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第八話 碧空、離別する

【第八話】碧空、離別する



 ぴーひょろろろー。


 いつものように、碧空が将儀と将棋を指しているときのことである。


 妙に耳に残る音がする。鳥のさえずりのような音だ。

 向かいの将儀が顔を上げた。


「お主にも聞こえるか。この招仙笛しょうせんてきの音が」

「招仙笛? それも宝貝パオペエですか?」


 宝貝パオペエとは、仙人の使う不思議な道具のことだ。


「さよう。千里離れていようと仙人の耳に届く笛の音じゃ。これは仙人でなくとも誰でも使うことができる」


 宝貝パオペエは仙人でなくては使えない道具も多い。

 仙人の素質がないからだ。

 その素質を仙骨という。


「千里に届くんだったら近所迷惑に気をつけないと行けませんね」


 千里がだいたい三千キロにあたる。そんなに離れて下手な笛の練習でもされたらたまらない。

 この笛の音はそれほど不快ではなかったが。


「仙人の耳といったじゃろ。これは仙人にしか聞こえん。それも、わしの耳にあわせておる」


 仙人は常人とは可聴域が違うのだろうか。

 将儀にだけ聞こえるように周波数をいじっているのか。


「犬笛かと思ったらラジオな気もしてきました」

「羅慈雄とはなんじゃ」

「こっちの話です。あれ? でも私にも聞こえますけど?」

「ふむ。お主にも聞こえるということは、お主に仙骨があるだけでなく波長もわしと似ておるのだろう」

「はぁ、そうなんですか」

「嬉しくないのかの」

「嬉しがって欲しいですか?」

「少し」

「わあい、嬉しいです」

「もういいわい」

「へへへ」


 将儀は長椅子から立ち上がる。


「これは知り合いに渡した笛じゃ。なんぞ困ったことでもあったんじゃろう。ちょいと見に行ってくるわ」

「近いんですか?」

「少しくらい遠かろうとわしには散歩にいくようなものじゃよ」

「それじゃ、散歩しながら食べてください」


 碧空は祖母の作ってくれたおやきを将儀に渡した。


「ほっほ。わしはこれもお目当てなのじゃ」


 持たせたつもりだったが、将儀はその場で一つ平らげてしまう。

 仕方ないので、碧空は自分の分を後で食べる用に分けてあげた。


「ありがたいのう。お主、出世するぞ」

「調子いいんだから」


 いやいや本当に、と続けて、将儀は急に真面目な口調になる。


「お主は目には見えづらい才能に恵まれておる。中でも仁徳は比類ない。これからきっと多くの人材がお主のもとに集うだろう」

「いやいや、私はなんの力もない田舎の子供ですよ」

「苦しむ者に助けを求められたとしても、お主は同じことを言うのか?」

「いや、それは」

「それが答えだのう」


 将棋は満足そうに頷く。

 苦しむ人がいれば、助けようと思うのは自然なことだ。

 そう思えないときもある。

 自分がそれどころではない、余裕のないときだ。

 でも、碧空は、人の苦しみに気づいて助けようと思える人間でありたい。


「さりとて、前言を翻すようだが、さっきと似たような音が聞こえても、近づいていってはならんぞ」


 たとえ距離が近くとも、そこは俗世とは隔たれた領域。

 人外の空間だ。


「してあげたいことと、できることは違う」

「そのときはあなたに任せますよ」

「そうそう。怪奇は万事、わしに任せておけ」


 将儀はかっこうつけて、去っていく。


 将棋の盤面は将儀の敗北が濃厚。

 こうして、将儀は敗北寸前の勝負からまんまと逃げおおせたのだった。


「まったく。参りましたと言わないんだから」


 五歳児相手になにをむきになるのやら。いや、五歳児相手だからこそむきになるのか。


「次にきたときにはぐうの音もでないくらいやっつけてやりましょう」


 しばらくして、笛の音はやんだ。


 しかし、将儀はいつまでたってもやってこなかった。


 翌日になっても。

 その翌日になっても。

 数日経っても。

 何ヶ月待っても。

 


 碧空はもっとしっかり挨拶しておけばよかったと後悔した。


 まさか将儀との長い別れになるとは思いもしていなかったのである。

全然3時間ごと更新ではなかったですが

今日はここまで

おやすみなさい

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