35.ギルドが作りたいの
レイの口から飛び出したのは、ある意味タイムリーな話題。
確かに、ゲーム同好会でギルドを作りたい、みたいな話はしてたし不思議ではないんだけど。
「……手伝いって、いったい何をすればいいんだ? 俺はギルド結成クエストの詳細は知らないんだが」
「お、ギルド結成にクエストが必要なのは知っているのか」
「昨日、ヘファイストスでギルドを作りましたからね。それで、どうすればいいんですか、ソード先輩」
「そうだな。それじゃ、とりあえずはギルド結成クエストの内容を説明するか」
ソード先輩が曰く、ギルド結成のためのクエストは二種類あるらしい。
ひとつは昨日ヘファイストスでクリアした、アイテム納品がメインになるクエスト。
そして、もうひとつが討伐がメインになるクエストだった。
「話はわかりました。それで、俺はなにをすればいいんでしょう?」
「そうだな。まず前提として、納品系のクエストは無理なんだよな?」
納品クエストか。
昨日の打ち合わせを考えると難しいだろう。
「不可能とはいいませんが……現金換算で数千万Gがかかりますよ?」
「やっぱりな。いくらエイトでも、ここまでのアイテム調達は不可能だよなぁ」
「さすがに、消耗品系のユニークアイテムはまだ作れないですよ。作れたとしても、それを売るのにやっぱりお金が必要ですし」
「……だよねぇ」
レイも不可能だとは思いつつ、期待していたんだろうな。
もし、全部のアイテムを用意できるなら、お金次第でなんとかしてあげたんだけども。
「消耗品系のユニークアイテムだけ集めれば、なんとかなる?」
「いや、無理だ。それ以外にも作れないものが多いし、それらの素材を持っていない。あと、クエストで二千万Gが必要になるんだが、その現金はどうするんだ?」
「それは……頑張ればなんとかなる?」
「いや、さすがに二千万はきついだろ」
ソード先輩もさすがに呆れている。
二千万、調達できないことはないけど、そこまでする義理もないしな。
「で、本当の目的はなんです? さすがに納品クエスト目的できたわけじゃないでしょう?」
「まあな。納品のほうは聞くだけ聞いてみるって話だっただけだ。あまり気にしないでくれ」
「わかりました。本題は?」
「あのね。討伐系のクエストでも作らなくちゃいけないアイテムがあるの」
レイとソード先輩が言うには、討伐系のクエストはいくつかの段階に分かれているらしい。
攻略サイトなどでも詳しい話はまだ出ていないが、最初の段階はボスを倒していくつかのアイテムを集めるそうな。
そして、集めたアイテムだが、ここで問題が発生する。
「集めなきゃいけないアイテムは、昨日のうちに皆で集めたんだよ。問題はこれを生産スキルで合成しなくちゃいけないらしくてなぁ」
「合成……ですか。ということは、【錬金術】スキル?」
「いや、生産スキルならなにを使っても合成できるらしい。問題は生産スキルレベル30以上が必要って部分だな」
なるほど。
ある程度以上のスキルレベルを要求されるわけか。
すぐに達成できるレベルでもないから、俺を頼ってきたと。
「そういうことなら、そのアイテム合成は引き受けますよ」
「助かる。それで、合成してほしいアイテムはこれだ」
ソード先輩からトレードされたのは、いくつかの欠片のようなアイテム。
アイテム名は……『始まりの試練の欠片』か。
まんまだな。
「それじゃあ、合成してきますね。……それにしても、随分と集めてきてますけど、こんなに必要なんですか?」
「あー、いや。念のためにたくさん集めてきただけだ。……あと、合成するときに、生産スキルレベルがどんなに高くても失敗することがあるらしくて」
ソード先輩の発言を聞いて、このアイテムを合成するときの成功率を確認してみる。
成功率60%か……かなり低いな。
「成功率、かなり低いですね」
「だよな。掲示板でも成功率の低さが話題になっててよ。念のためってことで大量に集めておいたんだ。……ちなみに、成功率ってどれくらいなんだ?」
「60%らしいですよ。合成するのに使うスキルを変えても全部60%です」
「そこまでか……済まないが、その欠片でできる限りの完成品を作ってくれ。そのアイテムで受けられるクエストも、一発でクリアできるとは限らないからな」
「わかりました。少し待っていて下さい」
店舗部分から作業部屋に移動して、炉の前に陣取る。
鍛冶の場合、作成手順は欠片を熱してカンカン叩くだけらしい。
それじゃあ、始めましょうかね。
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「お待たせしました。できましたよ」
「お、早かったな」
「さすがエイト君。仕事が早い!」
「作業が簡単でしたからね。それじゃあ、完成品がこれになります」
完成品である『始まりの試練の鍵』だが、全部で七個できた。
素材である欠片が十個分しかなかったことを考えれば、十分に上出来だろう。
何回か失敗したときに、いくつかの欠片が戻ってきたのもあるけどね。
「おっし、これで始まりの試練を受けられるな」
「そうだね! エイト君も一緒に受けてみない?」
「悪いけど、パスで。これからレイの桜竜装備を作らなきゃだし、ほかにも作りたいものがあるから。レイの装備を作らなくてもいいなら一緒に行くけど?」
「それなら仕方がないね!」
さっくり意見を翻すレイ。
早く装備が欲しくて朝からやってきたのに、納品が遅くなるんじゃ本末転倒だろうし。
「……変わり身の早いヤツだな、お前も。そんじゃ、エイト、邪魔したな」
「いえいえ。そういえば、少し欠片が余ってますけど、どうしますか?」
「んー、そいつはエイトが持っていてくれ。適当に処分してくれても構わないし、ほかにも同じ依頼がきたらその時の足しにしてくれてもいいぞ」
「わかりました。とりあえず保管しておきますね」
「おう、任せた。それじゃな」
「またね、エイト君」
「ああ、また。レイは桜竜装備の受け取り忘れないようにな」
「忘れないよ! 午後になったらまた来るね」
ソード先輩とレイを見送り、ひとりになった工房で少し休憩する。
休憩が終わったら、桜竜装備を作らなきゃだな。
気合いを入れて、頑張るか。





