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第1話 No.1 クリスターク・ブルー

僕にとって初の投稿作品になりますが長編物語にしようと思っています。

今回はその1話目です。どうかよろしくお願いします。

架空の惑星の物語ですが、アルダブラゾウガメ・ステラーカイギュウ・二ホンオオカミなど、実在する(実在した)動物たちも話に出てきます。


<主な登場人物の紹介>

(※キャラ名(本名の場合)は、「名・名字」の順。前が下の名前で、後ろが名字)


○クレード・ロインスタイト(男・?歳)

・名は「クレード」、名字は「ロインスタイト」。

本作の主人公である魔法剣士。青い髪の青年。持っている剣の名は「魔蒼剣」、盾の名は「アイオライトの盾」。

ある同盟部隊の兵士として魔獣退治のために船に乗っていたが、キャプテン・キャンサーたちに襲撃される。ユノール・ビスタルーク(22歳)という女性を愛している。

他、ローク(男・30歳)・ローネス(女・30歳)・タツナガ(男・32歳)・ガロディアス(男・30歳)・コハル(女・23歳)・イズヨ(女・21歳)という友人たちがいる。

父の名はクラスト、母の名はリアナ、母方の祖父の名はバルスビート、母方の祖母の名はネイクリア。

○ヴェルトン・リオロッグ(男・149歳)

・小島で一人暮らしている賢者の博士。アイルクリート第一魔法大学の元名誉教授。専攻分野は魔法道具学。賢者は攻撃魔法や回復魔法など、あらゆる魔法が使える。

149歳という異様な年齢のため、戸籍上は死亡扱いとなっている。

誕生日は3月26日。

○キャプテン・キャンサー(男・158歳)

・クレードたちが乗っていた船を襲った大海賊。超高齢な老人ではあるが、かなりのつわもの。元デスカット海賊団の船長で、「キャプテン・キャンサー」の名は船長としての異名。彼の本名ではない。

誕生日は7月20日。

○シャリアンル・ラビフェルク(女・216歳)

・キャプテン・キャンサーの仲間である謎の老婆。ローブを纏った魔法使い。見た目は人間だが、耳だけは兎のように長い。生きた人間を「生体サンプル」と称するなど、性格は冷酷。

200年以上も生きているが、それはある特殊な魔法により人体の構造が変化したため。

誕生日は2月1日。

○レジーヌ・アラストロ(女・7歳)

・キャプテン・キャンサーやシャリアンルと行動を共にする謎の幼女。真鍮でできた猫の仮面を被っている。

バーテッツ(男・150歳)という父親とアーバニオ(男・5歳)という弟がいる。

誕生日は10月31日。

ここは惑星ガイノアースの魔法大陸ムーンリアス。


大陸近海の小島に居座る大型の魔獣たちを退治するため、ある三つの国は同盟部隊を結成し航海に出た。

そしてある嵐の夜、同盟部隊は目的地の小島に着いたが、そこで待っていたのは、キャプテン・キャンサーという名の大海賊、シャリアンルという魔法使いの老婆、レジーヌという猫の仮面(真鍮製)を被った幼女たち、3人の人間たちと、彼らに従う魔獣たちの群れであった。


シャリアンルは「生体サンプルの採取」と称し、魔力などが高い同盟部隊の兵士たちを生きたまま何人も捕らえ、二本の大型カットラスを手にしたキャプテン・キャンサーはサンプルとして見込みがなさそうな兵士たちなどを次々と手にかけていった。


敵たちのあまりの強さから同盟部隊の隊長であるバナルゴは兵士たちに撤退命令を出し、兵士の一人であった魔法剣士のクレードも小島から船へと駆け込む。

しかし敵であるキャプテン・キャンサーもすぐに船へと乗り込み、乗っていた兵士たちを次々と手にかけた。そして一人生き残ったクレードはキャンサー相手に戦うが、すでにクレードは息が切れていた。


クレード「ハァ…ハァ…」

キャプテン・キャンサー「お前のような若造にしてはよくやったと褒めてやろう…だがこれまでだ」

クレード「くっ…」

キャプテン・キャンサー「心配するな、シャリアンルはお前のことを見込みがある奴だと言っていたよ。だからここで命までは取らんさ」

 「まあ代わりに実験用の生体サンプルとしてお前を採取させてもらうがな」

 「シャリアンルの奴も採取のためにもうすぐ来るだろう。大人しくせい」

クレード「黙れ…もう喋るな…」

キャプテン・キャンサー「貴様、その体でまだ俺と戦おうというのか?」

クレード「大海賊だか何だか知らないが、今決着をつけてやる…」


クレード(心の中で)「(悪いな。お前たちも巻き込むかもしれない…許してくれ…)」

 「(ここで奴を止めなければ、後ろの船にいるヤスナリ部隊長やガロディアスたちにまで危険が及ぶ…)」

船の上で倒れている兵士たちの遺体を見て、クレードは心の中で呟いた。そして、

クレード(心の中で)「(ここは雷の剣でいく…)」

 「(頼む、魔蒼剣…俺に力を貸してくれ…)」

 「(そしてユノール、俺はどんな時でも君を信じている…君を愛している…)」

クレードの持つ魔蒼剣が青い雷に包まれ、その剣でキャプテン・キャンサーを斬りつける。

クレード「ハアアア!!」

キャプテン・キャンサー「な、何だとバカな!!」

剣の一撃と溢れ出る雷の威力は凄まじく、その衝撃により乗っていた船さえもボロボロに砕け散った。

そして船が砕けた事によりクレードも海へと落ちる。


一方キャプテン・キャンサーは船の残骸の木片に乗っていた。

キャプテン・キャンサー「ぐっ!!まだあんな力を隠していたとはな…恐るべき男だ…」

 「うぐっ!!傷が痛む…これでは魔獣に変身して海に落ちた奴を追えん…」


その時海の中から人が入れるほどの太い太い金属の管が現れ、管の中からシャリアンルという魔法使いの老婆とレジーヌという猫の仮面を被った少女が出てくる。


シャリアンル「ご苦労じゃったな、キャプテン・キャンサー」

 「生体サンプルたちはレジーヌの金属管を通して全て城に送った。回収はもう十分じゃ。さっさとこの場を撤退するぞ」

 「時は金なり…時間は有効に使わねばな…」

キャプテン・キャンサー「だがいいのか?あの青い髪の魔法剣士にも目を付けていたんじゃないのか?」

シャリアンル「確かに奴も気にはなるが、それ以上に見込みのある生体サンプルが集まっておる」

 「私の見立てでは、男女の双子の剣士、猛虎の如く振る舞うバンリの武人、タツナガというの名の侍…特にこの4人が見込みありそうじゃ」


キャプテン・キャンサー「この同盟部隊を指揮していた騎士団長も捕らえたはずだぞ。奴は見込みがないというのか?」

シャリアンル「バナルゴという男か」

 「奴も決してダメなわけではないじゃろう。むしろ剣の腕前はかなりのものじゃろうて」

 「だが魔力などが特別強いわけではない。あの者は今回の実験で失敗に終わるかもしれん…」

 「まあとにかく良いサンプルたちを集められた以上、私も早速戻って実験を始めたいのじゃ。キャンサー、悪いがこの管まで来るのじゃ」

レジーヌ「早くしてよ、キャンサー」

 「お父さんとアーバニオが私を待ってるし、私の管は海では長くもたない…」

キャプテン・キャンサー「そうだな、ならそうするさ。だが魔獣どもを放っておく」

 「さあ来い!海の化け物ども!」

鮫型の魔獣たち「ジャアアアア!!」

キャプテン・キャンサーの掛け声で海から鮫型の魔獣たちが集まってくる。


キャプテン・キャンサー「おいお前ら!この辺りの海に人間たちが残っていたら全て始末しろ!いいな!」

鮫型の魔獣たち「シャアアア!!」

叫び声とともに鮫型の魔獣たちが海へと潜っていく。


キャプテン・キャンサー「あの青い髪の魔法剣士が万が一にでも生き残っていたら、俺たちの組織にとって障害となり得るだろう。そういう奴は確実に始末してぇのさ」

 「それに同盟部隊の船もまだこの付近にいるかもしれねぇ。奴らも始末できるのならやっておきたいんでな」

シャリアンル「抜け目がないな。まあお前のそういうところは嫌いではないぞ…」

キャプテン・キャンサー「あとは魔獣どもに任せる。俺たちは帰るとするか」

レジーヌ「遅いよ。まったく…」


シャリアンル(心の中で)「(今回の生体実験は我々メタルクロノスにとって大きな意義があると思っておる…)」

 「(まずは人員を集め組織を強化する…全ては我々の…いや、私自身の目的のためにもな…)」

 「(宣戦布告を考えているのは魔法大陸ムーンリアスだけではない。いずれは科学大陸サンクレッセルにも我らの牙を向けるつもりじゃ…)」


シャリアンル(心の中で)「(しかしヴェルトンの奴はどこへ消えた…)

 「(賢者の魔力を持つ奴がいれば実験もかなり捗るというのに…)」

 「(まあ仮に奴が生きていたとしても、生かすか殺すかを決めるのはバーテッツじゃがな…)」


キャプテン・キャンサー、シャリアンル、レジーヌの3人は太い太い金属の管に潜り、海の中へと消えていく。


300人以上の兵士たちがいた三つの国の同盟部隊は2人の老人と1人の幼女たちの前に大敗を喫することとなった。


一方その頃海中では、

クレード(心の中で)「(すまない、親父・お袋・ユノール…俺ではクリスターク・ブルーになれそうもない…)」

 「(バナルゴ団長・ヤスナリ部隊長・ローク・ローネス・タツナガ・ガロディアス・コハル・イズヨ・騎士団のみんな…お、俺はここまでか…も……)」

 「(ユ、ユノール…せ、せめて最後に君の顔を…一目……」

 「(うっ……)」

海に落ちたクレードの意識は薄れつつあった。

しかしそんなクレードを剣(魔蒼剣)と盾(アイオライトの盾)がバリアを張り守っていた。


鮫型の魔獣たちがクレードを見つけ襲いかかってきた。

鮫型の魔獣たち「ジャアアアア!!」

しかしバリアがクレードを守り、バリアに触れた魔獣たちは朽ち果てていく。

鮫型の魔獣たち「ジュワ!?」


クレード「……」

クレードは完全に気を失い、バリアに守られながら海の底へと沈んでいく。そして…



海鳥たち「キュー、キュー」

ここはパルクレッタ諸島ルスカンティア王国領ルスモーン島(※1)。海辺で海鳥たちが鳴いている。


クレード「………」

島に流れ着いたクレードは浜辺で倒れていた。一緒に流れ着いた彼の剣と盾は無傷であったが、身に付けていた鎧と兜はボロボロになっていた。


そんなクレードのところに一人の老人がやって来て、

老人「久しぶりに自分以外の魔力を感じたが、まさかこの島に人が流れてくるとはな…」

そして老人は浜辺に流れ着いていた剣(魔蒼剣)と盾(アイオライトの盾)に気づく。

老人「魔力の出どころはこの青い剣と盾か。しかしこの剣と盾、まさかあの伝説の…」


牙犬型の魔獣たち「グォォォ!!」

老人の前に鋭い牙をもった犬のような魔獣たちが現れ、襲いかかろうとしている。

老人「悪いがお前たちに構っている暇はない。私はこの青い髪の青年を救わねばならぬのだからな」

牙犬型の魔獣たち「グォアーー!!」


鋭い牙を剝き出し、魔獣たちは老人に襲いかかった。しかし老人は魔法で反撃し、

老人「炎の小魔法 エスブレイ」

牙犬型の魔獣たち「ギョワ!?」

老人「だから構っている暇はないと言っているだろうが」

老人の手から炎が飛び出し、魔獣たちを焼き払う。

老人「やれやれ」


老人はクレードに近寄り、

老人「そこの君、立てるか?」

クレード「…」

老人「さすがに気を失っているか。どこかから流れ着いたようだしな」

 「まあいい。とにかく回復魔法をかけるぞ」

 「回復の小魔法 エスケイア・シングル」

クレード「あっ…」

回復魔法(単数)によりクレードの意識が少しだけ回復した。


老人「どうだ?少しは楽になったか?これだけではまだ厳しいと思うが」

クレード「うっ…」

老人「肩を貸そう」

 「ロッジに戻ったら改めて回復魔法をかける。だからもう少しだけ辛抱してくれ」

クレードは老人に抱えられ、島のロッジへと連れて行かれる。


ケルビニアン歴2050K年2月前半…

この物語はクレードという一人の青年が、ヴェルトンという一人の老人と出会うところから始まる。


Welcome to

Crystal numbers story

And

Visiting world heritage sites


それから一週間後…

クレード「うっ…あっ…」

海辺のロッジのベッドで眠っていたクレードが目を覚ました。

そこへ浜辺にいた老人がやってくる。

老人「魔力を感じたので部屋に来てみたが、やっと目を覚ましたようだね」

 「君は一週間も眠っていたぞ。もう2月も中旬だ」

クレード「あっ…」


老人「さて、起きてすぐのところ悪いが、少し私と話をしようではないか」

 「君は何という名だ?そしてどこの国の人間だ?」

 「騎士の鎧を装備していたことから考えると、少なくとも、ワトニカの侍や忍者、バンリやチョンミョームンの武人、ルナウエスタンのガンマンなどではなさそうだが…」

クレード「さむ…?にん…?ぶじ…?がん…?」

老人「何だ、言葉というものを知らないのかね?」

 「だが鎧を着て剣や盾を持っていたと思われる人間が言葉や文明を知らない野生児ということはあるまい…」

 「そうなると君は記憶を失い言葉などを忘れてしまったのかもしれんな…」

 「ならば今一度私が君に言葉や数字などを教えようではないか」

クレード「こと…?すう…?」


老人「私の名はヴェルトン・リオロッグ、アイルクリート第一魔法大学の元名誉教授だ…」


老人改め、ヴェルトン「私は大学から名誉教授の称号を授与されたが、とっくに退職しているし、149歳という異様な高齢ゆえ、戸籍上は死亡扱いだろう。だから元名誉教授ということだろうな」

クレード「も…と…め…い…?」

ヴェルトン「まあとにかく私に任せてくれたまえ。元とはいえ教授ゆえに人にものを教えるのは得意分野だ」

クレード「あっ…?」

ヴェルトン「大学での最後の講義が1981K年だったから69年ぶりか…本当に久しぶりの講義だな…」

 「まあ内容的には講義というより授業だろうが、私が元名誉教授である以上、授業も講義と呼ばせてもらう」

クレード「じゅ…?こう…?」

ヴェルトン「しかし元名誉教授といちいち呼んでもらうのも手間だろうから、私のことは博士でいいよ」

クレード「はか…せ…?」

ヴェルトン「教授ゆえに魔法学の博士号も持っている。だから博士でも良いのだよ」

 「私も来月26日で150歳になるが、まだまだ現役の魔法研究者のつもりさ…」

クレード「…?」


それからヴェルトン博士による一対一の講義が始まった。

とある日、クレードは言葉を教わった。

ヴェルトン「まずは言葉の基礎となる五十音を覚えてもらおう」

 「あ、い、う、え、お」

 「さあ、口に出してみるのだ」

クレード「あ…い…」


とある日、クレードは数や数字を教わった。

ヴェルトン「人間であればやはり数や数字というものを知る必要がある」

 「君、机の上を見なさい」

クレード「何も…無い…」

ヴェルトン「何も無い…机の上には何一つ置いていない…つまりこれが0の状態ということだ」

 「何も無いことを数で表すのなら、それが0だ」

クレード「ゼ…ロ…?」

ヴェルトン「ではこの机の上に海岸の石を一つだけ置こう」

 「今机の上には石が一つあるといえる」

 「つまりこれが0の次、1という数だ」

クレード「い…ち…?」


とある日、クレードはアルファベットを教わった。

ヴェルトン「言葉や文字は五十音や漢字だけではない。アルファベットなどもある」

クレード「アルファベット…?」

ヴェルトン「セントロンドス王国発祥といわれ、全部で26種類ある」

 「まず一つ目がAだ」

クレード「エー?」

ヴェルトン「まあセントロンドスでは発音はエーよりも「エイ」らしいがな」


とある日、クレードは海辺のロッジの窓を開け晴れた青空を見ていた。月日も2月から3月に変わっていた。

クレード「空…海…青…」

 「…」

 「うっ!!」

クレード(心の中)「(お、俺の名は、ク……)」


とある日、言葉や文字、そして数や数字などを教わったクレードはヴェルトン元名誉教授と話をした。

ヴェルトン「クレード・ロインスタイト…それが君の名前か?」

クレード「ああ」

 「あんたが俺に言葉や数とかいろいろ教えてくれたからな」

 「俺もあんたの話を聞いているうちに少しは自分のことを思い出してきたのだろう」

 「まあどういうわけか外の青い空や海を見ているうちにクレードの名を思い出したのだがな」

ヴェルトン「青…空…海…なぜこれらを見て思い出したのかは分からんが、まあ名前を思い出しただけでも大きな一歩だよ」


ヴェルトン「しかし思い出したのは自分の名前だけか?出身地や生年月日など他に思い出したことは何かないのか?」

クレード「どこの国で生まれ、自分が今何歳なのかも分からない」


自分の年齢さえも忘れているクレードであるが、他に思い出した事があるようでそれを話し始めた。

クレード「だがあんたが浜辺で拾ってくれたそこの青い剣と盾の名前は思い出したよ」

ヴェルトン「ほう、出身地や生年月日などは忘れてもその剣と盾の名は覚えていると」

クレード「おそらく実物を見ているからだろ」

 「目の前になければ剣や盾の存在自体も忘れているはずさ」


ヴェルトン「それで、その剣と盾は何という名だ?」

クレード「剣の名は魔蒼剣、盾の名はアイオライトの盾だ」


クレード「間違いない。俺はその剣と盾を持ち戦っていたよ」

 「戦っていたこと自体は記憶として思い出せないが、感覚で分かる」


ヴェルトン「魔蒼剣…?アイオライトの盾…?聞いたことがないな…」

 「その剣と盾の名は、本当はコバルトブルーソード、コバルトブルーシールドというのではないのかね?」

 「剣と盾、それぞれ合わせて用いることで魔力が連動し真価を発揮するといわれている、伝説の」

クレード「何だその名は?俺は逆にその名に馴染みを感じない」


ヴェルトン「コバルトブルーソード及びコバルトブルーシールドは過去ラープ帝国でそれぞれ2つずつ作られたとされる伝説級の剣と盾だ」

 「君のその剣と盾は1545K年から1565K年頃の文献などに描かれているコバルトブルーソードとコバルトブルーシールドの絵とよく似ているのだ」

クレード「そうなのか?」


ヴェルトン「剣と盾の製作には名のある鍛冶屋や賢者などが関わり、極めて魔力の高い物を作り上げたそうだ。この世界に蔓延る凶暴で凶悪な魔獣たちを駆逐する目的でな」

 「文献や資料から推測すると、二つ作られた剣の一本は合計50万匹程度の魔獣たちを駆除したとされる。また盾の一つもそれだけの戦いに耐え抜くだけの耐久性を見せつけたそうだ」

クレード「要するにすごい剣と盾というわけか」


ヴェルトン「だがその強力な剣と盾もその後行方が分からなくなったのか、1570K年以降の文献などには剣と盾に関する記述が特に書かれていない。そのためコバルトブルーソードとコバルトブルーシールドも今や伝説級の扱いだよ」

 「尤もコバルトブルーソードとコバルトブルーシールドは世間的に知名度のある武器と防具ではないからな。知っているのは精々私のような魔法の武器や防具を研究しているような者たちだけだ」

クレード「つまり詳しい者にしか分からないくらいレアな剣と盾ということか」

ヴェルトン「まあもし君が持っているその剣と盾がコバルトブルーソードとコバルトブルーシールドであるのなら、私は今二組ある剣と盾のうちの一組を見ていることになるのだがね…」

クレード「なるほど。だがコバルトブルーソード、コバルトブルーシールドと聞いたところでやはり俺は何も感じない」


クレード「伝説の剣と盾だか何だか知らないが、これらは魔蒼剣とアイオライトの盾だ」

 「俺にとってはそれ以上でもそれ以下でもない」

 「たとえ俺の記憶が戻ったとしても、それだけは自信をもって言える」

ヴェルトン「まあ私も古い文献等でそれらの存在を確認しただけで、実物を見たことはないからな。その剣と盾に関して、私も君にこれ以上の追求はできまい」

 「魔蒼剣…アイオライトの盾…君がそう言うのならそれで良いのだろう」

クレード「ならばそういうことで頼む」

 「仮にその剣と盾が伝説のコバルトブルーソードとコバルトブルーシールドだとしても俺はそれぞれ魔蒼剣、アイオライトの盾と呼び続けたい」


ヴェルトン(心の中で)「(いや、おそらくその剣と盾はコバルトブルーソードとコバルトブルーシールドであるはずだ)」

 「(魔蒼剣とアイオライトの盾、この名はクレード、もしくはそれ以前の所有者が勝手に付けた名だろう)」

 「(まあ文献などから確認すれば、剣と盾の一組はおよそ480年前から行方が分からなくなっているし、同じ頃に作られたもう一組の剣と盾に至っては何者かが密かに盗み出したため、作ってすぐになくなったという話もある…そう考えれば月日の経過などによりその存在や名前もうやむやになってしまったのかもしれんな…だがとりあえず一つ確かな事はある)」


ヴェルトン「君はその名前にこだわっているようだが、それは君がその剣と盾をそれだけ大事にしてきたという証拠でもあるのだろう」

 「私が思うに、君はその剣と盾の魔力により助かり、そして私のもとへとたどり着いたのだろうしな」

クレード「それはどういう意味だ、博士?」


ヴェルトン「剣や盾、武器や防具も含め魔力を帯びた物は、長く大事にしていけば、やがて魔力により意思をもつといわれている」

クレード「意思?物が喋り出すとでもいうのか?」

ヴェルトン「意思といってもそれは本能のようなものだ。人間のように高度にあれこれ考えるのとはまた違う」

クレード「本能?」

ヴェルトン「そうだ」

 「君は魔力が帯びたその剣と盾を長く大事にしてきた。それにより剣と盾は君を守ろうとする防衛本能を持ったのだろう」


ヴェルトン「私が思うに、君は少し前に船の上で魔獣たちと戦いそして敗れ海へと落ちた」

 「しかし海へ落ちた君を持っていた剣と盾が助けた」

 「剣と盾の防衛本能がバリアを作り君を守ったのだろう」

クレード「魔蒼剣とアイオライトの盾が俺を助けてくれたというのか?」

ヴェルトン「そう考えてまず間違いないだろう」

 「バリアを張った剣と盾は海の中から高い魔力を持った者を探し続け、そして賢者である私のもとへと誘ったのであろう」

 「高い魔力を持つ者が君を助けてくれるだろうと感じてな」

クレード「この剣と盾が俺のために…」

クレードは自分の剣と盾を見つめた。


ヴェルトン「言っただろう。それだけその剣と盾を大事にしてきた証拠だと」

 「主である君を守ろうと精一杯本能を働かせてくれたのだよ」

 「長く大事にしてくれた君への恩返しとしてな…」


ヴェルトン「ただバリアに守られていたとはいえ、君は長い時間海の中にいただろうからな」

 「やはり海の中にいたことで体力を激しく消耗し、そして記憶すらもなくしてしまったのだろう」

 「事実浜で倒れていた君はかなり衰弱していたよ」

クレード「そうか…だが俺は全てに感謝しなければならない。剣にも盾にも博士にもだ」


クレード「博士、あんた話の中で魔獣だの魔力だの言っていたが、それが何なのか俺にも教えてほしい」

 「話を聞く限り、魔獣というのはどうも凶悪な生き物で、魔力というのは強力な力のように思えるからな」

 「ならば魔力というものを知り、そして魔獣どもを駆除することがあんたや剣と盾への恩返しだと思ったんでな」

ヴェルトン「そうか。そこまで言うのなら早めに教えるとしよう」

 「本当は先に一般教養などをいろいろ教えるつもりだったが、今の君には戦おうという力強い意志を感じる」

 「ならば戦いに必要なことを教えるのが先だな」

クレード「よろしく頼む」


ヴェルトン「しかしあれだな」

 「君はどうも口の聞き方や態度などがあまり上品ではないようだな。まだ敬語などを教えていないとはいえな」

クレード「おそらく記憶をなくす前の本来の俺はこんな不愛想な性格だったのだろう」

 「確かに上品とはいえないが、俺自身は今の喋り方やこの態度が妙にしっくりくるんでな」

ヴェルトン「ハッハッハッ!それではあまり友達ができそうにないかもな」

クレード「だが俺はそれでも自分の信じた道を歩いていきたい」

ヴェルトン「あくまで我が道を行くか…まあひたむきな想いは感じるが…」

クレード「ひたむき?それは俺のいいところか?」

ヴェルトン「まあそうだろうな」

 「君にもいいところがちゃんとあるんだ」

 「もし君のことを理解してくれる人たちが現れたら、その人たちを大事に思うことだな」

クレード「大事に、か…」

 「…」


クレード「そう考えれば博士も俺のことを理解してくれた人間といえるな」

 「海の中では剣と盾が俺を守ってくれたようだが、この島の浜辺に着いてからはあんたが助けてくれたし、その後あんたからいろいろな事を教わった」

 「それは博士が俺という人間を見捨てず理解してくれたからだろ?」

ヴェルトン「理解か…まあ本音で言えば君に手を差し伸べているのは試したいと思っている部分もあるからだろうな…」

クレード「試す?俺をか?」

ヴェルトン「まあそれはまた後で話すよ」


その日の夜、ヴェルトン博士はグラン・ジェムストーンという魔力がこもった石を見つめながら考え事をしていた。

ヴェルトン(心の中で)「(グラン・ジェムストーン…長年魔力を注いできた私の最高傑作…)」

 「(試作品を除けば、作ったのは全部で18個。そしてその中で完成しているのはただ一つだけ…)」

 「(クレード…君には悪いが試させてもらうよ…)」

 「(この完成品が君を選ぶかどうかを…)」


そして3月15日、クレードはロッジにあった新しい鎧と兜を身に付け部屋の中で剣の鍛錬をしていた。

クレード「ハッ!!」

 「ハアー!!」

剣を振るうクレード。そしてその様子を見ていたヴェルトン博士は、

ヴェルトン(心の中で)「(なるほど。キレのある剣さばきだ…)」

 「(やはり決して素人というわけではないようだな…たとえ記憶を失っても体が剣の扱いを覚えていたようだ…)」


ヴェルトン「クレード、ちょっといいか?」

クレード「何だ、博士?」

ヴェルトン「君の剣さばき、中々に見事だ」

 「だがより強くなるためにも次のステップへ進む必要がある」

 「クレード、その剣に魔力を込めてみるんだ」

クレード「魔力?」

 「俺はまだ博士から魔力について何も教えてもらってないが」

ヴェルトン「こういうのは座学よりも実践で試すのがいいと思うからだよ」

 「実際魔法高校や魔法大学での魔法の授業は座学よりも実践、トレーニングが多い」

 「まあとにかく剣に魔力を込めてみるんだ」

クレード「だからどうしろと?」

ヴェルトン「まずはイメージしてみるといい」

 「魔力を使ううえで大事なことはイメージや想い、強い意志などだ」

 

ヴェルトン「魔力を力という言葉に置き換えろ」

 「剣に強い力を宿したい、そういったイメージをしながら剣を持て」

クレード(心の中で)「(剣よ、俺に力を…力を…)」


ヴェルトン「ムーンリアスで生まれた人間は皆生まれながらにして魔力を体に宿しているといわれている」

 「ただ魔力は個人差が激しい不可解な力でもある…」

 「その激しい個人差ゆえに、修行してより高い魔力を身に付ける者もいれば、修行しても魔力が全然伸びない者もいる…」

 「ほとんど修業しなくても生まれながらにして高い魔力を持っていたり、80代、90代まで生きてやっと魔力が開花したりする者もいるなど、人間の魔力に関しては本当に様々だ…」


ヴェルトン「だが私は君が魔力の高い人間だと確信しているよ」

 「君の持つ、コバル…いや、魔蒼剣とアイオライトの盾は高い魔力を帯びた剣と盾だ」

 「それだけの剣と盾を扱える君であれば、剣に自分の魔力を込めることもできるはずだ…」

 「君自身の魔力と剣に宿る魔力、二つの魔力が合わされば強力な力となるぞ…」

クレード「……」


クレードは意識を集中していた。そして、

クレード「むっ!?」

クレードの持つ魔蒼剣が青く光り輝き、剣から青い魔力のオーラが溢れ出た。

クレード「こ、これは!?」

ヴェルトン「成功だ。君は自身の魔力を剣に注ぎ込み、それがオーラとなって現れたのだ」

クレード「すごい力を感じる…これならどんな奴でも斬れそうだ…」

ヴェルトン「ふふ、残念だがそのレベルでは魔法高校の2年生や魔法大学の1年生程度だ」

 「魔力のオーラを纏う剣技など、魔法剣技の基礎の技だ」

 「高3や大学2年生はさらにその上をいく、火炎や氷などを纏った剣技を習うぞ」

 「そして炎や氷などの剣技を上手く使いこなせる剣士は「魔法剣士」と称される」

 「尤も魔法剣士の数は魔法を放つ魔法使いと比べれば少ない。それだけ魔法剣を扱うのは容易ではないということだ…」


クレード「称号や他の剣技など、今はあまり興味がない。俺としてはこのオーラの剣の威力をまずは試したい」

ヴェルトン「まあオーラの剣は基礎とはいえ、魔力の高い人間が扱うほど威力も増すからな」


クレード「博士、魔獣どもはすぐ外にいるんだろ?」

 「俺を外へ連れ出してくれ。この光るオーラの剣で奴らを始末してやろう」

ヴェルトン「まあとりあえず出入口まで移動しよう。またそれからだ」


ロッジの外には大量の魔獣たちが集まっていた。

牙犬型の魔獣「ガルル…」

2人はロッジの窓からその魔獣たちを見ていた。


クレード「あの犬みたいな奴よく見かけるな。窓から何匹も見たぞ」

ヴェルトン「あれは牙犬型と呼ばれるタイプの魔獣だ。様々な姿形をしている魔獣たちの中で最もポピュラーな種だよ」

 「犬に近い見た目をしているが、鋭い牙や爪を持ち、体は牛と同じくらいの大きさだ」

 「多少の個体差はあるものの成長速度が異常に速く、2、3日もすれば成体になる」

 「性格は極めて凶暴。人間を目にすれば躊躇なく襲ってくる」

 「人間や野性動物を襲いその肉を食べるものの、本来は食事や水を飲む必要もほとんどなく、また狭いスペースでも自分の体が収まるくらいあれば十分生きていける」

 「そのうえ雄雌の区別がないといわれ、どの個体でも子供を産む」

クレード「なるほど。話だけ聞いているととんだ厄介者たちだな」

ヴェルトン「いや、一概にそうとも言い切れんさ」


ヴェルトン「確かに凶暴な性格をしているが、資源としては高い価値がある」

 「あの牙犬型であれば、牙や爪が燃えやすいので薪の代わりとなり、体の毛皮も衣類やタオル、布団などに加工できる」

 「体内の油は食用やランプの燃料として使われ、またその肉も食用となり味もそれなりに美味だ」

クレード「俺も確かにあの肉は美味いと思うよ」

 「博士も俺への食い物として、魔獣を何匹も狩ったようだしな」

ヴェルトン「牙や爪を薪の代わりにすれば木材の節約にもなるし、魔獣の肉は家畜の肉よりも安値で買える」

 「その利用価値の高さから、ムーンリアスの人間は魔獣を「歩く資源」と呼ぶくらいだ」


ヴェルトン「魔獣を狩る兵士や狩人たち、魔獣の死体を買い取り加工する業者、そして加工品を売りさばく商人たち…」

 「ムーンリアスでは魔獣の恩恵により何億の人間が飯を食っている」

 「正直魔獣どもが消えてしまえばムーンリアスの経済は計り知れないほどの大打撃を受けるだろう…」

クレード「だがあんな得体の知れない怪物どもを野放しにしていいとは思えんが…」

ヴェルトン「私も君のように考えているよ。確かに相当な恩恵を受けているものの、魔獣の被害により毎年何万の人間が命を落とし、多くの野生動物が絶滅の危機に瀕している…」

 「たとえムーンリアスの経済にどれほど打撃を与えようと、魔獣どもによる負の連鎖は断ち切らねばならないと思っている…」


そして博士から魔獣の説明などを聞いたクレードは、

クレード「博士、魔獣どものことは大体分かったよ…だがとりあえず今は扉を開けて俺を外に行かせてくれ…」

 「魔獣に襲われるかもしれないということで博士も俺に外出を禁止していたが、それも今日で終わりにしようと思う…」

 「魔獣どもを倒し、これからは俺自身で食糧や飲み水を取ってくるよ」

ヴェルトン「…分かった」

 「このグラン・ジェムストーンの件も含め、ここで君を試させてもらおう…」

クレード「前に俺を試すと言っていたのは、その石と絡んだ話か?」

ヴェルトン「そうだ。このグラン・ジェムストーンは強大な魔力を宿した特殊な石で、魔力を増幅させるマジェール・ストーンという特殊な鉱物などを素に作り上げた」

 「私にとってグラン・ジェムストーンは研究人生の全てともいえるくらいの最高傑作だ。私は長年この石にひたすら自身の魔力を注ぎ込んできたのだよ…」

 「そして長年溜めてきた魔力により、この特殊な石は誰かを選ぼうとする意思、本能を持ったと思える…」

 「もしこの石が君を選んだのなら、君は今よりもすごい力を手に入れるだろう…」

クレード「ならそちらで勝手に試してくれ。その石が俺をどう見ようが、俺はとりあえず外の魔獣どもを狩りたい」

ヴェルトン「自分に対する覚悟だけは確かにあるようだな…よし、ではその覚悟に免じて、扉を開けよう…」


クレード「しかし相手が化け物の姿をしているから助かるよ」

 「相手が俺や博士と同じ人間だったら斬りたいとも思わないからな…」

ヴェルトン「…」

 (心の中で)「(化け物の姿か…まあ私は人間でありながら魔獣のような姿に変身できる者たちを知っているがな…)」

 「(バーテッツ、シャリアンル、キャプテン・キャンサー、レジーヌ、アーバニオ…彼らも今どうしていることか…)」


クレード「どうした、博士?今一瞬深刻な顔をしていたぞ」

ヴェルトン「ああ、すまない。こんなときに何だが、知人たちのことを少し思い出してな…」

クレード「そうか。だが早く扉を開けてくれ。その知人たちのことは今は関係ないだろ?」

ヴェルトン「まあひとまずはな…」

 「…」


ヴェルトン(心の中で)「(全く関係がないということはないだろう…)」

 「(思えばこのグラン・ジェムストーンのような魔法のアイテムを作りたくて、私は90年前バーテッツのもとを訪ねたのだからな…)」

 「(だがあの頃の私は魔法のアイテムを作って人助けをしたいという想いよりも自分のことばかり考えていた…両親に対する深い愛情されも忘れてな…)」

 「(大学の学長となり出世したい…とにかく教授として実績を残したい…)」

 「(思えばそういった私の欲などが共同研究者であったバーテッツの心を歪ませてしまったのだろう…)」

 「(だがバーテッツよ…今の私はお前と出会ったあの頃とは違う…)」

 「(遠くからよく見ているといい…私が変わったということをな)」

 「(そしてこの石に選ばれし者たちこそが、お前たちメタルクロノスの野望を叩き潰すだろう!)」 


扉を開けるヴェルトン博士。扉を開けると大量の牙犬型魔獣たちがこちらを向きクレードと博士を睨みつけた。

牙犬型の魔獣「ガルル…」

魔獣たちが唸っている。

クレード「博士、あんたは外へ出るたびにこれくらいの軍団を相手にしていたのか?」

ヴェルトン「いや、どういうわけか今回は結構な数が集まっている…」

 「おそらく君のそのオーラの剣に反応しているのかもしれん」

 「魔獣どもは魔力を感知し集まることもあるからな。今まで感じなかった君の魔力に引き寄せられたのかもしれんな」

クレード「そうなのか?だとしたらなぜ建物の中に入ってこなかった」

ヴェルトン「魔獣どもは人間をよく襲うが、どうも建物などにはあまり興味がないらしい。だから扉さえちゃんと閉めていれば多くは侵入してこないよ」

クレード「なるほど。その興味のなさで俺も生き延びられたようなものか…」


牙犬型の魔獣「ガァー!!」

ヴェルトン「話はそこまでだ。魔獣どもが来るぞ…」

クレード「下らん。返り討ちにしてやる」

 「ハッ!!」

剣を振るうクレード。

ザン!(魔獣を斬る音)

牙犬型の魔獣「グハッ!?」

オーラの剣に斬られ魔獣が倒れる。

牙犬型の魔獣「ガルル!!」

しかしまだ魔獣たちは多く残っている。

ヴェルトン「やるな。だがさすがに数が多い…」

 

ヴェルトン「クレード、あまり無理はするな。危ないと分かったらすぐに逃げろ」

クレード「心配するな、博士。俺はまだまだやれる」

 「ハッ!!」

剣を振るいクレードは魔獣たちを次々と倒した。


しかし魔獣たちは次から次へとやって来る。

牙犬型の魔獣「ガルル!!」

クレード「チッ!きりがないな…」

ヴェルトン「もう引け、クレード!もう十分だ!」

 「魔獣どもは魔力だけではない、仲間の血の匂いなどで集まるともいわれている!」

 「魔獣は倒せば倒すほど集まることもある!だから魔獣どもとの戦いは引くことも大切なのだ!」

クレード「博士…俺がここで引いてどうする?」

 「俺がここで駆除しなければ魔獣どもは子供を産みまた数を増やすのだろ」

 「ならば力の限り戦ってやる…」

 「俺は…こんな所で果てるつもりはない!!」


その時ヴェルトン博士が持っているグラン・ジェムストーンが光り出した。 

ヴェルトン「ムッ!グラン・ジェムストーンが光っている!石は彼を選んだということか!?」

 「ならば私も今こそ試そう!」

クレードに向かって博士が叫ぶ。

ヴェルトン「クレード!これを受け取れ!」

ヴェルトン博士はそう言ってクレードのほうにグラン・ジェムストーンを投げ、クレードはストーンを受け取った。

クレード「これはさっきの石か!?何か光っているぞ!?」

牙犬型の魔獣「ガルル!!」

魔獣たちがクレードに襲いかかろうとしている。

ヴェルトン「クレード!剣にオーラを纏ったときと同じようにまた強くイメージしろ!」

 「より強くなりたいなどと思い、石に魔力を込めるんだ!」

 「そうすればジェムストーンは君を別の姿へと変え、今よりも強くしてくれるはずだ!」


ヴェルトン「私の予想では全身を宝石のように輝く鎧や兜で纏った騎士のような姿になるはず!さあ急げ、クレード!」

クレード(心の中で)「(別の姿へ変えるだと!?いや、俺が頭に描くヒーローは鎧などで覆われた騎士などではない…)」

牙犬型の魔獣「ガルル!!」

クレードに魔獣たちが迫る。


クレード(心の中で)「(宝石のように輝く戦士をイメージしている点では、俺と博士は共通している…だが俺が望むのはあのヒーローの姿…)」

クレード「カラーチェンジ&クリスタルオン!」

クレードは咄嗟に掛け声を上げた。そしてグラン・ジェムストーンとともにクレードの全身が強く光り輝いた。

牙犬型の魔獣たち「グッ!?ギャ!?」

眩しい光に驚く魔獣たち。そして光が消えていき、そこに現れたのは青いマスクとスーツで体全体を覆った戦士だった。

牙犬型の魔獣「ギュ!?」


見なれないそのスーツ姿には魔獣たちでさえもたじろいだ。そしてヴェルトン博士も、

ヴェルトン「凄まじいほどの魔力が溢れ出ている!私の研究は大成功のようだ!」

 「だがそれよりもあの異様な姿は一体何だ!?」

 「あんな姿の戦士は一度も見たことがない!!」

 「クレード…一体君は何者だ!?何を思ってその姿になった!?」


そして青いスーツ姿の戦士に変身したクレード自身も…

クレード(心の中で)「(お、俺は変身したのか!?)」

そしてクレードは自分の変身した姿を見て…

クレード(心の中で)「(そ、そうだ!これこそが俺が思い描くヒーローの姿だ!)」

 「(なぜこのような姿をしているのかは今は思い出せない…)」

 「(だが一つだけ確かな事を思い出した…)」

 「(俺が変身した戦士の名は、クリスターク・ブルー…栄光を求めるサファイアの戦士…)」

牙犬型の魔獣「ガオ!!」

たじろいだ魔獣たちも再びクレードを襲おうと動き出した。そして変身したクレードは、


変身したクレード「いいだろう魔獣ども。相手をしてやる…」

 「だがその前に聞け!」

ブルー(クレード)「俺はクリスターク・ブルー!」

 「栄光のサファイア!クリスターク・ブルーだ!」

ヴェルトン「クリスターク・ブルー!?それがその戦士の名か、クレード!?」

牙犬型の魔獣「ウガッ!!」

ブルー「無駄だ…さっさと消えろ」

牙犬型の魔獣「ギョガッ!?」

五匹の魔獣たちが一斉にブルーに嚙みつこうとしたが、ブルーは噛みつかれる前に剣でまとめて斬った。そして、


残った牙犬型の魔獣「ガルル!!」

ブルー「残りもさっさと片付ける…」

ブルー(クレード)は周辺にいた全ての牙犬型の魔獣たちを倒した。


ヴェルトン「クレード…」

ヴェルトン博士がブルー(クレード)に近づき話しかけた。

ヴェルトン「試させてもらったよ…」

 「約90年…長年にわたる私の研究は成功と言っていい…」

 「だが…」

ブルー(クレード)「分かっている。この妙な姿のことだろ…」

 「記憶を失っているのもあってか、このマスクとスーツ姿の意味は俺にも分からない…」

 「だが一つはっきり言えることがある」

 「記憶を取り戻す前の俺はこの青い戦士、クリスターク・ブルーに憧れていた。剣や盾と同じように感覚で分かる」

 「俺にとっては魔蒼剣やアイオライトの盾と同じくらい、このクリスターク・ブルーが大事だということだろう…」

ヴェルトン「クレード…君は本当に何者なんだ?」


海辺で話をしている2人。そこに空と海から新たな魔獣たちが現れた。

ブルー(クレード)「博士、話の途中だがまた別の魔獣どもが現れたぞ」

ヴェルトン「あれは翼の牙犬型か…」

ブルー(クレード)「ほう、牙犬型には空を飛べる奴もいるか?」

ヴェルトン「まあ牙犬型は最もポピュラーな魔獣だからな。空を飛ぶ種類どころか、海や川の中で生活している種類もいる」

翼の牙犬型魔獣「ガァァー!!」

翼の牙犬型魔獣たちが吠えている。一方海では怪魚型の魔獣たちが飛び跳ねている。

怪魚型の魔獣「シュワ!!」

ブルー(クレード)「あっちのでかい変な魚どもは牙犬型とはまた違うようだが…」

ヴェルトン「怪魚型だ。魚のような見た目をしていて、水中に棲む魔獣たちの中では最もよく見かける種だ」

 「尤も怪魚型は牙犬型と違い姿や大きさも様々だがな。鯨並みの巨大な種類もいれば、鮒くらいの小型な種類もいる」

 「さしずめ今海にいる怪魚型は大体クロマグロ(約3m)程度の大きさだな。怪魚型として見ればそこまで巨大ではない」

ブルー(クレード)「なるほどな。鯨くらいでかい奴も中にはいるのか」

ヴェルトン「ちなみに私の知る限りでは、今のとこメダカと同じくらいの超小型の怪魚型は見つかっていない。怪魚型は最小でも30㎝くらいのサイズだな」

ブルー(クレード)「まあどれくらいのでかさだろうと、戦うのなら相手になるさ」

 「空にいようが海にいようが、魔獣どもは叩き潰す」

ヴェルトン「クレード、何か勝算があるのか?」

ブルー(クレード)「俺が奴らのいる所に行けばいい。そこで始末する」

ヴェルトン「どういうことだ?」


翼の魔獣たちが上空から襲いかかってきた。

翼の牙犬型魔獣「グガァァー!!」

そしてヴェルトン博士はクレードに、

ヴェルトン「クレード!…いや、ブルーよ!」

 「敵は空から地上に向かっている!ならば接近してきた時に斬るんだ!」

ブルー「大丈夫だ、博士」

 「空の奴も海の奴もまとめて倒してやる」

 「空の青…海の青…青は俺にとって力となる…だから…」

その時ブルーの体が強く光り、背中から鳥や天使を思わせる翼(色は青)が左右に生えた。

ブルー「いくぞ…」

ヴェルトン「背中に青い翼!?まさか変身して初めての戦闘でジュエル・アビリティまで発動させるとは!」

ブルー(心の声)「(今なら分かる…俺はこの翼で飛べる!)」

翼の牙犬型魔獣「ギュ!?」

突然翼を生やし、空を飛びこちらに向かってきたブルーに魔獣たちも思わず驚く。

ブルー「斬る…」

ザン!(魔獣を斬る音)

翼の牙犬型魔獣「ギョワー!?」

そして上空を飛び回り、ブルーは翼の魔獣の群れを全て倒した。


そして空から海にいる怪魚型の魔獣たちを見つめ、

ブルー「次は海にいる貴様らだ…」

怪魚型の魔獣「シュワ!!」

空から海の方向へと飛ぶブルー。そして海の上で、

ブルー「海ではこの翼を鮫の背びれのように変えればいい…」

そう言うとブルーの体が光り出し、左右の鳥型の翼がそれぞれ鮫の背びれのような翼に変わり、ブルーは海へとダイブした。

ブルー「二本の背びれを翼のような形にした…水中ではこれで勝負してやる…」

 「ハアアアー!」

怪魚型の魔獣「ギョガ!?」

迫るブルーに驚く怪魚たちだが、ブルーは泳ぎ回り剣で怪魚たちを全て倒す。

斬られた怪魚型の魔獣「ギョ…ギョ…」

ブルー「他愛もない」


怪魚たちを倒し海面へと移動するブルー。そして海面で背びれを鳥型の翼に戻し、ブルーは空を飛び博士のもとへと戻った。そして博士はブルー(クレード)に、

ヴェルトン「クレード…まったく君は大した男だよ…私も君に何と声をかけてやれば良いものか…」

ブルー(クレード)「カラー&クリスタルオフ…」

掛け声とともに変身が解け、ブルーは元のクレードの姿に戻った。

クレード「良かったな博士。いい結果が出…て…」

一言言ってクレードはその場に倒れ込んだ。


ヴェルトン「おい、クレード!どうした!」

クレード「うっ…」

ヴェルトン「無理もない…初めて変身し、そのうえジュエル・アビリティまで発動させ大量の魔獣たちを倒したのだ…」

 「体力や魔力も限界がきたのだろう…」

クレード「あっ…」

ヴェルトン「とにかく回復魔法をかける」

 「回復の小魔法 エスケイア・シングル」

博士の回復魔法によりクレードも少し体力が回復した。


クレード「悪いな博士…今日から食い物と飲み水は自分で確保すると言ったが、今は動けそうにない…」

ヴェルトン「今はそんなこと気にするな。私が用意すればいいだけの話だ」

 「それよりも私の肩につかまれ、ロッジに戻るぞ」

クレード「世話になる…」

倒れたままクレードは言う。


そして肩を貸しながらヴェルトン博士は心で、

ヴェルトン(心の中で)「(空を飛ぶ力…海を難なく泳げる力…)

 「(ブルーのその能力ならばこの孤島からムーンリアス本土まで行けるかもしれん…)」

 「(この先この島で待っていても島を治めているルスカンティアの人間たちが来る可能性はかなり低い…)」

 「(ならばその鳥のような翼と背びれのような翼でこの孤島から旅立ってもらうぞ、近いうちに…)」

 「(だがそうなると私もやる事をやらねばなるまい…残り17個のグラン・ジェムストーンを全て完成させるという…)」


ヴェルトン博士と共にロッジに戻るクレード。しかし彼は体力や魔力を激しく消耗し、その日はそのまま眠ってしまい、次の日(3月16日)も疲労により目が覚めることはなかった。

そしてその次の日(3月17日)の朝、クレードはようやく目を覚まし博士と話をし、

クレード「まさか半日と丸1日くらい眠っていたとはな…」

ヴェルトン「ハッハッハッ!気にするな。むしろよく回復したと思うよ」

 「変身しただけでも十分過ぎると思うが、初変身と同時にジュエル・アビリティまで発動させたのだ…二つを一度にやってしまったことで、体力や魔力をかなり消耗したのだろうな…」


クレード「それよりそのジュエル・アビリティとは何だ?博士からまだそれについて聞いていないが…」

ヴェルトン「ジュエル・アビリティとは固有の特殊能力だ」

 「その者でないと発揮できない特殊能力をそれぞれ持たせることで戦いを有利にしたいと思ったのだよ」

 「だからグラン・ジェムストーンには固有の特殊能力が発動できるような魔力もまた込められている」

クレード「それぞれ持たせる?博士、もしかして複数で戦うことを想定しているのか?」

ヴェルトン「完成しているグラン・ジェムストーンは君に与えた一つだけだが、石自体は全部で18個ある」

 「私の描く理想としては、グラン・ジェムストーンに選ばれた18人が一つのチームとなり、魔獣たちを倒すというものだ」

クレード「全部で18人か…俺と同じように変身しできる人間があと17人もいれば、もう敵無しかもな…」


ヴェルトン「君は空を飛ぶ能力と水中を縦横無尽に泳げる能力を得たようだが、もし他の者が地中に潜れる固有の能力などを得たとすれば、より幅広い戦局に対応できるということだ」

 「私は個人ではなく複数人のチームとなって戦ってほしいと思い、グラン・ジェムストーンを作っているのだよ」


ヴェルトン「とはいえ戦況によってはチームではなく一人単独で戦わねばならんときもあるだろう」

 「だから一人一人が単独で戦っても十分に強い戦士たちであってほしいとも思っているよ」

 「チームで戦っても一人単独で戦ってもとにかく強い。そんな戦士たちの誕生を私は夢見ている」

クレード「チームでも一人でもか…」


ヴェルトン「だがいずれにせよ残り17個のグラン・ジェムストーンを完成させなければならんだろう」

クレード「できるのか?今の博士に」

ヴェルトン「やってみるつもりだ…もちろん君の協力も必要になるが…」

クレード「まあ何でも言ってくれ。やれる事はやるさ」


ヴェルトン「話は変わるが、君のグラン・ジェムストーンを見たまえ」

クレード「青い丸い玉?ジェムストーンの見た目はそこら辺の石と大差なかったと思うが…」

ヴェルトン「君は変身し、そのうえジュエル・アビリティ(固有の特殊能力)まで発動させたのだ。それによりジェムストーンの見た目も変化したのだよ。石の持つ魔力をより引き出したということでな」

 「もうこの石はジェムストーン、つまり原石ではない。そうなるとグラン・サファイアという言い方が良いだろうな」

クレード「グラン・サファイア?」

ヴェルトン「宝石と同じさ。原石は磨けば美しくなる」

 「魔力を引き出し原石は宝石となった、そんな感じだ」


クレード「青い色のサファイア…薄っすらとしている俺の記憶ではクリスターク・ブルーは栄光を求める青いサファイアの戦士だったはず…」

 「だから変身する前に咄嗟にサファイアの名が出たのだが…」

ヴェルトン「魔力を引き出したグラン・ジェムストーンが何の宝石に変化するかはその人間の気持ち次第だ。君が宝石のサファイアを望んだから、原石のグラン・ジェムストーンが宝石のグラン・サファイアへと変わったのだろう」


ヴェルトン「だがサファイアになった事よりも重要なのはこの宝石がまだ特殊能力を引き出せるということだ」

クレード「なら俺は空を飛んだり、縦横無尽に泳げたりする能力以外にもまた別の特殊能力を得られるということなのか?」

ヴェルトン「完全に魔力を引き出した魔法の石は、輝きや透明度などが増し、本物の宝石のように美しい見た目となる」

 「この魔法の石はゴツゴツした元の見た目から青い丸い玉へと変化したが、まだ輝きや透明度が足りない」

 「君が別の特殊能力を新たに得て石の魔力を完全に引き出せば、このグラン・サファイアもより美しくなる、それこそ魔法の石が完全体となった証だろう」

クレード「また別の能力か…」

ヴェルトン「それはこれからの戦いの中で探していけばいいさ」


ヴェルトン「しかし石をグラン・サファイアと名付けたのなら、君のジュエル・アビリティも「サファイア・アビリティ」と名を変えるか」

クレード「サファイア・アビリティ?」

ヴェルトン「空を飛び、水中を高速で泳ぐ、それが君固有の特殊能力サファイア・アビリティだ。今の時点でのな」

 「これから更なる特殊能力を引き出し、サファイア・アビリティを完全なものとするのが良いだろう」

クレード「そのためには実践や鍛練ってことか…」

ヴェルトン「分かっているのなら、早速君に鍛練を課すぞ」

 「まず君は体が良くなったらグラン・サファイアで変身し、飛行と泳ぎの鍛錬をするのだ」

 「長時間空を飛んだり、泳いだりしても体がもつくらいにな」

クレード「それは俺がこの島を出るためにか?」

ヴェルトン「そういうことだ。君がこの島を出るためには飛行と泳ぎの能力をもっと鍛えねばならんと思う」

 「残りのグラン・ジェムストーンの完成させるための協力はその後でいいよ」

 「まずは自分のことを優先してくれ」

クレード「分かった。だがまだ疲れが残っている。鍛錬は明日以降にしてくれ」

ヴェルトン「決して無理はしなくていい。自分のペースでうまくやり切ってくれ」


それから一週間後の3月24日、クレードはその日の昼ヴェルトン博士と話していた。

ヴェルトン「鍛錬の話をしてから一週間経ったが、あれからどうだ?」

クレード「ああ、おかげでだいぶ慣れたよ。飛行も泳ぎも」

 「この島の周りにある他の島へと飛び、その島の魔獣どもを倒してきたくらいだからな」

ヴェルトン「島に立て札などはあったか?」

クレード「ヴァレルス島と島の名前が書かれて札があった」

ヴェルトン「ヴァレルス島(※2)か…ロッジにある資料によると、フタゴヤシが多く自生している島らしいな」

クレード「確かにでかいヤシの木を見たな」

 「ヤシの実もでかかったから試しに割って飲んでみようと思ったが、採取禁止の札があったから止めた」

ヴェルトン「それは賢明だな。フタゴヤシはパルクレッタ諸島でしか自生していない貴重な植物、人間が粗末に扱って良いものではないぞ」


クレード「しかしそのヴァレルス島もこのルスモーン島と同じくルスカンティア王国の領土なのか?」

ヴェルトン「そうだ。ルスモーン島やヴァレルス島などを含むパルクレッタ諸島はムーンリアス大陸の西側に点在する島々を指す」


ヴェルトン「このルスモーン島などは国の命令により兵士などが滞在することもある島のようだが、中には古くから人が住んでいた島々もあった」

 「だが魔獣の被害の拡大などにより、今はほとんどの住民が島を離れ、それぞれの国の本土へ移住したように思えるがな」


ヴェルトン「しかし人がいようがいまいが、このパルクレッタ諸島が貴重な動植物の宝庫であることに変わりはない」

 「君が見たフタゴヤシ、ルスカンティア領のルスアルダブラ環礁(※3)のアルダブラゾウガメ、セントロンドス領のセントジブル島(※4)のマメクロクイナなどを始め、多くの固有種、動植物が自生、生息している」


ヴェルトン「これらの貴重な動植物は、各島々を治めているルスカンティアにセントロンドス、そして私の祖国であるアイルクリートの人間たちが本来守らなければならないのだが、どうもここ最近は放置されているようだな」

クレード「確かに空を飛んでもどこかの国の船なんて見たことがない。一週間程度の話とはいえな」


ヴェルトン「このルスモーン島でさえも最後の滞在記録が2030K年と今(2050K年)から20年も前だ」

 「20年間誰も島に来ていない、だから島に泊めてある帆船も手入れされずで所々傷んでいるよ」

 「あれではまともに動きそうもない。航海の術があってもあの船は使うべきではないだろう」

 「本来なら私のような島に漂着した人間は早めに保護されるのが理想だが、どうにもいろいろ態勢が整っていないようだ」


クレード「この海辺のロッジも博士の家ではなく、本来は兵士たちの滞在場所なんだしな」

 「俺と博士は島に漂着し脱出する術のない人間たちということで、ロッジを使わせてもらっているが、ロッジにある規則によると、やむを得ない場合は利用しても構わないんだろ?」

ヴェルトン「もし兵士たちがこの島にやって来たのなら事情は説明するさ」


ヴェルトン「しかし諸島を治めるルスカンティアやセントロンドスなどの国々がこのパルクレッタにまで足を運べていない事や住民たちが島を離れた事などから考えると、ムーンリアス本土では魔獣たちとの戦いが激化している可能性が高いな…ここ数年は魔獣どもが台頭しているようだしな…」

 「今はどの国も本土を守ることを優先していると思える。このパルクレッタの島々よりもな」


クレード「貴重な動植物だろうと、結局は人間の命が優先か」

 「まあそういう考えのほうが一般的なのかもな…」

ヴェルトン(心の中で)「(動植物よりも人間の命優先か…決して間違った考え方ではないが、その考えや甘さゆえに多くの動物たちが絶滅してしまった…)」

 「(オーロックス・ステラーカイギュウ・ブルーバック・二ホンオオカミ…そしてこのパルクレッタ諸島に生息していたドードーなど…)」

 「(…)」

 「(だが今は絶滅動物たちよりも目の前の彼のことを気にかけてやらねばな…)」


ヴェルトン「…」

 「クレード、「あと3日でこの島を出ろ」と言ったら出られるか?」

クレード「今の俺ならその自信はある。飛行や泳ぎもだいぶ慣れたのだからな」

ヴェルトン「ムーンリアス本土で魔獣たちの戦いが激化していると思える以上、これ以上この島に君を置いておくのももったいない…」

 「クレード、ムーンリアス本土へと行き、困っている人々の力になるといい」

 「強大な魔力を持った戦士が人々を守るために戦う…これこそが私の望み、そのためのグラン・ジェムストーンだ」 

クレード「博士に言われなくても、俺の意志でそうするさ」

 「博士、あんたには助けられたうえに、強大な力を宿すグラン・サファイアまで貰ったんだ」

 「ならばその恩を返してやるさ。どんな形であれな」

ヴェルトン「では期待させてもらうぞ…」


クレード「しかし本土に渡るのならムーンリアスの地理などを一応知っておきたいのだが」

ヴェルトン「そういえばこの世界の地理についてはまだあまり教えてなかったか」

クレード「鍛錬の合間、博士からは、言葉遣い、算数、数学、自然環境、天気、人体、性教育、動物や植物、金属や鉱物、身近な食べ物、日用品や家具、金や経済、武器や防具、魔法、幻のガルベルの塔(※5)、勇者ラクーロ(※6)のことなどいろいろ教わったが、魔法大陸ムーンリアスがどういう所なのかまだ具体的に聞いてないからな」

ヴェルトン「そうだな。ならばその地理の講義で最後としよう」


ヴェルトン「よし、昼食を食べて少し休んだら机のある部屋に来てくれ。早速話をする」

クレード「よろしく頼む」

・ムーンリアス、そして惑星ガイノアースとはどのような世界なのか?

次回へ続く。


※1…島の名前の由来は、モーリシャスの世界遺産「ル・モーンの文化的景観」(文化遺産 2008年登録)より

※2…島の名前の由来は、セーシェルの世界遺産「ヴァレ・ド・メ自然保護区」(自然遺産 1983年登録)より

※3…環礁の名前の由来は、セーシェルの世界遺産「アルダブラ環礁」(自然遺産 1982年登録)より

※4…島の名前の由来は、イギリスの世界遺産「ゴフ島とイナクセシブル島」(自然遺産 1995年登録 2004年拡張)より

※5…塔の名前の由来は、旧約聖書の創世記に登場する「バベルの塔」より

※6…キャラクターのモデルは「騎士ガンダム」

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キャプテンキャンサーたちとの激しい戦いから始まり記憶を失ったクレードがヴェルトン博士と出会う展開にワクワクしました。博士の指導のもと言葉や知識を学んで失われた力を取り戻していくクレードの成長が丁寧に描…
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