五
店員は言った。
「ケット・シー」
「ケット・シー?って、あの猫か」
「そう、でもただの猫ではありません。喋れるのです」
「ああ、有名だよな」
店員はなぜか驚いた。
「どうして?あの子たちは必死に隠しているはずなのに」
隠している?俺は復唱した。
「あの種族は人間に身分をばらしてはならないのです」
「そんなの初耳で、ケット・シーは喋るのが人間界では普通になっているようだが?」
この店員は本当に大丈夫なのだろうか。馬鹿じゃあるまいか。ケット・シーと話したことあるぞ俺。
俺のお父さんも、兄も、そんなのあたり前に知っているぞ。
「そんな馬鹿な、ケット・シーには内緒だといわれているのに」
「お前がばらしているんじゃないか、俺はそれ以前に知ってはいたが」
「あ、ありえるかも」
「馬鹿か」
俺はあきれて、机を指で何度かつついた。
「ヴァル様、この男は馬鹿ではありません。そんなこといっちゃあ」
「なに、馬鹿だろうこんなの」
横から茶々を入れるレヴァード。俺は店員に向き直った。
「まぁ、一泊二日この店で休ませてもらった。礼を言う」
「い、いえそんなこと。わぁ、はじめて言われた」
レヴァードが肩を縦に震わせて、言う。
「ば、馬鹿もこんなに頑張っているんだな」
「お前が言うな」
「二人とも、失礼が過ぎるわ。ここはジプシールック様が一言・・・・・・」
結局、ありがとうの一言で宿を出た。なかなかに強烈な奴だったな。