プロローグ
この世には、科学では説明できない怪奇現象が存在する
ほら、そこにも。
あそこにも……。
そして――
その、家にも。
今日も、その家で起こる奇妙な怪現象の犠牲者が、やってきたのであった。
青年は、目の前に聳え立つ立派な一軒家を見上げていた。
「本当に、ここが家賃3万円の家なのかな?」
黒い髪に焦げ茶色の瞳。
この国特有の一般的な色彩の瞳を、野暮ったい黒縁眼鏡から覗かせた青年は、屋敷を見上げながら呟いていた。
普通の容姿に、そこそこある身長。
顔のつくりも、どこにでもある顔立ちをしている普通の青年だった。
彼は今、つい先程契約したばかりの新しい住居に来ていた。
とある住宅街の一等地。
一人暮らしをする青年には、いささか広すぎるその家は、俗に言う『事故物件』だった。
青年は大学を出て、この地に仕事をしにやって来た。
そして見つけたのが、この”格安の家”だった。
その、あまりの金額の安さに二つ返事で契約してしまった。
担当してくれた不動産屋のひとが「ここだけは辞めておいた方がいい」というアドバイスを無視して決めてしまったが、まあなんとかなるだろう。
不動産側も事故物件という事をきちんと明確に説明し、それでも住みたいと言ってきたお客様を無碍にすることもできず、心配そうに鍵を渡してきてくれたのが、つい先程。
そして、すぐにでも暖かい部屋とベッドが欲しかった彼は、何も考えずにここまでやってきたというわけだった。
木枯らしが吹き始めたこの季節、青年はいそいそと玄関の鍵を開けて中へと入っていく。
屋敷の中へと入った瞬間、青年は立ち止まった。
ドアを開けた瞬間、その中があまりにも真っ暗なことに思わず一瞬立ち竦んでしまったのだ。
そして、意を決して恐る恐る中へと入っていく。
そして先程視えたものは、気のせいだったと思うことにした。
彼が玄関を開けて中を見たとき――真っ暗なその空間に爛々と光る複数の目が、こちらを見ていたような気がしたのだった。