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こんなことやってたら、勇者探せないぞ



『こんなことやってたら、勇者探せないぞ』


 自主練習が終わり、寮へ歩いて帰るエンマとオニユリ。

 自主練習では素振りや筋トレ、ランニングなど、基礎体力をつけるものばかりを行い、実戦練習などはおこなわなかった。

 目前に迫る戦いに備えて実戦がメインだと思っていたが、まずは戦い抜ける体力をつけてから実戦練習に入るらしい。

 そのため、今はまだ基礎体力作りに徹しているそうだ。

 焦る気持ちもあるだろうに、案外冷静な対応をしているんだとエンマは思った。

 だが、それでも言いたいことはある。

どこで誰が聞いているか分からないため、エンマはテレパシーを送った。

 空を見上げると、星がきれいに輝いている。

 つまり、夜もだいぶん遅い時間ということだ。

 はっは、バカヤロウ冗談じゃない。

 明日からはサボろう。

 

『サボったりしたら、めちゃくちゃ怒られるんじゃないですか?』


『知ったことか。怒られようがなんだろうが、こんなことに時間を取られている暇はない。俺がおこなわなければならないことは二つだ。この学校にいる生徒たちを元気付けること。そして勇者を探すこと。放課後に自主練習することは俺のやらないといけないことではない。俺は、自分のやらなければならないことをやるために、この練習を切り捨てる』

 

 何事においてもそうだが、全てを追うことはできない。

 一番大切なものを追うためには、ときにそれ以外のものを切り捨てるという選択も必要なのだ。

 付き合いとか、相手に悪いとか、そんなことを言っていたら自分が本当にやりたいこと、やらなければならないことに時間を裂けないから。


『というわけだから、オニユリ。俺は明日から逃げる。オニユリはどうする?』


『私も練習には出ません。ただ、勇者も探しません』


『何か別のことをやると?』


『はい。この世界の情報を集めます。私たちには圧倒的にこの世界の情報が足りません。今日座学の時間の時に使った教科書、見ました?』


『いや、全く見てない』


 貰ったのは覚えているが、開きもしなかった。


『この国、想像以上に大きいです。これほどの国がいざ魔王軍と戦うことになっただけで、ここまで落ち込むのは異常です。確かに、単体で勝つことは難しそうですが、周りにも国はあります。彼らと協力すれば、おそらく簡単に押し返すことができるはずなんです。にもかかわらず、なぜ、ここまでみんな落ち込んでいるのか。そして実際半年後になぜ、滅ぼされてしまう運命にあるのか。そこを調べていこうと思います』


『確かにそれも大事だな。じゃ、そっちは頼む。明日からは別行動を取ろう』


 話し合いも終わったのでテレパシーを切る。

 ということで、今日は寝よう。

 もう疲れた。

 大丈夫。

 明日するから。

 ほんとほんと。

 それから寮までの道を無言で帰った。

 今日一番の落ち着いた時間だった。





 座学の授業が始まり、前に立つ先生が黒板に何かを書きながら、喋っている。

 空いている席をチラリとみた。

 昨日戦ったススムの席だ。

 今日は体調がすぐれないため欠席らしい。

 朝のホームルームの際担任が連絡きましたと言っていた。 

 …授業は平気でボイコットするくせに、休みの連絡はしたらしい。

 謎の律儀さを持っている奴だな。

 さすが、ハンデもらってでも勝ちにくる奴はすることが違う。

 エンマは視線をその席から外し、机の中に手を突っ込んだ。


「これが、オニユリの言っていた座学の教科書か」


 授業は全く興味が湧かないため、耳に入ってこない。

 というわけで、机の中から教科書を取り出す。

 人口や領土、この国を中心として近隣の国々が書かれている地図など、随分と詳細な情報が書かれている。

 なになに、この国の名前はダイアル帝国というのか。

 はじめて知ったな。

 この教科書の情報が正しいと仮定すると、確かにこの国は随分と大きな国だ。

 だからこそ、滅びられると俺たちも死ぬから今こうやって救いに来ているわけだが。

 そして周りにも国が三つ存在している。

 ノーザデリアという少し小さな国。

 そして、そのノーザデリアの近くにあるメゼラッグという国だ。

 こちらはダイアル帝国と同じぐらいの大きさを誇っているようだ。

 そして、この国から見て今あげた二つの国のある方向のちょうど真逆に存在している国。

 これが、魔王の国なようだ。

 確かにノーザデリアやメゼラッグの二国と連携すれば、魔王軍に負けることはないだろう。

 なら、なぜ連携しないのか。


「しないんじゃなくて、できないんだろうな」


 どうやら何か理由がありそうだ。

 その先を読み進めたが、流石に周りの国と連携できない理由は書いていなかった。

 エンマは教科書を閉じた。

 ここから先の情報はオニユリに任せよう。

 そう思い、エンマは教科書を閉じるとちょうど、座学の授業終了の鐘が鳴った。




「みんな、木剣は持ったか?」


 午前の実技の授業が始まった。

 学年主任のツカサが前に立ち、生徒たちに確認する。

 午前実技の授業は昨日午後に行われていた学年内戦のトーナメント会場と同じ、第三実習室だった。


「今日の午後にとうとう、今年度の学年代表が出揃う。勝ち残っている人たちは、優勝目指して頑張ってくれ。もう負けてしまった人たちは、その悔しさをバネに、来年頑張ろう!」


 来年、という言葉に半分ぐらいの生徒たちの雰囲気が一段と暗くなる。

 分かりやすいなぁ。

 

「では、今日は準備体操の後模擬戦をおこなう」


 そんな生徒たちは気に止めず、ハイテンションで押し切ったツカサ。

 これ、一人になった時に俺、何やってるんだろうってダメージくるやつだぞ。


「エンマ君、僕と戦わないか?」


 準備体操をしていると、ユズルが声をかけてきてくれた。


「いいよ」

 

 願ったり叶ったりだ。

 一度、壁を超えた生徒たちとは戦っておかなければと思っていたところだから。

 理由は最初とは違うけれども。

 初めに戦っておかないと思っていた理由は、もしも帝国騎士団に入れなかった場合、帝国騎士団で一番強い人とそれなりにいい勝負しても怪しまれないようにするためだった。

 だが、もう帝国騎士団に入れることは決まっているので、戦わなくてもいいのだが、今は魔王軍と戦うにあたってこいつがどれぐらいの戦力になるのかを調べるために戦いたいと思った。


「おお、いいな」


 みんなが暗くてどうしようか悩んでいるっぽい先生は突如見つけたみんなの興味を惹きそうな明るい話題に誰よりも鋭く、そして深く噛み付いた。


「みんなも見たいよな! な!」


「まぁ」


「ちょっとなら」


 その予想通り生徒たちも少し食いついたようだ。


「よし。壁を超えた生徒同士、お互いに切磋琢磨して頑張ってくれ」


 生徒たちが自分の話に反応してくれたから、涙を流しそうな勢いでまくし立てる先生。

 どうやら、よっぽど嬉しかったようだ。

 コートはこのテープの中おこなってくれ、というような戦うためのルール作りをし始める。

 まとめると、実習室に貼ってある赤テープの中がコートで相手に先に剣を当てた方が勝ち。

 そして、審判は先生がやると言うことらしい。

 それを聞いた生徒たちが、赤テープの外に、エンマたちは中に移動を始める。


「じゃあ、よろしくね」


「こっちこそ」


 お互いに木剣を構えて向かい合う。


「では、試合開始!」


 先生の声が実習室に響いた。


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