何があった
「何があった」
その男は座り込んでいるススムにそう話しかけた。
「今日は途中入学してきた奴が魔王を倒すって言うから、現実見せてやろうと思って…」
「そしたら、このざまか。それにしてもにいちゃん、魔王倒したいんか」
「だから、倒したいんじゃなくて、倒すんだよ…」
あと何回やればいいんだ、このやりとり。
「にいちゃんのために言わせてもらうが、諦めた方がいいで。現実見んと、痛い目見る。無理や」
「それが、できるんだよなぁ」
うるさいなぁ、こいつ。
人がやるって言ってんのに、横からぐちぐちと。
現実見ろとか、できないとか、せっかくやろうと思っているやつの足を引っ張ろうとして何になるんだよ。
「でかい口叩きよって。どうやら本当にしめてやらんといかんようやなぁ。口は災いの元やで」
そう言って周りの取り巻きたちがエンマを囲む。
「卑怯とか言うなよ、にいちゃん。魔王倒すなんて言うからには、俺たちぐらいに遅れをとるようじゃ、無理やからなぁ」
そう言って、周りの取り巻きたちが一斉に剣を抜く。
うわぁ、あれどっからどう見ても本物じゃん。
仕方なくエンマは先ほど捨てた箒の柄を拾う。
…まあ、このぐらいのハンデはいいか。
確かに、この程度のハンデを覆せないようじゃ、魔王を倒すなんて夢のまた夢だからな。
エンマはそう自分を納得させて柄をかまえた。
「病院で後悔しな」
そう言って、周りを取り囲む奴らが一斉に襲いかかってくる。
流石に真剣の刃を今持っている棒で受けるわけにはいかないので、上手く剣の横腹に当てて軌道を逸らしながら対処していく。
「おい、二人で動きを合わせて襲い掛かれ。相手は一人だ。同時に攻撃すれば防げないはずだ!」
そんなエンマに痺れを切らしたのか、誰かがそう大声で叫んだ。
その言葉を聞き、今度は何人かが息を合わせて同時攻撃してくる。
「なんでだ!!」
そんな攻撃も難なく対処するエンマを見て、先ほどのやつが叫んだ。
流石にちょっとやりすぎかもなとは思うが、やられてやるわけにはいかないんでな。
少しギアを上げさせてもらう。
「なら三人だ!!」
そう言って今度は三人同時に切り掛かってくる。
「なんで、同時攻撃に対処できるんだよ!」
別に、ほぼ同時に何箇所か叩くぐらいなら余裕だろ。
友達の千手観音なんて、お茶飲みながら、これの数倍、何十倍と余裕で対処するぞ?
そこから個人的な偏見で逆算させてもらうと、三箇所ぐらいは人間の範疇なはずだ。
ということで大丈夫大丈夫。
これぐらいじゃバレないはずだ。
「ぐわぁ!」
あんまり遊んでいる暇もないため、エンマは相手の攻撃の軌道をそらして、別の仲間にあたるように仕向ける。
ちょうど三人同時にかかってきてくれるからな。
攻撃の軌道を少し逸らせば別の仲間が近くにいるのでそいつにあたるのだ。
エンマがそらした仲間の攻撃を喰らった奴らは怪我をするが、まあ大丈夫だ。
そらした攻撃があったってどの程度の怪我をするかまで計算した上でそらしているから。
要するに後遺症も残らないし、もちろん死にもしないから安心して怪我してくれと言うわけだ。
後悔は病院でしてくれればいいよ。
「同時攻撃に対処しつつ、逆にこっちを削るやと? しかも箒の柄で? 嘘やろ?」
流石に開いた口が塞がらないといった様子でこちらを見ているカケルだったが、とうとう自分も剣を抜く。
どうやらここで高みの見物をしている場合ではないと、やっと気づいたようだ。
「こいつは俺がやる。下がり!」
そう言って勝ったやつ、あんまり知らないんだよなぁ。
盛大な負けフラグを打ち上げながら、仲間に撤退を指示する。
先ほどまで複数人同時にかかってきていた取り巻きたちが周りの怪我をした仲間を回収しエンマと距離をとる。
エンマはその隙にそばに落ちている剣を蹴りあげて武器を交換した。
別にこのままでも勝てるが、もっといい武器が落ちているのならこの武器を使い続ける理由はない。
いざとなったときに相手の攻撃を受けられないって普通に不便だしな。
カケルは仲間が全員下がったことを確認すると、こちらへ距離をつめてきた。
流石にデカい口を叩くだけはあるようだ。
今まで相手にしてきたやつとは一味違った。
まあ、元が大したことないので、一味違っても結局そんなに変わらないのだが、取り巻きが三人同時にかかってくるよりもこいつ一人でかかってきた方が強いなと感じるぐらいの実力はあるようだ。
だが、そろそろ決着をつけようか。
狙いを剣に定めて強い力で攻撃する。
相手は攻撃を受け止めるが、エンマの力に耐えきれず剣が盛大に吹き飛んだ。
「その辺で許してあげてくれないか?」
エンマに吹き飛ばされたカケルの剣がちょうど落ちてくるあたりに現れたそいつが見事にキャッチしてこちらに話しかけてくる。
またしても、別の誰かが乱入してくるようだ。
もう誰だよ。
流石にしつこすぎるだろう。
そう思いながら、近づいてくる奴を見るエンマは少し驚いた。
今までのやつからは、ザ・不良といった匂いが出ていたが、今話しかけてきたやつからは全くそんな匂いがしなかったからだ。
むしろ、優等生っぽい雰囲気を感じる。
裏番長的な存在なのか?
あんなにいい子がこんな事件を起こすなんて考えられません、みたいな?
「け、何のようや」
「授業サボってるクラスメイトを探しに来たんじゃないか。でも、これはちょっと授業出るよりも先に何人か病院へ行かないとダメな人がいるかな」
「余計なお世話や」
「カケルは行かなくても大丈夫そうだね」
なるほど、そういう感じか。
取りあえず、エンマの敵ではないようだ。
「おい、にいちゃん。一体何もんや?」
その場を立ち去ろうとしたエンマの背中にカケルが声をかけた。
「この学校でいう、壁を超えた人間ってやつだ」
そう一言答えてエンマは借りた剣を地面に突き刺し、その場を立ち去った。
案外早く終わったのでまだ授業中のはずだが今から授業行くのは、なんか気まずいなぁ。
大体、どこでやってるか分からないし。
なぜなら今日が初日だから。
知ってそうなススムって奴がそこにいるけど、聞きづらいんだよなぁ。
お前やるな、お前もな、みたいな友情が今の戦いで育まれましたとなれば、話は別なんだが、そんな感じ一切ないし。
むしろ、育まれてたらびっくりだ。
「とりあえず、どっかでバレないように時間潰すしかないか?」
エンマは目的地もなく歩き出した。
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