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学生春分学  作者: 乃壱
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とある日常学①

エブリスタで投稿させてもらってるものを、まとめて投稿させてもらってます。楽しんでもらえれば、幸いです。

 俺は今、中学生だ。しかも、人生で一番頭が悪いと言われている中学二年だ。

 そして同時に、人生で最も青春という言葉が当てはまるりそうな気がする年だ。人が人を好きになり、初めての体験や、異性との違いに気付き始めるこの年に俺は今!…教室で友人から借りたノートの内容を写していた。

 俺には退屈を感じると脳内ナレーションをしてしまう癖があるみたいだ。こういうのが派生して厨二病なる重病にかかっていくのだろうか。もしかしたら俺もボチボチヤバいのかもなぁ…。

 手を動かしながらも独り言のように脳内で呟き続けているうちに、あるイメージが浮かび上がる。

 あれ?もしかしてこれ、冬馬に近づいているのでは?俺は同じ教室内にいる冬馬の方を横目で視認した。

 冬馬はニヤニヤしながら小説を読んでおり、絶賛キモい奴タイムに入っていた。視線をノート上に戻し、ホッと息を吐く。

 いやいや、あんな変態にはなっていないはずだ。だって俺今勉強してるんだもん!俺は至って正常である。また、写しているこのノートの持ち主が冬馬であるという一点は考えないものとする。QED。

『結局また、脳内ナレーションしていることに気付いていないこの男は、その後も黙々とノートに文字列を連ねていった』


・・・・・


 ノートを写し終えたところで、冬馬にノートを返しに行くと、話しかけたくないような表情をしていた。

「と、冬馬。ノート返すわ、サンキュ…」

「あ?あぁ、宿題くらいちゃんとして来いよ」

「いつも悪いな」

 とりあえず触れたくもないし、気持ち悪い笑みについては放置でいいや。なんでこんな奴が頭良いのか全くわからん。こいつの脳内構造を良品にした神はある意味重罪だ。

 本日の悩みの種であった、未完の課題も終えることが出来たし、あとはのんびりじいさん、ばあさんのありがたいお話でもBGMに落書きしてたら一日も終わるだろ。

 そこで、俺が残りの貴重な朝の時間をどう過ごすかというと、人間観察に費やしていこうと思います!

 観察対象は俺が学校に来る理由の九割を締める存在である少女だ。彼女はいつも朝のホームルーム開始一○分前頃に登校してくる。

 そして、今!!

「おはよー」

 小鳥の囀りと聴き間違えそうな爽やかで、透き通ったこの声は間違いなく彼女だ。

「莉奈おはよー」

 久島莉奈くしま りな。俺と同じ四組で陸上部に所属している。小柄で明るい性格なせいか周りに人が集まり易い。

 登校直後だというのに今もクラスの女子に囲まれている。これでは観察が成立しない。そんな状態が続き、久島の姿は隠されたまま、ホームルーム開始のチャイムが鳴る。

 俺たちのクラス担任は秋方美都あきかた みとという眼鏡女教師だ。これの絡みがとにかく鬱陶しい。何かに託けて俺にちょっかいをかけてくる。そう、まさに好きな子につい意地悪してしまう小学生のように。あれ?もしかして、俺のこと好きなんじゃね?モテる男は辛いといったところか…。

 既婚のアラフォー教師に好意を抱かれているかどうかというつまらない話題は一先ず置いといて、女子の壁が取っ払われた久島の姿を拝んでおかなくては!

 左の壁際に席を構える久島の方を、俯き気味になり横目を使って覗き見る。

 正直、この行いは完全に変態のそれだが、そんな柵に構っている程俺は暇ではない。青春の一ページとなるこの瞬間を無駄になど出来ない。そして、今日も久島は全身から可愛さが溢れていた。

『この男、自分の欲望を満たすため聞き手不明の言い訳をつらつらと並べてはいるが、実のところただの変態であり、この一連の行動がほぼ無駄であることに気付いていない』

 ホームルームは滞りなく進み、終わりを迎えると共に、チャイムが鳴り響く。こうして、学生生活の本文である勉学の時間がやってくる。

 その前に一○分の休憩を挟むため、教室には再び騒がしさが蘇る。そして、当然久島の周りには女子の壁が再構築されていた。

 しかし、今回は人数が抑えられ、隙間から観察することが出来た。ここからが本当の観察活動開始という訳だ。

 何を話しているのかは分からないが、久島は話の合間に周囲の友人を見回し始めた。そして、周囲の人間も不思議に思ったのだろう、久島に問いかけているようだ。久島は両手を前で振り、なんでもないとでも答えたのだろう。しかし、何を見回していたのかを知ることはできなかった。すると、おもむろに胸元のボタンに手を掛けた。

 その行動を見てもしやと思い、周囲を確認する。そうして、俺は確信した。久島はクラスで一人だけボタンを一番上まで止めていたことに気付き、適応しようとしていたのだ。

 視線を戻しすと、久島のボタンは解かれていた。この事実自体には驚きは無い。しかし、なんと第二ボタンまでが解かれており、慎ましやかな胸元が予想以上に開放的になっていた。

 その絶景を目の当たりにして、視線を逸らすことなど出来るはずもなく、ほぼガン見状態だった俺と久島の視線が合ってしまった。

 すると久島は視線を逸らし、胸元を右手で握って隠した。その行動を目に焼き付けたあと、俺も視線を正面へと逸らしていた。

 つまり、何が言いたいかというと、すっごく可愛いです!

『この男、観察と言っておきながら、可愛い以外の観察結果を出せていなうえ、観察対象と視線が合うという失態をしておきながら、全力で満足しており、観察に世界一向いていない人間だったということがわかった』


・・・・・


 クラス替え。学年が変わるごとにクラスのメンバーが変わるというシステムだ。中学に入学し、小学校からの友人はいたが、それを上回るほどの知らない人間に囲まれるようなクラス。コミュニケーションは苦手では無いが、距離感が掴み辛いというのが正直な感想だった。その後、打ち解けてき始めたと思ったとき、学年が変わり二年になった。

 知らない人間もいたが、一年過ごせばそこそこの交友関係を築くことはできていたし、完全に知らないという訳でも無い。そんな曖昧で複雑な心境の中、彼女が現れた。

 出席番号は俺の一つ前、その姿を見た瞬間に春の風を正面から全身で受けたような衝撃が走った。つまり、一目惚れだった。

 しかし、その後特に関わらず、数回会話を交わしただけで、一学期が終わろうとしていた。

 横目で彼女を見ていると、何か罪悪感のようなものが湧いてくる。クソっ!俺が何をしたってんだ!

「あんた、ボーッと何してんの?」

 俺は横目を正位置に正し、声の主を見上げた。

「なんだ、飯田か」

「なんだとは何よ。それよりさ、うちちょーっと気分が悪いんだよね。保健室について来てよ」

「は?なんで?」

 飯田明里いいだ あかり。こいつは同じクラスで園児の頃からの知り合いだが、特に深い関わりはなく、多少会話を交わすくらいの関係だ。

「あんた保健委員でしょ?」

「そうだっけ?てか、保健委員なら女子もいるだろ、ほらあそこ」

 この学校では委員会というシステムが存在し、その種類はいくつかあり、その中で俺は保健委員に所属している。委員会は前期と後期に分けれており、そこで決めた役割を実行するということになっている。そして、この委員会は男女一名ずつが役割を担うことになっている。つまり、女子のこいつはわざわざ俺に言わずに女子の保健委員にお願いするのが暗黙の了解となるはずなのだ。

「うち、あの子苦手なんだよねぇ〜。ねぇ、いいじゃん暇でしょ?」

「暇とかそういう問題じゃなく…。それにもうすぐ授業始めるぞ」

「あんた変なとこ真面目だよね。いいじゃんサボっちゃえば、うちのせいにしていいから」

 だからそういう問題じゃないんだが…

「お前元気そうじゃん、大丈夫だろ」

 途中から伏せていた視線を再び上げて、飯田の顔を覗き見ると、額に血管でも浮き出しそうな引きつった表情をしていた。

「いいから、来い」

「う、うい…」

 半ば強引に連れ出された俺は飯田の連れ添いとして、保健室を目指すことになった。

 保健室は校舎の一階に位置しており、二年の教室から向かうには階段で降りていく必要がある。つまり、若干面倒臭いのだ。

 俺は後をついていくように、一メートルくらいの間隔を空けて、飯田と同じスピードをキープして歩いた。

「ねぇ、倉野は今日部活あるの?」

「あ?あるといえばあるが、無いと言えばないって感じだな」

「それってどういうこと?」

 半分呆れたような目を向けられ、問われた。

「つまりだな。活動はしているが、大した活動をしてないってことだ!」

「なんでそんなこと堂々と言えるの?」

「ふ、俺には関係ないからな」

「あんた部員でしょ」

「いやいや、俺は入ってるようで入ってないから。でっかい袋に包装されたお菓子みたいな感じだな」

 呆れ顔が更に険しくなり、ため息と共に言葉が吐き捨てられる。

「例えが意味不明過ぎて、何も伝わってこないんだけど」

「え、そうか?ああいうのって入ってるようで入ってなくね?」

「あー、はいはいそうね」

 なんだこのあしらわれ方…。納得いかない。そんなくだらない会話をしていると、いつの間にか保健室に辿り着いていた。

「ほら、着いたぞ。次からは一人でサボってくれ」

「あんたは女の子に優しくできないの?だから、モテないんだよ」

「ほっとけ、じゃあな」

「おい」

 俺が教室に戻ろうとすると、肩を掴まれ呼び止められた。

「んだよ?」

「今日さ、一緒に帰らない?」

「…すまんな、ちょっと用事があってな」

「そ、そうなんだ…。わかった、休憩したら教室に戻るよ」

「あぁ」

 俺とこいつは幼少期からの付き合いだ。世間はこいつとの関係を幼なじみとでも呼ぶのだろうが、正直俺はこいつを友人以下の関係だと思っている。これ以上の深入りは是非遠慮させていただきたい。


・・・・・


 恋愛。生物同士による好意が織りなすその現象を人々は美しいと言い、学生たちは青春の一ページなどと言い放つ。そこには美化された理想めいた関係性が妄想により構築されており、現実とはかけ離れたような状態が姿を現す。

 そして、人間はその妄想が真実ではなかったことを知り、現実を目の当たりにしたときにこう言うのだ。

「好きになるんじゃなかった」と…。



 俺には今、好きな人がいる。男子中学生なら当然とも言えるが、とにかくそういうことだ。しかし、別段アクションを起こす勇気は無く、こうしてズルズルと時間だけが過ぎていく。

 時刻は一二時四五分。昼前最後の授業が終わり、給食の時間となる。給食当番の人間は運搬と配膳に分かれて動き出し、その他の人間はそれぞれで机を動かし、向かい合わせる。どういう慣しなのかは知らないが、これがこの学校の給食時のスタイルだ。

 俺は給食の品を運ぶため教室を出て、給食室へと向かう。俺はこの時間が一日で最も幸せとも言える。なぜなら、この給食時の役割は出席番号順で決められているからだ。つまり、出席番号一七番の久島と一八番の俺はペアとなり、運搬作業へと移ることができる。最初の頃は一切話さなかったが、今は軽く会話をするようになった。それは、運んでいる最中だけでは無く、給食室へと向かう途中もだ。

「今日も暑いな」

「ん?そうだね」

「こんなに暑いと部活大変じゃない?」

「そうだね、めっちゃ暑い。でも、楽しいし、休憩もあるしね」

「そうなんだ」

 …、なんだこの会話は。こんなの会話に困ってしてるみたいじゃないか、いくらなんでも軽過ぎるだろ!もっとまともな話題を考えよう。

 俺は考えるフリをしてボーッと歩いていた。まったく思いつかんし、どうせ明日もあるし、まぁいっか…。

「倉野君はどう?」

「え?な、何が?」

 不意に声をかけられ、いまいち格好の付かない反応をしてしまった。思春期の男子中学生にとっては思い詰めるほどの失態だ。

「部活。どんな感じ?」

「あー、別に俺のは大したことしてるわけじゃないし、屋内で水分補給もいつでも出来るしね。特に暑さは関係ないかな」

 正直、あの連中と一緒にいるだけで精神的にキツいのに、暑い教室に幽閉されてるのは拷問以外の何物でもないとすら思っているが…。

「そっかー、私も絵が上手だったらなぁ。そしたら、一緒に美術部だったかもね」

 なんなんだこの可愛い生き物…。

「別に俺もうまいわけじゃないよ、強いて言えばこれが得意かなって感じ。久島さんはめちゃ足速いじゃん、俺はそっちの才能が欲しかったなって思うよ」

「そう?…ふふ、良いでしょー?」

 可愛過ぎるからやめて!反射的に告白しちゃいそうだから!

 こうやって会話しているが、実は俺がアクションを起こせない理由は別にもある。というより、これが一番大きい原因となっている。

 久島莉奈には、彼氏がいる。


・・・・・


 幸福の楽しいおしゃべりタイムは終わり、運ばれた料理と食器が配膳台へと並べられていき、配膳係以外の人間は列になり、給食を受け取っていく。

 俺も幸せを噛みしめながら、列へと並び自分の順番を待つことにする。

「よっす、祐一。元気してた?」

「抱きつくなセクハラ女!てかいつの間に戻ってきたんだよ」

「さっきだよ、なんだかいい匂いがしてきたからね」

「給食だけ食いにくるとか、どこまで厳禁なやつなんだお前」

「給食は別腹よ!」

 飯田よ、給食では別じゃない方を使ってやってくれ…。

 数人が二周目を並んで、教師と配膳係のところにも給食が行き渡り、給食委員による掛け声によってようやく給食にありつくことが出来る。今日は欠席者がいないため、個数で分けられている分は余らないが、その他配膳係が配膳時に残してしまった分をお代わりとして取りに行く人間が配膳台へと向かう。なんとも賑やかな給食風景だ。

「ねぇ、倉野君」

 声を掛けてきたのは、向かい合わせに位置する女子生徒、宮村愛美みやむら まなみだ。彼女の用件は声を掛けてきた時点で予想がついた。

「牛乳か?」

「ごめん、飲んでくれない?」

「別にいいぞ、ちょうど喉渇いてたし」

「ありがとう」

 俺はこいつと席が近くなることが多々あり、牛乳が飲めないという話を聞いて、『飲んでやろうか?』と言ったところ、それからお願いされるようになった。別に迷惑というわけでもないから問題ないのだが、牛乳とはいえ女子からの貰い物という一点が俺の純粋な心を揺さぶってくる。

「くらちゃんって牛乳好きなの?」

「いや、別に好きって程じゃないが、嫌いじゃないし、なんでだ?」

「いや、毎日そんなによく飲めるなと思って」

「知らないのか、モトキ?牛乳を飲むとだな、…おっぱいが大きくなるんだぜ」

「そんな、まさかそれって他人のおっぱいにまで関与可能なのか…⁈」

「…モトキ、残念ながら俺のだ」

「なんだよー、期待して損した」

 こいつは友人の向山友喜むこうやま ともきで、俺はモトキと呼んでいる。こいつとの会話はなかなかに馬が合う。

「食事中にくだんない話しないでくれる?」

 強目な口調で野次を飛ばす彼女は、小野彩子おの あやこ。このクラスの学級委員で久島とも親密な友好関係を築いている。基本的にはいい奴だ。

「まぁ、そう言うなよ。ストレスはお肌に悪いんだぞ」

「そうそう、お前も牛乳飲んだ方が良いんじゃねぇか?」

「それ、どういう意味?」

 向山の発言に過剰に反応を示す小野は、鋭い眼光で睨みつけながら問いかける。

「え?いやいや、そういうんじゃないんだって、ほらお前バレー部じゃん身長いるだろ、そういうことだよ」

 言い訳が言い訳過ぎて言い訳になってないパターンだな、こりゃ。だが、この小野という女は…。

「なんだ、そういうことか。そうなんだよねぇ、周りみんな身長あるからなぁ」

 単純通り越して、バカなのである。よくこいつを学級委員にしたなとも思うが、こいつはこいつで統率力があって、かなり頼りになる面も持ち合わせている。

 正直、向かい合わせで給食を食べる必要があるかどうかはわからないが、こういうくだらない会話をしながら食べる昼食はそれなりに悪くないものだったりする。

読んでいただいて、ありがとうございます。

興味を持っていただけた方がいらしたら、エブリスタの方で定期更新させてもらってるので、そちらもお願いしたいです。

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