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怒り

「許さんぞ…… ギサ商会!」


 俺は全速力で王都の東門に戻ってきた。


 俺の怒りパワーは凄まじく、約40kmの道程を30分足らずで走り抜けた。


「バルゴ、どうしたんだ? 忘れ物か?」


 門番は、戻ってきた俺を見て怪訝な顔をしている。


「ギサ商会の連中が通らなかったか?」


「ギサ商会か? 東門は、今日から冒険者以外の通行を禁止してるから、ここは通ってないな」


「そうか。ありがとう」


 俺は門番に礼を言って王都に入ると、再び走った。


 今朝、ギサ商会の店が閉まっていたことを考えると、既に奴らは王都を離れている可能性が高い。

 だが、昨日は店が開いていたから、まだそれほど遠くには行ってない筈だ。


 王都には、東門の他に西門と南門がある。

 奴らが、どちらから出ていったか分かれば、まだ追い付けるかもしれない!


 まずは、ここから近い南門だ!



「バルゴさん!?」


 俺を呼ぶ声に足を止めた。今は急いでるから、普通なら無視するところだが


「まだ王都にいたんですか?」


 メイヤの姿を見つけて、思わず止まってしまった。


「バルゴさん! 今日中にジャロの村のギルドに書簡を届けてくれないと困ります!」


 メイヤに怒られてしまった…… 怒った顔もなかなか魅力的だ。


「否、もうジャロの村には行ってきた」


「えっ? それなら、どうして王都にいるんですか?」


 俺は手短に事情を説明する。


「ギサ商会、ですか…… 実はギルドでも怪しんでいて、内偵調査を進めていたんです」


「えっ? ギルドって、そんな調査もしてるのか?」


 それは初耳だ。冒険者ギルドの仕事は、『冒険者に依頼を斡旋する』だけだと思っていた。


「ここで立ち話するのもなんですから、場所を変えましょう」


 メイヤに腕を引っ張られて、俺はちょっと鼻の下を伸ばしながら、黙って付いていった。



 メイヤに連れていかれたのは、小洒落た【カフェ】

 客はまばらで、ちょっとした会話をするには良さそうな場所だが


「いいのか? こんな所でサボっていて?」


「もう勤務時間は終ってますから」


 お茶を飲みながらメイヤが言った。


 そうだった。メイヤの勤務時間は午後5時までだったな…… 俺はストーカーじゃないぞ。メイヤがギルド支部を出る時間を、偶々よく見ていたから知ってるだけだ。


「バルゴさん。冒険者ギルドには、2つの大事な仕事があるんですよ」


 メイヤの言う2つの仕事とは、1つは『冒険者の管理』

 説明するまでもなく、俺達冒険者を管理し、冒険者に依頼を斡旋する仕事だ。


 もう1つは『犯罪の監視』

 王都の冒険者ギルドには『王都の人々の生活を脅かす、犯罪行為を起こしそうな人物や場所を調査する機関』があって、調査専門の凄腕のエージェントが何人もいるのだとか。エージェント達の素性は極秘扱いで、ギルドでも1部の幹部以外は知らないらしい。

 そして、ギルドの調査結果を受けて王都の【治安局】が動く―― という流れになっているそうだ。


「それでギサ商会ですけど、ギルドの調査では『黒』という結論が出ていたんです」


「それじゃあ、何故逮捕されていないんだ?」


「それがですね…… 調査書を治安局に提出したにも関わらず、『証拠不十分』ということになって、治安局が逮捕に動かなかったんですよ」


 おかしな話だな。ギルドの調査で『黒』と出たのに『証拠不十分』なんて有り得るのか?


「怪しいですよね。私は『誰かが調査書を握り潰した』と睨んでるんです」


 もしかすると、治安局の中にギサ商会の息のかかった者がいるのか? その可能性が考えられる。


 それにしても──


「メイヤは、随分詳しいな」


 俺はメイヤに感心した。彼女はまだ17歳で、ギルドに就職して半年だというのに、彼女の情報収集力は驚くほどのものだ。


「べ、別に詳しくないですよ! 偶々支部長達の話を聞いただけですから!」


 ん? メイヤが焦っている?

 否、誉められて照れているのか! その反応もキュートだ。


「メイヤ、いろいろ聞けて助かったよ」


 ギサ商会を追うよりも、王都の治安局に行く方が手懸りが掴めるかもしれない。

 それなら、王都で宿を取った方がいいが、あいにく泊まれるだけの手持ちがない。


 ギルド支部に泊まることもできるのだが、「今日中に旅立つ」と言ってある手前、流石にバツが悪い。


「メイヤ、書簡を届けた報酬をもらいたいのだけど」


「それでしたら、ジャロの村のギルド支部で受け取ってください」


 そうなるよな…… 受け取る前に王都に戻ってきたからなぁ。

 そうだ!


「ジャロの村に向かう途中で、グレンウルフとウルフォンの群れを退治したんだが、その報酬をもらえないだろうか?」


 これなら大丈夫だろう!


「バルゴさん…… 何年王都で冒険者やってるんですか? ソロでの魔物討伐は、王都のギルドは認めていませんよ」


 そうだった…… 王都のギルド管轄内では、ソロでの魔物討伐は禁止だから、報酬は出ないんだった……

 俺はガックリと肩を落とす。


「でも、魔物の素材を武器屋に持ち込めば、お金になりますね。グレンウルフの牙なら、結構な値が付きますよ」


 グレンウルフの牙!?

 俺は、トドメを差すときに頭ごと吹き飛ばしてしまった……


「魔物の素材は、壊してしまった……」


 俺が俯きながらメイヤに言うと、少し間を置いて


「そんなことだから、追放されるんですよ」


 メイヤの口から、俺の胸の傷をグサリとえぐる言葉が返ってきた。


   ・・・・・・


「どうしたバルゴ、手が止まってるぞ! そんなショボくれた顔をしてないで、ドンドン飲め!」


 俺は再びジャロの村のギルド支部に戻ってきていた。


 俺の顔を見たボーズさんは、何かを察したのか、酒と料理を振る舞ってくれた。


 ボーズさんは顔に似合わず料理上手で、どの料理も美味いのだが、今の俺はあまり食欲がわかない。


「そうですよ、バルゴさん。思い切りお酒を飲んで、お金のことは忘れて、気を取り直しましょうよ!」


 ムートさんが、俺のコップに酒を注いでくれた。


 お金!?

 そうだ! 俺は『ギサ商会』から、金を取り戻さなければならなかったんだ!


 それなのに俺は、メイヤの言葉にショックを受けて、目的を忘れてジャロの村まで戻ってきてしまった。


 メイヤに『あんなこと』を言われたのも、全てギサ商会! キサマらのせいだ!

 俺の中で、再び怒りの炎が燃え上がる。


「それにしても、王都でも詐欺を働くなんて大胆ですよね。尤も、あんな『胡散臭い話』にあっさり騙されるのもどうかと思いますけど」


「そうだな。『預けた金が1年で倍になる』なんて話―― 俺でも信じないぜ! 引っ掛かる奴は、よっぽどのマヌケだな! ハハハハ!」


 ボーズさん…… そのマヌケが、今あんたの前に座ってるよ。


「だが、どうして治安局は動いてないんだ? そんな怪しい奴らなら、王都のギルドが調査してるだろ?」


「それが、ギルドの調査結果を治安局が認めなかったみたいなんです」


 俺は、メイヤから聞いた話をボーズさんに話した。


「ギルドの調査結果が治安局に握り潰された、だと!? 否、有り得るかもな」


 ボーズさんも、その可能性を否定しなかった。


「俺はもう1度王都へ戻ろうと思います」


 そう言って席を立とうとした俺に、


「バルゴ、お前…… 治安局に乗り込む気だな。よしわかった! 俺も一緒に乗り込んでやる!」


 ボーズさんはそう言ったが…… あんたは乗り込んで何をする気なんだ?

 そもそも「支部を離れられない」と言ってたんじゃなかったか?


「支部を離れられない? バルゴ、何を言ってるんだ? どうせ誰も来んし、2~3日俺がいなくても問題など全くないわ! 何なら俺の留守中は、ムートに支部長代理を任せればいい!」


 ボーズさん…… ムートさんはギルドの職員じゃないだろ!

 それに、ムートさんが反対する筈だ。


「わかりました。支部長代理として、ここの留守番は私にお任せください!」


 ムートさん? あんたも受けるのか!?

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