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途中入学希望者ですか。話し合っている矢先に来るとは思いませんでした



「途中入学希望者ですか。話し合っている矢先に来るとは思いませんでした」


 少し驚いたような感じで厳格そうな女性が言った。


「で、どうですか?」


「別に途中入学は構いません。我々も近づいてきている戦いを前に、一人でも多くの人員が欲しいと思っています。そこに反対する人はいませんでした。生徒を集める作業に人員を割くのは難しいと思っていましたが、そちらから勝手に来てくれるなら話は早いです。いいでしょう。実技試験一発勝負であなたの途中入学の可否を決めます。ツカサ先生、お相手お願いします。第四実習室が空いているはずです」


「かしこまりました」


 体が大きな男の先生が、そう言って立ち上がった。

 上に服を着ていてもわかるぐらい筋肉が発達している。

 そんな先生が、こちらに向かってスタスタと歩いてきた。


「試験の相手をするツカサだ。一年生の学年主任をやっている」


「エンマです」


「オニユリです」


「では、二人ともついてきてくれ」


「いってらっしゃい」


 ここまで連れてきてくれた先生に手を振られながら、エンマたちは第四実習室に向かった。





「それでは、試験を始めます。相手に先に剣を当てたほうが勝ちの一本勝負です」


「かしこまりました」


 あれから第四実習室に移動したエンマたち。

 長辺が百メートル、短辺が五十メートルぐらいの広い床を階段状の観客席が取り囲んでいる。

 とても大きなバスケットボール会場みたいな感じだ。

 床にはたくさんのカラフルなテープが貼られており、試合をする際のコートを表しているようだ。

 随分と広いな。

 それに、第四っていうぐらいだからこれと同じような施設があと最低三つあるということだろうか。

 そんなことを思いながら少し高いところにある観客席に視線をやる。

 一番低い観客席でも今エンマの立っている床からは高さがある。

 この観客席の下には控え室みたいな設備もあるんだろうなとエンマは推測した。

 観客席には何人かの先生が座っている。

 試験監督だろうか。

 ちなみにエンマたちが話した、厳格そうな女性は教頭先生なようだ。

 さっき、他の先生にそう話しかけられたから。


「準備はいいか?」


 自分の木剣とエンマたちの木剣を持ってツカサが歩いてきた。


「二人とも、本気を見せてくれ」


 ツカサはそう言いながらエンマたちに木剣を渡たす。


「先生はどのぐらい強いのですか?」


 にこりと優しそうに笑うツカサ先生に失礼かもと思いながらエンマは聞いた。

 ここを聞いておかないと、どれぐらいの試合をすればいいのか分からない。

 うっかり倒して人類最強の剣士でしたなんてなったら、学園に通う意味がいきなりなくなってしまう。

 お前はなんだという疑問をできる限り抱かれないように、正規のルートを通るのだから。


「俺の強さか。そこそこ強い方だが、上には上がいるって感じだな。俺より強いやつなんて、本当に吐くほどいる。だが、まだ学校に入学もしていないやつが簡単に超えられるほど、低い壁じゃないぞ。ちなみにこの試験は入学したやつは全員受ける試験だが、今年度入学者で俺に勝てた奴は二人だけだ。だから、勝てたら入学おめでとう。負けても試合内容がよかったら入学おめでとうだ」


 なるほど、今年勝てた奴がいるなら、勝っていい相手か。

 そりゃ楽でいい。

 中途半端に負けないといけないとか、結構大変だからさ。


「では、どっちからくる?」


「私が行きます」


 そう言って一歩前に出て木剣を軽く振り回すオニユリ。


「万が一にも負けるなよ」


 オニユリにだけ聞こえるようにエンマは言った。


「剣は苦手ですが、流石に人間には負けません。種族が違います」


 こちらを振り返りもせずに、そう言い切ったオニユリ。

 まあ、それもそうか。

 ライオンに向かってウサギに負けるなよというのと同じようなものだから。

 オニユリは剣を構えて真っ直ぐツカサを見据える。


「君からか。では、試験を始めよう。どこからでもかかってきなさい」


「では、お言葉に甘えて」


 そう言ってオニユリは構えていた剣をだらりと下ろしてまっすぐとツカサの元へ歩いて行った。

 何が起きているのかわからないと言った表情のツカサ。

 そりゃそうだろう。

 入学がかかった実技試験の最中に相手が剣を構えずに真っ直ぐ歩いてくるのだ。

 やる気を疑うレベルである。

 だが、相手に容赦はしないタイプの先生なのだろう。

 本気で勝つつもりでオニユリに向かって剣を振り下ろす。

 その剣をひょいと避けて背後に回り込み、先生に向かって優しく剣を当てた。


「私の勝ちでいいでしょうか」


 先生に向かうのと同じ速度で歩いて戻ってくるオニユリに向かってエンマは拍手を送った。






「…二人とも、入学おめでとう」

 

 オニユリと似たような戦法でエンマも先生に剣を当てて勝利した。

 ツカサ先生をはじめ、教頭先生などの実技試験を見学した先生方から信じられないといったような大きな拍手が送られる。

 

「あなたは今からこの騎士学校の生徒です。魔王との戦いできっとあなたが活躍することを祈っています」


 拍手を終えて、教頭先生がこちらにやってきてにこやかに微笑んだ。


「とんでもない新人が来たものです。あなたみたいな方が来てくれるのなら、追加募集をおこなうのもありかもしれません。では、手続きがありますので、教頭室について来てください」


 ごめんなさい、追加募集を行っても、私みたいのは来ないと思います。

 いい歳にもかかわらず、今にもスキップをしそうなルンルン気分で前を歩く教頭。

 腰を悪くしないようにだけお気をつけください。

 あとすみません、あのツカサ先生って方がすごい気になるのですが放っておいていいのでしょうか。

 ツカサ先生に一礼して二人は実習室を出た。


「ははっ。まだまだ上がいるとは思っていたが、これほどのやつと会うとはな」


 何かを噛み殺すように、ツカサは呟いた。



「非常に残念です。あなたが入学当初からいたら、学年内戦に出れたのに」


「学年内戦?」


 文字通り、学年内で戦う催しだろうか。

 教頭はエンマたちを振り返りながら言った。


「その年の初めに行われる学年内対抗戦です。それぞれの学年でトーナメント戦をして、上位四人を決めます。この四人が学年委員会となって、一年間その学年をまとめていきます。ちなみに、三学年の上位四人が戦う代表戦も行われるのですが、あなたにはぜひそれに出てほしかったです」


 あなたならかなりいいところにいくのではないでしょうか、と期待の眼差しを向けてくる。

 まあ正直な話、戦って負ける気はしませんね。

 ただ、その試合に出れなくてよかったなとエンマは思っている。

 勝ち進んだら、学年をまとめる立場にならないといけないというのが嫌なのだ。

 学年をまとめるということは、それなりの業務を振られるということだろう。

 授業終了後に残って何かをやらなければならないなんて場合も出てくるかもしれない。

 他の勇者のことなど、調べないといけないことがたくさんあるエンマにとってはそんなものをやっている暇はない。

 なので、出られずに済むのなら出られない方がいいと思った。


「うちの学年から誰が勝ち残りそうとかいうのはあるのですか?」


 オニユリが口を開いた。


「今年の一年生ですか。今年ツカサ先生に勝ったスズカ・ウィンターさんとのユズルくんは確実でしょう。あとは、拮抗していて分かりません。試合のやり直しをしたら、毎回違う人が選ばれるのではないかというぐらいにほぼ運です」


 つまり、その二人に勝っておけば学校の生徒たち、そして帝国騎士団に存在をアピールできるということか。

 どこかで一回戦っておかないといけないな。

 だがとりあえず、今は無事入学できたことを祝うとしよう。

 そう言っている間に、目的地へ着いたようだ。

 教頭室と書かれた部屋の扉をガチャリと開けて二人を中に促す。

 結構広い部屋だなとエンマは思った。

 教頭一人のためにこれだけのスペースを確保できるということは、それだけこの国には土地があるということだろうか。

 それか、単にこの学校の教頭という地位が、それほど強い地位なのか。

 どっちもありそうだな。

 そんなことを考えていると、どこからか机と椅子を出してきた教頭。

 どうぞ、と言ってきたので遠慮なく座らせてもらうことにした。


「では、二人とも改めて入学おめでとうございます。最後にちょっとした試験を行います」


 おう?

 そんな話してたか?


「あれ、入学はもう決まったんじゃ?」


 オニユリも苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 それほど予想外だったのだろう。


「はい、二人とも入学は決まっています。あなたたちの剣の実力ならこちらからお願いしてでも入ってもらう価値がありますから。ですが、本来この学校に入るには筆記試験も突破しなければならないのです。今はこういう状況下なのでそこまで重視しておりませんが、一応受けていただきます。零点とか取らなければ、大丈夫ですから軽い気持ちで受けてください」


 そう言って手渡された試験にはたくさんの問題が書いてある。

 国語数学理科社会全ての科目の問題が詰まっているようだ。

 幸い、数学の計算とかがあるので、零点は取らないと思うが、それにしたってあまり悪い点数を取るわけにはいかないだろう。


「では、初めてください」


『エンマ様』


 開始早々オニユリの声が頭の中に響く。

 テレパシーの魔法だ。


『どうした』


 エンマもテレパシーを返した。


『零点取りそうです』


『ちょっとした計算があるだろう。とりあえずそれを解いて』


『こんな分数の計算とか私できません』 


『嘘だろ?』


 こいつ、こんなにバカだっけ。

 かなり文明の発達した国の大人なのに、九九も満足に言えずにこっちの世界に来る奴がいて驚いたことがあるが、まさか今まで一緒に仕事をしてきた仲間にもそんな奴がいるとは思わなかった。


『その人たちを釜茹でしているときに、バカをうつされたんです』


 いかんいかん。

 テレパシーの魔法を使っているため思考が相手に駄々漏れてしまったようだ。


『オニユリ、帰ったら人間を罰する時間減らして勉強な』


『今度は私が罰を受ける番ということですか⁉︎』


『随分と余裕そうだな、お前』


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