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王家の片割れ探しが始まった

 コムル村に住んでいる人族は、ティーを含めて五世帯。その中の三世帯が物作りに従事している。

 彼らの物作りの材料となるのは、里山の木々だったり、獣の皮や骨だったり、海に流れ着く流木や旧文明の物品だったりと様々だが、一番多く活用されるのは里山の入り口近くにある旧文明時代のゴミ山だった。そこには、前の文明で使われていた日用品や機材などが廃材となって積まれていた。

 言い伝えによると、ここはかつての粗大ゴミ処理場だったらしい。旧人類の作りだす物の多くは分解されにくく、何千年経った今でもこうやって形を残している。


 ティー達人族は、これらの廃材を上手く再利用して、新人類には作れないような道具を作る。それは、世襲的に伝えられてきた人族独自の技術であり、特別器用な手先を持つ人族ならではの特技だった。


 家一件分はあるゴミ山の前に立ったティーは手袋をはめ、ゴミ山を登りだした。

 ウィルマは雑巾にしたほうがいいと言うが、この廃材の山に登る者に綺麗な服は無用の長物である。それに、腿までの靴下や無粋な膝当ては、この山を登って廃材を物色するには身を守るために必要不可欠なのだ。ゴミの中には、触れたら身体に有害な物もあるし、ひっかけて身体を傷つけてしまう事もある。


 ティーは足を取られないよう注意しながら、義足のバネに使えそうな廃材を探した。中ほどまで登ったところで、大きな鈍色(にびいろ)の柱時計を見つける。

 ティーは口元に笑みを浮かべた。

 アナログ時計の部品は無駄なものが殆どない、なかなかの掘り出し物である。


 ティーは廃材の山を崩さないよう気をつけながら、柱時計を掘り出した。

 よいしょと引っ張り出したところで、廃材の山の頂上に生き物の気配を感じ、顔を上げた。生き物の正体に、身を強張らせる。


「・・・地喰い(ちくい)

 呟き、思わずぶるっと身を震わせた。

 そこには、ハイエナのような身体に、太く大きな手足と鋭い爪と牙を持った獣が居た。口に大きな電池のような廃材を咥えている。

 地喰いと呼ばれているこの生物は、大きなガラス玉をどろりとした膜で覆ったような瞳で、じっとティーを見ていた。


「・・・何もしないわ。必用な資材を取りに来ただけよ。あなたもそうでしょう?」


 静かに地喰いに話しかける。すると地喰いは廃材を咥えたまま、ティーにくるりと背を向け、反対側からゴミ山を下りていった。


 ティーはほっと安堵の息を吐くと、柱時計を背中にかつぎ、廃材の山を駆け下りた。


 家路を急いでいると、村が見えたところで異変に気付き、足を止める。


「煙?」


 村のいたるところから、妙な煙が上がっている。明らかに、煙突や野焼きから上がっているものではなかった。


 嫌な予感を覚えたティーは柱時計をその場に置いて、村に向かって全力で走った。


 村の入り口に走り着くと、ウィルマが息せき切ってこちらに走って来るのが見えた。

 ウィルマはティーを見つけると、すがりつき、「家が・・・家が焼けちまう!」と泣き声をあげる。


「何があったの?」


 見渡しながら、ティーはウィルマに訊ねた。

 そこら中から悲鳴が聞こえる。


 煙の隙間から、狼が駆け回っているのが見えた。狼の群れに襲われたのかと思ったが、狼に放火はできない、とすぐに考えを否定する。誰かが狼を先導して村を襲っていると考えた方が正しいだろう。


 ウィルマは煤と土で汚れたブラウスで涙を拭うと、自分を支えている人族の少女を村の外へと押した。


「早くお逃げ!王家の『片割れ探し』が始まったんだ!」


「『片割れ探し』?でも、それは――」


 もうすぐ王子達の片割れ探しが始まるらしい、とは、ティーも風の噂で聞いていた。しかし、『片割れ探し』とは、こんな乱暴なものではないはずだ。


 ウィルマは大きくかぶりを振った。


「王族の『片割れ探しは』玉座争奪戦の幕開けだ!出会った王子が悪けりゃ、自分の片割れでないと分かったとたんに殺される事もあるんだよ!」


 初めて聞かされた事実にティーは蒼白になって、再び混乱の真っただ中にある村を見た。

 これが、あの名君と名高いグウィドー王の息子のする事なのか。

 そして、走り出す。


「ティー!戻っておいで!」


 後ろでウィルマが呼び止める声が聞こえたが、ティーは振り返らなかった。


「ミムラ。お願い無事でいて」

 

 ティーは鹿の属性を持つ親友の家へと急いだ。


 村の奥へ入っていくと、その惨状がありありと現れた。畑は狼に荒らされ、家や家畜小屋には火が放たれ、村人や家畜が右往左往している。


「・・・なんて酷い事を」


 ティーは怒りに拳を握りしめると地面を蹴り、空へと舞い上がった。



 村の中では、一人の王子が煙の中でさまよっていた。

 浅黒い肌に、焦げ茶と栗色が混ざった髪を編みこみ、腰まで垂らしている。二十歳前の青年であった。 土色を基調としたチュニックの下からは、髪と同じ柔らかそうな毛に包まれた尻尾が伸びており、腰には一振りの剣が挿してある。


 彼は鼻と口を手で防ぎ、辺りを見渡した。兄弟が村に火と狼を放ってくれたお陰で、村人は混乱して逃げ回っているし、煙で視界が悪い事この上ない。しかも、嗅覚の鋭い自分にとってこの煙は嫌がらせ以外の何物でもなかった。


「どこだ。近くに居るはずなのに・・・」


 煙が目に染みる。大きな黒い目に涙を浮かべながら、その王子は自分の『片割れ』を探していた。

 気配は感じる。すぐ近くにいる。こっちに近づいてきている。

 後ろだ!

 確かな気配を背後に感じ、彼は振り返った。


 煙の向こうに赤い服が見えた。黒い髪の、小柄な少女。怒りの形相に顔を歪め、拳を固く握っている。王子は目を大きく見開いた。


「見つけた!」


 少女に向かって走り出す。だが信じられない事に、その少女はひらりと浮上した。


「・・・飛んだ?」


 翼も生やさず、身一つで。

 彼は唖然と少女を見送る。しかし、視界から少女が消えると、はっと我に返り、再び赤い服を着た少女を探し始めた。


「どこにいった。俺の『片割れ』は!」 


 その少女は、彼の『片割れ』だった。



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