5.燃え上がる野心
さて、昨日の話だが俺に舎弟が三人出来た。
一人はレインヤースのヤス。最初に舎弟にした若造だが、こいつは西洋侍たちの喧嘩で三位に入賞。ひょろいヤツだと思ったが、なかなかに根性がありやがる。
そして二人目が準優勝のロイヤードのロイ。なんと驚け、トム&ジュエリーもびっくりな獣人ってヤツだ。オオカミの顔で人語喋ってる姿には流石の俺も度肝を抜かれたが、馴れりゃ面白いヤツだった。あと、オカマだ。
んで、三人目が優勝したベルターツのタツだ。コイツは何でも魔導戦士とかってヤツらしい。何だかよく分かんねぇけど、愛人のガキが好きだったガッチャなんとかってヤツみたいにド派手な忍法が使えるみたいだな。
なんだか顔ぶれがトリッキーなのばかり舎弟になっちまったが、それはそれだ。ちゃくちゃくと似非ルマンド新泉組化計画が進行しているぜ!
天国のおやっさん! 新泉組が名を轟かすのを見守ってくだせぇ!
あ、あの世に居るのは俺だったな、そういや。
「にしてもあの世ねぇ。イマイチ実感湧かねぇんだよな」
ドジ踏んでぶっ殺された記憶ならあるんだけど何一つ実感がねぇんだよなぁ。
今も残っている生きてた頃の実感というか欲望といやぁ……
「タバコ吸いてぇ酒飲みてぇ、パイオツ揉みてぇなぁ……」
くたばったところで所詮俺は俺。こんぐらいのシケた感覚しか湧いてこねぇんだよなぁ。
ぼやきながら部屋を徘徊するが机の引き出しを開けたところでタバコなんぞある訳もない。と言うか、聖女だ何だって憧れられてるこの王女の部屋は、王女とはとても思えない質素なものだった。
ベッドに机、椅子にテーブル、そして申し訳程度の調度品は花瓶と姿見だけだ。
「貧乏王国なのか? それとも清貧がどうとかって出家した坊主みたいに御託並べた生活してるのか?」
部屋の中をウロチョロしているとたまたま姿見に映った今の俺の姿。
金髪碧眼で半端じゃなく可愛いが、胸はお世辞にもあるとすら言えない。
そして、この尖った耳……
これがあの世の人間ってヤツなのか?
この国の連中はどいつもこいつもこんな感じの尖った長耳ばかりだ。それに容姿も外国の俳優よりも整った顔立ちばかり。
この娘も容姿だけなら天使とか天女とかそれ系だな。
だけど俺だぜぇ?
間違っても天国に行けるような生き方はしてねぇ。
まさか何も無いところで男から女になって煩悩でも祓えってのか?
……馬鹿らしい。
それがお釈迦様か神さんか知らんけど、俺は好き勝手に暴れさせて貰うぜ。
さしあたっては……
俺は机におかれた書簡を手に取る。
何故か話し言葉はわかっるがこの世界の文字が読めない俺。
だが、この書簡に何が書いてあるかはわかる。
書簡を持ってきたロイがくねくねしながら読んでくれたからだ。
内容は北にあるデルなんとかって国と隣の王国がドンパチやらかしそうだってこと。
世知辛い話だが、どうやらあの世にも勢力争いがあるらしい。
何だ、釈迦組と十字架軍とかそんな感じか?
それとも地獄らしく『針山のサイクロン』阿修羅VS『氷上の帝王』サタンとかみたいな戦いになるんだろうか?
だが、合法的に戦いが溢れているなら好都合だ。
どさくさに紛れて横っ面ぶん殴って、この世界の覇権を握ってやろうじゃねぇか!
待ってろよ、阿修羅にサタン!
貴様らに『北海の鬼殺し』の強さ見せ付けてやるぜ!
俺は燃える野心に駆られながら、早速ロイを呼びつけたのであった。