通学路
少し時間が経ってしまいました。すみません。
高校に入学して、二ヶ月と少し。ほんの少し前までは、平穏だった、俺の高校生活は、長陽の姫君をきっかけに大きく変わった。
そう、同じクラスの男子生徒は、朝、俺がクラスに入っていくとじっと俺の顔見て、 なんでおまえが という目をしてくる。
噂は、少しずつ他のクラスにも流れているようだ。廊下を歩いていると、奇異な目で見られているような気がする。
何とかしないと。そうは思いつつも俺の心の平穏は戻ってこない。
「山瀬、顔が暗いぞ」
前に座る、唯一話せるようになった小峰に
「ああ、あの件依頼、周りの目が痛い」
「あの件、ああ長陽の姫君が声を掛けた事か」
小峰は少し考え込むような顔をすると
「人の噂も七五日と言うじゃないか。それにあの時の下校以来、二人で話していることもないじゃないか。周りもすぐに忘れるって」
「そうかなあ」
毎朝の登校の事を考えると そうでもないんだよな と思いながら、適当に言葉を濁してしまった。
「裕一。おはよう」
俺の乗る駅の次の駅からその子は乗ってくる。朝会うために、車両とドアの場所を決めている為、間違いなく会う。いやそうしたのだ。
「おはよ」
最近は、俺も慣れてきたせいか、普通に挨拶だけはできるようになっていた。
「もうすぐ、中間テストね」
「そうだな」
「もう少し、他に言いようはないの」
吊革につかまる俺を横から見ながら、その切れ長の綺麗な目をきつくさせて言うと
「ねえ」
ともう一度聞いてきた。
何を言えばいいんだ。君は中間テストなど気にする頭ではないだろう。何を聞きたいんだ。そう思って、声の主を見返すと、
「うっ」
思ったより近距離に彼女の顔があった。この子の距離感何なんだ。何も言わないと
「裕一の考えていること、当ててみようか。中間テストなんて気にするような頭じゃないだろう。何を聞いてきているんだ。そう考えていた」
なぜか、嬉しそうな顔をしている彼女を見返すと
「ふふっ」と言って笑っている。
この子、超能力者か、人の考えを読めるなんて
「いや、入学試験トップの才女が、中間テストなんて気にするのかなと思ってさ」
「私だって、一生懸命勉強しないとだめだから。ねえ、一緒に勉強しない」
「えっ」
「ダメなの」上目遣いに見てくる。
うっ、可愛い。しかし、勉強と言っても、どこで
「今週末、裕一の家はダメ」
「えーっ」
大きな声を出してしまった。周りの人が、怪訝な目で見てくる。他校の生徒もいる。
顔を赤くしながら、彼女の耳元に小声で
「いきなりかよ」
「だめなの」
この子は、行ったに何を考えているんだ。男の子の家にいきなり来るなんて。もう少し、危機感とか、防衛本能とか持ち合わせていないのか。黙っていると
「ふふっ、心配しているのね。私が裕一を襲うんじゃないかって。大丈夫。まだ我慢していてあげる」
そっちかよ。普通逆を考えるだろう。しかし我慢してあげるって・・
「お前、危険を感じないのか。俺の家にいきなり来るなんて」
「大丈夫。裕一はそんな人間じゃないって知っているから。前もそうだったよ」
「・・・・・・・・・・・」
前にもって。俺の記憶はどこかの部分が欠落しているのだろうか。ますますわからなくなって来た。
電車を降りて、二人で歩いていると、視線が痛い。同じ高校の制服の子たちが、じっとこちらを見ながら歩いている。
「裕一は、二週間も経つのに私の名前も聞いてこないのね」
少し悲しそうな顔をしてみる隣を歩く女の子に
あっそういえば。元々縁がないと思っていたから聞く気もなかった。悪いことをしたなと思い
「名前は」
俺の顔をじーっ見ながら
「まったく。もう。緒方季里奈。季里奈。君の幼馴染だよ」
頭の中の時間を巻き戻して中学?いなかった。小学校・・・・。
「えっ、えーっ。季里奈って」
一瞬にして、忘れていた過去が甦ってきた。ショートカットでいつもズボンはいて、活発に遊んでいた。季里奈。まさか。
思わず立ち止まり、彼女をじっと見る。
「えへへっ。わからなかったでしょう。仕方ないな。中学は別だったしね」
「でも、ショートカットで・・」
いきなり、人差し指で、口を押えられると、
「小学校の時の話は無し。そうだ。前みたいに季里奈って呼んで」
「しかし、急な」
「急なことはないでしょ。思い出した以上、呼ばないと毎日放課後迎えに行くよ」
そんな事したら、俺の平穏な高校生活が消える。
「わっ、分かった。分かったから、迎えに来るのは勘弁してくれ。その代わり、勉強の件は了解したから」
俺の顔をじっと見て、手を腰の後ろに回してくるりと回ると
「そっか。まあいいか」と言って、急に笑顔になり、
「じゃあね」と言って校門の一つ手前の角で速足で歩き始めた。
「ふーっ。どうすりゃいいんだ。しかし、あの季里奈が」
小学校の時、いつも一緒に遊んでいた。勝ち気で、口ぶりも男らしくて、運動神経が普通の男の子より良い分、活発だった。小学校六年に入った頃、親の転勤で、遠くに行ってしまったことを覚えている。
そんな事を考えながら、クラスの入り口まで来ると、いきなり、何かが飛んできた。それを簡単によけると廊下の壁にぶつかって落ちた。黒板拭きだ。投げた方を見ると、三人位の男子生徒がにやにやしながらこっちを見ている。
自分の席に鞄を置いた後、そいつらの前に行き
「何するんだ。危ないじゃないか」
そう言うとチャラ顔の男が
「危ないってよ」仲間に声を掛けながら、ヘラヘラしながらいきなり俺の顔に殴りかかった。
とろい。とろすぎる。俺から見れば、まるでハエでも止まるようなパンチだ。すっと顔だけずらすと、右手で殴ってきた方の手首をそのまま、流すようにしながらぐるりと回すと
男が、机に顔をぶつけてよろめいた。
「おっ、お前」
次の男が、今度は左から殴りかかろうとしたのですっと体を引いて、がら空きになった腹に蹴りを入れてやった。
「まだやるか」
三人目を睨みつけると這いつくばるようにして三人ともクラスを出て行った。周りを見ると全員が驚いた顔をしている。
あちゃー。やってしまった。これで俺の平穏な高校生活もパアだ。
「はあ」席に戻ってため息を吐くと
「山瀬。お前、強いな」
畏怖と尊敬の目で見る小峰に
まあな。子供の頃から相手していたやつが人間でないからな。あの時は、山の中で、タヌキやキツネと走り回っていたからな。たまに蛇とも追いかけっこした。いや追いかけられた。それを思えば連中の動きなど、ハエが止まっているくらいだ。
遠い目でそんなことを思い出しているとチャイムが鳴った。
あの後、クラスの男子は、畏怖の目で俺を見る様になり、女子は、視線が柔らかくなった。
そして、放課後が来た。
この後も、読みたい。少しは面白そう。と思っている方。
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