース聖堂にたどり着き、神父から、
神父②(老人)「よくぞ遠い国からこのギョルース聖堂までお越しくださいました…」
「この聖堂はルスカンティアで最も古く、歴史のある聖堂でございます…」
続いて神父は、
神父②(老人)「さあ皆様、どうかお祈りください…」
クレードたち8人は祭壇の前でお祈りした。
クレード・オリンス・鵺洸丸・ウェンディ・ホヅミ・ススキ・千巌坊(お祈りしている)「…」
ナハグニ(心の中で)「(しかし教会でお祈りするとこれまでの冒険を書物に記録したような感じがするでござるなあ…)」
やっぱりナハグニだけは別のことを考えていた。
そしてお祈りを終え、
千巌坊「私はこの聖堂を目指しルスカンティアを旅しておりました…」
「神父様…礼拝させていただき心より感謝いたします…」
神父②(老人)「ここまでの道のり大変お疲れ様でございました…遠い異国のお坊様がこの聖堂まで足を運んでいただき、私も大変嬉しく思いますよ…」
ここでオリンスが神父に話しかけ、
オリンス「神父様、今日は俺の誕生日なんです…」
「誕生日にこの神聖な聖堂に来れたことを感慨深く思います…」
神父②(老人)「そうでしたか、今日はあなたがこの世に誕生した記念すべき日なのですね…」
鵺洸丸「そういえばオリンス殿の誕生日は5月4日でしたな」
ススキ「そうだったんですか…私たちにも言ってくれれば良かったのに…」
オリンス「いやあ、なんか変に気を遣わせても悪いかなあと思って…」
「それに29歳という年齢なんだし…子供のように祝ってもらうのもね…」
ホヅミ「何歳だろうとぉ、お誕生日はぁ大切な日ですよぉ」
「とにかくぅおめでとうございますぅ」
ススキ「そうですよ。お仲間なんですから言わせてください」
「お誕生日おめでとうございます」
ウェンディ「押忍!おめでとうッス!」
千巌坊「私もお主の記念すべき日を祝おう…」
オリンス「まあ俺も教会に来たからつい神父様に誕生日のことを話しちゃったけどさあ…」
神父②(老人)「きっと神様もオリンスさんの誕生日を祝福してくださっていることでしょう…」
クレード「口に出して正解だったな、オリンス」
オリンス「ありがとうございます、神父様、みんな…」
一方ナハグニだけは、
ナハグニ(爽やかな顔で)「シスター殿、ぜひ拙者と一緒に旅を…」
シスター(困っている)「すいません…私はちょっと…」
ウェンディ(怒りながら)「そこ!何、口説いてるんッスか!」
もちろん聖堂のシスターは旅についてくることはなかった。
一行はギョルース聖堂を出て…
千巌坊「ギョルース聖堂へ行くという私の目的は達成した…次はお主らの目的のためにお供いたそう…」
クレード「改めてよろしく頼む」
千巌坊「私はギョルース聖堂で礼拝した後ルスカンティア西部の港町で船に乗りワトニカへ戻るつもりだったが、ここでお主らと出会ったのも何かの縁…」
「ならばこの縁がいかなるものか確かめさせてもらおう…お主らと同行する中でな…」
クレード「まあ退屈はさせないさ。俺もオリンスもグラン・ジェムストーンに選ばれた人間だし、ナハグニやウェンディたちもかなり強い奴らだしな」
千巌坊「グラン・ジェムストーン…昨夜宿で話してくれたことだな…」
ここでオリンスが話題を変え、
オリンス「それじゃあ俺の故郷であるジルミエンス村に行くためにルスケニーア山(※11)を登ろう」
「このルスラリベラ村はちょうど山の麓の村だしね」
鵺洸丸「セルタノ殿の次はオリンス殿の故郷か…」
オリンス「本当は北のナミーブル砂漠(※12)に行く道は他にもあるんだけど、俺としては家族に会っておきたいから…」
ナハグニ「オリンス殿!今更水くさいでござるぞ!拙者どこまでもお付き合いするでござるよ!」
ホヅミ「そうですよぉ、ここまで来たらぁちゃんと会いましょうよぉ」
オリンス「本当にありがとう、みんな…」
ウェンディ「押忍!修行のためにも登山するッス!」
千巌坊「ススキ…言うのが遅くなったが、私にも乗馬の経験がある…」
「お主だけでなく、私も馬車の御者役を担おう…」
ススキ「ありがとうございます、千巌坊さん」
「では、交替で馬車を動かしていきましょう」
千巌坊「承知いたした…」
オリンス「頼むよ、千巌坊。俺は自分のベリル号を引いていかなきゃならないから」
ベリル号「ビッ!」
クレードたちは登山のための飲み水や食べ物などを村で買い準備を終えた。
クレード「よし、オリンスの故郷を目指して山を登るぞ」
一方王都に戻ったオリンスの親友であるセルタノは、城の中で騎士団長のラグラードから親衛隊の任命書を受け取っていた。
ラグラード(兄)「セルタノ・リクゼストン…」
「そなたはこれより王族を守る親衛隊の一人として従事してもらう、よいな?」
セルタノ「任せてください、騎士団長」
ラグラード(兄)「では早速そなたに仕事を与える」
「チャドラン王子、瑠璃姫様、ラドランク副騎士団長(弟)、他親衛隊や兵たちと共に、ヴェルトン元名誉教授の保護に向け、教授がいるルスモーン島(※13)まで向かってくれ」
セルタノ「喜んでやらせてもらいます。航海をする関係でグレビー号(※セルタノの愛馬)は連れていけませんが、代わりにアーチャー(※馬に乗らない弓兵)としての腕をたっぷりお見せいたしますので」
ラドランク(弟)「よろしく頼むぞ、セルタノ」
続いてチャドラン王子がセルタノに、
チャドラン「今回はすいませんでした、セルタノさん」
「オリンスさんたちに会う前に来ていただいて…」
セルタノ「王子様や騎士団長たちをお待たせするわけにはいきませんからね」
続いてセルタノは、
セルタノ「それにオリンスなら大丈夫ですよ」
「今のあいつには俺以外の仲間もいますので」
ルリコ(瑠璃姫)「クレードさん、ナハグニさん、鵺洸丸さん、ウェンディさん、ホヅミさん、ススキさんたち6人のことですね」
セルタノ「今は他にも仲間が増えているかもしれませんよ、瑠璃姫」
ここでラグラードが話を始め、
ラグラード「親衛隊の新入りセルタノも戻ってきたことだし、ルスモーン島へ向かう部隊は明日モンバルザースの港町地区(※14)まで移動してくれ」
「航海に必要な飲み水や食糧などはモンバルザースの兵たちに全て準備させるよう伝令も出す。島に向かう者たちは、今日はもう休んでくれ」
親衛隊や他の兵たち「ハッ!」
オリンスの故郷を目指し、ルスケニーア山を登り始めたクレードたち。
オリンスの家族はどのような人物たちだろうか?
そしてヴェルトン博士(元名誉教授)の保護に向け動き出すチャドラン王子やセルタノたちはどうなるのか?無事島へたどり着けるのか?
次回へ続く。
※1…村の名前の由来は、エチオピアの世界遺産「シミエン国立公園」(自然遺産 1978年登録)より
※2…村の名前の由来は、タンザニアの世界遺産「セルース猟獣保護区」(自然遺産 1982年登録)より
☆※3…村の名前の由来は、ジンバブエの世界遺産「マトボの丘群」(文化遺産 2003年登録)より
※4…市の名前の由来は、イタリアとバチカンの世界遺産「ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂」(文化遺産 1980年登録1990年拡張)より
※5…市の名前の由来は、イタリアの世界遺産「ヴェネツィアとその潟」(文化遺産 1987年登録)があるヴェネツィアの別名「ベニス」より
※6…村の名前の由来は、エチオピアの世界遺産「ラリベラの岩窟教会群」(文化遺産 1978年登録)、聖堂の名前の由来は、同岩窟教会群の「ベテ・ギョルギス(聖ゲオルギウス聖堂)」より
☆※7…遺跡の名前の由来は、エチオピアの世界遺産「アクスム」(文化遺産 1980年登録)より
※8…元ネタはアイヌ語。「ノナ」は「ウニ」や「キタムラサキウニ」などのこと。
※9…「カラン」とは魔法大陸ムーンリアス全土で流通しているお金。1カランは日本円の1円とほぼ同じ価値。
☆※10…川の名前の由来は、エチオピアの世界遺産「オモ川下流域」(文化遺産 1980年登録)と、同じくエチオピアの世界遺産「アワッシュ川下流域」(文化遺産 1980年登録)より
☆※11…山の名前の由来は、ケニアの世界遺産「ケニア山国立公園/自然林」(自然遺産 1997年登録 2013年拡張)より
※12…砂漠の名前の由来は、ナミビアの世界遺産「ナミブ砂海(orナミブ砂漠)」(自然遺産 2013年登録)より
※13…島の由来は、モーリシャスの世界遺産「ル・モーンの文化的景観」(文化遺産 2008年登録)より
☆※14…港町地区の名前の由来は、ケニアの世界遺産「モンバサのジーザス要塞」(文化遺産 2011年登録)より
(☆:物語初登場の世界遺産)




