お前、魔王を倒したいんだってな
「お前、魔王を倒したいんだってな」
体育館裏のようなジメジメしたところについたエンマとススム。
「倒したいんじゃない。倒すんだよ」
「は、笑わせる」
鼻で笑うかのように、というか、めっちゃ鼻で笑って馬鹿にしてくるススム。
お前は地獄行き決定な、と密かに決心したエンマに向かって、ススムはなにか長いものを投げてきた。
どうやら箒のようだ。
竹ほうきのような掃く部分が広がっているものではなく、自由ほうきと呼ばれるTの字を逆にしたような形の箒である。
「なんだ、これ」
「俺が現実ってものを教えてやんよ、お前のために」
「お前、強いの?」
「学年内戦の代表候補の一人、と言えばわかりやすいか?」
ああ、あのやり直したら入れ替わっちゃうあの試合ね。
確か、入賞確実と言われていたのはスズカ・ウィンターとユズルだったよな。
こいつはススムなので、いわゆるその他大勢の有象無象なわけだ。
はぁ、面倒だなぁ。
大体、教えてくれなんて頼んでないし。
こういうやつ、いるよなぁ。
お前のためを思って教えてやるんだとか言いながら、実は自分が教えたいだけの奴。
超ありがた迷惑だからやめてほしいです。
そう思いながらもとりあえず拾い、履きとる部分が邪魔なので速攻で外し、柄の部分だけにする。
これで邪魔なものがなくなり一直線の棒になった。
「じゃあ、どこからでもかかってこい」
エンマと同じように、掃く部分を外して柄の部分だけにしたものを手に持ってススムがそう言った。
「じゃあ、行くな」
そう言ってエンマは結構力を込めて柄を槍のように投げた。
柄はススムの顔面に一直線に飛んでいく。
そして、自分もススムに向かって突進する。
流石にいきなり柄を投げてくるとは思わなかったのか、驚きの声を上げ、体勢を崩しながら避けるススム。
ギリギリだが避け切ったようだ。
予想通りだ。
自分で代表候補というのだから、これぐらい避けてくれないと困るってもんだ。
だが、体勢を崩しているようじゃ、まだまだ代表は遠いと思うぞ?
柄に視線をとられているうちに相手へと近づいていたエンマは体勢の崩れたススム持っている柄を奪い捨て、拳を握った。
ススムの顔のそばをすごい速さで拳が通り抜け、髪が揺れる。
「俺の勝ちでいいか?」
ススムを見て手をパンパンとはたきながら大きく息を吐くエンマ。
「なんだ、お前?」
尻餅をついたススムがこちらを睨む。
なんとか強気な姿勢を保っているが、あの拳で殴られていたらと考えると震えてしまうのだろう。
まあ、結構強めに放ったからな。
にしてもそれは俺の台詞ではなかろうか。
さっきっからずっとそう言ってやりたくて仕方なかったのだが。
「こんなの、…反則だ」
「最初に物を投げてきたのは、お前だろう」
あの初めて会った時な。
覚えてるか?
ちなみに投げてきた物の数はお前が二つで、俺は…二つか。
今の柄を入れれば。
お前の方が多いって言ってやりたかったが、完全に今のでおあいこのようだ。
うわ、勝ち方間違えたなぁ。
「もう、行っていいか?」
授業なんだよ。
地面に手をついているススムにエンマは言った。
「…待ちやがれ」
なんとか震える足で立ち上がるススム。
「なんだ?」
「もう一勝負だ。投げるのはなし。剣の腕で勝負だ」
「勝負にありもなしもないだろう」
「お前、魔王相手に拳で勝つつもりか? 違うだろ?」
ちょうどこの前、別世界では殴り飛ばして轟沈させた実績はあるけどな。
言っても信じてもらえないだろうし、逆に信じられたら困るけど。
「なるほど。つまり、本番を想定した戦いをしろと」
「その通りだ」
それなら最初からそう言えよ。
完全に遅刻だなぁと思いながら先ほど投げた柄を取りに行くエンマ。
ついでにススムのも取って投げる。
「お前、その体で戦えるのか?」
思わずエンマは相手を心配する。
なぜなら足が震えているから。
張本人に心配されるのもどうかと思うが、フラフラしているんだから仕方がないだろう。
「誰のせいだと思っている」
ですよねぇ。
ま、反省はしてないけど。
後そこは、嘘でもいいから強がった方が良かったのではなかろうか。
「仕方ないから、ハンデをやる。俺は片足で戦う」
「なめてんのか?」
「そんな体で戦いを挑んでくるお前もお前だろう」
「その言葉、忘れんなよ。後悔させてやるからなぁ」
そう言ってこちらへ向かってくるススム。
負けた相手からハンデを貰い、それでやっと勝って嬉しいのかどうか知らないが、まあ、嬉しいんだろう。
あんなに勝つ気満々だもんな。
そんなススムからの攻撃をエンマは身を捩ってかわす。
片足なので、あんまり激しい動きはできないが、これくらいなら余裕だ。
相手の攻撃の隙をついてこちらも攻撃する。
「もう流石にこれは俺の勝ちでいいだろう」
相手の首筋に寸止めしてエンマはそういった。
流石にこれはどっからどう見てもこちらに勝ちだろう。
「…くそ。俺の、負けだ」
そう言ってススムは座り込んだ。
相手が負けを認めてくれたので、柄を投げ捨てて地面に片足を下ろし、後ろを向いて歩き去ろうとする。
「おい、ススム。どうした」
今度は誰だよ。
歩き去ろうとした方向から声がしたので、そっちへ視線を向けると、そこには腰に剣を下げたいかにもガラの悪そうな男が何人もいた。
これ、遅刻とかで済むのかなぁ。
まるまるボイコットになるんじゃない?
「カケルさん…」
面倒くさい奴には、もっと面倒くさい奴がいるってか。
類は友を呼ぶっていうし。
でも、たくさん呼ぶとはおもってなかったです。
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