降り立ったはいいが、どうしようか
「降り立ったはいいが、どうしようか」
さっきは魔王の前にいきなり降りていってとりあえず成敗したが、今回はそうもいかない。
この世界のルールに則り、戦わないといけないだろう。
お釈迦さんとの約束があるから。
「はぁ。しょっぱなからこれですか。何も考えてないんですね」
「何も考えなくて大丈夫だったからな」
魔王程度に負けないから。
「この世界は剣の世界で、魔法は存在しません。なので、身バレしたくなければ魔法は極力使わない方が良いと思います」
そう言いながらオニユリは魔法を使って何処かからこの世界についての資料を持ってくる。
…まあ、今回は俺のせいもあるし、何より周りに誰もいないしな。
見なかったことにしよう。
「魔王襲来までの期間は?」
「この世界の時間の流れで、大体半年後くらいですね。」
短いな。
もうすぐじゃないか。
「どうやったら魔王討伐に加われる?」
「さあ」
「いきなり投げやりだな」
「今見た資料は人間を転生させる時に使っている世界設定集ですし、魔王襲来までの期間はモニターの死亡予想日から割り出した情報です。地上の情報をとってくる方法がうちにないのはご存知でしょう」
その中からこれだけ調べあげたんですから我慢してくださいと言いたそうな感じでそういった。
「確かに。なら、自分で調べるしかないか」
「そうですね」
魔王討伐に加わる方法を最優先で調べないといけないとして、それ以外にこの国に送ったやつたちのことも調べなくてはならないだろう。
一人で魔王を倒せと言われたら楽勝で倒せるが、バレないように、つまり人間の範疇でという条件が加わるとあまり派手なことはできない。
なので、できれば戦力を強化して、俺が活躍しなくても大丈夫なようにしたい。
そのためには勇者に協力してもらうのが一番手っ取り早い。
この世界には、三人勇者を送っている。
男が二人、女が一人。
アイバ、ササキ、ソガである。
どんな理由があるかも、何をしているかも知らないけれど。
とりあえず、もう遅いですよみたいなことは言わせないつもりだ。
ガツンと言ってやるからなぁ!
本当、みんな一体何をしているのだろうか。
エンマとオニユリはとりあえず人の多そうなところへと歩き出した。
情報は人が持っているため、そっちの方が集まりやすいと思ったからだ。
「今夜寝るところも同時に調べないといけないな」
今日中に知りたい情報が全て集まるとは到底思えない。
なので、次の日に備えた行動も同時に起こしておかねばならないだろう。
エンマはそう思って呟いた。
「はぁ」
ずっと歩き回ったせいで疲れたな。
宿屋のベッドに倒れ込みながら、エンマは大きく息を吐いた。
本日の聞き込みの釣果を頭の中で数え直す。
結果は上出来と言えるだろう。
街中にあった兵士っぽい人たちがたむろしているところで魔王討伐の話を聞くことができた。
その人たちによると、基本的にそういうのは帝国騎士団がおこなっているらしい。
そして、そこに入るためには騎士学校という養成機関に入学して三年学ばなくてはならない。
ここを卒業できたものだけが、帝国騎士団に入れるのだ。
「これでダメだったら、詰みなんだよなぁ」
魔王軍と戦うことになるのが半年後なので、今から行っても卒業して帝国騎士団に入るという正攻法では間に合わない。
だが、とりあえず騎士学校に入り、そこで実績を上げておけば、戦いが始まる際、志願兵として取り立ててもらうことぐらいはできるのではないか。
そこでごねられても、なんなら帝国騎士団で一番強い人といい感じの勝負をして認めさせればいいだけだ。
卒業せずに入ることになるのなら、そもそも騎士学校にも入らなくたっていいのではないかとも思ったが、それまでどこで何していたか分からないぽっと出のやつが一番強い人といい感じの勝負をするよりも、きちんと騎士学校に入学していて、そこで強かった奴が戦ってみたら案外いい感じの勝負をした、の方が周りに怪しまれないだろう。
少なくともお前、人間じゃないなって言われる可能性は減ると思う。
少しずつ実力を見せておくことで、あいつ強いと思ったら〇〇さんといい勝負しちゃったぜって驚くぐらいで済ませられるはずだ。
なので騎士学校に入ろう思ったのだが、なんと入学式は二週間前に終わってしまったようなのだ。
どうにかならないかともう少し話を聞いてみると、もしかしたら、途中入学を認めてくれるかもしれないと漏らした。
本来なら途中入学なんぞあり得ないことらしいが、目前に戦いの影が迫っていること、そしてそのせいで平和な時には大変人気なこの学校が定員割れになっていることを教えてくれた。
だから、もしかしたら受け入れてくれるかもしれないという話だ。
明日はその騎士学校に行ってみよう。
そんなことをうつらうつらと考えているうちにエンマは眠りに落ちていった。
「ここが、騎士学校ですか。随分と上品ですね」
オニユリが学校を前にそう言った。
確かにな。
周りは塀で囲まれていて、錬鉄の門の隙間から中が見えるだけだが、石畳が綺麗に敷き詰められている。
とても居心地がよさそうだ。
「とりあえず、中に入ろうか」
「あれ、どうしたのかな。部外者は立ち入り禁止だよ?」
音を立てながら、門を開けると、その音を聞きつけたのか男の人が現れた。
「ここは騎士学校で間違いないですか?」
「そうだね、ここは騎士学校だよ」
「途中入学とかって受け付けていませんか?」
「途中入学?」
「こいつと一緒にこの学校に入って魔王軍と戦いたいんです」
「なるほど」
その男性は考え込むようにそういった。
「ちょっとついておいで」
そう言って男性は歩き出した。
「ちょうど、今そういう話をしているところなんだよ」
男性が前を歩きながら、世間話っぽい感じで話しかけてきた。
「と言いますと?」
「君たちも知っていると思うけれど、最近魔王軍との小競り合いが増えてきて、全面戦争は避けられないって言われているんだ。そんな状態だから一人でも多くの入学者が欲しいんだけど、我々の願いに反して全然集まらなかった。それどころかこの学校始まって初めての定員割れになる始末さ。定員数を増やしたってこともあるけれど、去年のまま増やさなくても定員割れだったから、これは理由にならないかな」
「そんなに少ないんですか?」
オニユリが相槌を入れた。
「うん、例年に比べて少ないね。だから、追加募集をかけるか、かけないかっていう話し合いが職員室でされている最中なんだよ。まだ決まっていないと思うけど」
僕は面倒臭くて抜けてきちゃったけど、なんて悪戯っぽく笑いかけてくるけれど、これは笑い返していいのだろうか。
太っている人が、自分の体重を自虐ネタに使うときのような、なんとも言えない雰囲気がエンマたちを襲う。
「まだ追加募集をかけない理由ってあるのですか?」
そんな状況だったら掛けざるをえないと思うのが。
エンマはなんとか今までの話から疑問点を一つあげた。
あの状態で黙ったままとか、耐えられそうになかったから。
「そもそも、追加募集で来るぐらいなら最初から来ているはずだっていう意見が多い。だからその新たな業務に人員を割くぐらいなら、今いる子たちを徹底的に鍛え上げるべきだっていう意見で反対している。試験をするのは簡単だけど、そこへ人を集めるとなると物凄く大変だし、だからこそとんでもない仕事量になるからさ。そのせいで、今いる生徒たちへの教育の質が落ちたら本末転倒だ。ただでさえ、今の生徒たちに問題を抱えていて、手がかかるのに。でもそれを差し引いても、今の騎士学校は優秀な子が多いのも事実なんだ。だから、今いる子たちに集中しようって。確かに、四大貴族の御子息、御息女たちが勢ぞろいしているし、一般人も才能が溢れている子がたくさんいる。頭数としては減っているけど、一人ひとりの質を見ると、例年よりも上なんじゃないかな」
なるほど、それは追加募集しなくてもいいかもしれない。
…そうなると、俺は困るけど。
「問題を抱えているって何ですか?」
「それはちょっと言えないかな。君が入学したらわかるよ。多分できそうだし。君、相当強いでしょ」
軽い口調で朗らかに笑っているが、あなたも相当強いですよね?
にしても、何やら深刻な問題を抱えているらしい。
そんなことを考えながらその男の人の背中をついていくと、ガヤガヤと大きな話し声の聞こえる部屋が見えてきた。
「ちょっといいですか?」
前を歩く男性が扉を開けた。
中にはたくさんの大人が見える。
ここで、さっき言っていた話し合いが行われていたのだろう。
「先生、どこへ行っていたのですか? 大切な話し合いの最中に。それに、その後ろにいる人たちは?」
「ああ、すいません。ちょっといろいろあって。この子たちは途中入学希望者です。今どうするか話題になってる」
そう言って体を少しそらして俺たちを他の先生たちからよく見えるようにして紹介する。
「魔王軍と戦いたいのですが」
とりあえず、一番伝えたいことだけをエンマは伝えた。
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