1 始まりの刻
1 カースト最底辺のオタクだけど、オタクの知識と人脈で世界最強
「鈴木氏、佐藤氏、昨日のマジカルホッピングは見ましたか?」
「うん見たよ。ホッピンピンクが大活躍だったね。」
「ホッピンパープルのアシストがあったからこそ、ホッピンピンクが勝てたからね。熱い展開だったよ。」
鈴木氏こと鈴木 拓哉が僕の名前だ。天竜高校の2年生で40人のクラスで僕ら3人はいつもつるんでアニメやゲームの話をしている。クラスではオタクヤと呼ばれていたりする。
スポーツができる奴、勉強ができる奴いろんな奴がいるけど、僕らはどちらにも秀でていない。こうやって仮想の世界に思いをはせて高校生活を送っていくのだろう。そんな僕らにも楽しみがある。
「はーい、みなさん席についてくださ~い。」
担任の中野 実花先生が教室に入ってきた。目がクリっと丸く大きく、丸顔の顔は美人というよりはかわいい感じで、身長155センチながら推定Fカップの巨乳がトレードマークだ。本人は巨乳を気にしていてブラウスで隠しているが、大きすぎてあまり隠れていない。この巨乳を見てから僕の高校生活の1日が始まる。先生が学校を休んだ日は、雨の日より鬱な気分になるのはしょうがないと思う。
「今日は転校生を紹介しま~す。さあ入ってきて。」
ざわざわざわ、漫画ではお約束だけどレアなイベントにクラス中ざわつく。入ってきた転校生は、髪は長めの銀髪で、碧眼の瞳はとてもきれいで、面長の顔はCMにでてくるモデルのように整っていて、肌も透き通るように白かった。身長も175センチくらいありそうで、中野先生が子供に見えてしまう。胸は控えめな感じなので、そこのところは先生の面目躍如といったところだろうか。
「自己紹介をお願いね。」
「はい、私はアルティア王国からやってきたルーティシア=キュー=メニトラといいます。皆さんに一週間後にくる厄災に立ち向かうための助言をするために転異してきました。少しでも生き残る可能性が高くなるようにアドバイスできるから何でも聞いてくれ。以上だ。」
すごいスペックを持った転校生が来たと思ったら、もの凄く電波な感じだった。SSS級のイベントが来た~~~と思ったけど、これに乗っかると大変なことになるんじゃねって思ったりする。
「は~い、個性的な自己紹介だったわね。ではあそこの席に座ってください。」
「はい。」
クラスメートの戸惑いと好奇な目にさらされても、意にもかけず颯爽と席へと向かっていく。この姿が本当にかっこよくて、周りを気にしてこそこそ生きてきた僕にはとっても眩しく見える。
ホームルームが終わると、メニトラさんの周りにクラスの陽キャのグループが集まって話をしている。
「メニトラさんってさ、アルティア王国から来たっていっているけどさ、ググっても出てこないんだけど。どこにあるの?」
僕も気になっていることを聞いている。ナイス中島君。
「アルティア王国は私のいる世界の王国です。一週間後には皆さんを案内します。」
「じゃあさ一週間後にアルティア王国に案内してもらえなかったら、俺とデートしてくれない?」
「おお~っ。」
周りのみんながあいつやりやがったって感嘆の声を上げた。さっそくチャラい磯野君がナンパをしている。あそこまで本能に忠実に行動できるのは陰キャの僕としてはうらやましい。
「アルティアに行けなかったらデートくらい構わない。実際私はそこから来たのだから、間違いなく連れて行こう。」
「楽しみにしているよ。」
すごいな磯野君、どこかの磯野君は中島君と野球ばかりしているというのに、こっちの磯野君は球じゃなくて女を追いかけているよ。しかも花沢さんじゃなくてかおりちゃんよりかわいい子にだ。
毎休み時間ごとメニトラさんにクラスメートは話しかけているが、もちろん僕ら3人は遠巻きにひそひそ話をしている。
「なんかラノベとかゲームの世界みたいな話だよね。」
「それは思った。一週間後に厄災が来るなんて中二病心がうずきませぬか、鈴木氏、佐藤氏。
山田君のこの言い方は特にキモイってクラスの女子には毛嫌いされている。山田菌とかいう子もいるけど、さすがに高校生なんだからそんなあだ名付けなくてもいいじゃないかと思うし、自分がつけられていたら登校する気力がなくなるかもしれない。山田君はメンタルは強靭なためまったく気にしていない。ゲームのステータスで言えばSAN値がとても高くて、デバフが効きにくいけど、女性の仲間ができないとかの設定になりそうだ。
「でもさ異世界に行けるとしたら行く?」
「それは行ってみたいけどさ、僕たちがいってもモブキャラで最初に死にそうだよね。」
「まあね、強敵に初見殺しされちゃう感はあるよね。あいつらの分俺たちが頑張ろうぜとか言われて僕たちは墓の中みたいな。」
「でもさ、1つ能力が貰えるとしたらとか考えちゃわない?」
「それはあるなり。鈴木氏、佐藤氏、私的には、The World。時よ止まれとかやってみたい。」
立ち上がってポーズをとる山田君をクラスメートがかわいそうな目で見ている。なんかそんな画像見たことあるんだよね。全員がカメラに向かって迷惑そうに映っているやつが。あんな状況になりたくないなって思っていたけど、まさかのここにいましたよ。そんな状況を作り出せる男が。
「僕だったらエクスカリバーみたいな最強の剣が欲しいな。フィジカルは期待できそうもないから、最強の武器が欲しいな。」
佐藤君が控えめにそう囁いた。
「確かに武器があれば敵を倒しやすくなるから、生き残れる可能性上がるよね。あとはレベルシステムがあるかだよね。」
「レベルが上がるとステータスが上がっていく感じのやつだよね。そうだね、それがあれば生き残れる可能性が上がるよね。僕たちが弱くてもエクスカリバーでスライム倒していけば、いずれ巨大な敵も倒せるみたいな。」
「それいいよね、それだったら僕らでも助かる芽があるね。」
「それはそうと鈴木氏はどういったものが所望かな。」
「エクスカリバーも捨てがたいけど、強化魔法が使えるってのもいいかなって。普通のファイアボールがファイアストームの威力になるみたいなの。遠距離魔法だと射程長くて安全だし、切った感触とか感じなくていいからさ。」
「それだ~~~~。それいいよ、鈴木氏。」
また立ち上がって山田君が叫んだ。こんな山田君だけど、切れたら何するか分からない人ってなっているので、いじめとかにあっていません。突き抜けると無敵になることを体現していると思う。オタク3人でつるんでいるけど、佐藤君とは休みの日にイベント行ったりしているけど山田君とは行ったことはない。外でも大げさなリアクションをとって注目を浴びたくないからね。
今日も無事に学校生活を乗り切れて、3人でわいわい話しながら下校しているときにメニトラさんは話しかけてきた。
「君たちちょっといいかな、君たちと話しがしたいんだけども。」
「ええ~、なんで僕たちと話したいんですか?」
「君たちが話していたエクスカリバーがどうとかが気になっていたんだけど、学校では君たちに声を掛ける隙がなかったからね。どうかな?」
「もちろんいいに決まっているじゃないですか?メニトラ氏、熱い議論を交わしましょうぞ。近くに良いファミレスがあるんですよ。では行きましょうぞ。」
山田君が勝手に決めてしまったよ。この4人で会話がちゃんとできるのか不安になっておなかがキリキリ締め付けられてきた。
ファミレスに入ると山田君はドリンクバーを4つ注文した。
「後から食べ物を注文すればドリンクバーの料金は割引されるから安心していいから。」
といってさっさとドリンクを取りに行ってしまった。
「メニトラさんはドリンクバーって分かります?」
「いや初めてだが、他の者のやり方を見ればわかるだろう。」
「せっかくなので一緒に行きましょう。」
山田君が戻って来てから3人でドリンクバーに向かった。
「こっちが冷たい飲み物で、あっちが暖かい飲み物ですが何を飲みますか?」
「ふむ、冷たいものを飲もうかな。」
「じゃあここで氷を入れてから、好きな飲み物を入れてください。」
グラスに氷を入れたメニトラさんは、どのボタンを押そうか考えこんでいた。
「お姉ちゃんまだ~?」
後ろで待っていた女の子が待ちきれなくなって声を掛けてきた。
「悪かったな、先にやってくれ。」
メニトラさんって丁寧な話しぶりだけどなんか偉そうなんだよな。もしかしたら一国の姫であるとかなのかもしれないなって思った。
コーラを注いだメニトラさんを連れてテーブルに戻ると山田君はすでに飲み干していて、
「お代わりしてくるね。」
と席を立ってしまった。自由だよ山田君は。SSS級のイベントがあって、さらにそのSSS級の同級生からお誘いがあることなんていうL級のイベントなのにいつもと変わっていないところがすごいけどさ。
「さっそく話を聞かせてもらいたいんだがいいかな?」
まさか、まさかとは覆うけど僕たちが伝説の英雄とかそんな話じゃないかとかそんな話じゃないかとドキドキしながらメニトラさんの次の言葉を待っていると、
「君たちは私の朝の話を聞いてどう思った?ただの作り話だと思ったか?」
僕は佐藤君と顔を見合わせてどう答えようか探りあっていた。
「いや~参ったよ。3種類混ぜてみたらさ黒くなっちゃってまずそうなドリンクが出来上がっちゃったよ。メニトラさんごめん、奥の席行きたいので立ってもらってもいいかな?」
「ああ、気が付かなくてすまない。」
いやいや山田君はまだまだお代わりしそうだから通路側座ろうよ。
「3人で色々話していたじゃないか?忌憚なき意見を述べてもらいたい。」
「ずずずずずずず~、俺たち異世界に行ったらどんな能力があったらいいかなって話していたんだよ。」
山田君はストローでグラスの底の方に残っている黒い液体を吸いながら答えた。
「なるほどな、良かったら具体的な話を聞かせてもらえないだろうか?」
「いいよ~、その前にドリンク取りに行っていいかな?メニトラさんもどんどん飲んだ方がいいよ、何杯飲んでも同じ値段だから、たくさん飲まないと損しちゃうよ。」
「ああ、そうさせてもらうよ。」
「メニトラさん、僕と席を変わりましょうか?山田君が席立ってばかりで落ち着かないでしょ。」
「ははっ、君は気が利くな、では変わらせてもらうとしようか。」
佐藤君が隣がメニトラさんが座ることになるので少し心配そうな顔をしている。大丈夫だよ佐藤君、メニトラさんはいいにおいがして最高だから。ビシッと親指を立てて佐藤君にアピールをした。
「その話していた内容を細かく教えていただいてもいいかな?」
「いいですけど大した話ではないですよ。」
僕は学校で話していた内容をメニトラさんに話した。
「なるほどな、君たちの世界でも異世界の話はよく出るのかな?」
「そういう小説やアニメが多いんですよね。ですから自分たちならどうするかって話は面白いからよくするんですが・・・」
まさか転校生が自己紹介で異世界の話をするとは思っていなかったけど。
「なるほどな、ただこれだけはいっておく、一週間後に君たちは私のいる世界に転移してくることになる。行きたい、行きたくないにかかわらずにな。だからこそ真剣に1週間を過ごしてもらいたいんだ。」
「メニトラさんの言っていることを証明できるものってあるんですか?」
山田君が遠慮なく僕も聞きたかったことを聞いてくれる。
「ああ、これが私のいる国の貨幣だ。」
といってテーブルに数枚のコインを置いた。
「触ってもいいですか?」
「ああ、みんなで見てくれ。」
3人でまじまじとコインを見た。片側に女性の横顔が刻まれており、もう片面には交差した剣が刻まれていた。金貨、銀貨、銅貨とあったがどれも同じ絵柄だった。
「こちらにない技術で作られたものを持ってきたかったのだが、こちらでは魔法は使用できないから装置が起動しないからな、うまく証明ができないんだ。」
そういって首に下げていたネックレスを取って見せてくれた。真ん中に淡い海色の石がはめられている。
「この意志の中に魔力を込めておくことができるんだ。魔力が足りなくなったときはここから魔力を補充して戦うことができる。魔力が貯まっていると深い青色をしてくるんだ。」
「なるほど~魔法があるって憧れちゃいますね。」
「そうか、ところで教えてもらいたいのはこの金貨を換金できる場所と武器を仕入れることができる場所なんだが。」
「これって本物の金貨?」
「ああそうだが。」
「それだったら俺のうちで換金できるよ。うちは質屋をやっているからね。武器は質草で少しならあるから見てみる?」
「ああそれは助かる。」
「ならこれから行こうよ、その前にもう一回だけドリンクお代わりしてくるね。」
山田君ベースでどんどん話が進んでいく。もしかして山田君がこの物語の主人公なのかもしれない。
「君たちは私の話を信じてくれたかな?
僕は佐藤君と目を合わせたけど、佐藤君はすぐに目をそらした。
「正直なところメニトラさんが嘘をついているとは思えないんですけど、あまりに現実離れしていて信じられないところもあるというか・・・」
「なるほどな、君はどうおもう?」
「鈴木君と一緒です。」
「まあそうだろうな。10年前に集団失踪事件があったのは覚えているか?」
「そういった話があったのは聞いたことがありますけど詳しくはよく知らないです。」
「そうか、ではこれを見てくれ。」
そこには僕たちと同じ年頃の男女が40人ほど映っていた。これも君らが持っているカメラで写してネットで見てみてくれないか。集団失踪者の写真と同じ顔触れたちだと思うぞ。
「そうですか、じゃあ写真撮りますね。」
僕と佐藤君は差し出された写真を写した。
「おまたせ~、先ほどの反省を生かして2種類混ぜたものにしてきたよ。お味は、ずずずずず、うまいぜよ。」
自由すぎるよ山田君。
「では山田君が飲み終わったらお店に行きたいと思うが君たちも付き合ってもらっていいだろうか?」
「僕は大丈夫ですが佐藤君は?」
「ぼくも大丈夫です。」
消え入りそうな声で返事をしていた。とんでもないことに巻き込まれて委縮しているみたいだ。胃腸も弱いからトイレ行かなくて大丈夫かと心配になってくる。
「さあそろそろ行きましょうか。僕の家まで少し時間かかりますから、その間に色々教えてくださいね。」
「ああ、時間がないからな。皆にはどのような武器が合うのか考えないといけないしな。ところで人を殺したことはあるか?」
「ぶふぅぅぅ~」
ドリンクをからにしようと口に含んでいたものを吹き出してしまった。
「ごほっ、メニトラさん失礼しました。」
僕はカバンからタオルを取り出し、テーブルを慌てて吹き始めた。
「いやいやいやメニトラさん、この国で人を殺したことがある人間はそんなにいませんよ。クラスメートで人を殺したことがある人はいないはずですよ。」
「そういうものなのか?私の国では殺している人間は5万といるからな。」
「いいねぇ、この非日常感サイコー~」
山田君がテンション上がって叫んじゃったおかげで、近くの人が何事かとこちらを見てくる。佐藤君はおなかを抑え始めたよ。ちょっとイベント多すぎじゃない?初日のイベントにしては盛りすぎているよ。
「では行こうか?」
といいメニトラさんが席を立つ。みんなが続いて席を立つ。請求書はそのままなので僕が持ってレジへと向かうと、メニトラさんが財布を持って立っていた。
「ふむ、請求書というのが必要とのことだ。君が持ってきてくれたのかありがとう。」
そういうとメニトラさんが会計をすませてくれた。
「いいんですか?」
「ああ付き合わせているのは私だからな、このくらいは私の方で払おう。これでも私は国ではそれなりの地位にあるからな。」
「いやそういうことじゃなくてこちらのお金は大丈夫なのかなって。」
「ああ、10年前にこちらの国から来たものに貰っておいたのだよ。もういらないからって。」
「そうだったんですね。良かった。」
「君はかなり気が利くみたいだな。私の国では出世できるかもしれないぞ。」
「ははっ。」
愛想笑いをしてしまった。僕もおなかいっぱいになるくらいの情報が入ってきてちゃんと答えられなくなってきているのかもしれない。山田君を止めることができなくても許してくださいね。あたりを見渡すと佐藤君がいなくなっていた。まさかもう付き合え切れないとバックレたのかと辺りを見渡す。
「佐藤君ならトイレに行ったよ。おなかを押さえていたからうんこだと思うよ。」
ファミレスでうんこって大きい声で言うなよ山田君。佐藤君がトイレから出てこられなくなってしまう。