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第69話 ヴェルトン memory ④ ~ 魂の試作品 プロト・ジェムストーン ~

69話目です。

今回の話では、約90年前の当時の学長(新キャラ)が登場します。


(※今回の登場人物たちについては、「○第66-72話の主な登場人物の紹介」の回をご参照ください)

(引き続き回想シーン)


ケルビニアン暦1962K年9月半ば。

研究室でヴェルトンは机の上にあるプロト・ジェムストーンを見つめながら、頭を捻っていた。


バーテッツ「大学の冬休み(※1)も終わり、石ころもこうして返ってきたわけか」

ヴェルトン「ジェムストーンは強い魔力や意志、闘争心などに反応すると思えるが、いつどこで誰が選ばれるのか全く予想できない…」

 「だから強い意志や闘争心を持ち、集団で魔獣たちと戦う騎士団に協力を頼んだのだが、この四ヶ月でなんの成果も出なかった…」

 「これではジェムストーンに対する信頼を失ったようなものだ…もう騎士団に協力を頼めない…」


 「プロト・ジェムストーンによるデータが取れなければ、グラン・ジェムストーンの完成も不可能だ…」

 「私の研究はもうここまでなのか…学長になれず大きな研究実績も残せず、私の教授人生は終わるのか…」


バーテッツ「最悪、魔法戦士科(※2)の生徒たちに協力を頼めないのか?」

ヴェルトン「ダメだ…どのような事情があろうと、生徒たちを魔法の実験台にするのは学内の規則で禁止されている…そんなことをすれば私は即解雇される…」

バーテッツ「生徒たちは魔法のアイテムを使い、体が強化されるかどうかを実習の中で試しているのにか?」

ヴェルトン「強化魔法の実習に使われているアイテムは使用が認められている既存品やリストに登録されている品々のみだ…」

 「教員たちが新たに開発したアイテムを生徒たちで試すことはできないんだ…」

バーテッツ「まったく…踏んだり蹴ったりだな…」


ヴェルトン「もう手の施しようがない…」

 「終わったんだ…何もかもが…」

バーテッツ「ヴェルトン、珍しく弱気だな…」


 「…」

 (心の中で)「(俺の心をゼリーのようにグニャニャして貧弱だと言っておきながら、結局はお前のほうが脆かったというわけか、ヴェルトン…)」


その時研究室におトミが入ってきた。

おトミ「失礼いたします」

バーテッツ「おトミじゃないか、どうしたんだ?」

おトミ「先生のところにある合成魔法の資料を拝見したいと思いましたので、こちらに」

 「冬休みが終わり4年生の後期に入りましたし、卒業論文発表会のために少しでも準備していきたいと」

バーテッツ「熱心だな。さすがは4年生のゼミ長ということか」

おトミ「バーテッツさん、私はそこまで…」


ヴェルトン「おトミ、資料を借りたいのなら、どれでも好きなのを持っていってくれ…」

おトミ「先生、お元気がないようですが…」

バーテッツ「机の上を見れば分かることだ」


おトミは机の上にあるジェムストーンに気づき、

おトミ「プロト・ジェムストーン?」

 「騎士団に渡したものが返ってきたのですか?」

バーテッツ「ああ、なんの成果も上げることなくな」

おトミ「そうだったのですか…」


ヴェルトン「おトミ、私は65になったら非常勤として残らず大学を去るよ…」

 「このプロト・ジェムストーンが騎士団に信用されない以上、もう私の研究に深い意味などないからな…」

おトミ「先生、そこまで落ち込まなくても…」


ヴェルトン「常時ハイパワーの魔力を放っていたら、体がもたない…」

 「だから必要なときにだけ強力なパワーを得られる変身アイテムを作ろうと思ったんだ…」

 「「変身」というこの発想は、家では普段着、仕事ではピエロの姿になる父を見て思いついたのだがな…」


 「…」

 「すまない、父さん…私はただの無能者だったよ…」

 「サーカスで仕事をしていた父さんのように大勢の観客を喜ばせることなど、私にはとてもできなかったよ…ああ…」 


おトミ「先生、まるでらしくないですよ」

 「勢いのある先生はどこにいっちゃったんですか?」


ヴェルトン「おトミ、励ましてくれるのはありがたいが、もう私には気力が…」

おトミ「私の知っている先生はそんな方ではありません」

 「勢いでなんでも押し切ろうとする破天荒な方ですが、同時に生徒についてよく考えてくれる先生だったじゃないですか?」

ヴェルトン「お、おトミ…」

おトミ「学長選挙の際、生徒たちにも投票権を与えようと考えていらっしゃるのも、若い人の柔軟な考え方を取り入れて、大学経営に反映させるためでございましょう」

ヴェルトン「う、うーむ…その意見は少しでも私の票を伸ばそうとしてだな…」

おトミ「私は信じております、ゼミ長としてヴェルトン先生のこと」


その時机の上のプロト・ジェムストーンが強く光り輝いた。

バーテッツ「ヴェルトン!光っているぞ、俺たちで作ったジェムストーンが!」

おトミ「まあ…」

ヴェルトン「この光の波動…ジェムストーンはおトミを選んだというのか!?」

おトミ「わ、私が選ばれた!?」



ヴェルトン教授が開発した変身アイテムに選ばれたのは教え子のおトミだった。

後日ヴェルトン・バーテッツ・おトミの三人は当時の学長カルドバーノや他の教授たちと話し合いをすることに。


(大学内会議室)


カルドバーノ学長「ヴェルトン先生、つまり教え子に自身の開発した魔法アイテムを試したいと?」

ヴェルトン「何百人の騎士団員たちと交わっても、プロト・ジェムストーンは四ヶ月間何の反応も示しませんでした」

 「従ってジェムストーンに選ばれた人間はとても貴重なのです」

カルドバーノ「貴重だから教え子相手でも試してみたいというのですかな?」

ヴェルトン「その通りでございます。おそらくこのジェムストーンはもうおトミ以外の人間には反応しないはずです」

カルドバーノ「つまりここで試さなければ先生とバーテッツ氏の研究も全て水の泡になるというわけですね?」

ヴェルトン「おっしゃる通りでございます」

カルドバーノ「…」


教授①「カルドバーノ学長!未知の魔法道具の実験に生徒を使うのは完全に規則違反です!」

 「ヴェルトン先生の行為は断じて認められるものではございません!」

教授②「ましてやおトミ君はヴェルトン先生のゼミ生ですよ!」

 「先生の考えは教職者として逸脱しております!」

カルドバーノ「…」


カルドバーノ「私が黙り込んでいてもしょうがないな…」

 「ならばおトミ君本人に聞こうじゃないか」

教授③「学長、何を言って!?」

カルドバーノ「すいませんが、私に話をさせてください」


カルドバーノ「おトミ君、君はヴェルトン先生と共同研究者のバーテッツ氏が開発したというジェムストーンをその身で試してみたいというのかね?」

おトミ「はい。私はヴェルトン先生のお力になりたいです」

ヴェルトン「おトミ…」

カルドバーノ「なぜ君はそのように言えるのかね?」

おトミ「プロト・ジェムストーンはヴェルトン先生にとって全てなんです」

 「何ものにも代えられない先生の全てなのですから、私はゼミ生として先生の確かな想いを受け止めてあげたいのです」


続いて、

おトミ「学長先生!」

 「プロト・ジェムストーンに全てを懸けてきたヴェルトン先生と、ジェムストーン開発のために防具作りに協力してくださったバーテッツさんのためにも私は試してみたいのです!」

 「お願いします…どの先生よりも信頼しているヴェルトン先生のためにも、今ここで…」

おトミはカルドバーノ学長に深く頭を下げた。


バーテッツ(心の中で)「(おトミ、君はそこまでヴェルトンのことを…)」


ヴェルトン「おトミ…本当にすまない…」

ヴェルトンも学長に深く頭を下げた。


バーテッツ(心の中で)「(仕方がないな…)」

バーテッツもまた学長に深く頭を下げた。


教授④「ヴェルトン先生、バーテッツさん、そしておトミ君」

 「頭を下げればそれで解決するというわけでは…」


周りの教授たちは反対したが、カルドバーノ学長がここで、

カルドバーノ「いいでしょう、おトミ君の協力を認めましょう」

教授①「学長!何を言っているのですか!」


学長はおトミに質問をした。

カルドバーノ学長「おトミ君、君はもう4年生で、後期の課程を修了すれば卒業ということでよろしいかな?」

おトミ「学長先生、おっしゃる通りでございます」

カルドバーノ「それでは卒業後の進路はすでに決まっているのかね?」

おトミ「この冬休み中、ワトニカでは夏休み中にヤマトエドに戻り就職活動をいたしました」

 「そして「金青こんじょうからくり堂」から内定をいただき、卒業後はそちらのからくり堂で職人として働いてまいります」

カルドバーノ「ならば半年後、君は社会人になるというわけだね」

 「そういうことであれば、今回は学生ではなく社会人として責任を持ってもらおう。少しばかり早いが」

教授②「学長!それはいくら何でも!」


カルドバーノ「口にした以上は行動し、そして結果を出してもらおうではないか…」

おトミ「学長、私にもちゃんと覚悟はございますから…」

カルドバーノ「社会人の世界は基本的に「結果」こそが全てだ」

 「結果を出すための過程や頑張りも時折評価されることはあるが、それはあくまで「部分点」にすぎない」

 「社会人は部分点を期待して行動してはいけない。0点(失敗)と100点(成功)しかない世界だということを頭に入れて置くといい…」

おトミ「0点と100点だけの世界…」


おトミに社会人の厳しさを一つ教えたカルドバーノ学長。

次はヴェルトンが学長に、

ヴェルトン「カルドバーノ学長、何であれこの度の試みをお認めいただき誠にありがとうございます…」

 「私も0点と100点だけの世界で生きる社会人の一人として、なんとしても良い結果を出してみせましょう…」

ヴェルトンは改めて学長に頭を下げた。だが…


カルドバーノ「ヴェルトン先生、その代わりあなたにはおトミ君以上の責任を背負ってもらいますよ」

ヴェルトン「と言いますと?」


カルドバーノ「もしジェムストーンの実験中におトミ君が体調を崩したら、その時点で先生をこの大学から解雇いたします」

ヴェルトン「左様でございますか…ですが私にとってはそれも覚悟の上…」

カルドバーノ「先生、責任はまだありますよ」

 「実験中におトミ君が戦死、もしくは命を落としたら、あなたをその場で処刑するよう騎士団に依頼します」 ドン!

バーテッツ「!?」

ヴェルトン「…」


カルドバーノ「そのような条件の中でも実験を行いたいというのであれば、私は先生のご要望にお応えしますが…」

おトミ「そんな…私にもしものことがあれば先生を処刑するなんて…」

ヴェルトン「いや、これでいいんだよ、おトミ」


ヴェルトン「学長のおっしゃる通りにしよう。これが結果を重要視する社会人の考え方なのだからな」

おトミ「せ、先生!?」

ヴェルトン「おトミ、君も言ったじゃないか。プロト・ジェムストーンは私の全てだと」

おトミ「そ、それはそうですが…」

ヴェルトン「プロト・ジェムストーンの実験ができなければ私は人としも教授としても死んだも同然なんだ…」

 「だからチャンスがあるというのなら、それは絶対に掴まなければならない」

 「私の命がある限りは…」


バーテッツ(心の中で)「(ヴェルトン、お前、そこまでジェムストーンに…)」


ヴェルトン「学長、改めてお礼を申し上げます。実験をお認めいただき誠にありがとうございます」

 「愛する我が大学に少しでも実績を残すため、必ずや成功させてみせましょう」 ドン!

カルドバーノ「ヴェルトン先生、後がないということだけは十分ご承知くださいね…」

大学4年生おトミ、ヴェルトン教授、それぞれの責任…

次回へ続く。


※1…アイルクリート共和国は南半球にある国なので、8月は夏ではなく、冬の時期なのである。アイルクリートを含む南半球の国々の学校では、7・8・9月の冬休みが長く、12・1月の夏休みが短い。

※2…アイルクリート第一魔法大学には「魔法科」と「魔法戦士科」があり、ヴェルトン教授は魔法科で魔法道具学を専門としている。

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