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3.喧嘩《ゴロ》は何時だって胸熱だ!

「ほーん、あの世の(いえ)ってのは随分とハイカラだねぇ」



 半ば呆れ気味に呟きながら、似非なんとか城とやらを徘徊する。


 俺が生前見たことある城ってのは、道南にある松前城と長野にある松本城くらいだ。この城はいわゆる日本の城とは随分と毛色が違う。


 えっと、何て言うか女とガキが好きそうな、デズなんとかって西洋マンガに出てくる城みたいな感じだ。


 綺麗っちゃ綺麗だが、畳が恋しいぜ。


 そんな益体もないことを考えていると、



「ひ、姫様!」



 どこぞの誰かが突然叫ぶ。


 姫だぁ?


 何だぁ? 濃姫とかお市とか出てくるような大河ドラマのロケでも……あ、姫って俺だ。



「姫様、ああ、エセルヴァルドの太陽!」



 えっと、コイツなんて名前だったかな?


 あ、そうだ、レインヤースとかって名前だったな。


 舌がこんがらかりそうな面倒くさい名前だぜ。



「えっと……よ、ヤス!」


「え、ヤス?」



 顎が外れそうなほどビックリ顔になった。


 そんなに変なあだ名か?


 それとも、この国は安易にあだ名も付けられないほど口うるさい国なのか?

 

 だが、俺の考えている方と斜め上の方向でヤス(仮名)が雄叫びを上げた。



「うぉおぉおぉぉぉぉぉっ! ひ、姫様が私にあ、愛称をお付けになってくださるとは……この愛称、子々孫々に至るまで受け継ぎ家宝とさせて頂きます!」


「あん?」



 あれ、え? ヤスだぞ、ありふれたあだ名だぞ? 家宝ってお前、受け継ぐってお前、ガキに女しか生まれなかったら、どうするんだ?


 でもまぁ、何か気に入ってるみたいだから良いのか? し、し~らね。


 そんな感じで浮かれる西洋侍にシカト決め込んでいたんだが、ヤス(本名レインヤース?)が嬉しさのあまりにあだ名を自慢しまくったらしく、次の日には何故だか妙に俺の方をチラチラ見ながらウロチョロしている西洋侍共が多かった。


 ……なんだ、もしかしてこいつらもまとめてお名前募集組か?


 はっ、安く見られたもんだぜ俺も。


 そんなに簡単に俺からあだ名で呼ばれると思ってるのか?


 俺があだ名を付けるのは、舌を噛みそうなくらい長ったらしい名前だけだ!


 それ以外であだ名を付けて欲しかったら、長い名前に改名するか俺に子分として認められるだけの仕事をしやがれ!

 

 ぶっちゃけ全員にあだ名を付けるのが面倒くせぇから気付かないふりして放置してたんだが、気が付きゃ話は思いの外面倒くさい方向に進んでいた。


 ①姫の近くに居ると愛称を貰える。

 ↓

 ②愛称を貰えた者は姫の側近として働ける。

 ↓

 ③姫の側近になりたければ、その力を示せ。

 ↓

 ④この国一の騎士は俺だ!←今ここ!


 ……や、ちょっと待て。


 ③までの流れは学のねぇ俺でも何となく想像出来る。


 だけどよ、たった一日でどうして④の流れまで出来上がった!?


 俺が言えたことじゃないが、この国の侍どもは脳筋しかいねぇのか?


 何よりも④に辿り着くまでの流れが速すぎるだろうが!


 もう少し時間があれば、一人一人の能力を調べ上げて賭け表作って喧嘩賭博が出来たって言うのによ!!


 とは言え今さらの話だな。コイツらの顔も名前もろくに一致しない俺には何もできやしねぇ。


 だったら、俺は賭博抜きで純粋にコイツらの喧嘩(ゴロ)がどんなもんだか楽しませてもらうだけよ。


 とは言え西洋侍どもが勝手に始めたケンカ祭り。急ごしらえの席どころか、そもそも姫がそんな場所に行ってはいけません、とか小賢しいことをお付きのババァが抜かしやがって俺はあえなく部屋からの観戦となった。


 何処で見ても同じっちゃ同じだけど、やっぱ血湧き肉躍る喧嘩(ゴロ)ってヤツは目の前で観戦したいもんだ。


 俺は6月に開催するはずのモハメド・アラリとイントニオ猪狩の試合チケットを徹夜で並ばせて手に入れたぐらいの格闘技好きだ。


 ……見る前に死んじまったがな。


 あの伝説の二人みたいな試合は見れるはずもねぇが、それでも本気の戦いってヤツは熱くなるってもんよ。


 よっしゃ!


 ここで(タマ)取られる覚悟見せたヤツは、もれなく俺の舎弟にしてやっから覚悟決めて戦いやがれ!


 にしても、あの世で初めての舎弟か。


 ワクワクしやがるぜ!



「ガッハッハッ! そう考えたら俄然応援も気合いが入るってもんだ、出来ればビールかハイボールにあたりめでもあれば最高だったがな!」



 いそいそと窓際に椅子を寄せ、観戦モードに移行完了――とその時



 ガチャ――

 

 一人盛り上がる俺の背後で扉が開かれた。


 ちぃ、カチコミか!


 ショートソード(匕首)片手に振り返ると、そこに居たのは扉から部屋を覗き込むちっちぇガキンチョの姿だった。

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