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不穏

 王都から南に続く街道──


 その街道は【カスタット】の町ヘと続いている。

【カスタット】の町は、王都へ向かう旅人や、王都から南の地方へ向かう旅人が必ず立ち寄る宿場町で、常に大勢の人々で賑わっている。


 その【カスタット】の町を目指して、【北天の星】の5人は街道を急いでいた。


 既に日は大分傾いている。後1時間もすれば完全に日没となりそうだ。



「マリオス、あそこに何か見えるぞ」


 リカルドが、街道の先を指さした。


「馬車―― のようだな。あんな所で止まっているということは、事故でもあったのかもしれないな」


 近付いていくと、商人のものと思われる大型の幌馬車が止まっていた。どうやら、車輪が壊れて立ち往生しているようだ。


「よし。俺達であの馬車を助けてやろう」


 5人は馬車に駆け寄っていった。


 馬車の側には4人の男達がいた。1人は商人のようだが、他の3人は革製の軽鎧を着ている。おそらく護衛だろう。


「おーい、大丈夫か!?」


 マリオスが男達に向かって声を掛けたところ、男達は一瞬慌てたような素振りを見せたが、すぐに商人が返事をした。


「心配いりません。私共は大丈夫ですので、皆さんはどうぞお先へ行ってください」


 そうは言われても、こんな所で馬車が止まっていては、他の馬車の妨げになるし、この辺りは暗くなると小型や中型の魔物が出ることもある。

 すぐに車輪を交換する必要があるが、4人だけであの馬車を持ち上げて、車輪の交換を行うのは難しそうだ。


 マリオスは、やはり手助けすることに決めた。


「遠慮しなくてもいい。俺達も手伝おう」


「そうですか…… それではお言葉に甘えます……」


 何故か男達の態度は、この申し出を迷惑がっているように感じられる。


「コイツら、感じ悪いわね」


 カーラがリサに耳打ちした。


「カーラ、そんなこと言わないの」


 そう言いながら、リサも男達から不穏な空気を感じていた。



 ベルモンドが怪力を発揮し、車輪の交換は思ったよりも早く終わった。


「ありがとうございました。それでは私共は先を急ぎますので、これで失礼させていただきます」


 商人は礼を言い終わると、すぐに馬車に乗り込もうとしたが、


「ちょっと待ちなさいよ」


 カーラがそれを止めた。


「別に『お礼を寄越せ』なんて言わないけど、あんた達も【カスタット】の町へ行くんでしょ? だったら、私達も馬車に乗せてくれてもいいんじゃないかしら! これだけ大きな馬車なら、私達も乗れるくらいの余裕があるでしょ!」


 カーラは馬車に近付き中を覗き込もうとした。


「離れろ!」


 護衛の1人がカーラを付き飛ばそうと身体をぶつけにいったが、カーラはそれを躱して逆に足を掛けて転がした。


「あら、ごめん遊ばせ」


 カーラはそのまま馬車に乗り込んだ。

 馬車の中には数多くの箱が積んであり、その内のいくつかは蓋が開いて金貨がこぼれ落ちているのが見えた。


「凄いわよ! この中の荷物―― 全部お金みたいよ!」


 カーラが中の様子を外に伝えると


「お嬢さん! それは大切な預かり物ですので、早く馬車から下りてください!」


 商人が大慌てでカーラに声を掛けた。


「カーラ、失礼だぞ! 早く下りてこい!」


 マリオスもカーラに馬車を下りるように促したが、カーラは無視して中の様子をじっくりと観察する。そして、中に置いてあった一冊の本に目を止めた。


「あらっ? この本の表紙――【ギルドの刻印】が付いてるわ!」


 その途端、商人の雰囲気が変わった!?


「そいつを見られたからには、生かしてはおけない…… 全員、ここで魔物の餌になってもらう! 殺れ!」


 商人の声と同時に、護衛3人がいきなり剣を抜いてマリオスに斬りかかる。


 ギン! ガン! ゴン!


 マリオスは虚をつかれたが、間一髪で剣を抜き、1人の斬撃を防いだ。

 そして残りの2人の斬撃は、リカルドの槍とベルモンドの盾がしっかりと受け止めていた。


 3人がかりの攻撃が防がれると思っていなかった護衛達は、驚きの表情で後ろに飛び退き距離を取る。


「あなた達、悪党ですね!」


 リサの声に、商人は不適な笑みを浮かべる。


「フフフ…… 我らを只の悪党とは思わんことだ。お前ら、若造にしては少しはヤルようだが、我らとは年期が違うということを教えてやる!」


 商人が前方に右手を突き出すと、マリオスに向かって炎が飛び出した!


 ドーン!!


 炎がマリオスに命中した!? かに見えたが、マリオスは無傷── マリオスの剣が炎を切り裂いたのだった。


「ば、バカな…… 俺の魔法を剣で防ぐなんて…… お前ら、いったい何者だ!?」


「俺達は【北天の星】だ」


 商人の問いに、マリオスが静かに答えた。


「う、嘘を吐くな!【北天の星】は6人パーティーの筈だ! それに、俺は【北天の星】の1人を知ってるんだぞ!」


「それって、もしかして【バルゴ】さんのことかしら?」


 今度はリサが答えると、


「そうだ!【北天の星】には、『脳筋』丸出しの【バルゴ】という男がいる筈だ! だから、お前らが【北天の星】のわけがない!」


 ファイヤーボール!


 馬車の中から、いきなり火の玉が3つ飛んできた。


「ぐわあぁ」「がはっ」「ごほっ」


 呆然と突っ立っていた護衛達は、後ろからいきなり魔法を食らって完全に気を失ってしまった。


「残念だったわね。バルゴは今は【北天の星】のメンバーじゃないのよ」


 カーラが馬車から下りてきた。


「これ、ギルドの調査書よね。どうして、あんたらがコレを持っていたのか、説明してもらえないかしら?」


「ぐぐぐ……」


 商人の額に脂汗が浮かんでくる。


「く、くそっ! 女── お前だけでも殺してやる!」


 商人はカーラに向かって魔法を撃とうとしたが── 商人は右手を伸ばした格好で崩れ落ちる。


 リカルドの槍の柄が、商人の腹にめり込んでいた。


   ・・・・・・


【北天の星】の5人は、商人達の馬車で【カスタット】の町に向かっていた。


「町に着いたら、コイツらを衛兵に引き渡す」


 気絶している商人達は、ロープで拘束された状態で馬車に乗せられている。


「この調査書を読んだ限り、たぶんコイツらは【ギサ商会】の関係者ね」


「カーラ、【ギサ商会】って『投資したら1年でお金が倍になる』とか、怪しい宣伝していた所だよね?」


「そうよ、ベルモンド。あまりに胡散臭いから、私は相手する気もなかったけど、これだけお金を集めたということは、結構騙された人がいるみたいね」


 カーラは「信じられないわ」と吐き捨てた。


「そんなことよりも、ギルドの調査書がここにあることの方が問題だと思うわ」


「そうだ。リサの言う通り、この調査書が『ここにあること』が大問題だ」


「マリオス、何がそんなに『大問題』なんだい?」


 ベルモンドの質問に、マリオスが説明する。


 調査書の裏には、治安局の刻印が押されていた。つまり、これは治安局に提出された物に間違いないのだ。

 治安局に提出された調査書は、治安局内で保管され、外に持ち出されることなど有り得ない。

 ということは、この調査書は治安局から盗まれたか、治安局の人間が持ち出したかのどちらかになるのだ。


「大変だ! それって、どっちにしろ大問題だよ!?」


「ベルモンド…… だから、初めからそう言ってるでしょ」


「カーラ、理解が悪くてごめん……」


 カーラのツッコミにベルモンドが恐縮する。


「おーい。カスタットの町が見えたぞ!」


 御者を務めていたリカルドが、皆に知らせた。


   ・・・・・・


【北天の星】は【ギサ商会】の連中をカスタットの町の衛兵に引き渡した後、冒険者ギルド【カスタット支部】へやって来た。


 マリオスが応接室に通されると、すぐに小柄でふくよかな中年女性が入ってきた。


 女性は、マリオスの全身を舐めるように見た後


「あなたがあの【北天の星】のマリオスさんなのね!? 思ってた以上に『イイオトコ』だわ!」


「あ、あなたは?」


 マリオスは悪寒が走るのを感じながら女性に尋ねた。


「嬉しいわ! 私に興味持ってくれたのね! 私はカスタット支部の支部長の【マール】よ。よろしくね!」


 マールはマリオスに抱きついてきた。




「そ、それでは、これはお任せします」


「大丈夫よ。この調査書は、私が責任を持って王都のギルドに届けさせるわね!」


「あ、ありがとうございます。それでは、これで失礼させていただきます!」


 マリオスは、マールに調査書を託すと、急いで応接室を出ようとした。


「待ちなさい!」


 マリオスは恐る恐るマールを見る。


「今夜の宿がなかったら、私の屋敷に泊まるといいわよ」


「だ、大丈夫です。宿は他のメンバーが探していますので……」


「あら残念だわ。じゃあ、今度来るときは、リカルドさんも連れてきてね!」


「わ、わかりました。それでは、失礼します!」


 マリオスは今度こそ部屋から脱出できた。


 マールのあの『獲物を舐め回すような目』を思い出すだけで、背筋が凍る……

 もし次にここへ来るときは、全部リカルドに任そう……

 マリオスはそう心に決めたのだった。

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