83.装備を求める者、再び
盛大に寝坊しましたorz
申し訳ありませぬ<(_ _)>
「あれ、君は確かリンスちゃんじゃん。それに、『一本桜』の大将までついてくるなんて珍しいじゃん」
装備の発注にきたらしいプレイヤーは、前にもうちの工房を訪ねてきたリンスだった。
それに加えてギルド『一本桜』のギルドマスターまで一緒についてきているとは穏やかじゃないな。
「邪魔をするぞ。『ヘファイストス』の大旦那に若様」
「かまわんが……お前も、コンテスト三位だったわけだし、依頼が多いんじゃないのか?」
「今日のところは受注していない。……問題は、リンスから頼まれた依頼なんだがな」
リンスから頼まれた依頼ねぇ。
……ああ、ひょっとして。
「竜魂装備と滅竜装備がほしいとでも頼まれたのか?」
「正解だ、仮面の。お前たちがレシピを公開してくれたおかげで、『一本桜』でも挑戦することができたんだが……」
「インゴット作りに失敗したと」
「その通りだ。仮面の、なにかアドバイスはないか?」
アドバイス、アドバイスなぁ。
「それぞれの秘宝を加えるときに、最適な環境を整えてやるくらいしか思い浮かばないけどな」
「……むしろ、それをどうやってやるのかを聞きたいな」
「うーん、これは一度実際にやって見せたほうが早いか?」
「だねぇ。ちなみに、滅竜水晶のほうは試したの?」
「そちらも別の人間が試したがダメだった。できれば、そちらのこつも教えてほしい」
本来なら商売の種だから教えるべきじゃないんだろうけど、これを秘匿しているといつまでも竜魂装備ばかり作ることになりそうだからな。
『一本桜』には悪いが、巻き込まれてもらおうか。
「だったら。明日の夜にでもインゴット作りを見学していくか? 俺はかまわないけど」
「俺も滅竜水晶の作り方を教えるぞ。どうだ、『一本桜』の?」
「……俺が言うのもなんだが、そう簡単に手の内をさらしていいのか?」
「かまわないさ。ぶっちゃけ、竜魂装備を作ろうと思ったら、ひとつ作るのに一日のログイン時間をすべて使わなくちゃいけないからな」
「俺も似たようなものさ。需要がどこまであるのかは不明だが、俺ひとりの生産能力じゃすぐに限界が来る。そのときに、ほかにも生産できるプレイヤーはいたほうがいいだろう?」
俺も大旦那も笑って答える。
それによって、『一本桜』のギルドマスターが持っていた疑問も氷解したようだ。
「わかった。これは借りとしておこう」
「大げさだな。そちらがそう思うならかまわないが」
職人同士の話し合いがまとまったところで、成り行きを見守っていた若様が動き出した。
「そっちの話はまとまったようだねぇ。じゃあ、リンスちゃんとの話をしようか。リンスちゃん、ほしいのって竜魂と滅竜両方の刀ってことでオーケー?」
「ああ、それでかまわない」
「それで、支払える予算ってどれくらいあるの?」
「予算か……五百万くらいなら支払えるが足りるか?」
「五百万かー。大旦那、仮面の、どう思うよ?」
そこで俺たちに話を振るのか。
大旦那も少し首をかしげてから答えた。
「ふむ、いまはまだ材料の値段が安いから、十分な金額とも言えるが……俺たちクラスの鍛冶士が一日拘束されることを考えるとどうなんだろうな?」
「でも、いままでのユニークアイテム生産でも似たような感じだったんだし同じことじゃ?」
「いやいや、ユニークアイテムなら三時間あればふたつ作れたろ。今回は三時間でひとつだぞ。時間的な技術費としては二倍じゃないか?」
ああ、そういう考え方もあるのか。
……確かに、いまの状況だと、鍛冶スキルをマスターしたプレイヤーを三時間も拘束するというのは、かなり贅沢なことだよな。
「だからといって、あまり高すぎるのもな……」
「……まあ、俺もその気持ちはわかる。とりあえず、今回はふたつ併せて四百五十万としておくか」
「それくらいが妥当かな。若様、それでいいか?」
「うーん、安すぎる気がするけど、まあいっか。というわけで、リンスちゃん、その金額でヨロ」
「了解した。先払いのほうがいいのか?」
「現物と引き換えでいいよん。とりあえず明日には仕上がるのかな、おふたりさん」
仕上がりか……そうだな。
「明日、インゴット作りを見せて、大旦那が水晶作りをやってる間は休んで、それが終わったら刀を作ってでなら明日中には仕上がるな」
「俺のほうも大丈夫だ。仮面のが作業を終えたあとに作り始めても明日中には終わらせることができる」
「オッケー、じゃあ明日の引き渡しってことで。リンスちゃん、夜取りに来れる」
「……そのことだが、私も鍛冶の様子を見学させてもらうことは可能だろうか?」
「えっ……それは……」
若様が困ったようにこちらを振り向いたので、頷きをひとつ返してやる。
視界の端では大旦那も同じように頷き返していた。
「……うん、鍛冶士の許可も下りたし大丈夫だよっと。ただ、高ランクの鍛冶ってかなり危険だから、ポーションとかいろいろ準備してきてちょうだいな」
「……ポーションが必要になるのか? ほかに必要なものは?」
「あー、それは僕も聞いておかなきゃだ。仮面の、大旦那、必要なものはなに?」
必要なものか……。
「とりあえず、環境ダメージは回避できないのでポーションは持ってきておいて。あと、ダメージを緩和できるように環境変化耐性がついている装備があればなお良し」
「俺のほうはポーションだけで十分だ。ただ、ダメージが飛ぶ頻度が多いから、少し多めに準備しておいてくれ」
「鍛冶というのは、想像以上に危険な行為なんだな」
「だから言ってあっただろう、高ランク生産は命がけだって」
あちらの話は若様がまとめてくれるようだし、こちらは大旦那と打ち合わせをしておこう。
観客がいるくらいでミスをすることはないけど、万が一に備えること、大事。





