5.高校入学
本日から朝7時投稿の一話のみとなります。
第一章終了までは毎日投稿になる予定です。
それではよろしくお願いします。
一夜明けた朝、俺は真新しい制服に袖を通す。
今日から俺も晴れて高校生というわけだ。
高校はそれなりのランクの学校に入れた。
半年前からVRゲームで遊んでいるとはいえ、勉強もおろそかにしていたわけじゃないからな。
……さて、朝食もとったし、そろそろ高校に向かうとするか。
「うー、今日はまた一段と冷え込んでるな……」
俺の家は北海道にある。
なので、この季節はまだまだ冷え込むこともあるのだ。
桜なんてGWの時期だしな。
さすがに雪が降るほど寒くはないけど、まだまだ底冷えする季節だ。
「おーい、琉斗。こっちだ!」
道の向こうで俺を呼ぶ声が聞こえる。
あれは……。
「和也。久しぶりだな」
俺を呼んでいたのは笹木和也、俺の幼なじみだ。
中学校を卒業してから会う機会がなかったけど、元気なようでなにより。
「ホント、久しぶりだぜ。いやー、お前と同じ高校に入れて良かったよ」
「それはどうも。……本当によく同じ高校に入れたな?」
こう言っちゃなんだが、和也の成績はあまりよろしくない。
普段からゲーム三昧の日々を送っているせいなのだが……まあ、その辺は自己責任だな。
「この半年間めっちゃ勉強したからな。大学に進学した姉貴にも、お前と同じ高校に行くように言われてたし」
「……まあ、たまに勉強を見てやるくらいなら構わないけどさ」
「サンキュー。いやー、持つべきものは親友だな!」
「うっさい。勉強は見てやるから、赤点をとらないように努力しろよ」
「わかってるって。母ちゃんからも『赤点をとったらゲーム禁止』って言われてるし、しっかり頑張るよ」
「ならいいんだが」
要点を説明すればそれなりに理解できるあたり、頭は悪くないはずなんだ。
……普段、勉強をしないのが問題なだけで。
「それに今日から高校生だろ? ようやく俺も《Braves Beat》で遊べるんだぜ」
「……そういえば、まだ始めてなかったのか? 受験が終わって合格していれば、すぐにでも始めると思ってたんだけど」
「それな。……入学試験の結果がギリギリだったせいで、母ちゃんから春休み中は塾に通わされていたんだよ。なんとか、春休み中だけの集中講座だけで済んだけど」
「ふむ。つまり、成績が悪くなったら塾通いの生活になる、と」
「そういうことだ。なので、勉強は頼む!」
俺のことを拝みながらめんどくさいことを頼んでくる和也。
……まあ、和也の成績が悪いと俺のほうにも飛び火しかねないし、協力するけど。
「了解だ。ただし、試験前以外もある程度は勉強しろよ。復習だけでいいから」
「助かる。……さて、もうすぐ高校なわけだが、心の準備は大丈夫か?」
「……なんとかなるだろ」
「これは無理そうだな。勉強の面倒を見てもらう分、普段の学生生活はサポートしてやるから任せとけ!」
……そうなんだよな。
普段の生活は、なんだかんだと和也に手伝ってもらっているから、あまり強くは言えないのがなぁ。
「さて、まずは入学式だ! 気合いを入れて行くぞ!」
「……入学式で気合いを入れてどうするよ」
……こんな感じで、高校生活の第一歩は始まったのだった。
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「木場琉斗です。趣味は……なんだろう、物作り? 特技は居合いと護身術。これからよろしくお願いします」
入学式が終わり、それぞれのクラスに分かれてのホームルーム。
まずは自己紹介、ということで自己紹介をした。
趣味が物作りなのはうそじゃない。
メインがゲーム内ではあるけど、リアルでもプラモデルからDIYまでできる。
……ボトルシップとか作ったときは、非常にしんどかったけど。
木工とかリアルでやっても楽しいよな。
さて、俺の自己紹介が終わったあとも次々と自己紹介は続き、全員が終わったら諸注意を受けて終了。
今日は特にやることもないのでこのまま解散である。
「おーい、琉斗。一緒に帰ろうぜー」
「ああ、わかった。ちょっと待ってくれ」
和也とは同じクラスだったので、なにかと助かる。
……勉強を教える上でも、高校生活を無難にすごすという意味でも。
「でさ、琉斗。途中で寄り道してこうぜ。そんで《Braves Beat》のこと教えてくれ」
「構わんぞ。それじゃあ、帰るとするか」
どちらにせよ、昼食は自分で作るかどこかで食べるかだったからこの申し出はありがたい。
ゲームのこともついでにレクチャーしてやるとするか。
「ねえ、木場くんと笹木くんって、《Braves Beat》をしてるの?」
教室を出ようかとしているところ、後ろから声をかけられた。
それも男子ではなく女子からだ。
振り向くと、ミディアムヘアの女子がこちらを見ていた。
……えーと、この人の名前は……。
「水鏡さんだっけ。ああ、木場はやってるぜ。俺はこれから始めるところだけど」
ナイス、和也。
俺が思い出すのに時間がかかっていたのに、和也はさっくりとこの女子の名前を思い出したようだ。
……俺、人の名前とか覚えるの苦手だからな。
「ふんふん、そうなんだ。……うーん、ひょっとして……」
女子……水鏡さんは俺の顔を覗き込むように見ている。
俺の身長は160cmに届かない程度しかない。
逆に、水鏡さんは普通に160cmどころか170cm近くはありそうなので、間近だと見上げるような体勢になってしまう。
真っ直ぐ前を見ると、胸を凝視する形になるし。
水鏡さんはさらに一歩近づいてきたかと思うと、顔をさらに寄せてきて他の人には聞こえないような小声で聞いてきた。
「ひょっとして、エイト=ダタラ?」
「な……」
「うわぁ、やっぱりそうだったんだ!」
俺のアバター名を言い当てた水鏡さんは、嬉しそうにぴょんぴょん跳びはねる。
そうなると、周りの視線も集めるわけで……。
「ちょっと、水鏡さん。はしゃぎすぎだぞ」
「ああ、ごめんごめん。まさか、リアルでも会えるとは思ってなくって」
とりあえず、和也が止めに入ってくれたけど、水鏡さんのテンションは上がったままだ。
……うー、さっさと帰りたい。
「……琉斗、なんなんだ、一体?」
「《Braves Beat》での俺の名前を言い当てられた」
「……なんでそれであんなにはしゃぐんだ?」
「俺に聞かないでくれ」
「だなぁ」
水鏡さんのテンションが落ち着いたところを見計らい、和也が水鏡さんに話しかける。
「水鏡さん、なんでまたそんなにはしゃぐんだ?」
「だって木場くん、結構有名人なんだよ、《Braves Beat》で。そんな人にリアルでも会えるなんてすごいじゃない」
「ん? リアルでも、ってことはゲームでも会ってるのか?」
「うん、会ってるよ」
「……そこんところ、どうなんだよ、琉斗」
「……俺に聞かれてもわからん」
一般的にVRゲームは各個人のパーソナルデータからアバターを作る。
ただ、顔だけはデフォルトでもリアルと印象が異なるようになっているのだ。
そのため、ゲーム内で会ったことがあると言われても、ピンと来ない。
「ゲーム内で会ってるってことは、お前の客だろ? 思い当たる相手はいないのか?」
「そう言われてもな……女性プレイヤーの客だって、それなりにいるんだよ」
職人街の外れの外れに構えている工房だが、それなりに客はいる。
ほとんどがほかの職人からの紹介であるのだが……。
うん?
「……ひょっとして、レイさんか?」
「あたり! よくわかったね!」
どうやら、昨日工房に転がり込んできたお嬢さんだったらしい。
判断基準が身長くらいしかなかったけど、あっていたようでなにより。
「まさかリアルでも会えるなんて思ってなかったよ」
「それはそうだ。オンラインゲームの知り合いなんて、リアルじゃ会えないのが普通だからな」
「うんうん。あ、そうだ、このあと時間ある? 皆に紹介したいんだけど」
「皆?」
「うん、ゲーム同好会の皆。ねえ、行こうよ!」
「……どうするよ、琉斗」
なんだかんだでクラス内の注目を集めまくっているこの状況。
水鏡さんの声が大きいので、廊下からもクラスの様子を窺っている生徒がいる。
……まずはこの場から逃げ出したい。
「わかった。とりあえずそっちに移動しよう」
「やった! 三海先輩に自慢できる! さあ、早速行こう!」
「わ、ちょっと!」
水鏡さんは俺の手を引っぱってクラスから飛び出した。
力はそんなに強くないけど、さすがに振りほどくのはまずい。
後ろを見れば、和也もあとをついてきてくれている。
そんな状況で階段を下り、先生からは『文化部棟』と呼ばれていた場所までやってきた。
そして、『ゲーム同好会』と貼り紙が貼られている扉の前で立ち止まると、水鏡さんは扉を一気に開けた。
「皆! ゲーム仲間を連れてきたよ!」
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