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4.北海の熊殺しVSちみっ子

転生ヤクザとちみっ子のガチバトルです。

(あね)ちゃ、おはようございましゅ!」



 やけに可愛らしい声でちみっ子が挨拶する。



「お、おぅ、おはようさん!」



 はじけるみたいに元気の良いちみっ子に若干気圧され、俺の声が情けなくもうわずる。


 そんな俺をよそに、ちみっ子は満面の笑みを浮かべた。

 


「メディナ、姉ちゃのお膝に座っても良いですか?」


「お、おう、カモン!」



 パタパタと元気いっぱいに走って飛び付いてくる。


 この身体(カティア)の妹シャーロットだ。



「なんだ、暇だったのか?」


「あはは、さっきから姉ちゃようへいたいちょうさんみたいな変なことばー!」


「あん、そうか?」


「あはは、また変な言葉でお話ししてる!」



 そりゃ中身はいい歳したおっさんなうえ、堅気とは違う世界で生きてきた。


 このちみっ子が知ってるネェちゃんとは中身が違うよな。



「怖いか?」



 少しドスの利いた低い声でたずねる。


 こんな子供を別にビビらせたい訳じゃ無い。だが、中身が俺であるなら姉への幻想を壊さないよう近づけないのが身のためだ。


 だが、



「あのね、メディナね、むぎゅー」



 ぬあっ!?


 な、何がおきやがった!?


 ちみっ子が擬音語を口ずさむと、俺の顔に飛び付くみたいに抱き付いて来やがった!


 組員で強面に馴れてるはずのおやっさんの孫娘にさえ泣かれた俺が、こんなちみっ子に懐かれるとは……


 それにしても、あったけぇ……って、ちゃうわー!!


 そりゃこんな可愛らしい外見してりゃ、どんなに凄んだってたかがしれてるわなー!!



「姉ちゃ♪ 姉ちゃ♪ シャーロットまえのキリッってしてた姉ちゃもすきだけど、いまのシャキーンってかんじの姉ちゃもすきー!」


「……お、俺もシャーロットが好きじゃー!!」


「あははっ! むぎゅー」



 ぐ……現世じゃ怖がられ、人を傷付けるのが当たり前の日常だった。知らなかったぜ、人の温もりってのはこうも温かいもんだったとはな。


 俺が知ってる人の温もりっていやぁ、殴ったときの相手の体温と浴びる生暖かい返り血ばかりだった。


 そんときは熱くなってもすぐに凍えるような寒さが押し寄せてきたもんだが、人に与えられる温もりがこんなにも温かいもんだったとは……



「姉ちゃ、泣いてる?」



 小さな紅葉みたいな手のひらが俺の頬を撫でる。


 って、俺としたことが何を癒やされてやがるんだ!


 こいつはヤバい。【北海の鬼殺し】と呼ばれた時任尊ともあろう男が、父性に目覚めちまいそうだ。


 ここは、一端冷静になって突き放さないと、俺が俺じゃなくなっちまう。


「いいか、よく聞けシャーロット」



 話しかけた途端にく~、と可愛い音がシャーロットのお腹から聞こえた。



「腹空いてんのか? 飯は食ってないのか?」


「姉ちゃに会いたくて、ごはんたべるまえにきちゃいました!」



 ドスッ!!


 ぐはあぁぁぁぁあぁぁっ!


 な、何だこの可愛い生き物は。いま、一瞬だが俺の身体に段平が突き刺さったみたいな衝撃が駆け抜けたぞ!


 魔性じゃ~、こ、こいつは間違いなく……魔性のちみっ子じゃあぁあぁぁぁ。


 これは、シャレにならん。突き放さねばマジで腑抜けちまう。


 心を鬼にして突き放すんじゃ!

 

 俺はシャーロットを椅子に座らせ、テーブルへとダッシュした。



「シャーロット、ミカン食べるか?」


「シャーロット、ミカン好き!」


「そうかそうか、今食べさせてあげるからな」



 テーブルの机におかれたフルーツからミカンとリンゴみたいな果物を小脇に抱え、腹を空かせたシャーロットに手渡す。


 コイツは魔性のちみっ子だが、腹を空かせたちみっ子だ。


 いくら魔性でも、腹空かせたガキをほっぽり出すなんざ極道の道からも外れる外道だ!


 そんなことはこの漢・時任尊にゃあできねぇ!



「さ、ここに座れ」


 シャーロットをまた膝の上に乗せ、リンゴを剥いてあげる。


 ……これは、あれだ。別にほだされたとか、俺に情が芽生えたとかそんなんじゃねぇ。


 これは、任侠に生きた漢の慈悲だ!



「姉ちゃ、あーん!」



 ちょいとグチャって感じになったミカンが俺の口に放り込まれる。



「おいしい?」


「ぬあ~、甘くて美味しいぞ~」


「姉ちゃ、おもしろい!!」



 ちみっ子と過ごす時間。気が付いたら西洋侍達の喧嘩はとっくに終わっていた。

 

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