14.赤妖精シリーズ完成!
「よし、これで両手剣も作製終了。依頼されていた品はこれで全部だな」
高校生になって初めての休日を前日に控えた、金曜夜。
遂に全員分の赤妖精装備が作り終わった。
さすがに、ユニーク装備をこれだけの量作るのは骨が折れる作業だったよ。
「さて、それじゃあ、連絡を入れますか」
納品する品の中には、フォレスト先輩のレザーアーマー一式とレイのバトルドレスなども含まれる。
ブルー先輩には納品物がないけど……ひとりだけ呼ばないというのもなにか言われそうだし、一斉送信メールで一緒に送っておこう。
そして、メールを送ってすぐ、フォレスト先輩から返事があった。
全員一緒にいるので二十分くらいで取りに来るそうだ。
それじゃあ、俺はおもてなし用の料理でも用意して待っていようかな。
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「待たせたな、エイト! さ、俺の両手剣はどこだ?」
「そんなにがっつくなよ、ブレン。ほれ、これがお前の両手剣だ」
「おお、これがそうか! ほかの皆と同じように赤いエフェクトが出てるな!」
「お前のだけ手を抜くつもりはないからな。さあ、所有者設定を済ませるぞ」
「おう、わかった!」
まず、ブレンの所有者設定を済ませ、武器のバランスを確認してもらう。
バランスは問題なかったようなので、あとは本人にあの武器が使える程度までレベル上げを頑張ってもらおう。
次は、ソード先輩の装備一式だ。
「これが俺の装備か。……やっぱり赤いんだな」
「赤いですよ。お代は前金で受け取ってますし、試着してみてください」
「わかった。……鎧のほうは問題ないな。剣はもう少し重心を手前側にしてほしい」
「手前側ですね。修正してきます」
ソード先輩はなんだかこだわりがあるようで、重心の位置を何回か変更することになったが、それ以外は問題なく所有者設定まで終わらせた。
あとは、フォレスト先輩とレイのバトルドレスだが……。
「うむ、この装備なら動きやすくていいな! イヤーカフスも思ったより自由に動けるし邪魔にならない!」
「うわ、このドレス、軽くて動きやすい! いままでの鉄製鎧より防御力が高いのに動きやすいなんてステキ! あと、頭装備のティアラも!」
ふたりはすでに装備を試しているようだな。
コンパウンドボウは昨日のうちにフォレスト先輩に納品してあるし、そちらも問題ないのかな?
「気に入ってもらえているようでよかったです。ところで、フォレスト先輩。弓は大丈夫ですか?」
「ああ、まったくもって問題がない。いままで使っていた弓に比べて、軽く引けるのに威力は上がっているんだから鍛冶士様々だ」
「それはよかった。それじゃあ、残りの装備も所有者設定しますので、こっちに来てください」
「うむ。……ところで、所有者設定は作成者じゃなくてもできるのかね?」
「ユニーク装備を作れるプレイヤーならできますよ。ユニーク装備の生産スキル開放と同時に覚えるスキルを使って、所有者設定してるわけですし」
「なるほど、合点がいった。……しかし、これならドラゴンにも挑めそうな気がするな」
おや、フォレスト先輩にしては珍しく気分が昂揚しているみたいで。
「挑むのは構いませんが、デスペナをもらったら耐久値が三割減ることを忘れないでくださいね。せっかく作った装備、いきなり壊れるのはやめてほしいですし」
「わかっているさ。無茶はしないよ」
このゲームのデスペナルティは、一時間のステータス減少と持っていた所持金の一部ロスト、それから装備品の耐久値が最大値の三割減ることだ。
ひとつ目は大人しくステータスの回復を待てばいいし、二番目は街にあるギルドにお金を預けておけばそれで済む。
ギルドに預けたお金は、決済の際に自由に引き出せるわけだし、現金を持ち歩くメリットはほとんど存在していない。
たまにフィールドで薬を売ってくれるNPCがいたりするので、その時は現金を持っていないと取引できない、そんなところだ。
問題なのが、三番目の耐久値の減少である。
装備の耐久値が減るということは、減った分を修理しないといけないわけだ。
だが、ユニーク装備や高ランク装備になると、腕のいい鍛冶士や裁縫士でないと修理できない。
正確には、修理用のアイテムを使って修理できるのだが、コスパが非常に悪い。
そのために、高ランク装備を扱いたいならまず上位の生産者と仲良くなれ、と言うのが上級者の間で流行っている言葉だとかなんとか。
「……そういえば、レザーアーマーの耐久値が減ったときに修理したい場合、あの裁縫士……エミルに頼まなければいけないのかな?」
「……ああ、修理くらいなら俺でもできます。修理が必要になったら言ってください」
「エイトは鍛冶が専門じゃなかったのかね?」
「専門は鍛冶ですけど、スキルレベルを上げるためにいろいろなスキルに手を伸ばしているんですよ。裁縫、調合、錬金術、料理などなどですね」
俺が今できる生産スキルを列挙していくと、料理のところでフォレスト先輩の目つきが変わった。
「ほう、料理も作れるのか」
「オリジナルは作れませんけどね。リアルでもそこまでうまくはないですし」
「構わないよ。……それならば、モンスターの肉があれば料理をしてもらえるかな?」
「まだまだ低ランクの肉しか扱えませんよ?」
「……そうか、それは残念。バフがつく食事が簡単に手に入る様になるかと期待したのだが」
「そこまで甘くはないですよ。……まあ、GWころまでには、ある程度上位の肉も扱えるようになる予定ですが」
「……生産者というのも成長が早いんだな」
生産者の成長速度に驚いているということは、スキルレベルが上げにくいことは知っているんだな。
「ほかに生産系のスキルを上げていて、スキル成功率上昇や品質上昇系のスキルを持っていれば、それなりに早く上がっていきますよ」
「なるほど。戦闘系スキルと一緒の仕組みがあるという訳か」
「そういうことです。……ところで、簡単なソテー程度ですが料理を作ってあるので食べていきませんか?」
「それならば頂いて行こう。丁度狩りの帰りで満腹度が減っているからな」
このゲームも他のゲームと同じように満腹度が設定されている。
激しく動けばその分早く消費するので、満腹度管理も一流プレイヤーへの道だ。
「それじゃあ、あっちの休憩室のほうに行ってください。料理はすぐに用意しますので」
「うむ、任せたぞ」
全員を販売エリアから隣接している休憩室へと移動してもらう。
全員が席に着いたら、インベントリから先程作っていた料理をテーブルに並べていく。
まずはシンプルなバゲット。
それにホーンラビットのソテー。
最後はウルフ肉とワイルドボア肉を使った、ミートグラタンだ。
並べ終わったところで、全員が食べ始めたが……勢いがすごいな。
ブルー先輩は上品に食べているけど、それでも食べていくスピードが早い。
俺は試作品も食べているのでソテーだけ食べているけど、俺と同じくらいのタイミングで食べ終わるのではなかろうか。
「……うん、美味しかったぞ、エイト。ゲーム内で食べた中ではもっとも美味しかった」
「それはよかった。まだ低ランク素材しか扱えないので、バフ効果はあまり高くないですけど」
「味がよければ気にすることもないさ。……それで、どうやってこの料理を作ったのかな?」
どうやってか。
そう聞かれてもなぁ。
「普通に作っただけですよ。あえて言うなら、品質の高い素材を使って生産品の品質を上げたことでしょうか」
「それだけではない気がするのだが……まあ、いい。今度、ブルーにも料理を教えてもらえないだろうか。私たちのパーティでは、ブルーが料理担当なのだ」
戦闘系プレイヤーでも一部の生産スキルは覚えていたりする。
それが、料理だったりするわけだ。
「構いませんよ。ただ、料理は鍛冶の合間にやってるので、事前に時間を決めてからの対応にしてもらえると嬉しいのですが」
「わかりましたー。よろしくお願いしますね、エイトさん」
料理教室をやることも決定らしい。
さて、あとは……。
「……今日できることはこれくらいですね。皆はこのあとも狩りですか?」
「うむ、その予定だ。もうすぐブレンが戦闘レベル30まで届くからな」
……今週の火曜日にゲームを始めて、一週間経たずにレベル30か。
さすがに早いな。
「ブレン、お前、またゲームばかりやってるわけじゃないだろうな?」
「大丈夫だって。先輩方のおかげで効率よくレベル上げできているだけだから!」
「……ならそういうことにしておこう。それにしても、レベル上げが早いですね」
「まあ、我々も通った道と言うことさ。……ところで、エイトの戦闘スキルはどんな感じなんだね?」
「……【刀】スキルと【居合い】スキルが10、【隠行】スキルが30、【軽装】スキルが20ですね」
「見事なまでに偏っているし、戦闘用スキルを埋めていないのだな」
「まあ、戦闘をする機会がないですし」
このゲーム、戦闘用スキルは同時に十個までしか装備できない。
この仕様は、今後イベントを通して同時装備数を増やしていく、と公式から説明はあるわけだが、現時点では十個だ。
普通のプレイヤーはこの戦闘用スキルを十個埋めているものなのだが……俺は埋めていないというわけである。
「さすがに戦闘用スキルは埋めておいたほうがいいだろう。というわけで、このあとは私たちと狩りはどうかな?」
「遠慮しておきますよ。依頼は入っていないですけど、やりたいことはありますし」
「そんなこと言わないで一緒に行こうよ! ね?」
ここで、事態を静観……というか、うずうずしながら見ていたレイが割って入ってきた。
「エイト君もいればモンスターから手に入る素材の品質が高くなるし、エイト君にとっても戦闘訓練になるし悪いことじゃないよね? だから一緒に遊ぼうよ!」
「うーん、そうだなぁ……」
確かに、この機会にいくつか戦闘用スキルを覚えるというのは悪くない。
時間はあるわけだし、たまにはフィールドに出るとしようかな。
「わかった。じゃあ支度をしたら行くから、ゲートのところで待っていてくれ」
「やったあ! それじゃあ、私たちは先に行って待ってるね」
いつもお読みいただきありがとうございます。
毎回の誤字報告本当に助かっています。
感想もありましたらよろしくお願いします。





