一
---------------------------ヴァル、お前は可哀そうな子だ。
・・・・・・・剣が重い、腕がしびれている。
剣を上から重く振り下ろすと、形のどんよりとしたスライムは土に染み込んでいった。
「何してるのよ、ヴァル」
ジプシー・ルックが二頭一身の狼、「ガーゴ」の背中から降りて言う。ブラウンの髪をかき上げて、俺を見上げる。
「ほんとだな、スライムごときに。いつもの俺らしくない」
「ほんとそうよ、いつもなら一秒もかからずやっつけるのに」
「まあまあ、冷血な正協会副会長にも懐の痛みだってあるものだろうさ」
割り込んできたのはトロイア軍のレヴァート。白いペガサスに乗り短髪で少々暑ぐるしい。
「ペガサス乗ります?」
と冗談半分だ。
「・・・・・・いや、いい」
空には夕闇が迫っていた。
「もう野宿は嫌だからね」
「大丈夫だ、俺もその気力はない」
俺はさっきのスライムでやられた毒をもった腕を力なくさすった。
「・・・・・ペガサス、乗ります?」
レヴァートが顔色を改めた。
「ああ、もう二度と乗らん」
ペガサスの背中は安定していた。ペガサスは慎重に地面を歩いていく。腕が使えないので手綱をレヴァートが引く。地図は俺の胸元にある、だれにも渡さない。
「あ、港町が見えてきたわ」
そうルックが指さした先には青と白で統一された町が見える。腕の傷が癒えていくようだった。