第68話 ヴェルトン memory ③ ~ そんな過去など捨てろ。大事なのはこの先の未来だ ~
68話目です。
今回のサブタイトルは、「これは作者である自分に向けて言ってる言葉なのかな…」とも思いました。
(※今回の登場人物たちについては、「○第66-72話の主な登場人物の紹介」の回をご参照ください)
(引き続き回想シーン)
ケルビニアン暦1962K年3月。
アイルクリート第一魔法大学では新学期前の職員会議が行われていた。
会議に出ているヴェルトン教授は次回の学長選挙のことで意見をし…
教授①「ヴェルトン先生!あなたは本気でそんなことを言っているのですか!」
ヴェルトン「そんなこと、ですか?」
「むしろ今までそういう考えがなかったことのほうが意外に思えますが…」
教授②「助教や助手はともかく、生徒にまで学長選挙の投票権を与えるなどとは!」
ヴェルトン「なぜそれを批判するのですか?」
「大学の代表者や顔となるのなら、生徒たちにもよく知ってもらわなければならんでしょうが」
教授③「学長選挙の投票者は、理事・事務局長・監事・教授・准教授など、一部の関係者や職員のみです!」
「国立大学であるのなら、他所も大体同じですよ!」
ヴェルトン「フンッ!理事の老人や中年教授たちの集まりだけで、大学が良い方向に向かっていけるのですかな?」
「これからは若い人たちの意見も必要なのでは?」
教授④「若い世代の考えを取り入れたいというヴェルトン先生の意見も分からなくはないですが、生徒にも投票権というのは前代未聞の話です!」
ヴェルトン「そうですか。そこまで反対なさるのなら、少し訂正しましょう」
「生徒だけではなく、大学内で働く、清掃員や警備員、食堂や売店の方々にも投票権を与えるのはどうでしょうか?」
「投票箱を校内に設置し、学内の人間であれば誰でも期日前投票ができるということでいかがでしょうか?」
理事「ヴェルトン先生!いい加減にしていただきたい!」
ヴェルトン教授の破天荒な意見により、職員会議は大荒れとなった。
職員会議後、研究室でヴェルトンとバーテッツは…
バーテッツ「ヴェルトン、相変わらず大学内を騒がせているようだな」
ヴェルトン「気にするなバーテッツ、全ては私が次期学長になるためのステップだ」
バーテッツ「ヴェルトン、今更こんな事を言うのもなんだが、お前本気で次の学長になれると思っているのか?」
「外部の理事や監事などを除けば、国立大学の職員、教員は65歳で定年なんだろ?」
バーテッツ「次の選挙の時にはお前も64歳になっているんだ。仮に選挙で当選したとしてもたった1年しか学長をやれないじゃないか」
ヴェルトン「バーテッツ、何か勘違いしているようだな」
「私は長く学長をしたいわけではないのだ」
「たとえ半年や1年であろうと、歴代学長の中に私の名前が載ればそれでいいのだよ」
バーテッツ「お前にとって重要なのはその名が残ることか?」
ヴェルトン「そうだ。名前が残るかどうかだけだ」
「学長をやっていた年数など、私にはどうでもいいのだよ」
「このヴェルトンの名前さえ残れば、一週間学長だろうと、一ヶ月学長だろうと構わんさ」
ヴェルトン「尤も私が当選した暁には、学長だけ定年を70歳に引き上げるよう、国に案を出してみるかもしれんがな」
「いずれにせよこれから先の未来が楽しみだよ!ハッハッハッ!」
バーテッツ(心の中で)「(この男、自分が落選したときのことなどほとんど考えていないのか?)」
「(ヴェルトンは俺の右手を自由に動けるようにしてくれた恩人ではあるのだが、このままこの男と行動を共にして、本当に大丈夫なんだろうか?)」
それから1ヶ月後の1962K年4月。
3年生のおトミも4年生に進級した。
おトミは引き続きゼミ長を担うようだ。今度は4年生のゼミ長として。
そんな中ヴェルトンはバーテッツに…
ヴェルトン「ご苦労だったな、バーテッツ」
「あんたが今まで防具を作ってくれたおかげで、このプロト・ジェムストーンもついに完成したよ」
バーテッツ「大学で防具作りを始めて約1年…こだわって作った鎧や兜も全て石ころになってしまうとはな…」
ヴェルトン「私だって疲れるくらいジェムストーンに魔力を与えてきたのだよ。来る日も来る日も…」
「苦労はお互い様だと思うがね」
バーテッツ「フンッ」
ヴェルトン「さてと、プロト・ジェムストーンも完成したことだし、早速私は試してみたいと思っている」
バーテッツ「試すだと?」
「その石ころをどうするつもりなんだ?」
ヴェルトン「騎士団に協力してもらうのさ」
「我が大学は騎士団とも結びつきが強いからな」
バーテッツ「き、騎士団だと…」
ヴェルトン「どうした、バーテッツ?」
「騎士団に協力してもらうことが不安だというのかね?」
バーテッツ「言ったはずだぞ、ヴェルトン」
「自分の防具を騎士団に売る気はない、つまり騎士団のために防具は作らんと…」
ヴェルトン「私のもとを訪ねてきた時、確かにそう言ってたな」
「だがその意見で自分の考えを曲げる気はないぞ」
ヴェルトンにそう言われ、バーテッツは騎士団に対する思いを話した。
バーテッツ「あんたと出会う前の俺は騎士団に売るためだけに防具を作っていた」
「鋼神の腕と呼ばれた俺の取引相手は騎士団のみだった。一般の店に俺の防具が出回ることなどなかった」
ヴェルトン「だからどうしたというのだ?」
バーテッツ「俺は自分から騎士団専属の防具職人になることを志願した。そして若手だった当時の俺は騎士団の砦内で朝から晩までひたすら防具を作ったのだ」
バーテッツ「それから騎士団は俺の腕を信頼し、多額の給料を出してくれた」
「三人兄弟の末っ子として生まれた俺が自分の屋敷を建てられるくらいの高い給料をな」
「俺はその後新しく建てた自分の屋敷に住み、妻であったレジーヌと出会い、結婚した。そして一人息子のアーバニオも生まれた」
「妻がいて子供がいた。防具作りの仕事も屋敷内でできた」
「あの時は何もかも順風満帆な生活を送れた…」
「だが防具作りに没頭するあまり俺は家庭を蔑ろにしてしまった…」
「妻のレジーヌは俺に愛想を尽かし、息子のアーバニオは寂しい思いをしてしまったのか、ためらいもなくレジーヌについていった…」
「妻と息子は出ていってしまったが、俺はしばらく孤独を感じることもなく、騎士団のために防具作りに励んでいた…」
「だが5年くらい前から手の指が思うようになり動かなくなり、まともな防具を作ることができなくなった…」
「防具が作れなくなると騎士団は俺から手を引き、専属の職人としての契約もあっけなく打ち切られた…」
「そして働けなくなって改めて孤独を感じたんだ」
「妻と息子が俺の前からいなくなってしまった孤独感を…」
「仕事も家族も失った俺はひたすら酒を飲んで心を癒すしかなかったんだ…」
ヴェルトン「つまりあんたは良くも悪くも騎士団に人生を左右されたというわけか」
「だが話を聞く限りでは、騎士団ではなくあんたのほうに問題があったと思うがね」
「どんなに仕事に没頭しようが、妻や子供を蔑ろにしたら当然愛想も尽かれるだろうし、騎士団だって防具を作れない人間と契約したってしょうがない」
バーテッツ「分かっているさ…落ち度は俺自身にあると…」
「だがどうしても騎士団に対しては複雑な気持ちが出てしまうんだ…」
「それが俺の心を邪魔して…」
ヴェルトン「フンッ!強固な防具を作る癖して、その心はゼリーのようにグニャグニャとして貧弱だな」
バーテッツ「何度でも言ってくれ…他人から見れば大したためらいではないのだろうからな…」
ヴェルトン「バーテッツ、そんな過去など捨てろ」
「あんたにとって大事なのはこの先の未来だ」
バーテッツ「な、何を言って…」
ヴェルトン「学長選挙に落選したら、私は非常勤の講師としてこの大学に残るつもりだ」
バーテッツ「ヴェルトン?」
ヴェルトン「プロト・ジェムストーンで研究データを取り、20個程度のグラン・ジェムストーンを作り上げる」
「80歳までの私の目標だ」
バーテッツ「…」
ヴェルトン「私は今62歳。80歳まで18年もある」
「その18年で複数のグラン・ジェムストーンを完成させる」
「バーテッツ、私と共にジェムストーンを作り上げるのだ」
「学長になれず非常勤となっても大きな実績さえ残せれば、それはそれで十分なのだよ」
バーテッツ(心の中で)「(ヴェルトン…落選した後のことも一応考えてはいたんだな…)」
「…」
バーテッツ「いいだろう…この先18年もあんたに付き合えるか分からないが、できる限り手を貸してやる…」
ヴェルトン「よく言ってくれたな、バーテッツ」
「私と共に行動すれば、酒を飲んでいるだけでは得られない何かが見えてくるはずだ」
「その「何か」がきっとあんたを変えることだろう…」
バーテッツ「俺が変わっていける?62歳の俺でさえも…」
それからプロト・ジェムストーンを試すため、ヴェルトンはアイルクリート共和国騎士団に協力を頼んだ。
魔獣たちとの戦いの中でプロト・ジェムストーンを持たせ、どの兵士にジェムストーンが反応するかを試したが、誰一人ジェムストーンに選ばれず、強大な力を持った戦士に変身することもなかった。
プロト・ジェムストーンの効果が一向に出なかったことから、4ヶ月後ジェムストーンは無用の品として大学に返されてしまった。
次回、プロト・ジェムストーンに何か変化が?




